剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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75話 仇敵

 

【ヒノカミ神楽 碧羅の天】

 

この半年間、死に物狂いで俺はとにかく頑張ってきた。1年半近くかけて学んだ呼吸や剣技の基礎から始まった修行は、後半における半年間の修行においても有意義な結果にしっかり繋がった。

水の呼吸を壱から拾の型まで網羅し、寝る時も食事する時も四六時中全集中の呼吸を行う常中も、既に習得した。

 

「ふぅ…」

 

だけど、半年間必死で修行を重ねてきたけど、結局ヒノカミ神楽に関してはまだ連続して出せない。連発しようとすると、どうしても目眩を感じてしまう。

真菰さん曰く、全集中の常中を習得すれば月日と共に体力が向上していくとの事だが、やはりまだ連続して出せる領域には至っていない。

 

「…ふん、だいぶお前も男の顔になったじゃないか」

「うんうん、今の炭治郎君ならきっと最終選別も突破出来ると思うよ」

「ありがとうございます!錆兎さん!真菰さん!」

 

それでも、この半年でやれることは全てやったし、全て教わり尽した。

俺に鬼殺の道を示してくれた蓮華さんや、途中から俺の修行に加わってくれた真菰さんや錆兎さんには、感謝の思いでいっぱいだ。

 

「最終選別は1週間後、今から歩けば余裕で開始には間に合う。ただ、明日身支度もあるだろうから休め。時には休息も大切だ。出発は明後日にするんだ」

「はい!」

 

そしていよいよ間近に迫る最終選別、鬼殺隊入隊の登竜門。色々と思うことはあるけど、今は錆兎さんの言葉に甘えて1日ゆっくり休むとしよう。

 

 

 

____________________

 

 

 

「…禰豆子」

 

床につく前、俺は別室で眠る禰豆子の傍らに座った。明日にはもうここを出る。禰豆子を近くで見れるのは今日が最後になるかもしれない。

 

「…俺さ、やったよ。真菰さんや錆兎さん、鱗滝さんに蓮華さんと、色んな人に世話になったんだ。また禰豆子と一緒に日の本を歩きたくてさ」

 

そう語りかけるけど、やはり禰豆子は眠ったまま。俺の話に返事をしたり相槌を打ってくれはしそうにない。

 

「炭治郎、随分と浮かない顔じゃないか」

「あっ…蓮華さん……」

 

すると俺の様子を見かねてか、蓮華さんが部屋に入ってきた。

 

「…炭治郎、心配するな。禰豆子は疲れて眠ってるんだ。人を喰らうのではなく眠ることが禰豆子が回復する方法。そうだろう?」

「…はい」

 

それでも怖いんだ。禰豆子がこのまま目を覚まさないこと。人を喰らってしまうこと。俺が最終選別を突破できずに帰って来れないこと。色んな不安が頭をよぎってくる。

 

「…そうだな。少し話題を変えようか。そろそろ頃合だろう?私の秘密についてだ」

「…蓮華さん」

 

気を使ってくれたのか、蓮華さんは2年前俺が訊ねたことについて話してくれるみたいだ。

 

 

「…私はね、実はただの人間じゃないんだ」

「そう……なんですか?」

「あぁ、君も薄々感付いてはいるだろう?じゃなきゃあの日、私に向かって何者なんだとは問うまい」

 

確かにあの日、俺は蓮華さんに正体を訊ねた。あんなに強そうなのに、昼間はあまり活発に見えなかったこと。鱗滝さんとどう見てもかなり歳の差があるのに、まるで同期みたいに互いに呼び捨てであったこと。とにかく違和感という違和感は感じていた。

 

 

「鬼と人、2つの相反する存在。大昔、まだ江戸幕府が存在した頃、鬼人族と呼ばれる集団が人里離れた所で静かに暮らしていた。鬼の強さと人の温かさを併せ持つその末裔たちは、鬼と人の両方の血に縁がある故に、どちら側にも加担しない、いわゆる中立の立場を貫くことで長きに渡る平和を享受していた」

 

そうして蓮華さんは語り始めた。まるで童話を読み上げるかのように話す蓮華さんからは、仄かに哀愁の匂いがした。

 

「けど、ある時から全ては変わった。鬼人族の一部が、中立の立場を捨てて鬼殺隊に属するようになった。人でもあり鬼でもある鬼人族は、やはり普通の一般隊士より活躍する機会が多く、それを見た他の隊士たちも鬼人族を喜んで鬼殺隊に迎え入れた。だが、その活躍も長くは続かなかった。その時、まだ私はこの世(・・・)に生を受けてすらいない」

「…蓮華さんが、生まれる前の話…………」

 

蓮華さんが仮に鱗滝さんと同世代だとすると、その蓮華さんが生まれる前となれば80年近く前の話なのか。

 

「…鬼人族が鬼殺隊に組していることが鬼側に気づかれてしまった。いずれそうなるとは鬼殺隊側も重々承知してはいたけどな。が、思ったより奴らの行動は早かった。鬼の始祖は、早速鬼人族の暮らす里へ刺客を送り込み、あっという間に里を壊滅させ、そこに住む鬼人族を皆殺しにした。ご丁寧に、近隣の町を襲撃して、そこに里の護衛を出動させて護りを手薄にしてからといった搦手まで用いてな」

「…そんなことが」

「…私はそんな鬼の里襲撃の少し前に生まれた。それが不幸中の幸いといったところか、私は襲撃してきた鬼に居場所を悟られず、更に赤子だった為に上手く瓦礫の隙間に体が収まっていたようで無事だった。そうして、私は鬼人族唯一の生き残りとなった」

「…そう、だったんですね」

 

何と言うか、どう言葉をかけていいのか思い当たらない。家族どころか一族全てを殺され、唯一生き残っただなんて、俺なんかよりよっぽど悲惨で、尚且つ鬼に対する恨みだって誰よりも強い筈。

だと言うのに、蓮華さんは俺の家族を殺された境遇に慈悲深い悲しみを覚え、そして鬼と化した禰豆子にすらも人を喰らわないという可能性にかけて、こうして俺に鬼殺の道を示してくれた。

 

「それに後ほど分かった事だが、神はせめてもの救いを寄越してくれようでな。私は鬼人族の中でも更に類稀な特異体質だったらしい。他の鬼人族と比べて寿命が異様に長く、陽光では死なず、四肢欠損だろうがどんなに酷い怪我をしても、時間をかければ回復できる。不老不死のようなその力が、長年鬼殺隊の未来を形作っていた」

 

 

俺が蓮華さんに感じていた違和感の正体、それはきっと亡くなった鬼人族たちの無念を1人背負い、そして神様が蓮華さんに与えて下さった唯一無二の能力で鬼殺隊を支えてきた、蓮華さんの想いの結晶なんだ。

 

 

「…そして時は経ち、私は一族を皆殺しにした仇と出会った」

「!?」

 

話の急展開な流れに、俺はふと耳を疑った。一族を皆殺しにする程の強力な鬼と、蓮華さんはかつて対峙したことがあるらしい。一体その結果はどうなったのか。

 

 

「…私は奴を追い詰めた。運良く居合わせた上弦ノ陸諸共、上手く行けば頸を落とせる算段だった。けど、私の刃はあと1歩というところで、奴に届かなかった」

 

届かなかった。つまり蓮華さんの仇であるその鬼はまだ生きている。…上弦ノ陸というのはよく分からないけど、強力な鬼であるということは確かだろう。

 

「…あぁ失礼。上弦ノ陸という単語は炭治郎にとってはちんぷんかんぷんだろう。まあ、簡潔に伝えるとだな、鬼には十二鬼月という12体の幹部がいる。上弦と下弦がいて、それぞれ6体、1番強いのが上弦ノ壱、1番弱いのが下弦ノ陸だ。上弦ノ陸は上から6番目の強さだな」

 

十二鬼月、幹部ともなればかなり強力な鬼なんだろう。禰豆子を人間に戻すには、きっといずれ俺も接触しなくてはならない鬼に違いない。

 

「十二鬼月は皆とある鬼に従属している。その鬼こそが、唯一人間を鬼に変える力を持ち、この世で初めての生まれた鬼。そして我ら鬼殺隊が長年追い求めし全ての元凶。名前を鬼舞辻無惨という。」

「…鬼舞辻……無惨………」

「禰豆子を鬼にしたのも、君の家族を殺したのも、全部ソイツがやった。君の仇は奴だ」

 

鬼舞辻無惨、その鬼が禰豆子を、俺の家族を。姿も能力も未知数なその鬼舞辻無惨という鬼が、俺の大事な家族も暮らしも奪ったというのか。

 

「…禰豆子を人に戻す方法も、奴からなら聞き出せるかもしれない。きっと、そこに至るまでには幾つもの障壁が炭治郎の前に立ち塞がるかもしれない。…炭治郎、お前にその覚悟はあるか?」

 

覚悟、そんなもの答えは決まっている。禰豆子を人に戻す。そして、人々の平穏な日々のため、大切なものをこれ以上鬼に奪わせない。

 

「もちろんです。これ以上、誰も鬼によって悲しむ人が増えないように、俺は刀を握ります。禰豆子も、きっといずれ人間に戻してみせます。それまで、俺は禰豆子に人を襲わせません。必ず、鬼による負の連鎖を止めてみせます」

「…うむ、流石の答えだ炭治郎」

 

蓮華さんからは期待に満ちた匂いがする。それは薄らと微笑みかけてくれていることからも表裏ない真実の感情。

 

「炭治郎、先程私には一族の仇がいると話したのを覚えているか?」

「えぇ、はい!上弦ノ陸と共に居合わせたという例の…」

「……鬼舞辻無惨に辿り着くためには、まず仇である奴に関しても事細かに話しておかなければならない。なにせ奴は鬼舞辻の参謀でもあり………」

 

 

___そうして俺は蓮華さんの話を耳に、最終選別へ向かう前最後の夜を過ごした。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「…ここが」

 

紗霧山を出発し、数日の野宿を繰り返してようやく辿り着いた目的の地。意外と遠かった。最終選別が行われる場所、通称"藤襲山"と呼ばれる場所へと到着した。

 

「凄い数の藤の花だ…」

 

この場所に来て真っ先に感じたのは、とにかく辺り一面何処を見ても咲き乱れている藤の花、花、花。視界全てを埋め尽くすほどの紫色に思わず目が痛くなりそうだ。

ただ、蓮華さん曰く、この藤襲山はたった数十年前に鬼殺隊の手が及ぶことになった、鬼殺隊内では比較的歴史の浅い場所らしい。

理由としては、蓮華さんの仇敵である例の(・・)鬼が、人間に化けて最終選別へ忍び込んだ果てに参加者を皆殺しにした…という聞くだけで耳を塞ぎたくなるような痛々しい事件があったからとか。

 

「…着いた」

 

そうして藤の花で出来た紫色の道を歩くこと束の間、ようやく比較的開けた場所に到着し、既に20人あまりの最終選別の参加者らしき集団を見てここが最終目的地であることを確信する。

 

「はいは〜い!皆さんご注目〜」

 

俺が到着するや何処からかほのぼのとした砕けた口調の女性の声が聞こえた。声のする方を見ると、長い黒髪に蝶の形をした髪飾りをつけた現鬼殺隊士らしき女性の姿があった。

 

「皆さん揃ったのでこれから最終選別について説明を始めます。まず、私は胡蝶カナエ。花柱(・・)をしています。此度の最終選別の試験監督をするので宜しくね」

 

花柱の胡蝶カナエと名乗るその女性は、どうやら今回の最終選別の監査役をするらしい。そして花柱ということは、錆兎さんや義勇さん、真菰さんみたいな鬼殺隊の最高戦力の1人という解釈が正解なのか。

 

「まず今皆さんがいるところは藤襲山の麓にあたります。ここに鬼はいませんが、藤の花で囲まれた山中に入ると君たちの先輩鬼殺隊士たちが生け捕りにした飢餓状態の鬼が大量にいます。そんな飢えた彼らのいる藤の牢獄の中で1週間生き延びることが、最終選別の突破条件です」

 

…ん?なんだろうか?

カナエさんの言葉、妙に何処か少し違和感を感じる。匂いも何だか慈愛のような、今まで出会って来た誰よりも憎しみの感情が薄い。

 

「鬼は藤の花の匂いが苦手で麓まで出て来れません。それと、太陽の光を浴びると灰になってしまうので昼間は行動できません。それらを踏まえた上でどう1週間過ごすかは個人の自由です。鬼を避けるのも挑むのも、個々の判断に委ねます」

 

蓮華さんとはまた異なる、蓮華さんは優しいけど鬼に対しては毅然とした態度をとっていた。カナエさんと蓮華さんが持つ匂いは似てるようでまた非なるもの。何だか親近感のようなものが湧いてくる。

 

「それでは、1週間頑張って生き延びてくださいね。それでは開始!」

 

そうこう思考を巡らせていたら開始の合図が出てしまった。皆一目散に山中へと駆けていく。俺もその集団に続かないと。

 

「あっ、炭治郎君。少しいいかしら?」

「えっ?あっ、ああはい!」

 

カナエさんに呼び止められた。というか、最終選別に参加する20~30人の集団の中でわざわざ俺の名前を呼んだのは何故だろうか。まさかこの違和感の正体と関わりがあるのだろうか。

 

「…炭治郎君。実は蓮華さんから貴方の妹のことを伺ってるの」

「!?」

 

耳打ちでカナエさんの口から聞こえた発言にまさかと衝撃を受けるが刹那その衝撃は途端に安堵へと変わる。

 

「…安心して。私は貴方の妹さんのこと、信じてるから。私は出来れば鬼と分かり合えたらいいなって思ってたから、貴方の妹の話を聴いた時、嬉しくなっちゃってこうして今話しかけちゃった」

「…カナエさん……ッ!」

 

俺はついつい目頭が熱くなってしまった。鬼殺隊の中にも、ましてや最高戦力の柱の中に蓮華さん以外でこうして禰豆子に肯定的な意見を持っている人がいるとは思わなかった。錆兎さんや義勇さんも、出会った時は敵意の方が強かったから。

 

「…それじゃあ、最終選別頑張ってね。突破した暁には、(妹さんにも)会わせて欲しいな」

「はい!是非!ありがとうございます!」

「ふふふ、頑張ってね〜〜」

 

そうして笑顔で見送ってくれたカナエさんに手を振り返して1人遅れて山中へ向かったのだが、俺目掛けて鋭い視線が突き刺さってくる。

 

「命のやり取り起きるかもしれないって大事な試験の前に何美女とイチャコラしてんだしかも会わせてくれだ何だ完全に両親との合意手前じゃねえか許嫁か見合い相手か妬ましいな名前まで呼ばれてクソッタレがブチ殺すぞ」

 

恐らく同じ最終選別参加者であろうボソボソ言ってる金髪の何か変な輩に凄い形相で睨まれている。

 

 

 

 

 

 





ー大正コソコソ噂話ー

以前の最終選別会場は某朱雨くんが禿山に変えたので今回の会場はNew藤襲山です。
そして炭治郎は原作よりもパワーアップしています。
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