剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
Vの活動も大変です。
最終選別初日開幕1番、何か目が血走っている金髪の男に絡まれた。
「…お前なんて言うんだ?あんな美女と…いいご身分だなぁ!!?」
「俺は炭治郎だ。別にカナエさんとは少し大事な話をしただけで…」
「俺は善逸だ…!大事な話!!?なんだ!!? ケッコンノヤクソクデモシタカアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「煩い煩い!耳元で叫ばないでくれ!」
めちゃくちゃな声量で叫ぶものだから最後の方は何を言ってるのか殆ど聞き取れなかった。『約束』というのは聞き取れたけど、これから結び付けられることと言えば何だろうか。
……約束…?
あぁ、善逸はカナエさんと俺がしていた約束事について気になっているのか。
「いや、本当に些細なことなんだ。俺の
「はァァァ!!!?
「煩い煩い!何言ってるか聞き取りづらいって!」
ギリギリ話進んでるってところだけは聞き取れたけど、それ以外はもう全然何言ってるか分からない。ただ、蓮華さんを通して、ある程度理解してくれそうな人には俺の妹のことは知られている節だったし、そういった意味では…。
「確かに話は進んでる。周囲に理解者が居てくれたら有難いし……」
「理解者!!?何!!?(結婚を)受け入れてくれない人がいるの!!? そりゃ…!」
すると、騒がしかった善逸の動きが突如ピタリと止まる。動力を失った絡繰のように斜め上を見上げたまま静止した善逸に『どうした?』と言おうとした矢先に、その場に異質な匂い。
【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】
固まったまま動かない善逸を抱えて咄嗟に跳躍した後、匂いの正体へ向けて刃を振るえばやはりそこには俺と善逸を狙ったであろう鬼の手が伸びていた。
「うっ、腕がァァァア!」
しかしその攻撃は空を掠り、逆に打ち潮の斬撃が鬼の両腕を斬り落としていた。そして見えた、鬼の頸へと伸びる隙の糸。
【水の呼吸 壱ノ型 水面切り】
動揺している隙を上手く突き、刃は鬼の頸を正確に撥ねた。
「クソ……こんなガキにぃ……」
やがて鬼は灰となって虚空に消えていった。どうか、この人が来世では幸せに生きられるように、そして成仏出来ますように。
「…ごめん、大丈夫だったか善逸?」
善逸に対して無事を問う。小脇に抱える形となったこと、不測の事態故に乱暴に引っ張ってしまったことで色々と驚かせてしまったに違いない。
「あれ?善逸?」
「………スゥ」
善逸から反応がない。まさか鬼の攻撃に遭ったのかと体を起こしてみれば、大きい鼻ちょうちん浮かべて微かな鼾をたてる善逸の姿が。
「…寝てる? まあ、無事なら良かったんだけど……」
さっき視線を斜め上に据えてたのは、鬼の攻撃が来ることを予期していたからだろうか。何はともあれ無事で良かったけど、こんな鬼がいつ襲ってくるか状況で鼾かいて眠れるのは凄い。
いや、単に気絶しただけなのか。全く分からない。
「どうしよう…このまま見捨てる訳にもいかないし……」
かといって善逸を抱えて護りながら鬼の不意をつく攻撃に対処しつつ先程のように頸を斬り落とす動きが出来るだろうか。
不幸中の幸いなのは、ここが鬼殺の登竜門であるが故に存在する鬼は弱めであるということだ。
「…やるしか、ない」
そうだ、元はと言えば禰豆子を人間に戻すために鬼殺の道を志したんじゃないか。禰豆子を護りながら鬼と戦う。これはその前哨戦であると思えばいい。善逸だっていずれは目覚める筈。その時まで何としても戦い抜かないと。
「うわああああああああぁぁぁ!!!」
すると何処からともなく他の最終選別参加者らしき悲鳴が響き渡る。
「…助けに行かないと」
声の大きさからするにそんなに遠くでは無い。俺は善逸を抱えてそこまで走って向かった。
「…!? 何だ? この鼻を劈くような激臭…!」
声のした方へ向かうにつれて強くなる激臭。他の鬼とは一線を駕す匂いに、思わず足を止めそうになったが、それでも俺は助けられるかもしれないと鼻を摘みながら叫び声のする方へ走った。
「……ヒィッ!! た……助けてくれ………誰か………ッ!そ、そこの君!助けてくれ!この鬼、俺じゃあ殺せねえ!刀が折れた…!」
そして辿り着いた場所。そこには薙ぎ倒された木々が散乱し、真っ二つに折られた刀を握り息絶えた他の選別参加者。そして___
「何?別に君たちに用は無いんだけど?」
白い和装束に白い髪と顔、無機質な色で全身を包み込み、数人の選別参加者の首を手先から繰り出した糸のようなものでグルグル巻にしている子どもの鬼。そして、かの鬼の額には、下伍と刻まれた左目があった。
「どういうことだ…?」
最終選別に旅立つ前夜、蓮華さんが警鐘を鳴らせと俺に話してくれた鬼の1つが、そこにはいた。
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「いいか炭治郎。全ての鬼の頂点に鬼舞辻無惨がいる。そしてその鬼舞辻無惨には12体の直属の部下がいることまでは話したな?」
「はい!」
「…実は強い鬼はそれだけじゃない。もう一体、十二鬼月とは別で鬼舞辻無惨の参謀とも言える鬼がいる」
「…!? まだ強力な鬼が内側に居るんですか?」
「…あぁ、ソイツは両目の眼球に満月と刻まれた鬼でな。いずれは炭治郎も出会う事になるだろう。だがその鬼と対峙するとなればもう1つ警戒しなくてはならない事がある」
「…それはいったい?」
「…奴は鬼の常識が幾つも通用しない。鬼は本来群れを成さないが、奴だけは例外。先述の十二鬼月、そのうち2体と行動を共にしている。私が出会った時は下弦ノ肆と伍だったが、その時で既に下弦の強さの範疇を超えていた。私ですら勝てなかった。…もしも出会ってしまったら、余程の事が無い限り戦闘は避けろ。今の炭治郎では手も足も出ない」
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カナエさんが最終選別開始前にしてくれた説明では、藤襲山には本来人を数人喰っただけの鬼しかいない筈。
「…何ジロジロ見てるの?邪魔するならお前も殺すよ?」
そして何より辺りに漂う激臭。他の鬼とは比べ物にならない強さは勿論のこと、蓮華さんがあの時説明してくれた下弦の情報が更新されておらずそのまま通りであるなら、奴は満月の鬼やらの身内で俺が手も足も出ない存在であることとなる。
「…無視?」
奴が藤襲山にどうやって潜入したかも、奴は蓮華さんの言っていた下弦ノ伍本人なのかも分からない。
ただ、今の俺では敵わないことはほぼ確定。蓮華さんも許してくれる筈だ。あまりにもやることは1つ。善逸を抱えて逃げることだ。
「無視するんだ…へぇ、自分の立場考えなよ」
善逸を抱えて逃げようとした瞬間、突如として俺と善逸の周囲に太糸の檻が錬成された。
【血鬼術 殺目篭】
糸の檻は俺と善逸を完全に囲み、だんだんと範囲を狭めている。このままだと俺と善逸は糸によって全身を切り刻まれて死ぬ。
「ヒノカミ神楽…」
そうなる前に糸を斬って脱出しなければ。そう自分に言い聞かせ、呼吸を整え刀を構えていざヒノカミ神楽を技を繰り出そうとした矢先、懐で眠っていた善逸が俺の手を離れた。
「!?」
眠っていた筈なのにまるで自らの意思で俺の手から離れたような。そんな疑念が頭に浮かんだ次の瞬間、鬼の作った糸籠に斬撃が走った。
【雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃】
気づいた時には血鬼術は焼き切れて無くなっていた。善逸の素早い一閃が、糸籠に穴を開けるだけに留まらず、衝撃で血鬼術そのものを消し飛ばしてしまった。
「凄い……」
先程の叫び続ける情けない姿は何処へやら、そこには間違いなく将来共に戦っていく上で心強い味方になると予見させる善逸の姿だった。
「…糸が切られた?雑魚共相手なら充分な強度かと思ったけど…甘く見すぎてたか?」
鬼の方も血鬼術を吹き飛ばす程の善逸の予想外の素早さに驚愕し、一瞬の隙が見えた。
【ヒノカミ神楽 炎舞】
その一瞬の隙に、俺は鬼に捕らえられていた人の糸を斬って上手いこと解放することに成功した。
「た、助かった!ありがとう!」
そして捕らわれていた人たちは解放されるや一目散に逃げおうせて行った。こちら側に上手く加担してくれれば尚良しだったけど、相手が相手だし仕方ない。幸いにも善逸はこの場に残ってくれて、今は隣で鬼を目の前に刀を握って身構えている。
「お前、十二鬼月だな? 何故お前みたいな強い鬼がこの山に入って来てるんだ?ここは人を数人喰った鬼しかいない筈だ!」
「…さっきまで無視を決め込んでいたのにいざ口を聞けばいきなり……まあいい。別に目当ては鬼狩りの命じゃないし教えてあげる。僕がこの山にいる理由だっけ?単刀直入に言えばこの山に捕らわれている鬼の中に将来有望な輩がいないか品定めしてる。活きのいいのがいたら持ち帰って父さんの元で育成する。ただそれだけだ」
…将来有望な輩がいないか品定めをしている?有望な輩がいたら育てる?
今まで出会った鬼は殆ど自分のことしか考えていなかった。そして父さんと口にしていた事から鬼同士で家族付き合いのようなものが存在するであろう異質さ。鬼の常識が当てはまらなさすぎる。
…もし、蓮華さんの経験談に変化が無ければ。
「…お前まさか、満月ノ鬼の遣いの鬼か?」
「……へぇ、そこまで知ってるんだ。まあ別にいいけど。もう用は済んだし、柱や支が来る前にさっさと退散させてもらう。じゃあね、今度またいつかあった時は本気で殺す」
「まっ、待て!」
【血鬼術
俺の制止する声が届くより先、奴は背の高い樹木に自身の血鬼術を巻き付けて引っ張り、そのまま藤襲山周囲を覆い尽くす藤の花の高さより遥か高く夜空の向こうへと消えていった。
「…下弦ノ伍、満月ノ鬼の息がかかった鬼……。最終選別に容易く侵入してくる辺り、やはり普通の鬼とは訳が違う……」
まだ鬼殺隊の登竜門でしかないというのに、蓮華さんが警鐘を鳴らす鬼とこんなにも早く相見えるとは夢にも思わなかった。奴は最後、次会ったら殺すと呟いていた。俺が鬼殺隊に入った後、いずれは戦うことになるのだろう。
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初日の一大事こそあったものの、最終選別は滞りなく進み7日目の朝を迎えた。
けど、あの下弦ノ伍の鬼のことが常に頭を過ぎってしまい、殆ど眠れなかった。藤の花より高く飛んで容易く最終選別に潜入出来ること、父さんと呼ぶ満月ノ鬼の存在、もはや鬼の常識を逸した数々の事象から、休んでいる隙にまた潜入して来るんじゃないかと、1人不安で気が抜けず、陽光の射す昼間を利用して休息を取れればいいものを、結局熟睡という熟睡には至れず、物音がする度に起きるを繰り返していたら1週間まともに眠りにつくことが出来なかった。
「はぁ……」
そうして息も絶え絶えの中迎えた7日目の朝、藤襲山を下山するとそこには俺含めて4人の姿だけがあった。
「…4人だけ」
俺があの下弦ノ伍の鬼から解き放った人達も、みんないない。最初ここに来た時、20人以上は絶対いた筈なのに、みんな最終選別の最中で鬼に襲われて、帰って来れなかったんだ。
「…どうしたの炭治郎君?顔色悪いわよ?」
「あぁ、カナエさん!俺は大丈夫…ですから……」
「大丈夫じゃない顔してるわよ?鬼は日光当たったら死んでしまうから鬼の出ない昼間はそれなりに休めた筈よ?」
「…ちょっと眠れない理由がありまして……」
「理由?」
「……はい」
そうして俺は此度1週間、山中で起きた事の詳細をカナエさんに説明した。藤の花が咲いていない高所から侵入して来たであろう下弦の鬼について、あまりに常識外れな事象故に昼間も気が抜けず眠りに付けなかったことなど、一通り話し終えると、カナエさんは一瞬首を傾げて難しい表情を浮かべた後、俺に対して微笑んでこう言ってくれた。
「…分かったわ。この事は御館様にも伝えておくし、炭治郎君もずっと気が抜けなかったでしょう。何はともあれ最終選別は合格よ。炭治郎君が鬼殺隊に入るにあたって必要な手続きはこちら側でやっておくから、今はゆっくりおやすみなさい…」
「はい……失礼します……zzz」
そうして俺はカナエさんがポンポンと叩いて誘い導いてくれた膝元で意識を飛ばした。
尚、当日は疲労で周囲を気にする余裕が無かったから気にしてなかったけど、後日一連の流れを見ていた善逸から凄い怒鳴られたのは別の話。
ー大正コソコソ噂話ー
合格メンバーは原作と一緒です。
玄弥、カナヲ、善逸、炭治郎、いち早く下山した伊之助の5人です。
原作と違うのは炭治郎がカナエさんの膝で寝たことくらい。
カナヲ以外の面々はカナエさんを炭治郎の許嫁だと思い込んでる為に(主に善逸が騒ぎ立てたせいで)何とも思ってませんがカナヲは大好きな姉を取られた感じで少々複雑に感じている様子。
カナエさんが生存している関係で、カナヲは花の呼吸をより間近に長く目にすることが出来た為に原作より強化。そして自己表現はコインを投げつつもそれなりに出来るようになってます。鬼殺隊入隊は、カナヲが初めて自らの意思で希望したことにより、カナエさんとしのぶさん両者の公認を得られたそうです。
尚、炭治郎の玉鋼はカナエさんが選んでくれたようです。