剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
「…ここは?」
目を覚まして真っ先に見えた木造の天井。辺りを見渡すと、複数の布団が並んでおり、俺もその布団の1つに寝かされていた。そして、仄かに漂う薬のような匂いから、ここが診療所らしいことまではわかったけど、俺はいったいどうしてここで眠っていたのか。
「えーと…確か……そうだ!最終選別!」
最後に記憶してるのは最終選別が終わったか終わってないか辺りの記憶だった。確か、最終選別の途中で下弦の鬼が乱入してきて、その事がずっと頭に引っかかっていて寝不足だったことまでは覚えている。
「…目が覚めた?」
「…カナエさん!」
すると、最終選別で試験監督を務めていたカナエさんが布団部屋の物陰からヒョコリと顔を出した。
「はい、ぐっすり眠れました!」
「それは良かったわ。貴方丸2日も眠っていたのよ?」
「2日もですか!?えっ、最終選別はどうなったんでしたっけ!!?」
まさか最終選別の途中で力尽きて不合格みたいな事になっていないだろうか。その辺の記憶が少々曖昧で不安になってきた。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ。炭治郎君は最終選別を無事合格しているわ。その最終選別合格を私が告げた後に、力尽きて眠ってしまったのだけれど…覚えてないかしら?」
「……えっと、確か………」
無事最終選別合格だと聞き届けたとするならばあれは夢じゃなくて確かカナエさんの……カナエさんの膝の上で……。
「…あぁっ!カナエさんのお膝を借りて!!?すいませんすいません!!!」
思い出してしまった。
「いいのよ気にしなくて」
「いや本当に寝不足とはいえカナエさんの膝上で!!!」
「ふふっ…炭治郎君も年頃の男の子だものね〜」
「あぁぁぁぁ…………!!」
やってしまった。幾ら疲れていたとはいえ、あろう事か柱であるカナエさんの膝元でぐっすり眠ってしまうなんて…。
「オイ!悶エテル場合カ!竈門炭治郎!」
「!?」
すると有無を言わさず何処からか俺の名前を呼ぶ甲高い片言の声が聞こえた。
「ドコヲ見テイル?コッチヲミロ!」
「へっ?」
「コッチダ!」
声のした方を見ると、そこには1羽の喋る鴉がいた。
「喋った!?」
「何驚イテル。コレクライ当然ダ!」
「えぇ!!?」
「そう言えば炭治郎君にはまだ説明していなかったわね。彼は鎹鴉と言って、鬼殺隊本部と隊士の連絡役みたいな子なの。基本的には隊士1人につき1羽の鎹鴉がついて、彼の指示を受けて鬼の出没場所へ向かうことになっているのよ」
「そ、そうなんですか……?」
「トイウワケデ竈門炭治郎!今後ハ俺ガ任務ヲ伝エルカラナ!」
どうやらこの鴉が俺担当の鴉となるらしい。やっぱりというか普通の鴉とは異なる匂いがする。人間に近い匂いというか、何はともあれ鬼殺隊として働く以上はこれから長らく世話になるだろう。
「そういえばカナエさん、俺が今いるここって…?」
「…あぁ、そう言えばまだ説明していなかったわね。ここは蝶屋敷と言って、負傷した隊士の治療を行う、いわゆる鬼殺隊専門の病院みたいなところよ。それ以外にも、長い入院で鈍った体を叩き起すために機能回復の訓練も行っているわ。いずれ炭治郎君も強い鬼と戦って怪我をする時が来ると思うわ。その時は是非蝶屋敷を頼ってね」
「はい、その時はお世話になります!」
あの最終選別で出会った下弦みたいな強い鬼と戦ったら俺も無事では居られないかもしれない。そんな時にこの蝶屋敷みたいな病院の存在があるのは有難い。
しかしカナエさん、診療所を運営しているということは必然的に医学の知識もあるのか。蓮華さんといい支や柱の人ってやっぱり凄いんだと改めて思い知らされる。
「それにしても眠っている炭治郎君を見て思ったのだけど、炭治郎君ってば凄いのね。全集中の常中がもう出来るだなんて…」
「はい!蓮華さんや錆兎さん、真菰さん、義勇さんにしっかり鍛えて貰ったので!」
「蓮華さんに加えてその3人からも…? うんうん、納得の練度だわ。そうね……彼らから教えて貰えたなんて炭治郎君はかなり幸運ね」
カナエさんはうんうんと笑顔で納得した様子だった。
「そんなに凄い事なんですか?蓮華さんが鬼殺隊で1番の実力者ということは知ってるんですが……」
「4人にもきっと炭治郎君が思ってるより遥かに凄い人よ。あの4人が居なければ、私は今頃この世に居なかったと言っても過言ではないわ」
「そんなにですか!?」
蓮華さんや錆兎さんが居なかったら今頃カナエさんはこの世に居なかっただなんて、柱のカナエさんにそこまで言わせるって、俺が思っていた以上に蓮華さんって凄い人だったのか。
そんな凄い人達に教えを乞えたことに加えて、禰豆子のことを承認して貰えたって、もしかして俺って相当鬼殺隊内で優遇されているのでは無いか。
「そういえば!禰豆子!すいませんカナエさん!お世話になりました!!」
「ど、どうしたの炭治郎君!?」
「鱗滝さんや禰豆子が俺の帰りを待ってるんです!」
せっかく最終選別に受かったのに、真っ先に禰豆子に無事を報告しなきゃいけない筈なのに、俺はその後2日も蝶屋敷でぬくぬくと過ごしてしまった。
「オイオチツケ!」
「そうよ落ち着いて炭治郎君!」
「ソウダ!モウ既ニオ前ノ師匠タチニハ連絡済ミダ!モウコッチニ来テルゾ」
「へ?」
すると次の瞬間、表から聞き覚えのある声がした。
「おーい!カナエー!炭治郎はここに来てるんだろう!?」
蓮華さんの声がした。
「噂をすれば到着したみたいね」
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「…何か、すいません。色々早とちりしてしまって…」
「いいのよ〜。真っ先に合格を伝えたいっていう美しい兄妹愛見せて貰えたし…」
「はは……」
カナエさんの膝で寝落ちしてしまうし、早とちりして蝶屋敷を後にしようとするし、情けない姿ばかり晒して恥ずかしい。
「ははは、何はともあれ炭治郎も無事鬼殺隊の登竜門を潜り抜けたようで良かった!箱の中の禰豆子も君の無事が分かって嬉しそうだ」
そう、蓮華さんはまるで薬売りかのような大きな箱を背負って蝶屋敷に来てくれたのだが、その中に禰豆子はいると言う。日の下を歩けない禰豆子と俺が常に一緒にいられるようにと、鱗滝さんが気を利かせて作ってくれたらしい。
「ところで…蓮華さん」
「ん?どうしたカナエ?」
何だかカナエさんが床に置かれた禰豆子の入ってる箱をチラチラ見つつ、ソワソワした様子で蓮華さんの肩をつつきながらボソリと小さく声をかけた。
「……早く、禰豆子ちゃんと顔を合わせてみたいのだけど……」
「あぁそうだったな。カナエにとっては待望の仲良くなれそうな鬼だからな。そろそろ日も落ちる頃だし、箱から出したいところなのだが……生憎まだ禰豆子は眠っていて「むんむん!」な…」
今のは、間違いなく禰豆子の声だ。
「むん!」
「おわっ!」
すると箱の後方扉から禰豆子が箱をパカッと開いて顔を出した。
「禰豆子!起きたんだな!どうしたんだよ2年も眠って!お兄ちゃん心配したんだぞ〜!」
ずっと眠っているものだから、このままずっと起きないのかと不安で仕方なかった。
「良かった…禰豆子…!良かった……!」
そうして禰豆子を抱き寄せて俺は声の限り泣いた。
禰豆子がまた俺の前で笑ってくれる。またずっと一緒にいられる。俺が絶対禰豆子を守り抜くんだと、固く心に誓って。
「…この子が、禰豆子ちゃん?」
「そうだが……どうしたカナエ?そんな素っ頓狂みたいな顔して?」
「可愛いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
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「禰豆子ちゃん禰豆子ちゃんッ!」
「むん……」
あれから10日、カナエさんは毎日のように任務を終えては禰豆子を愛でる日々を繰り返していた。禰豆子も満更嬉しそうな様子で可愛がってくれるカナエさんに懐いているみたいだ。
「ちょっと姉さん!アオイが料理作ってて手が離せないからこっち洗濯物畳むの手伝ってって言ってるのに……仕方ないわ。炭治郎君、手伝ってくれるかしら?」
「はい、
そうそう、1週間以上蝶屋敷で過ごす中でカナエさんの妹であるしのぶさんとの親交も深まった。おっとり朗らかなカナエさんに対して、こちらはきっちりした文武両道の強い女性といった印象だ。
「本当に助かるわ、姉さんったら禰豆子さんが来てからというものずっとあれだから……」
「いえいえ、お世話になっている以上は何かしら蝶屋敷に貢献しないといけませんから!それに、カナエさんが禰豆子を見てくれているのでこちらも安心して鍛錬が出来ます!」
カナエさんが気を利かせてくれて、俺の日輪刀も蝶屋敷に届くように施してくれたし、隊士としての仕事があるまで俺は蝶屋敷で自己鍛錬に勤しみ、そんな鍛錬の合間にしのぶさんのお手伝いなどをする日々を送っていた。
「ふんふん!」
「待って禰豆子ちゃん行かないで〜」
するとカナエさんの哀愁漂う声が背後から聞こえると共に、禰豆子がトコトコ歩いて来てしのぶさんの腹をチョンチョンとつついた。
「あれ?禰豆子さん?どうしたんですか?」
「…きっと、禰豆子は俺がしのぶさんのお手伝いをしているのを見て一緒にやりたくなったんだと思います。」
「…そうなんですか?禰豆子さん?」
「むん!」
禰豆子はフンっと一言口にして俺の手を取った。これは禰豆子が「はい」と言っている合図だ。
「まあ…禰豆子さんったら…本当姉さんにも見習って欲しいわね」
「むん!」
「禰豆子ちゃあん………」
何かがグサッと刺さったカナエさんはシクシクとその場で落ち込んでいる。
…こんなカナエさん初めて見た。
「…姉………さん…………」
「あら?どうしたのカナヲ?」
すると、カナヲもしのぶさんの後をトコトコと着いて口を開いた。
「………わっ、私も…………何か………お……お手伝い…………したいです…………」
その言葉に、しのぶさんもさっきまで落ち込んでいたカナエさんも、一同物凄い満面の笑みになって。
「…カナヲが……遂に自分の意思で……」
「…だっ………だめ………でした…………?」
「いいのよカナヲ!私も一緒にやるわ!さあ行きましょう!」
カナエさんもしのぶさんも大きく盛り上がり、蝶屋敷勢揃いでウキウキしながら一同庭先へ向かう。ただし禰豆子は日の下を歩けないのでギリギリ日光の当たらない所で待機している。
「カァァァァァァァ!!炭治郎!!カナヲ!!刀ガデキタゾ!!客人ダ!!天支ガ日輪刀持ッテキタゾ!」
「おーい!炭治郎ー!カナヲー!私だ!蓮華だー!」
蓮華さんの声が玄関から聞こえた。
「…炭治郎、カナヲ、出迎えてあげて」
「はい!」
「はい、姉さん」
俺たちは手伝いから外れて、やって来た蓮華さんを出迎えに玄関へ向かった。
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「…さて、2人の刀がこの2本だ」
「おぉ」
「………」
「本来は刀鍛冶自ら出向いて隊士に刀を手渡すことになってるんだが、
「…訳あって?」
何か刀鍛冶が出向けない理由があったのだろうか。あまり深く聞くのは失礼と思った俺はそれ以上特に事情を聞くことなく、カナヲと共に蓮華さんから手渡された日輪刀を手に取った。
「凄い刀だ…」
「だろう?日輪刀は常時日の差す山で取れた玉鋼を利用して作られていて、その甲斐あって頸を斬れば鬼でも倒せるようになっている。それを作る刀鍛冶も凄腕の者たちだらけだ。ただ、ちょっと一癖も二癖もあるのが多くてな……。ここ最近隊士の数が多くなって忙しいのも相俟って、今回の対面は見送ることになった」
一癖も二癖もある面々、いずれ俺も会う日が来るんだろうか。廃刀令が出て数十年近く経っている中でこんな立派な刀が作れる人、機会に恵まれるのならばいつか会ってみたい。
「まさか炭治郎、この刀打った人と会おうと思ってないか? やめておいた方がいいぞ。君の担当鍛冶である鋼鐵塚って男は気に食わないことあると癇癪起こして大暴れするから機嫌悪い時に対面しようものなら君の身の安全も保証できないからな」
…蓮華さんは心を読む能力でも保持しているのだろうか。もしかして顔に出ていたのか。そして、蓮華さんが最初に言ってた一癖も二癖もあるってどうやらそういうことだったのだろう。
とはいえ、凄い技術に変わりは無い。錆兎さんや鱗滝さんも、刀は定期的に研ぎ直す必要があると言ってたし、いずれその技術をこの目で見てみたい。
「それじゃあ2人とも、刀を抜いてみな。日輪刀は別名色変わりの刀と言われていてな、持つ人によって刀の色が変化するんだ」
蓮華さんに言われるまま刀を抜いてみた。すると、俺の刀がみるみるうちに漆黒に染まっていった。
「…ふむ、カナヲは花の呼吸適正の色だ。良かったな、カナエと同じ色だ。問題は炭治郎だが…………黒いな」
「えっ!黒いと何かダメだったりするんですか!!?」
「いや、特にダメって訳ではない。最悪の場合、日輪刀を握っても色が変わらない人もいる。そういう人はそもそも剣士自体への適正が無かったりするからな。少なくとも、黒色は水の呼吸の適正では無いことが分かる」
やっぱり俺の適正呼吸は水では無かったか。修行の時に薄々勘づいてはいたけど、水の呼吸は思ったように威力が出せない。どうしても錆兎さんや義勇さんには見劣りする型しか出せなかった。
「…となると、例のヒノカミ神楽が俺の適正だったりするんでしょうか?」
「…そうだな。黒刀の剣士は私も100年近く鬼殺隊に身を置いてきて見たことがない。そうなると炭治郎独自の呼吸法である、例のヒノカミ神楽とやらが適正の可能性が高い」
「…しかし、俺はまだヒノカミ神楽を使いこなせません。水の呼吸は常中できるのに対して、ヒノカミ神楽は2つの型が限界です」
水の呼吸は壱から拾まで一通り使える。錆兎さんや義勇さんの持つ独自の型こそ使えないけれど、水の呼吸は常中も出来ている。
ただ、どうしてもヒノカミ神楽だけは常中どころかまともに型を繰り出すだけでも精一杯だ。十二鬼月や満月ノ鬼と張り合った際、ヒノカミ神楽はほぼ確実に必要となってくるというのに、俺はまだ…。
「大丈夫だ炭治郎、焦るな。最初から全て出来る者などいない。ヒノカミ神楽も、既に水の常中が出来るなら、段々体力が向上していずれは使いこなせるようになる。使っていく中で自身の中で呼吸の無駄な動きや自然な流れを見出していけばいい」
「蓮華さん……」
「…さてと、炭治郎。刀も入手した頃だし、そろそろ初任務だ。ほら、君の鎹鴉が来たぞ」
すると、蓮華さんに言われた通り俺の肩に鎹鴉が降りてきた。
「初任務!初任務!炭治郎!北北東の街へ向カエ!ソコデハ毎日少女ガ消エテイル!鬼ノ仕業ニ違イナイ!!」
ー大正コソコソ噂話ー
カナヲは炭治郎が熱心に蝶屋敷のお手伝いするのを見て、自分もなにか出来ないかと、こっそりコイントスをして表が出たので手伝う事にしたそうです。
ちなみにカナヲの刀を打ったのは鉄珍様。女好きなので蓮華が蝶屋敷に連れてきたらマズいと判断したそうです。原作より蓮華の血の影響で生き残ってる隊士が多く、刀鍛冶は多忙なのも理由ですね。