剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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78話 初任務

 

 

 

「着イタゾ!コノ街ダ!」

 

鴉に導かれるまま駆け抜け続けること半日、鴉が言っていた目的の北北東方面の街に到着。既に日没を迎えており、いつ鬼が現れてもおかしくない時間帯までにどうにか間に合った。

 

「鴉!鬼のいる場所は分かるのか?」

「知ラン!」

「えぇ……」

「コノ街ニ巣食ッテルノハ確カダ!」

「…例えば鬼が何体いるとか、どんな特徴の鬼がいるとか………」

「16ニナル少女ガ消エテイル!コノ街ニイル!ソレダケシカワカラナイ!後ハ炭治郎、オ前ノ仕事ダ!」

 

初任務だから要領が分からないというのもあって聞いてはみたけど、やはりこの鴉は基本的に連絡役でしか無い模様。ここから鬼を探って倒すのは基本的に俺たち隊士の役目と読める。

 

「……しかし」

 

刀を持ってる人間が、鬼の目標らしき16

歳の少女を聞き込み探るのはどう考えても不審な気がする。

今のところ鬼特有の不穏な匂いもしない。最終選別で俺に襲いかかってきた雑魚鬼ですら若干ながら異臭を放っていたというのに。

 

「16の誕生日おめでとう、里子さん」

「まあ……和己さんったら……」

 

恋人と思わしき通行人が俺の真横を通り過ぎていったその瞬間、鬼特有の異臭が鼻に付いた。

 

「あれ…?」

 

鬼の匂いに気づいてバッと背後を振り返ると、そこには恋人のうち男性の方がポツンと立ち尽くしており、女性の方が跡形もなく消え失せていた。

 

「この匂い…」

 

丁度男性が立っている真下、地中に匂いの残滓を感じた。

 

「すいません!失礼します!」

 

俺は刀を構えて思いっきり真下へ突き刺した。

 

「ギャッ!」

 

すると、地中に潜り込んでいた鬼が姿を現した。鬼の頭部に俺の刀が突き刺さっており、痛みに悶えた鬼は地中に拐われた女性を地上に吐き出した。

 

「ギリギリギリ……」

「すいません!和己さん!今すぐに女性の方を連れて逃げてください!」

 

吐き出された女性をすぐさま引きずり出して和己さんに預けた。

 

「は、はい!ありがとうございます!助かりました!」

 

そうして鬼による連れ去りを未然に防いだ後、目の前の歯軋りをする鬼と改めて対峙する。16歳の誕生日を静かに祝福していたところを襲った辺り、恐らくこの鬼が俺の探し求めていた例の少女失踪の原因の鬼。

 

「…!」

 

すると、恋人たちの逃げ逢瀬て行った方からこの歯軋り鬼と同じような匂いがした。

 

「よくも邪魔をォ!許せねえ…!16の女だけさっさと攫って静かに喰ってやる筈だったが…!男諸共ぶっ殺す!!」

 

背後を振り返ると、そこには俺の正面にいる鬼と全く同じ容姿をした分身体のような鬼が地中から顔を出して、今にも2人を地中に引き摺りこもうとしていた。

 

「ヴゥ!」

 

すると俺の背負っていた箱の中から禰豆子が飛び出し、2人を地中に引き摺りこもうとしていた鬼の頭を蹴り飛ばした。鬼の頭は胴体から離れ吹き飛び、路肩に転がっていった。

 

「糞ガキがァ…!1度ならず2度までも……!そして人間の分際で何故鬼を連れている……!」

 

禰豆子が蹴り飛ばした頭はもう再生を始めている。しかしその僅かな隙を突いて禰豆子は2人を抱えて鬼から距離を取った。

 

「そんな事はどうだっていいだろう。お前こそ何故何の罪もない少女を襲ってるんだ!」

「あぁん?その女は16歳になっているんだよ…!こっから先、その女の鮮度は落ちて不味くなっていくからなぁ…!そうなる前に俺が喰ってやるんだよォ!」

 

そう鬼が叫んだ瞬間、俺の足元、真下からもうひとつこの鬼と思わしき匂いが漂ってくる。

 

【水の呼吸 捌ノ型 滝壺】

 

水の呼吸で真下に放てる型を放ったところ、丁度良く飛び出してきた鬼に命中。ただ、頸を斬るまでには至らなかったようで、斬撃に怯んだ鬼は再び地中へと姿を消した。

 

 

「テメェ!俺渾身の不意打ちを…!」

「おいおい、分身体の俺、落ち着けって。少し頭を使ったらどうだ?」

 

分身体同士が会話している。どうやら、この鬼は3体とも地中に潜れる血鬼術を扱うことこそは同じだが、性格や特徴は互いに異なる様子。歯軋りしかしない奴と、短気な奴、そして冷静な奴の計3体か。そして皆同じ匂いを纏っていることから、1つの鬼が3つに分身したと分かる。

 

「例えばこんな風に頭を使ってみたらどうだ? おいそこの鬼狩り、こっちを見ろ。それ以上動いたら、この女がどうなるか分からないぞ……」

 

鬼側も手段を選ばなくなったのか、冷静な奴がいつの間にか地中を通り抜けて女性の口を塞ぎ、首元にクナイを当てていた。

 

「くっ…人質を……!卑怯だぞ!」

「…鬼に卑怯も卑劣もねぇ!あるのは取って喰らうだけの欲、それだけだ……」

 

匂いが分散して一瞬気が逸れた隙を狙われて、鬼に女性の方を人質にされてしまった。

 

「…おっと、そこの鬼女も動くんじゃねえ。何故鬼の癖して人間に組するかは分からねえが、少なくともテメェも鬼狩り側だということが分かった。テメェも動いた瞬間、この女の首を捩じ切ってやるからなぁ」

 

禰豆子が動けなくなった俺の意志を汲んでか、踏み出そうとした瞬間、鬼は即座に禰豆子に向けて女性の人質を見せつけ威嚇した。

 

「…そのまま動くな。お前が動いたらこの女も終わり…。どの道今動かなければ俺はこの女を地中に引き摺り込んで貪り喰うけどなぁ…。お前はそこでじっとしてろ。動いたらこの女が無駄に苦しむように嬲って殺す…」

「ま、待て!」

「動くなと言ってるだろ!!」

 

そうしている間にも歯軋り鬼と喋る鬼はジリジリと俺から距離を置いて後退していっている。既に今から急いで走っても間に合わないくらいの距離を取られてしまっている。

 

「…フハハ、今のところ分身体は3体までしか生み出せないが、この女を喰って腹を満たせばまた新しく分身体を作れそうだ…!ハハハハハ…!」

 

既に勝ち誇った気なのか、鬼はその場で笑い始めた。既に鬼は3体とも腹から下を地中へ沈めており、今にも逃げ出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「里子さんを離せェ!!!」

 

 

すると、恋人がただただ鬼に拐われそうなのを見かねてか、男性の方が勇気を出して歯軋り鬼に飛びかかった。

 

「クソっ!まだ居たのかテメェ!鬼狩りでもない癖にしぶとく…!」

「煩い!里子さんは俺の婚約者なんだ!そんな人を…お前なんかに奪われてたまるか!」

「離せ!テメェも死にてえのか!恋人を差し出せばお前は助かる。婚約者なぞ代わりはいくらでも居るだろ!17歳過ぎた女ならいくらでも持っていけばいい!!」

 

地中に潜る珍妙な眼前の化け物なんて、鬼殺隊では無い人間からしたら恐怖の塊でしかないというのに、婚約者の為に、彼は勇気を出して鬼に食らいついた。

 

「クソッ!」

 

やがて男性は鬼に振りほどかれて投げ飛ばされる。男性は壁に激突してそのまま気を失った。

 

「禰豆子!」

「むん!」

 

投げ飛ばされた男性の介抱を禰豆子に任せ、俺は男性の勇気がこじ開けた鬼の隙に刀を振り下ろした。

 

【水の呼吸 肆ノ型 打潮】

 

波を打って複数回繰り出せる型によって、俺は歯軋り鬼と短気な方の鬼、2体の頸を斬り落とした。

 

「ギリギリギリ………」

「なぁァ!クソっ!このガキ!よくも!よくも俺の!俺たちの頸をッ………!クソっ!クソがァァァァァァァァァァ………………!!!!」

 

やがて2体の鬼が灰となって消えていく中、俺は頸を斬り損ねたもう1体の鬼の行方を追った。

 

「クソっ!撤退だ…」

 

不利を悟ったのか、冷静な奴は地中に姿を消そうとしていた。

 

「禰豆子!2人を頼んだ!」

「むん!」

 

禰豆子が頷くのを見届けた俺は、最後に残った鬼の消えていった地中へ、鬼が完全に撤退して地中に潜れなくなってしまう前に大急ぎで飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「クックック……馬鹿め。まんまと追いかけて来るとはなぁ…!」

 

そうして地中へ潜ると、そこには鬼が喰って来たであろう人間たちの衣服が無造作に散乱している、薄暗い泥で溢れた水中のような空間が広がっていた。

 

「ここは俺の世界。空気も薄ければ自由に動くことは出来ない。対して俺は自由自在、上下左右何処でも移動可能。ここがお前の死に場所だ」

 

そうして言葉通り鬼は俊敏な動きで俺の周囲を泳ぎ飛び回る。この鬼は既に勝利を確信してるのか、飛び回りこそしているがあくまで飛び回るだけで俺に攻撃を仕掛けては来ない。

 

「…水の呼吸」

 

ならばと、水中でこそ真価を発揮する型を構えた。確かに空気は薄く呼吸はしづらいけど、紗霧山と比べたらよっぽどマシだ。

 

【陸ノ型 ねじれ渦】

 

体を捻って渦を巻く斬撃を繰り出すこの技。水の呼吸の代名詞とも言ってよく、身動きの取りづらい環境でも対応できる、まさに変幻自在の型だ。

 

「なァッ…………!クソっ……!こんな所で………」

 

鬼が灰となって消えたのを見届け、俺は地上へと向かった。

 

 

「…ハァ…………ハァ…………」

 

そうして地上まで駆け上がり、鬼の作った地中空間を抜け出し呼吸を整えていると、何だか騒がしい様子だということに気づいた。

 

「和己さん!和己さん!返事をして!」

 

里子さんが和美さんの肩を一生懸命叩いて起こそうとしていた。しかし和美さんの反応は無く、目を覚ましそうにない。

 

「むぅ………」

 

禰豆子はそんな里子さんの肩に手を置いて何か言いたげな様子。けど、禰豆子は今喋れないし、里子さんは錯乱状態で禰豆子に気づいていない。

 

「失礼します!」

 

じっと見ていられなかった俺は、里子さんの間に入り、和美さんの胸に耳を当てた。

 

「大丈夫です。和美さんは気を失っているだけです。心臓はしっかり動いてますから安心してください」

「そう……なの……?」

 

俺の言葉を聞いた里子さんはその場でヘロヘロと座り込んだ。

…無理もないか。いきなり化け物に拐われて、人質にされ、勇気をだして自分を守る為に化け物に食らいついた大切な恋人がこうもなっていれば、普通の人は錯乱してしまう。

 

「禰豆子、ごめん、しばらく歩いて移動出来ないか?俺、この人を家まで送り届けなきゃいけないんだ」

「むん!」

「ありがとう禰豆子」

「むぅ〜………」

「里子さん……でしたっけ?大丈夫ですか?すいません、彼の家がどちらか教えて頂けないでしょうか?」

「え、あぁ…はい。和己さんの家は……」

 

そうして気を失っていた和美さんを背中に背負い、里子さんの教えてもらった通りに夜道を半刻ほど歩いて彼を自宅に送り届けて、俺の鬼殺隊士としての初めての任務は終わりを迎えた。

 





ー大正コソコソ噂話ー

没設定なのですが、実は和己さんの家に朱雨が人間時代に使っていた刀が保管されてるという話を入れる予定でした。
黒死牟に無限城に連れ去られた時に朱雨の持ち歩いてた刀は行方不明になってましたからね。
ただ、今さらすぎたのと少し強引な設定だったので漏れなく没になりました。
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