剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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80話 浅草での戦い

 

 

「楽しいのう!楽しいのう!やはり毬は心躍る!じゃろう矢琶羽!?」

「のぅ……朱紗丸!儂はちっとも楽しくなどない!服が汚れるばかりじゃ!」

 

朱紗丸と矢琶羽、そう互いに呼び合う2体の鬼。愈史郎さんの術で包み隠していたこの場所が呆気なく鬼側に割れてしまった。

 

「愈史郎さん!珠代さん!大丈夫ですか!」

 

先程の朱紗丸と呼ばれている鬼の不意討ちで特に鬼の毬攻撃に晒された珠代さんと愈史郎さんは大丈夫だろうか。土煙で2人の姿が見えない。

 

「……言いましたよね!鬼狩りと関わるのはやめましょうと!俺の術も完璧ではない……!痕跡が残ればそれだけ鬼側に見つかる可能性が高まる…!貴女と過ごす日常を邪魔する輩が俺は許せない!大嫌いだ!!」

「…!」

 

愈史郎さんの頸から上が吹き飛んでいる。先程の毬攻撃を諸に食らってしまったらしい。段々と再生を始めているけど、再生が遅い。

 

「炭治郎、お前は毬の鬼を殺れ。禰豆子は珠代さんと愈史郎の2人を守れ。掌に矢印の付いてる鬼は私に任せて欲しい」

「はい!分かりました!」

 

 

____________________

 

 

「愈史郎、目借りてくぞ」

「おい!ちょっ……」

 

矢印鬼こと矢琶羽に立ち向かうには愈史郎の血鬼術が有用と一瞬で判断した蓮華は、即座に愈史郎から血鬼術の札を借りて額に貼り付ける。

 

「……よし、これで見える」

 

愈史郎の目を装着した蓮華の目に、矢琶羽の血鬼術である矢印が映った。土煙に紛れて館の姿を消した矢琶羽を追い、蓮華は駆け出す。

 

「…いた」

 

そうして館の裏手へ回り込んだ蓮華は、一足先に矢琶羽の頸目掛けて刃を振るう。

 

【天の呼吸 壱ノ型 虹道】

 

ただ、鬼の方もあっさり殺られる訳にはいかないと対抗する姿勢を見せる。

 

「ぬぅっ!もう勘づかれたか…!近寄るな!」

 

すると矢琶羽は血鬼術を発動し、蓮華の足元へ自分とは反対側方向へ矢印を展開した。

 

「おっとっと……!」

 

愈史郎の目で矢印を視認出来たとはいえ、流石の蓮華も初動は矢琶羽の血鬼術によって空を斬るだけに留まった。

 

「…成程、さっき館を毬が縦横無尽に掛けていたのはコイツの血鬼術との連携だったわけか……。ならば尚更早いうちに仕留めなくてはな……!」

 

そうして矢琶羽の血鬼術の内容を一部理解した蓮華は改めて刀を握り直した。

 

【天の呼吸 肆ノ型 気流斬】

 

蓮華は辺り一面を攻撃する斬撃で矢琶羽の頸へと迫った。

 

「ぬぅ……!」

 

盲目の矢琶羽にとって辺り一面へ散らばる斬撃は先が読みづらく、あっという間に蓮華に真正面まで近づかれる。

 

「すぐ近くに来たな!」

 

しかし真正面という近距離まで迫ったことにより、矢琶羽の認識範囲内となり、蓮華の体にまたしても矢琶羽の血鬼術が巻き付く。

 

「今度は真上じゃ!」

「…くっ!」

 

またしても蓮華の斬撃は宙を斬り、蓮華の体は上空へと打ち上げられる。

 

「…なんてね」

「何!?」

 

遥か上空へと打ち上げられた蓮華は、上空からの攻撃に適した型を繰り出さんと刀を構えた。

 

【天の呼吸 玖ノ型 薄明光線】

 

雲間から指す一筋の光のように、遥か上空から蓮華の一直線の斬撃が矢琶羽の頸目掛けて差し込まれる。

 

「おのれ!おのれおのれおのれ!!」

 

矢琶羽はすかさず空中の蓮華に向かって血鬼術の矢印を四方八方へ乱発する。

 

「お前の技は見切った!」

 

すると蓮華は刀で矢琶羽の繰り出してきた矢印を巻き取り、血鬼術を利用した威力を保ったまま矢琶羽の元へと迫る。

 

「な"っ……………」

「その厄介な腕は斬り落としてしまおうか……そして!」

 

矢琶羽の両腕が蓮華によって斬り落とされる。そして間髪を入れず、蓮華の持つ刀が矢琶羽の頸を跳ね飛ばした。

 

「おのれぇ!おのれぇ!儂の頭を汚い地面なんかに付けおってェ……!」

「お気の毒だけど…私は強いからね。炭治郎の為にも、お前なんぞに手間取ってる暇は無いのさ」

 

そうして頸を落とされた矢琶羽は段々と灰になって消えていく。腕を斬り落とされたが為に、最後に蓮華を道連れにする血鬼術を発動することも適わず、ただその場で自身の体が消えゆくのを感じることしか出来なかった。

 

「それと……血を採らせて貰うよ」

 

蓮華の取り出した注射器が、まだ微かに残る矢琶羽の体に刺さり、そのまま血を吸い取る。

 

「……貴様なんぞに……………!!」

 

やがて蓮華が血を採り終えるのと同時、矢琶羽の体は全て虚空へと消え、後には静寂だけが残るのみだった。

 

「……さて、炭治郎の方はどうなったかな」

 

鬼を斬り伏せたその足で、蓮華はまだ戦闘中の炭治郎がいる館の正面方面へゆっくり歩き始めた。

 

 

____________________

 

 

 

「あははッ!楽しいのう!全力の毬遊びなどいつ以来かのう!!」

「くっ……!」

 

目の前にいる鬼はこれまでの輩とは違う。もう何個の毬を斬ったのか、覚えていない。斬っても斬っても尚尽きることない毬が、容赦なくこちらに降り注いでくる。

 

「妾は運がいい…。生きていたのかも謎だった逃れ者の珠代がお前と共にいたとはな…!日陰にコソコソと隠れていたつもりじゃろうが…ここで会ったが運の尽き。大人しく首を渡せ」

 

…珠代さんが逃れ者? いったいこの鬼は何を言っているんだ? 鬼でありながら鬼舞辻無惨を抹殺しようとしていると珠代さんが言っていたけど、その事と何か関連が?

 

「なんじゃ?興味がありそうな顔だな? キャハハハハハ!!折角じゃ、殺す前に教えてやろう」

 

そうして目の前の毬鬼は、俺の背後で戦いの行く末を見守ってくれている珠代さんを指差しで言い放った。

 

「ソイツは数百年も前、あろう事かあの御方との繋がりを断ち切り、人間に与した裏切り者じゃ。数十年前、朱雨様が奴の生存の可能性を示唆するまではとっくに野垂れ死んだと思っていたがのう……!まさか本当に生存しているとは…妾は運がいい」

「珠代さん………」

「えぇ、彼女の言う通りです……。私はかなり昔に死んだ筈でした。数百年もの間、鬼側にその存在を悟られず………ですが、もう限界だったみたいですね………」

「そんな…………」

 

珠代さんは、本来鬼側に存在が知られてはいけない()だったんだ。鬼舞辻無惨から隠れ、長い間鬼舞辻抹殺の機を伺っていたのに、俺が来たせいで…。

 

「だから俺は鬼狩りとは関わりたくなかった……!俺の術も完璧ではない……!姿は隠せても、気配は消せない……。鬼狩りと接触すれば痕跡が多く残り、鬼側にこの場所が割れる可能性も高くなる……!珠代様と過ごすこの場所が……戦場になるなんて考えたくも無かった……!!」

 

愈史郎さんの言葉から激しい怒りと悔しさを感じる。蓮華さんがわざわざここに来るまで遠回りしていたのも、愈史郎さんの血鬼術で出来ることを鑑みての事だったのだと、全て頭の中で合点がいった。

 

「というわけで……話は終わりじゃ!!!!」

「……ッ!!」

 

そうした矢先、俺目掛けて奴の腕から毬が投擲される。

 

「まずっ……」

 

気を抜いてはいけない場面だったのに、奴の話に耳を傾けて油断していたその一瞬の隙を狙われた。

 

「ふん!!」

「……ッ!!」

 

その刹那、俺の目の前を禰豆子が横切る。そして、俺の首を掠めようと放たれた毬を蹴り返す。

 

「うぅぅ………」

「禰豆子ッ…!」

 

しかし、放たれた毬の力は凄まじく、禰豆子の蹴りで毬は何とか俺から逸れたものの、禰豆子の脚が吹き飛ばされていた。

 

「ごめんな禰豆子!俺が不甲斐ないばかりに……!」

 

片足だけになった禰豆子は平衡感覚を失い、その場に崩れ落ちた。

 

「キャハハハハハ!!!仕留め損なったか!!!……けどこれでお前の妹は動けん!気配からするに、お前の妹も鬼のようじゃが……人を喰ったことが無さそうじゃ。そんな奴の鬼としての力など貧弱で妹の方はお前を骸に変えてからでも充分じゃ!!!」

「………ッ!!!」

 

妹を愚弄し、珠代さんたちを傷つけ、愈史郎さんの居場所を汚した。目の前の鬼さえいなければ、全て起こりえなかったんじゃないか。

 

「キャハハハハハ!!そうじゃそうじゃ!!お前が悪い!お前がいたから逃れ者の存在は割れ、妹は片足を失って苦しんでいる!」

 

俺の心を見透かしたように、この鬼は容赦なく俺に言葉の刃を突き刺してくる。

 

「もういい」

 

気づけば俺は鬼へ向かって真正面に駆け出していた。

 

「なんじゃ?堪忍袋の緒が切れたか?馬鹿みたいに正面から来なすった!自暴自棄になったかのう?」

 

キャハハと甲高い笑い声と共に、鬼は6本ある腕全てに毬を錬成し、こちらに向けて次々と投げつけてくる。

 

【血鬼術 玉華乱舞】

 

計6個の毬は、俺の避ける先を塞ぐように間隔を置いて迫って来る。

 

「まだまだじゃ!」

 

更にそれだけでは飽き足らず、鬼は毬を放った腕にまた新たな毬を錬成してこちらに向けて投擲する。

 

【水の呼吸 拾ノ型 生々流転】

 

その飛来してきた毬を俺は次々と斬り伏せていく。拾ノ型は水の呼吸の技の中では柔軟さに欠けるものの連続攻撃に向いているから、鬼の攻撃が次々飛んでくるこの場面ではまさにうってつけの型。

 

「キャハハハハハ!!面白い!!!体力勝負か!!? 妾の毬が尽きるか、お前の体力が尽きるか、果たしてどちらに軍配が上がるかのう!!?」

 

そうして奴との耐久戦が幕を開けた。当然、負けるつもりは無い。全集中の常中のおかげで体力的にはまだ行ける。毬だって無限に湧き出て来るわけじゃない。ヒノカミ神楽を使う手もあるが、今の時点で奴の毬を繰り出す速度と俺の斬撃を繰り出す速度はほぼ互角。ヒノカミ神楽はまだ連発出来る域まで達していない以上、ここは水の呼吸で繋いでいくしかない。

 

「まだ行けるか!!面白い!!こちらもまだまだ終わらんぞ!!」

 

当たりそうな毬は斬り、周囲や自身に被害が及ばなそうな毬は必要最低限の動きで躱す。

そうして奴との持久戦を始めて幾許か経った頃、バチンと毬を跳ね返すような音が背後から鳴り響いた。

 

「…禰豆子ッ………!?」

 

チラリと背後を見やると、いつの間にか足を再生させていた禰豆子が毬を鬼の方へ蹴り返していた。

 

「なっ……!」

 

禰豆子が蹴り返した毬は、鬼の6本の腕のうち1つを吹き飛ばした。

 

「今だ!」

 

腕が1本無くなった事で鬼の投げてくる毬の数が減った。

 

【ヒノカミ神楽 円舞】

 

禰豆子が編み出してくれたこの機を逃さず、俺は生々流転の勢いのまま、水の呼吸より高い威力を誇るヒノカミ神楽最初の型を用いて鬼の頸に刀を振った。

 

「今の技は……!」

「んな………そんな………!何故じゃ……!何故お前のような鬼がこんな短時間で足を再生させている………!」

 

やがて断末魔と共に、頸を斬られた鬼の体は段々灰に変わり始めた。

 

「しかも……!さっき妾の毬を喰らって足を千切られていた程度の奴が……!威力は同じ筈……!なのに!!何故蹴り返せるようになってる!!何故じゃ!何故じゃああああああああぁぁぁ!!!

「珠代さん……」

「……私が禰豆子さんに投与したのは単なる回復薬です。鬼の体力を底上げする作用は含まれていない…。それに、この回復力は私の薬をもってしても異質……。禰豆子さんは、自分の力だけで急激に強くなっているとしか………。そして、鬼が目の前で朽ちていった今、禰豆子さんの雰囲気は元に戻った……」

 

珠代さんにも分からないことが、今禰豆子の身に起きている。そして鬼を倒した今、どういう訳か禰豆子の雰囲気は以前のものに戻っている。

 

 

____________________

 

 

 

___妾が、負けた。

 

「んな………そんな………!何故じゃ……!何故お前のような鬼がこんな短時間で足を再生させている………!」

 

どう考えてもおかしい。あの花札のような耳飾りを付けた餓鬼が鬼の妹を連れていて、人間に与する鬼は逃れ者の例があるとはいえその時点でおかしいというのに、あの妹の再生力は妾を既に上回っている。人を喰った事ない鬼に、妾が負けるなど____

 

「しかも……!さっき妾の毬を喰らって足を千切られていた程度の奴が……!威力は同じ筈……!なのに!!何故蹴り返せるようになってる!!何故じゃ!何故じゃああああああああぁぁぁ!!!

 

加えて急激に高まった素の鬼としての力。足を無くしてとっくに戦力外化したと思えば目を離した隙に再生してるし、その上先程とは見違える程に強くなっている。何故だ。

 

「うわぁぁ……。体が…消える………止まら…………ない……………」

 

段々と視界が狭まってくる。加えて目の前で崩れ去っていく自身の体。もう、あの頃には戻れない_____

 

 

____短い間だけであったが、朱雨様と共に過ごしたあの頃に。

 

 

 

 

 

 

 

 

妾は田舎の農村に生まれた。決して貧しい訳ではなかったが、妾は生まれた時から集落の嫌われ者だった。

 

「近寄るな化け物女が!」

「気持ち悪っ!こっち来るな化け物!」

「失せろ奇天烈腕お化け!」

 

村の子どもには石を投げつけられ、大人からは罵詈雑言の限りを尽くされた。

 

「お母さん……お父さん……」

 

そして唯一の肉親である親や兄弟も、妾に対して冷たかった。

 

「なんでお前みたいなのが生まれたんだ…!」

「お前のその化け物のような体躯のせいで私たちまで……」

「何故お前には腕が3本生えてるんだ!気持ち悪い!母上や父上に申し訳ないと思わんのか!!」

 

そう、生まれつき妾には3本腕があった。右手の肘から枝分かれするように腕が2本生えており、計3本もある腕を見て、周囲は妾を誰しも人間扱いしなかった。

 

「誰か……遊ぼ………」

「来るな!家に篭ってろ!」

「化け物が家から出てきたぞ!追っ払え!」

「誰が1番石を当てれるか競おうぜ」

 

自宅にも居場所はなく、遊び道具の()を片手に家を出れば、すぐさま妾の外出に気づいた集落の子どもに石を投げられたりで、もはや妾の知る者全てが妾を拒んできた。ただ少し体に変な特徴があると言うだけで、妾は常に孤独だった。

 

「おい、俺らが下手に殺すと警察の世話になるんや。お前、さっさと自分で死んでくれよ。じゃなきゃウチらが困るんだ」

 

そうして自宅に戻るも、そこでは最低限の食事が与えられるだけで扱いは家畜以下。しまいには兄に自ら死ねと言われ、もはや完全に妾の心が折れた。

 

「もう………妾に居場所なんて……………」

 

丑三つ時、周囲が寝静まった頃合いを見て、妾は遊び道具だった毬を片手に家を出た。村は寝静まっており、集落の人間は誰1人として家から出た妾に危害を加えてこない。

 

「……ははっ、石を投げられないで外へ出れたのは初めてじゃ……………」

 

夜の闇で何も見えないというのもあるが、やはり夜中なのが功を奏し、初めて誰からも攻撃されない外出になった。

 

「……でも」

 

そうだ、妾はこれから死にに行く。この世界に妾の居場所などない。せめて、天国に持ってければいいなと遊び道具の毬を手に、妾は集落を後に山へ続く獣道へ向かった。

 

「…ん?そこにいるのは誰だ?」

 

夜中の山道、本来誰彼もいる筈のないその場所で、妾は運命の人物に出会った。

 

「…子どもか」

 

そうして目が合ったのは何処か独特の雰囲気を纏う大人の男性。長い黒髪を後ろで束ねていて、見た目こそ普通の人間みたいだけど、片手には血塗れで齧られた跡のある死体と、口周りに残る血。

 

「……腕が3……?なるほど……先天性の………」

 

やはりこの特徴的な腕が目に入ってしまった。ここでも、妾はこの奇怪な身体が要因で否定されてしまうのか。

 

「……どうした?毬なんか抱えて…?それにこんな夜道………もしかして………逃げて来たのか?」

 

妾はコクリと頷いた。しかしどういうことか、この人は妾の特徴的な腕を見ても尚、距離を置こうとはしてこない。寧ろ近づいてくる。もしかして妾も喰おうとしている。

 

「……あの、妾の腕が………気味悪く………無いの………?」

 

死ぬのは別に怖くないし、この際襲われようが構わない。けれどただ純粋に、死ぬ前に妾の腕を見てどう思ったのかそれだけ気になったから訊ねてみた。

 

「うーん?何とも思わない…。異形の者なら俺の知り合いにもいるし……」

 

初めて、初めて自分を拒絶しない人と会った。

 

「…毬か、ちょっと貸してくれ」

「えぇっ!?はっ、はい………」

 

妾は彼に言われるまま毬を手渡した。

 

「…それっ」

「おぉ………」

 

彼は自分の足で毬を肩から頭、そして背中を伝わせて器用に扱うと、そのまま妾に向けて優しく投げてくれた。

 

「遊んで、くれるの………?」

「あぁ、夜明けまでなら付き合うぜ」

「ほんと…?」

「……本当だ」

 

妾を拒否するどころか、彼は妾と一緒に遊んでくれると言った。

 

「ありがとう………ありがとう…………」

「どうした!?急に泣き出して………」

 

妾は、彼に全てを話した。この人なら、妾を受け入れてくれると思ったからだ。そうして一通り妾の話を聞き終えた彼と妾は、夜明けまで毬で遊び尽くした。

 

____そして夜明け間際、ふと彼は私にこう訊ねてきた。

 

「…それで、君はこれからどうしたい?」

「えっ……」

「元通りの生活……。そんなの真っ平御免だろう? 人を捨てて、人を喰らい、あの御方(・・・・)の役に立つ。そして、役に立った暁には、君は俺と家族になる。どうだ?」

 

そんな良条件の生き方。答えは1つだった。彼の提示した条件に快く承諾し、そうして明るい未来を見据えた次の瞬間、妾の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

「あはは……」

 

やがて目を覚ました妾がいたのは、夜中の集落。妾が散々罵詈雑言や暴行などといった蛮行の数々を受けてきた憎んでも憎んでも仕方ないあの集落。

 

「美味しい……コイツらを喰って……強くなって…………十二鬼月になれば………妾も家族の一員になれる………」

 

ただ、以前とは全く事情が異なる。飛び交う人々の悲鳴や命乞いの数々を他所に、集落の人間は妾の手で皆骸と化した。そして、妾はその屍の山の上で1人高笑いをし、新たに花開いた第2の人生に思いを馳せた。

 

 

 

 

____思い出した。

 

「か……ぞく…………に…………」

 

ここで手柄を上げれば、朱雨様の家族にして貰えたというのに、妾はこんなところで…………………。

 

 

____________________

 

 

……鬼の灰から、やりきれない無念の匂いがする。それも、子どものようなただ遊び足りないという単純明快なものから、俺の推測では到底その真髄に辿り着けない複雑怪奇なものまで、複数の要因が入り交じったかのような匂いだ。

 

「この血が……せめて何か役に立てば………」

 

ヒノカミ神楽の反動で仰向けで倒れ込むしかない俺の隣では、珠代さんが鬼から血を採取していた。

 

「炭治郎…見事だ……」

「あぁ……蓮華さん…………すいません…………俺の戦い…………見てたんですか…………」

「いいや……丁度私も片付いた所だ。ただ、目の前を見れば心配も杞憂さ………」

 

そう言う蓮華さんの目の前には、灰に変わりゆく鬼の姿。

 

「さて、炭治郎……」

「は、はい………」

「あぁ、まだ立たなくていいぞ。例の(・・)ヒノカミ神楽を使ったんだろう?寝っ転がったままでいい」

 

そう言うと蓮華さんは俺の真横へ腰を下ろした。

 

「……ただ、鬼との戦闘で無防備になるのは危険だ。私みたいな半人半鬼と違って人の手足は再生しない。もしこの隙にまた新手が来た時、君の命は無い」

「はひ…………」

 

まるで失敗からの教訓なのか、蓮華さんの言葉にはその静けさとは裏腹に重みがあった。

 

「…さて、本題はここからだ。……実は私自身、君の家に伝わるというヒノカミ神楽の事が気になってな、独自に調査を進めていたら…………まあ、ここは当時の事を知る者から直接聞いた方がいいだろう」

「……?」

 

そうして蓮華さんと入れ替わりで俺の隣にやって来たのは、他でもない珠代さんであった。

 

「炭治郎さん、今の技は何処で…?」

 

そうして俺を見下ろす珠代さんだが、その顔にはどことなく希望に満ち溢れているような色が見えたのだった。





ー大正コソコソ噂話ー

この小説では蓮華の存在で鬼殺隊と珠代の連携が既に密になってます。愈史郎の血鬼術も、産屋敷邸を外部から包み隠すのに利用されていたりと、朱雨の索敵に引っかからないよう色々と対策がなされてます。
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