剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
ガチ路線じゃない筈←大嘘
この辺からタイトル詐欺になってくかもしれないw
円周率で猫好きさん、高評価9ありがとうございます。
(…雪が減ってきたな)
湯沢の町で過ごすこと早1ヶ月と半月。春一番が吹き荒れ、冬も近いうちに終わりを告げることを予感させた。
「……そろそろ……か…」
ダラダラと怠惰を貪って過ごすわけにもいかない。
いつ
…とはいえ、凡そやることなんてあの時と同じくほぼないに等しいのだが。
冬の終わりから春といえば、引越しの季節。今は拠点を移すにも丁度いい時期なんだ。加えて拠点に保存していた
それに、鬼狩りの柱と対峙することにはなったものの、あの日の戦いは決して無駄な出来事ではなかった。
俺はあの日、普段なら言わないし何なら思いもしないようなことをポンポン連発し、我に返れたのが炎柱だった
そこでようやく気付いた。俺があそこまで豹変した理由。
___アイツは、稀血だ。
奴の血肉を食べた時の異常なまでの昂りと漲る鬼の力。そして口の中に広がる高貴な味。牛肉でいうところの、最高級の神戸牛や松坂牛を口にしたようなあの感動。あの時、俺の中で全てが繋がって、最終的に奴は稀血持ちだという結論にまで至った。
そして、鬼にとって究極のご馳走である稀血の力が、俺をあのように変えたんだと理解した。
「…さて」
拠点移動の準備は完了。尤も、やることなんてほぼ無かったけどな。精々人骨を土の中に埋めてやることぐらい。
「…んじゃ、行くか」
今回もまた旅人の服装に扮して、
幾つかの巨大な山脈を抜けて町に出てみたところ、そこもまさかの大雪だった。空には遥か西の山の向こうから続く分厚い雪雲、町も屋根から軒や道にかけて一面の積もった雪で覆われている。
どうやら、関東地方も1年に1度あるかないかの大雪に見舞われてるらしい。けどこれは幸運。太陽が雲に隠れてさえいれば鬼は活動出来る。
なんなら、このペースさえキープして歩けば、雪が止むであろう時間帯には、余裕で川越ぐらいまでなら行ける。
そうだ、次は川越に行こう。今思い出したけど、川越は確か後の世では小江戸なんて言われてるし、人口も程よく多いはず。となれば、きっといい食場としても潜伏先としても機能する筈だ。
(そうと決まれば、人が起き始める前に早いところ移動しよう)
俺は人っ子1人いない真っ暗な雪降る道を、大きな足音をたててひたすらに駆け抜けていくのであった。
____そして、この川越という町で、俺は自らの運命の歯車を狂わせていく。
「…着いた」
ひたすら南へ向けて走り続け、目的地である川越の町に到着したのは、雲の上の太陽が真南を陣取っていた頃だった。
(思ったより早くついた)
鬼となってからは、黒死牟さんと遭遇した時のような異常な方向音痴もなくなってきた。例え道を間違えても正しい方向へまた走り直せばいいし、鬼の視力を活かして西と北の端に連なる山脈を見れば、ここが関東平野のどこ辺りなのかも自ずと分かる。
「…しかし」
不思議と、雪が舞っているこの川越という町が、どことなく懐かしい雰囲気を感じさせる。
というか、何か見覚えのあるような…前世の巡り合わせの縁のような、遠いのに近くにあったような、この町からはそんな不思議な雰囲気がした。
(…不思議な感覚だ)
ザッザッと雪を踏む音が人混みに掻き消され、俺の真横を次々と人が通り抜けていく。
その度に、この旅人に扮した服装にも関わらず、なぜだか余所者ではなくこの町の人間の一部のような、そんな気がしてたまらなかった。
(…俺は、この町に来たことがある?)
そして、頭の中で俺の立てた予測が、正解だったことを俺は知ることになる。
「…アンタ、もしかして朱雨か?」
「!?」
俺の背後から、久しく呼ばれることのなかった俺の名前。
「…誰だ?」
「俺だ!一緒に剣を交えたこともあるだろう?」
「…その顔……!」
忘れもしない。
1年半前、かつて同じ剣術道場で剣を交えた同門の門下生の顔がそこにあった。
その時、俺の中でふっと心のモヤモヤがなくなり、殆どが腑に落ちた。
…ってことは、俺が今日足を運んできたこの町、川越は、俺が生まれ育った町ということか?
「ずっと何処にいってたんだ!この2年近くも行方を眩ませて!」
「わわわわわ!!分かったから!!落ち着いて!!落ち着いてください!!!」
胸倉掴まれてグラグラ前後に振られる。仮にも道場通いだからか、ソイツは俺を振り回せる中々の筋力だった。
「なんで今更戻ってきた!朱雨がいない間に道場がとんでもない事になってんだよ!」
「えっ?」
(俺の生まれ育った…道場が?とんでもない事に?)
彼に腕を掴まれて走らされながらも、俺はその言葉がずっと頭の中で引っかかっていた。
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彼に手を引かれること数分、雪が酷くなってきたからか、辿り着いた場所には、俺たち以外誰もいなかった。
「…これは」
「…見ての通りだよ」
目の前にあったのは、雪に覆い尽くされた墓石。その前に置かれていた花束。そして人が入ってるであろう盛土に被さる雪。
「…朱雨、お前の両親の名前だ」
墓石の雪を掻き分ければ、そこには確かに俺の両親の名前が刻まれていた。
「たった2年で…?」
行方を眩ませざるを得ず、鬼狩りから逃れるために故郷を捨て、たった2年でかつての身の回りにこんなにも変化があるとは思わなかった。
「……お前がいなくなって、割とすぐのことだ」
淡々と、彼は俺が失踪してから今に至るまでを語ってくれた。
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「よし…今日はここまで!」
1日の稽古を終え、深い一礼と共にこの場は解散。各々が自分の荷物を纏め、俺も周囲の人間と同じように、日が沈む前に家に戻ることを念頭に帰り支度を始めた。
(…剛さん)
皆が次々と帰路につく中で、剛さんだけは一方に帰り支度を始めない。それどころか、周りとは裏腹に懐から木刀を取り出して体勢を整えた。
「どりゃァァァ!!」
何度刀を振っていたのか、どれほど時間が経ったのか、もう途中から俺も考えるのをやめた。
門下生が皆帰宅したというのに剛さんはまるで何かに取り憑かれたようにずっと刀を振り続けている。俺も、そんな剛さんから目を離せず、未だ家に帰る気になれなかった。
____一人息子の朱雨がいなくなって、暑さの和らぐ季節へ移り変わっても、剛さんは毎日ずっとこんな感じで、寝る時と飯を食う時以外は宛もなく刀を無心で振り続けているんだ。
「でやぁぁあッ!!!」
齢40に迫る人間とは思えない、未だに劣化を感じさせることの無い豪傑の姿がそこにあった。
「俺に目もくれずに…」
刀を振り続けてる剛さんには、俺の姿はまるで見えてないようだった。実際、俺がここにいることに気付いたのは剛さんが帰り支度を始めた日没後の事だった。
剛さんはこんな時間まで自分の剣を見てた俺の姿を見るなり驚きを隠せないみたいだったけど、俺からしてみればこんな夜まで延々と刀を振り続けられる剛さんの方が驚きだ。
ちなみに剛さんは、それからも剣の時は厳しく、普段は温厚な方であった。それだけは今日に至るまで、一切変わらなかった。
例え、息子がいなくなっても、だ。
でも、剛さんは何か焦ってるような、時間があまり無いような、纏ってるのはそんな先の短い人間の雰囲気だった。
そんな刀に燃える剛さんを、季節が2度変わる間見守っていたら、やはりというか、俺はとんでもない事実を本人の口から知らされた。
「…本当なんですか?」
「あぁ、私もそう長くないからな…」
剛さんは
「…そんなことが……分かるんですか?」
「あぁ、自分のことは自分がよく知っている」
剛さんはもう長くは生きられないらしい。なんでも、朱雨が道場に通い始めた頃と同時期から、自身の病に気づいたそうだ。あんな幼い頃から朱雨を道場で厳しく鍛えていたのは、そんな理由があったのか。
一方病の方は、一向に良くなる気配がなく、息子である朱雨が行方不明になったのを切欠に、体の蝕みは踏みとどまるどころか悪化する一方になってしまったそうだ。
「…もう一度、アイツの顔を見たいなぁ」
「剛さん……」
…俺はその日、初めて、剛さんの涙を見たんだ。
剛さんは病の末期状態を自覚した今も、息子の生存を信じてやまない。朱雨はもう、あの日夜盗か何かに襲われてしまったか、それとも武士同士の斬り合いに巻き込まれたかで、帰らぬ人となったと考えるのが普通だとは思うのだが、剛さんは今も尚それを否定し続けている。
(…俺も、信じてみようかな)
そんなひたむきに息子の生存を祈る剛さんを見てるうちに、いつしか俺も、剛さんの言う通り、朱雨はどこかで生きていると信じるようにした。
俺はその事を剛さんに言ってみた。
「そうか…ありがとう……」
剛さんはそう呟き、少し口元を弛めた。俺が、あの人が少しでも笑っているのを見るのは、その日が最後となった。
___それからすぐに、剛さんは体調を崩して床に伏せてしまい、僅か数十日後、剛さんは息子と再会することなく、静かに息を引き取ったのだ。
段々主人公の理性飛ばしていく描写が難しい。
シリアス「来ていい?」
わし「うん、そろそろだね」
ー江戸コソコソ噂話ー
前話で朱雨が殺した炎柱は煉獄杏寿郎の御先祖様。妻子を置いてお先に旅立ちました。その後、新しい炎柱は煉獄家の分家の人間から就任しました。