吾輩は呂布である 作:リバーシブル
はじまりは、何だったのか?
運命の乾杯は、いつ鳴りだしたのか?
学生特有の悪ノリから
その答えをぶつけあげるのは、
石崎にとって不可能にちかい……
だが、たしかにCクラスの幹部連中は、
おおくの悪ノリを愛し、
おおくの歓声をあげ……
石崎はボコられ、
龍園が炭酸水を滴らせて……
それでも、泥酔したかのように乾杯を掲げていた
俺の部屋で、絶叫を響かせながら……
──────────
水も滴るいい男、かどうかは定かではないが、現在この部屋には、長い髪からポタポタと水滴を滴らせている男が約一名存在した。
正確には水ではなく、ただの炭酸水なのだが──そんな些細な成分の違いを気にする者はこの空間には1ミリも残されていない。
夏場にはさぞかし蒸れるであろう自慢のロン毛から、シュワシュワと音を立てて炭酸を滴らせているその男こそ、恐怖でCクラスを支配する絶対的な『王』であった。
もっとも、今この瞬間だけは、その威厳も炭酸の泡とともに虚しく弾け飛んでいたが。
いったいなにが、どうやってこうなってしまったのか。
室内を、息も詰まるような重い沈黙が包み込んでいる。
原因は至ってシンプルだ。極度のプレッシャーに耐えきれず限界を迎えた石崎の手元が狂い、あろうことか『自らのグラス』と『龍園の顔面』で元気よく乾杯をキメてしまったからである。
これから石崎クンの盛大な葬儀が執り行われるかのような、地獄の空気が流れていた。
それもそのはずだ。石崎の顔色は完全に死人のそれであり、対照的に龍園の顔は茹でダコのように赤黒く染まり上がっている。
Cクラス初の記念すべき合同幹部会は、唐突に葬儀場へと早変わりしてしまったらしい。
「……諸君! 石崎クンの勇気ある凶行……いや、行動に乾杯ッ!」
なんとか場を和ませようと、俺は努めて明るい声で高らかに宣言した。
外国の葬式とやらは意外と陽気なテンションで行われると聞いたことがある。ならば、陽気に振る舞えばワンチャン生き返るかもしれない。
「いぇーい」と、ややヤケクソ気味に俺とアルベルトが、石崎の持つグラスへ自らのグラスをぶつけにいく。
だが、次の瞬間──石崎クンの『顔面』と、俺たちの『グラス』が乾杯していた。
ブチ切れた龍園が、無言のまま石崎の後頭部を鷲掴みにし、そのまま俺たちのグラスめがけて猛スピードで叩き込んできたのだ。
やれやれ、どいつもこいつも今日はよく手元が滑るらしい。
それとも、最近の若者の間では顔面で乾杯するのがトレンドなのだろうか。
龍園の怒りは、グラスへの顔面スプラッシュだけでは収まらなかった。
そのまま石崎クンは物理的なサンドバッグ……いや、生きた打楽器へと変貌を遂げた。
頭で、腹で、顎で、肩で、肘で。
ボコッ、ドカッという鈍い打撃音を背景に、俺たちは無慈悲に唱和する。
「「「「「かんぱぁ───い!!!!!」」」」」
こうして第一回Cクラス幹部会は、この日一番の最高潮の盛り上がりを見せ、無事にお開きと相成ったのだった。
────なんていう平和なオチになるはずがなかった。
「まあ、アレは石崎クンが100パー悪いよね」
「いくらなんでも、いきなり顔面にグラスをぶつけるのは流石に擁護できません……」
「That's right」(その通りだ)
「いや、あれワザとじゃないの? あいつなりの決死の意思表示でしょ。『俺が本当の王だ』っていう。だとしたら、石崎のことちょっと見直したわ。……ほんの1ミリくらいだけど」
気絶している(と思われていた)男を前に、各人が思い思いの好き勝手な感想を述べていく。
「……ごほっ、ご、なわけ、ある、か……」
「お、生きてた。おかえり勇者よ。三途の川からの生還祝いに、もう一回乾杯しようか?」
「勘弁……して、ください……」
ちなみに、石崎の全身を使って盛大に鬱憤を晴らした龍園は、そのまま無言で俺の部屋の風呂場へと消えていった。
流石にベタベタする炭酸水を浴びたままでは、王様といえど我慢できなかったのだろう。全身とまではいかずとも、せめてあの鬱陶しいロン毛ぐらいはしっかり洗い流してきてほしいものだ。
「腹も減ったし、料理も冷えるから食べちゃおうぜ」
「そうですね。龍園くんもすぐに戻ってくるでしょうから」
「あんたら、本当にいい度胸してるわ……」
「Seriously crazy」(まじ狂ってるわ)
洗面所の様子をチラチラと窺っていた伊吹とアルベルトだったが、俺とひよりが一切の躊躇なくピザに手を伸ばすのを見て、ついに観念したように食事に加わり始めた。
ちなみに、部屋の隅のカーペットには石崎クンが力尽きたように突っ伏しているが、誰も気にする様子はない。
それからしばらく、ピザのチーズを伸ばしながら、俺たちはテレビ番組や日常生活などの他愛のない話題で盛り上がった。
石崎クンは、相変わらず倒れたままだ。
「へー、アルベルトって料理してるんだ。意外ねー」
「料理ならリョウくんもしていますよ。一生懸命やっているので、最近はメキメキと上手くなってます」
「ソレを言ったら、ひよりちゃんには全く敵わいよー。俺なんてまだまだぜんぜん」
「ふふ、師匠ですから。簡単に抜かれたら立つ瀬がありません」
「あー、はいはい。あんたらのノロケ話はけっこうよ」
「きゃっ、ノロケだなんて。照れますね」
「伊吹サンは恥ずかしがり屋だねー」
「もう、ほんと、どんな神経してんのよ」
「Love and Peace」(ラブアンドピース!)
和気あいあいとCクラスの幹部と交友を深めていく。
普段はひよりとしか会話しないので新鮮ではある。
もちろん、彼女との会話に飽きてなどいなし、話さずとも隣りにいるだけで常に幸福感が得られるので、どちらが上かなどは比べるまでもない。
「おまえらの図太さを見誤っていたぜ。俺の想像以上だな」
おっと、ようやく王の帰還だ。
バスルームから出てきた龍園は、ざっと髪を洗い流してきたらしく、さっぱりとした表情を浮かべている。勝手に人のタオルを使って濡れた髪を拭いているが……まあ、相手は王様だから不問としてやろう。
「遅かったな、カケルくん。料理、先食べてるよ」
無断使用のささやかな意趣返しとして、あえて下の名前で呼んでみた。
言葉を言い終わるかどうかの刹那。
視界の端で拳が俺の顔面へと真っ直ぐに突き出されていた。
——パシィンッ!
肉と肉が激しく弾ける音が、室内に鋭く響き渡る。
俺は視線をひよりに向けたまま、空いた片手でその拳を無造作に受け止めていた。
「俺とも乾杯したかったんだな」
そのまま、俺の手の中でピタリと止まった龍園の拳の上に、熱々のてりやきピザを一欠片、そっと乗せてやる。
室内を満たしていた空気が一瞬だけ、刃物のようにヒヤリとしたものへと変わったが、すぐさまその殺気は霧消した。
俺の反応速度と力量差を見て、ここで暴れるのは無駄だと悟ったらしい。王は舌打ちをして玉座へとドカッと腰を下ろした。
「ちッ、おい石崎、いつまで寝てんだ。全部食われちまうぞ」
龍園は忌々しげに拳の上のピザを摘み、口へと押し込んでいく。
アルベルトが寝たままの石崎の顔をぺちぺちと叩いて起こした。
「う、龍園さん、すんませんでした……」
「もういい、さっさと食え。アルベルト飲み物を寄越せ」
龍園が炭酸水の入った瓶を受け取り、グラスに注がず直接口を付けて喉を鳴らし始めた。
石崎には改めてグラスを渡し、取りやすい位置に食べ物の位置を移動させる。
「リョウくん、この味だけは簡単に再現できないでしょうね」
「あー、ピザって作るのが大変そうだ。こういうジャンクなやつは、なんていうか売り物だからこその味がするし」
「……ちょっとわかる、それ。ハンバーガーなんかもそうじゃない?」
「どれも美味しいのですが、ハイカロリーなので。私達にはちょっとネックですね。伊吹さんはスタイルが良いですけど、なにかされているんですか?」
「昔は格闘技やってたけど、今は軽いランニングくらいよ。てかスタイルならあんたのほうが……」
「?」
伊吹が自分とひよりの体の一部を比べたらしく、声がか細いものへと変化してく。
恵まれるものと、貧相なものに世界は別れている。それがこの世の摂理なのだ。
強く生きよ、伊吹。
どうにか復帰した石崎がなんとか食事をしている。
龍園は自分用の皿に一度に取り分け、それを時折摘んでいた。
ポテトを指で弾き、アルベルトの口に入れる遊びを開発した。
ひよりちゃんに怒られた。反省。
テーブルの上にあった食べ物が一通りなくなった頃を見計らって、王が声をあげる。
「一先ず、食うのをやめろ。これから、この会の本題にはいる」
「楽しいお食事会だけではなかったのですね」
「まさか、まだ本題があったなんて……」
「嘘くせえ、芝居はやめろ。臭くてみてられねえよ」
「うぃ」
「まずはこれからのクラス方針だ。最低限Cクラスを纏めはしたが、他のクラスとやり合うには情報が足りねえ」
「まずは各クラスの主要メンバーってこと? うちでいうリーダーや幹部を調べるわけ?」
「他のクラスの詳しい情報も必要だが、一番に手に入れるべきはこのゲームのルール情報だ」
「げーむ?」
「るーる?」
俺と伊吹には話が高度すぎて、理解できずに脳内がエラーを起こしていた。
「なるほど、つまり龍園くんはポイントについての詳細を知りたいのですね」
発言者である龍園以外に理解を示したのはひよりだけだった。
「理解したのが一人だけな点を除けば、素直に喜べるんだがな。椎名もいったようにこのゲームは基本的な情報が開示されていない。根幹部分であるクラスポイントについてすらな」
「現状では、どうやればポイントが増えるのか、また何をしたら減るのかさえ、私達は把握していません。クラス間でポイントを競い合うならば必須と言える情報でしょう」
なるほど、そこまで説明されてようやく俺たちは内容を理解した。
「ですが、たしか坂上の野郎は当たり前の行動をしておけばポイントは減らないと」
しばらくぶりに石崎の声を聞く気がする。
遠い昔に担任が言った台詞を覚えてるとか、こいつ変態かよ。
「石崎、その
「え、それは……」
「そうだ、答えられないだろ。学生として当たり前の行動? そんな曖昧なモノがルールであるはずがない。明確な線引があり、それに
学生としての当たり前の行動をしておけば、ポイントは減らない。
改めて問われれば、学生として、当たり前、とはいったいなにを示すのだろう。
すぐに思いつく減点項目は遅刻、欠席、授業中の私語などだ。
サボりとしか認識されず、学生として当たり前だと胸を張るやつはいない。まあ、サボれるのも学生だけだと思っているやつはいるかもしれんが。
仮に、ケンカはどうだろうか。
もちろんケンカも良いものではない。
だが、学生同士の揉め事なんぞ、学校にはありふれたものだ。学校生活で同級生と衝突することなど珍しくもない。
学生として学友と殴り合いのケンカ。このケンカもある種、学校生活での当たり前といえるはずだ。
それら全てを許すのか、はたまた許さないのか。
同じ様なものとしてイジメも挙げられるが、喧嘩と同じとはいえない。
イジメも学生にはありがちだが、流石にそれを許容することなど教育機関として認めることはない。現実では社会に蔓延しているとはいえ、綺麗事とはいえ建前上、絶対にありえないと断言できる。
俺たちはこの学校のルールを全くといっていいほど、把握してないことに気づいた。
「ようやく、俺が何を言いてぇのかわかったようだな。初めにやることは減額される条件の把握、およびセーフラインの見極めだ」
「セーフラインですか?」
石崎が即座に説明を求めた。
龍園はその質問を予測していたらしく、咎めることもなく説明を続ける。
「俺はクラスを纏める際、何度もクラスの連中とやりあっている。石崎、アルベルトそうだろ?」
「はい」
「yes,Boss」
「だが、何度もクラスの連中とやりあったにしては、ポイントの減りが少ねえ。この現象について知りたい。例えば、ケンカは同じクラスの生徒なら問題ないのか。教師へ報告をして、初めて問題として認識されるのか。なら他のクラスのやつらとはどうなのか。そんなところだ」
伊吹が龍園の聞き捨てならない台詞に噛み付く。
「ちょっと、Cクラスの人間が他のクラスの生徒を締め上げたら、間違いなくCクラスのポイントが減額されるでしょ」
「伊吹、おまえアホだろ。なんで、うちの兵隊使ってそんなことやんだよ。試すならCクラスの生徒へ暴力を振るわれた場合だ。俺たちは被害者サマ、上手く行けば他クラスの加害者を合法的に処罰させることができる」
「なるほど……悪どいわね、あんた」
「そんなもんとっくに知ってたはずだろ、おまえらは」
「このゲームをクリアするためには、情報が必要なんでしょ?
俺が同意の意見を述べておく。
龍園が静かに話を聞いていたひよりへと目を向けた。
「椎名、最初に喋ってから黙りこくったままだが、俺の方針に不服か?」
「いいえ、学校のルールを暴くという狙いは理解できます。リーダーとして、クラスの方針をその様に定めたのにも不満はありません。ただ──」
「ただ?」
「ただ、これまでの龍園くんの行動と、今、幹部の方々に一つ一つ説明されている状況が意外だっただけです」
「……それほど驚くことでもないだろ。仮にもクラスの中心となる幹部に今後を話すことは」
「その行為だけ取り上げれば違和感はありません。けれど、私は一月ほどクラスでの龍園くんを見ています。それに幹部とおっしゃいますが、龍園くんが必要としていたのは自分の指示通りに動く人ではなかったのですか? 言い方は悪いですが、命令に忠実な駒を、あなたは求めていると想像していました」
「クク、佐伯と常日頃、居るだけあって肝が座ってやがる」
「ふふ、当然ですよ」
「おいてけぼりでやんす……」
賢い者同士の会話は、幹部連中の大半を置き去りにしていた。
そんなアホどもに気を使うこともなく、龍園は話を進めていく。
「椎名の予想もあながち外れってわけではないが、俺から言えるのはこの状況が全てだと言っておく」
「……そうですか。わかりました」
よかった。ひよりにはわかったらしい。俺にはちんぷんかんぷんだったが。
6人中の2人も理解したのなら大丈夫だろ。
そのうちの一人が彼女なのだから、問題があるはずがない。
「方針は今言ったとおりだ。ちょっとした実験と学校規則の情報を収集する」
一同が了解の態度を取っているなか、約一名が不満そうにしている。
「伊吹、俺のやり方に不満か」
「どうせ、あんたのことだし汚いやり口なんでしょ」
「くく、俺のことがよくわかってるじゃねえか。だが、よかったな。今回メインに動くのはクラスの連中だ。伊吹、おまえには他と別の仕事がある」
「どうだか……」
「幹部に嘘はつかねえよ。信じるかどうかは勝手だがな。よし、クラス方針の次は、各クラスの状況を知らせておく。石崎、タブレットを寄越せ」
「はいっ」
龍園がタブレットを受け取り、再びプロジェクターが映像を映し出す。
「一年Aクラス、クラスポイント940、現状はダントツ一位。流石に優秀と言われるだけあって、ほぼクラスポイントが減っていない。下位クラスより落ち着いたやつが多い印象だ」
「あんたらと比べるなら、そこらの不良だって優等生よ」
「それは言えてる」
伊吹の尤もな意見に本音がポロリ。
「ちっ、余計な口をはさむな。調べさせたところ、Aクラスを仕切ってるのは二人。
一人目は、
「コイツはッ!」
映し出された人物を見て、即座に俺が反応するッ!
「知ってるんですかッ、佐伯さん!」
「まったく知らん。こいつは出家でもしてるの?」
「……佐伯の残念なおつむにも印象が残るだろう人間だ。詳しくはしらねえが、先天性の病気らしい。別に坊主なわけでも、実家が住職やってるわけでもねえよ」
なるほど、つまりは
若い身で大変だろうに。
なぜ、その道を選んだかのを聞いてみたくなる。
スクリーンには特徴的なツルリとした頭部が写っていた。
俺が坊主と勘違いしたのも不思議ではない。
「生徒会入りを希望したことからも理解るように、お硬くてクソ真面目な性格だ。Aクラスはこの葛城派ともう一派で今、クラスの権力争いをしている」
「へー、仲良くお手々を繋ぐことはできなかったのか」
「無理だろうな。今映した二人目のリーダーである
名称のわからない帽子を頭の上に載せた小柄な女子生徒を眺める。
杖をついており、足が不自由なのだろうか。
「Aクラスはしばらくの間、クラス内での権力争いが起こなわれるということですか」
「というより、もう既に起きているだろうな。明確にどちらが上か、白黒つけるまでやりあうつもりだろ」
「あの龍園さん、いくらクラスでの仲が悪くても、流石に他のクラスから攻撃されたら、その、協力しあうと思うんですが」
「昨日の敵は今日の友ってか? そんなもんを信じてるお人好しばっかなら、世界はとっくに平和になってんだよ。つい先日までバチバチやりあってた人間をすぐに信用できるわけがねえ」
いつの世も人は裏切るものらしい。
なんと愚かな種族なのか。
とてもじゃないが俺が言えた台詞ではない。
「悲しい現実だね。この手に持っている杖はなんなの?」
「こいつも先天性の疾患で杖が手放せねえらしい。Aクラスの条件は病気持ちなのかもな」
「……ちょー不謹慎なやつ」
「Aクラスの現状はこんなもんだ。現状、手駒が多いのは坂柳みてえだが、そこは葛城のお手並み拝見といったところだな。葛城、坂柳、どちらに軍配があがるにせよ、俺達がAクラスにあがるためには避けては通れねえ」
「ま、そうよね。クラス昇格のためには、上のクラスを引きずり下ろすしか方法はないわけだし」
「みんなが仲良くするのが一番なんですけどね」
「まったくだよ。争わずに済む方法がアレばいいのにね」
「Take it easy!」(気楽に行こうぜ?)
「トップのAクラスの事情はこんなとこだ。次、一年Bクラス、クラスポイント650、おまえらも知っての通り目下のところBクラスは、Cクラスが最初に片付けるべき相手だ。俺たちとのクラスポイント差は160ポイント。十分に射程圏内だ」
「簡単に言うけど、どうやってポイントを増やすのかもわかってないじゃない」
「はっ、このままお行儀の良い学校生活なんざ続くはずがねえよ。話を続けるが、Bクラスは先のAクラスと違ってクラスのリーダーは決まり、権力争いはやっていない。その点は俺たちに似ているのかもな」
「あんたみたいなのが、クラスの王に就任したわけ?」
「いいや、残念ながら同じなのはクラスの権力を握っているところだけだ」
スクリーンに快活そうな顔の女子学生が写りだされる。
腰に届くほどのストロベリーブロンド色の髪が特徴的だ。
伊吹と違って写真上からでも、胸が豊かなことが一目でわかる。
「名前は
「悪かったわね。どうせあたしには社交性なんてないわよ」
「人付き合いは昔から苦手で……」
「ひよりも負けてないけどね。むしろ勝っている。な、石崎」
「う!? はいぃ! もちろんですッ!」
「石崎クンは理解っているね」
「リョウくん……嬉しいです」
「お前ら石崎で遊ぶのもそこまでにしろ。Bクラスは権力争いを行っていなければ、俺のように恐怖でクラスを支配しているわけでもない」
「あくまでそれは表面だけでしょ? 裏のところはどうなのか、わかんないじゃない」
無駄に一之瀬と比べられた伊吹の声は
「伊吹、それはねえと思うぞ。4月の中頃から見てたけど今と変わらずに、リーダーである一之瀬を中心に仲良くしてたからな」
「石崎の言う通り、Bクラスは既に集団として纏まった。それも恐怖支配でなく、自然と団結した形での統一だ。一之瀬が頭として優秀なのか、他の連中にマトモなのがいなかったか。どちらかだ」
どこまで信じて良いのかは不明だが、石崎の目からみて不審な点はみつからなかったらしい。
「クラスの仲が良いのは羨ましいです」
「ほんとだよね。うちの王様とは違うね」
「佐伯おまえは黙ってろ。一年Cクラス、クラスポイント490、上から3つ目、下から二番目の落ちこぼれども。それが学校から俺たちへの評価だ」
「王サマの写真は映さなくていいのか?」
龍園がCクラスの主要人物であるにも関わらず、プロジェクターはなにも投影しない。
クラスのトップが自分の写真を映すことを拒否っていた。
「黙ってろと言ったはずだ、佐伯。クラスの方針もさっき言った。最後は一年Dクラス、クラスポイントは0。ポイントすべてを一月で吐き出し、学年を震撼させた不良品どもだ」
Dクラスの説明に移ったにもかかわらず、スクリーンは真っ白のまま、誰の写真も写っていない。
プロジェクターの不備か?
「ねえ、ちょっとDクラスのリーダーが写ってないんだけど?」
「機械の故障か?」
「機械は壊れてねえよ。映すべき
──────────────
高度育成高等学校学生データベース
氏 名 佐伯了 さえき りょう
クラス 1年C組
部活動 弓道部
誕生日 9月10日
──評価──
学 力 D
知 性 C
判断力 C
身体能力 A+
協調性 E-
──面接官からのコメント──
公式な大会への出場歴や、部活動への所属記録等は一切確認されていない。しかしながら、過去に複数の武道道場などに通っていた経歴を持ち、卓越した身体能力を有している。そのポテンシャルは高く評価されており、高校進学時には複数の学校からスポーツ推薦の打診を受けていた事実が確認されている。
反面、生活態度および人格面には数多くの懸念事項が存在する。中学時代は遅刻・欠席の常習犯であり、補導歴や犯罪歴こそないものの、日常的に夜の繁華街を徘徊しているという報告もある。
──担任メモ──
現状において目立った規律違反や問題行動は確認されていない。授業・生活態度も概ね良好であり、平穏に学校生活を送っている。
特筆すべき点として、同クラスの特定の女子生徒と日常的に行動を共にするなど、非常に親密な交友関係を築いている様子が窺える。この良好な変化を契機とし、今後は他の生徒たちとも適度なコミュニケーションを図り、クラス内での協調性を養っていくことを期待したい。