吾輩は呂布である   作:リバーシブル

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うーむ?



「余談」

「正直さー驚いてるぜー。連中が()()()()()やるとは。実際、おまえ予想してた?」

 

 パチ、と。

 硬質な音が、静かな空間に小気味よく響き渡る。

 滑るような指先の動きには、一切の躊躇いがない。

 

「質問に答えてやると、率直に言えば俺も想定外だったな」

 

 パチン。

 俺の言葉に合わせて、対面に座る男が冷たい笑みを浮かべながら指先を弾く。

 

「う、ていうか、おまえも信じてなかったのか。いいのかよ、それで。クラスのりーだーなんだろ?」

 

 パチリ

 今度は俺の番だ。じりじりと追い詰められるような感覚を振り払うように、強気に打ち込む。

 

「クク、どこぞのクラスみてえにお手々を繋いで、仲良しこよしでやれって? お前が手本を見せてやるっていうのなら、一考してやってもいいぜ」

 

 パチン。

 鋭い一撃。逃げ道を塞がれるような、息苦しいプレッシャーが喉元に迫る。

 

「うぐっ。知らねえのか? 下々の仕事は上のヤることに文句を付けることだ」

 

 パチン! 

 負けじと打ち返すが、男の余裕に満ちた表情は崩れない。

 

「それは悪手だな……。そもそも王の仕事は平民どもの顔色を伺うことじゃねえ。指導者に必要なのは結果だ。利益と結果を出すのなら、愚民どもはサルにだって喜んで頭を下げるぜ」

 

 パッチン。

 場を完全に支配するような、重圧を伴う音が響く。

 

「くそ……。お前の言っていることは正しい。クラスの連中も失態が続けば、いずれは従わなくなる」

 

 パチッン! 

 起死回生を狙って踏み込む。だが——。

 

 パチンィ! 

 トドメの一撃が、無慈悲に振り下ろされた。

 

「っああ! クソッ!」

 

 高校に入学して初めての夏を迎えていた。梅雨も上がり、本格的な夏の到来で、これからは容赦なく気温が上がっていく季節だ。

 7月某日、時刻は五時をまわった放課後である。

 ここは中庭にある一角。風当たりのいい場所で、この時間帯は校舎が日陰となり、通り抜ける爽やかな風と共にうだるような暑さを忘れさせる快適な空間となる。人通りも少なく、備え付けのテーブル及びベンチと、心地よい静けさだけが存在する。

 ひよりと、そこそこの頻度でランチや読書の時間をこの場で過ごしている。たまに本の感想や勉強を見てもらうこともあり、俺にとっては紛れもないお気に入りの聖域と呼べる場所だ。

 

「詰んだな。賢い頭を隠し持ってなくて、実に残念だ。お前が本当にバカだと認めてやる」

 

 そんな神聖な場所で、なぜか俺は将棋を指していた。

 違う。問題なのは将棋を指していることではなく、その相手だ。特段、見たくもない男——龍園翔と(ツラ)を合わせていた。

 木製の盤面の上で、俺の玉将は完全に逃げ場を失っている。

 

「くそったれ。お勉強が出来るのなら隠すかよ、おまえこそアホだろ」

 

 忌々しい将棋盤から目を逸らし、悪態をつく。

 勉強が出来るのなら、テストは彼女に良いところを見せる絶好の機会だ。そんな恋愛の機微も判らない龍園こそ、やはりアホだ。

 

「いいや、お前が万が一に賢かった場合、椎名に勉強を教えてもらう名目の為だけに点数を下げている可能性がある」

 

 蛇のようにねっとりとした視線が、俺の内心を射抜く。

 

「……そんな、ことは、ナイよ」

 

 声が裏返った。自信を持って断言する。……したんだっ! 

 だが、顔に冷や汗が浮かぶのを止められない。俺の余裕あふれる? 態度を、龍園が鼻で笑って切り捨てる。

 

「ほら見ろ、いつものウザイ態度はどこにいった」

 

 普段おちょくりまくっている龍園が、ここぞとばかりに逆襲してくる。なんだこいつ、恩知らずかよ。

 いつも愉快なトークを提供してやっているのだから、ありがとうぐらい言ってみろ。たまには悪態以外の言葉を吐いたらどうなんだ。

 まあ、もし龍園がそんなことを言い出そうものなら、即座に脳の異常を疑って病院に連れて行かねばならないが。

 

「……チッ。んなことよりも、なんで今回、俺を使わなかったんだ?」

 

 形勢が不利になった話題を無理やり捻じ曲げるように、俺は須藤の一件を蒸し返した。

 

「あの三人の怪我、完璧に偽装できたのに。額に裂傷か、骨の一本でも折っておけばよかったんじゃないか? そうすりゃ弁論の余地なく有罪だろ」

 

 先の事件で相手をハメるため、言い逃れ不可能な証拠を俺なら作り上げることができた。自信を持っていえるが、学校内の誰よりも俺は上手に人体の骨を折れる。この技を披露する機会になかなか恵まれないのが残念でならない。

 今の時代だと相手の骨を砕くことに精神的な忌避感があるらしい。よくわからないが、平和ボケの代償だろう。

 人の死や怪我に責任とやらが問われてしまう。責任という言葉に、既に責任がないというのに。

 

「だろうな。お前の技量なら、疑念の余地すらない完璧な被害者を創り出せるだろうよ」

 

 おお! なんという麗しき信頼関係。互いの実力を認め合い、固い絆で結ばれている。裏切りと謀略が渦巻く現代(あるいは前世)ではなかなかお目にかかれない、涙ぐましい友情とやらだ。いっそお互いをあだ名で呼び合い、熱く抱擁してキスのひとつでも交わせば完璧だろう。

 無論──俺たちの間に、そんな反吐が出るようなものは一切存在しないが。

 

「ヒュー。泣かせる厚い信頼関係だ。でも、それを使わない理由にはならないね。どうした? 大切な友人に汚い真似をさせたくなかったか? そいつは泣けるな、龍園くんよ」

 

 

「クク……まったくその通りだ。素晴らしきクラスメイト同士の結束、手に手を取り合う愛すべきナカマ! ……反吐が出るな、ハッキリ言って」

 

 龍園は心底つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「安心しろ。てめえを動かさなかったのは、純粋な打算とこれからの利益を計算した結果に過ぎねえ」

 

 うむ。やはり俺たちの間に、涙ぐましい友情などというバグは発生していなかったようだ。

 そんなものはお互いに微塵も求めていないと理解しているため、悲しくもなんともない。ある意味では、とても健全な関係と言えるかもしれない。

 

「打算的な女は嫌われるぜ、龍園? お前がその無駄に長い髪を伸ばしている理由が、実は女を目指しているからかもしれないんで、一応親切心から忠告してやるが」

 

 男子……いや、男にしては、こいつは髪を伸ばしすぎていると常々思っていたのだ。視界に入るだけで、無性に刃物で伐採してやりたいという破壊欲求に駆られる。

 とはいえ、実際に刈り取ってやったらマジギレして面倒なことになるのが目に見えているので、こうしておちょくる程度で我慢してやっているのだ。俺のこの慈悲深さ、やっぱりこれも一つのユウジョウの形かもしれない。

 

「クク……俺に向かってここまで減らず口を叩けるのは佐伯、お前ぐらいのものだ。クラスの連中が見たらさぞ肝を冷やすだろうよ。伊吹たち幹部と、椎名を除いてな」

 

「かもね。で、結局その打算と利益ってのは何のこと? 俺を使わなかった理由に繋がるんだろ?」

 

 さっぱり思い当たる節がない。

 

「お前には、今週やるべきことがあるはずだろ」

 

「……? なんの話?」

 

 身に覚えがなさすぎて、新手の詐欺か何かを疑う。

 龍園の奴、まだ頭にアルミホイルは巻いていないようだが、煽りすぎたせいでついに脳の血管でも切れたか? 即刻、別の奴をクラスのリーダーとして据える準備を始めるべきかもしれない。

 

「てめえは、自分が所属してる部活の大会日程すら把握してねえのか。椎名以外の情報は保存できない欠陥品の記憶媒体かよ」

 

「ああ——っ! そういや、そんなのもあったね!」

 

 弓道部の大会。言われてみれば、確かにそんな予定があった気がする。

 かんっっぺきに脳内からデリートしていた。

 

「つか、よく知ってたな。俺のスケジュールまで把握してるとか、ストーカー気質も持ち合わせてるわけ?」

 

 練習にまったく参加していないせいか、自分が弓道部に所属しているという事実すら、すっかり脳内から抜け落ちていた。

 そういえば先々週、全国大会(るび)に向けた一次予選があった。今週は、そこを通過した者だけが参加できる本戦が行われる予定だ。

 無論、俺は一次予選で全射的中させ、無事に通過を果たしている。無事という言葉が適切かどうかは定かではない。俺に言わせれば当然というべき結果だ。

 だが、それをまともに記憶していないのも無理はない。なんせ四射か五射打って、それが全部的に当たったらもう通過確定だというのだ。あまりにも呆気なく、何一つ印象に残らないのも致し方ないだろう。

 記憶に刻まれていることといえば、久方ぶりに学区外へ出たことと——関係者ではないため、ひよりが応援に来られなかったことだ。

 あのせいでモチベーションは激落ちし、完全に惰性で適当に弓を引いて終わらせてしまった。

 そもそも、当たった、外れたで一喜一憂している連中の大会に参加すること自体が滑稽なのだ。動かない的なんて百発百中で当てて然るべきだ。他の参加者は、俺と技量を競い合える領域にすら達していなかった。

 

 

「逆にお前が覚えてないことに驚きを隠せねえよ。おい、それよりも今回の大会、個人戦にエントリーはしているが、団体戦のメンバーからは弾かれたらしいな。俺の耳には、この学校の弓道部が名門だなんて話は入ってきてねえぞ」

 

 校内一の技量であることは揺るがしようのない事実なのだが、まともに部活に参加しなかった結果、団体戦のメンバーに入ることは出来なかった。顧問の高月も、特段俺を団体戦に入れようとはしなかった。

 

「まずさ、一年生が大会に出れるっていう事実の方を褒めないか?」

 

 よく分からないが、一年生でいきなり大会に出場するというのは、一般的にスゴいことなのではないだろうか。いや、よく知らないけど。少なくとも貶されるいわれはない。

 

「そもそも弓道部が大した規模でもない。なんだ、佐伯くんは上級生様には腕が及ばなかったのか?」

 

 龍園が、日頃俺から煽られている鬱憤を晴らすかのようにネチネチと追及してくる。

 ウザい。控えめに言ってうざすぎる。

 今度こいつが何かポカをやらかしやがったら、絶対に憤死するまで煽り倒してやる。俺は密かに、だが固く心に誓った。

 

「ちっ、クソうぜぇ。単なるサボりすぎだ。部活なんざまともに出てねえし、それに、三年の連中がどうしても出場したかったとさ」

 

 記憶の糸をたぐると、顧問がそんな事を言っていた気がする。引退前最後の大会がどうのこうのとか、彼らの熱意がなんとか。知ったことではないが。

 

「カッコいい言い訳だな。まさか来週も、そんな寝言を聞かせてくれるのか? 今回の件からわざわざお前を外してやった意味がなくなっちまうが」

 

「けっ。来週の俺の活躍を楽しみにしとけ」

 

「ああ、佐伯クンのマヌケな敗戦の口上をぜひ聞かせてもらおうか。……それと、ようやく本日の主賓が来たようだ」

 

 龍園の視線の先を振り返ると、石崎を含めた三人のクラスメイトがこちらに歩いてくるのが見えた。

 三人とも顔の目立つ場所に、白いガーゼや絆創膏がやたらと貼られている。痛ましいというより、見え透いた嘘くささが漂っている。

 やがてテーブルの前に到着すると、石崎が代表して口を開いた。

 

「お疲れ様です」

 

 神妙な顔をして頭を下げる石崎たち。へえ、お前らそんな殊勝な顔できるんだ。

 俺がそんな巫山戯た感想を抱いているとも知らず、三人は龍園の前に立ち、後ろで腕を組んだ。

 

 彼らはなぜここへ来たのか。事は、中間テストが終了した頃に遡る。

 

 

 ──────

 

 中間テストは、龍園が事前に入手していた過去問のおかげで、Cクラスだけでなく一年生全体から一人の脱落者も出さずに終わった。

 他クラスが同じ手段を用いたかは定かではないが、退学時のペナルティという不気味な謎は未解明のままだ。

 誰もが退学にならなくてよかったと手放しで喜んでいる。この学校の生徒の大半がそうやって胸をなでおろしていたはずだ。

 ——Cクラスの一部、狂気を孕んだ連中を除いて。

 

「お前ら、今日の放課後、決行だ。予定通りに上手くやれ」

 

「うっすっ!」

 

 昼休み、龍園とその他が集まり最後の打ち合わせを行っていた。

 俺の善意による協力提案は撥ね付けられ、今回行なわれる

『他クラスの生徒から暴行されました。学校は処罰しろや!』作戦のメンバーとして、なぜかカウントされていない。

 

 そもそも絶対に参加しなければならない義理もないので、クラスメイト諸君の捨て身の活躍を陰ながら応援してやることにした。

 ……嘘だ。欠片も応援などしていない。

 Dクラスのバカがミンチになろうが、Cクラスの連中が返り討ちに遭おうが、知ったことではないのだ。

 俺にとって何よりも優先すべきは、目の前にいるひよりとの穏やかな時間だ。テストの労いと、次に読む本について語り合っていた至福のひとときだったというのに——無粋な邪魔が入った。

 

「おい、佐伯。ちょっと来てくれ、龍園さんが話があるってよ」

 

 名前も知らない男子生徒が俺に声をかけてくる。

 ……クラスメイトの前で堂々と、俺に話すことはねえ、という訳にもいかない。統治者にとって面子というのは存外に大事なのだ。特に恐怖でクラスを支配している以上、下っ端に侮られるような隙を見せるわけにはいかないだろう。

 

「ん。ごめんね、ひより。ちょっとあそこの王様に顔を売ってくる」

 

 愛しの彼女に断りをいれ、教室の後ろで偉そうに踏ん反り返っている王様の元へと歩み寄る。

 

「龍園サーん、お呼びでございましょーかー? なんでも大切なお話があるとかー?」

 

 わざとらしく間延びした声で、道化を演じてみせる。

 

「……ああ。お前に命令だ。例の場所の一帯を、もう一度確認してこい」

 

「あれれー? 下見はもう済んでいるのではー?」

 

 言外に『決行日当日にやることじゃねえだろ』というニュアンスを込めてやる。

 当然だ。今まで何をしてたんだ? 慌てん坊のサンタクロースだって、もう少し計画的に動くぞ。

 

「だからこそ、最後にお前の目で確かめてこいっつってんだ。わかったか?」

 

 

 王様は念の為、仕上げ要員として使いたいらしい。石崎たちでは気付けないカメラの死角のほころびや、予想外の罠が潜んでいないかを、直前にもう一度俺に洗い出させたいのだ。

 他の奴を信用してないのか、手駒の質が悪いのか。はたまた両方か。

 従順な臣下である俺は素直に指示に従うことにする。

 

「なるほどぉー。了解しましたぁ。ではさっそく行ってまいりまーす」

 

 会話を打ち切り、振り返ることもなく教室の出口へと歩き出す。

 背後から「チッ」と苛立たしげな舌打ちが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。俺の完璧な臣下しぐさに一切の不備は見当たらないのだから、疑う余地もない。

 

 

 

 ────────────

 

 目的地である特別棟は空調が効いておらず、無駄に暑かった。

 龍園の読み通り、指定されたエリアに監視カメラは存在していない。念のため神経を研ぎ澄ませ、周辺一帯を隈なく探ったが、俺の警戒網には何一つ引っ掛からなかった。巧妙な隠しカメラも、潜んでいる伏兵の気配もない。

 

 結論から言えば、完全に無駄足だった。

 こんなことなら、昼休みギリギリまでひよりと次のデート予定の話を続けていればよかったと激しく後悔する。

 

「……クソ暑い」

 

 無意味な徒労と不快な湿気に苛立ち、傍らの壁に無造作に拳を叩き込む。

 ズンッ、と鈍い音が響いた。鉄筋コンクリートの頑丈な壁はびくともしなかったが——俺の裸拳の衝撃を吸収しきれなかったのか、壁の表面にはくっきりと見事な拳の陥没跡が残ってしまった。

 

 ……清掃が行き届いてないのか、それとも材質の問題か。あるいは手抜き工事か。

 まあいい。器物破損だと言いがかりをつけられる前に立ち去ろう。

 こんな証拠が残ってしまったのも、全て俺を無駄なパシリに使った龍園のせいだ。間違いない。

 昼休みの残り時間が少ないことに気づき、俺は急ぎ足で教室へと戻った。

 

 ——そして、放課後。

 帰る準備を済ませ、ひよりと共に教室を出る前。俺は一応、王様へ結果の報告をしておくことにした。

 言われたことをしっかりこなす。我ながら部下の鑑としか思えない。世間で言うところのホウレンソウってやつだ。

 報告、連絡……なんだっけ。なぜ部下の必須スキルに野菜の名前が冠されているのか。よく分からないが、まあ伝われば何でもいい。

 

 

「龍園サーん。例の場所、問題なし。報告は以上でーす。お疲れサマっす」

 

 教室の後方でふんぞり返る龍園に、ひよりを待たせつつ投げやりな口調で告げる。

 

「そうか、ご苦労」

 

 龍園は俺のふざけた態度を咎めることもなく、不敵な笑みを浮かべたまま短く応じた。これからの本番に向けて、頭の中は既にDクラスをハメる算段でいっぱいなのだろう。

 

「どーいたしましてー。じゃ、俺たちは帰るんで。せいぜい頑張ってねー」

 

 俺はひらひらと適当に手を振り、愛しの彼女が待つ廊下へと向かう。

 

 待たせていたひよりと合流し、歩きながら会話していく。

 

 

「たしかに、褒められた作戦じゃないね。まー、相手が乗ってこなきゃ意味ないし、ただの徒労に終わる可能性も十分あると思うよ」

 

「……そうですね」

 

 少しだけ浮かない顔をしている彼女を覗き込む。

 

「何か気になることでも?」

 

「いえ……龍園くんがこのタイミングで決行に踏み切ったということは、それなりに勝算があると踏んだ筈です。正直、彼の計画通りにいく可能性は高いでしょうね」

 

「……ひよりが気に入らないなら、今すぐ作戦を中止させるよう、俺が龍園にオネガイしてこようか?」

 

 今回の目的はあくまで他クラスの情報を収集することだ。手段なら他にいくらでもある。俺にとってクラスの勝敗やポイントなぞ、ひよりの心労に比べれば二の次三の次だ。

 もしどうしても情報が欲しいというのなら、俺が直接出向いて()()()()()()()()()()()。指の関節を一本ずつ逆方向に曲げていけば、どんな口の堅い奴でも小鳥のようにペラペラと歌い出すだろう。

 彼女が首を横に振るのなら、俺は今すぐ教室へ引き返し、あのふんぞり返った王様を物理的に玉座から引きずり下ろす準備がある。

 

「リョウくん、それは……ふふっ。お気持ちだけ受け取っておきますね」

 

 俺の不穏な空気を察してか察さずか、ひよりは小さく微笑んだ。

 

「劣勢である私達は、何れにせよ情報の収集を行う必要があります。やり方はともかく、龍園くんの言っていること自体は間違っていませんから。それに、彼の予測が外れることも往々にしてありえますしね」

 

 ひよりにここまで頭を悩ませた時点で、今回のターゲットであるDクラスの生徒は死んでも良し。

 

「そっか」

 

 脳内で極めて暴力的な結論を出した俺は、何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、難しい話は終わりにしてお茶しに行こうよ!」

 

「ふふ、元気一杯ですね。そうですね、ここで悩んでいても仕方ないことでした。早速いきましょう!」

 

 繋いだ手に少しだけ力を込めると、ひよりも嬉しそうに握り返してくれた。

 冷房の効いた校舎から一歩外へ出ると、むせ返るような夏の熱気が待ち受けていた。だが、今の俺たちを取り巻く甘い空気は、そんな夏の暑さすらも軽く凌駕していると断言できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ちなみに余談だが。

 この数日後、Dクラスの単細胞どもは龍園の仕掛けた罠にまんまとハマり、盛大に自爆することになるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

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