吾輩は呂布である 作:リバーシブル
時刻は再び、7月某日の放課後。
中庭へとやってきたクラスメイトの三人、彼らはみな顔色が悪かった。その中でも石崎くんは特に酷い。顔色は真っ白で足は生まれたての子鹿のように震えている。よほど怖い思いをしたらしい。
今回の1件で神経をすり減らしたのは間違いない。色々と龍園が予想していなかったことも起きたわけだし、仕方のないことだろう。
「まあ、予想外だったのはあちらもだろうけどね」
「どうなったのか、石崎。報告しろ」
「はい。今回の一件をご報告します────」
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Cクラスの朝は騒々しい。
国民全員が必修していると思われる、言葉のマジックである言い換え。響きの良い方に変換するなら、Cクラスの朝は賑やかだ、と表現できる。活気があるともいえるし、喧しいだけともいえる。
コインの表と裏みたいな話だ。単純に見る者の視点によって捉え方に差異が生じる。
そもそも、我らがCクラスだけ特別に五月蝿いというわけでない。16歳の高校生というやつは、どのクラスも同じように騒がしいのが基本らしい。
暴力という恐怖政治で統治されているCクラスだが、人間という生き物は逞しいもので、三ヶ月も経てばクラスメイトの諸君はこの環境にも慣れていた。
人間も飼いならされると、家畜のように従順になる。
が、クラスの王である龍園からすれば、この状況は歓迎すべきものだ。
他所のクラスと比べ一部の例外を除くとアホばっかりなのがCクラスの特徴だ。
まあ、残念なことにアホ筆頭である生徒は俺自身というオチだが。
実際Aクラスのように内乱を行う余裕すらないのが実状だ。
Cクラスは強引な手段でクラスを纏めた男を、クラスの王に据えざるを得ないだけ。
だが、幸か不幸か、龍園はクラスのリーダーとして有能な面を見せていた。入学当初のクラスポイント減少を防ぎ、中間試験では過去問での攻略という結果を叩きつけている。
Dクラスというポイント全てを吐き出したクラスが隣にいる以上、龍園の影響力は日々強まっていく。
曲がりなりにも幹部なので喜ぶべきところだろう。本音としては何だっていいのだが。
クラスの暴君がいる、いない、に関わらず教室内はお喋りが活発だ。人数の違いはあれど、あちこちにグループが形成され無駄話に花を咲かせている。
意外なことに龍園は言論統制を行なわず、言論の自由を認めていた。人の口に戸は建てられないというし、この判断は正しいと思われる。
日付が変わった今日、7月1日。
朝のホームルーム前から、クラス内はいつもより浮足立っていた。
それもそのはず、毎月1日に振り込まれるプライペートポイントが支給されていない。更にクラスを騒然とさせたのは三名の生徒が負傷していたことだ。
これ見よがしな手当の後は同情よりも、失笑を生みそうなものだが他の生徒は違うらしい。
また、この三名というのが龍園の側近である石崎を含めた連中だ。感の鋭い人間なら、ポイントの未支給とこのタイミングで怪我をしている生徒が無関係とは考えないだろう。
なんらかの事件として、二つの騒動を結びつけるのは難しくない。
落ち着き払った態度で椅子に腰掛けているのは一部の人間のみ。
クラスの王である龍園、
既に事件を知らされていたCクラス幹部、
そして今回立派にやられ役を演じた三人。
この一見、無様としか言いようがない怪我も、全てが龍園の計画の内にすぎない。
ひよりの心優しい考えを無下にするかの如く、Dクラスの生徒はものの見事に釣られてしまった。ハニートラップならぬサンドバックに手を出すとはマヌケ極まれりといったところだ。
ガヤガヤとした教室に担任である坂上が入室してきた。いつぞやのように黒板へ厚紙を貼り付けていく。
前回と同じく用紙にはクラスポイントが記載されている。一番重要な内容の数字だけが違う。今回、全てのクラスが100近くクラスポイントを増やしていた。
その中でも4クラス中、最下位の増加量なのが、何を隠そう我らがCクラスである。
書かれている数字に驚くことはない。先日話していた見極めの影響だろう。
情報というのは時に
高く跳ぶために一度しゃがむ必要があるのと同じ。先行投資だ、これをケチっていては後で痛い目を見る。言い切れるのは俺自身が体験したから。
Bクラスとの差は200ポイント近くになったが、許容範囲だ。最終的には、Bクラスどころか、Aクラスを追い落とす以外に道はないのだから。
それはそうと、現状を把握してない連中としてはたまったものじゃない。
特に二ヶ月間0ポイントで過ごすしているDクラスは喉から手が出るほどにポイントが欲しいはず。
Cクラスは下から2つ目のクラスポイントとはいえ、5万近くを毎月支給されている。ポイントの配布が少々遅れたからといって、首が回らなくなる生徒が続出するとは考えにくい。
「先日の試験を無事に突破した一年生、全クラスにポイントが加点されました。皆さん、よく頑張りましたね」
「センセー、ポイントが増えたのは嬉しいけど、まだあたしたちの元に振り込まれてないみたいですけどー?」
不満たらたらな声色で女子生徒が声をあげる。
「ふむ。今回ちょっとしたトラブルで、一年生へのポイント支給が遅れると連絡がありました。申し訳ないが少しの間、手持ちのポイントだけでやりくりをお願いします」
担任は言い淀むこなく事情の説明を始めた。
自分のクラスから訴えがあるのだ、事情を知らないはずがない。
「えぇ〜? そういうの困るんですけど」
「学校側の判断です、私を責めたところで判断が変わることはない。それに遅れるとはいえトラブルが解消され次第、ポイントは支給される。問題はないでしょう」
どうにもならないと断言し、坂上は一度だけ龍園へと目を向けた。しかし、一言も発することなく担任は教室から出ていった。
なにが起こっているかぐらいは把握しているようだ。
──────────
「うーん、ハンパだなあ。やっぱり、一本いっておこうか」
朝食を選ぶような言い回しで目の前の男が、さらりと、とんでもないことを口にする。
男はパンに手を伸ばす気軽さで、右腕が自分へと迫ってくる。腕がゴキりと
暴力を振るう時、多くの人間は興奮状態に陥っている。石崎自信も他人へ暴力を使う際に、相手を叩きのめす高揚感を何度も味わったことがある。だが、目の前の男からは何も感じられない。
顔色一つ変えず、ガラス玉のような双眸がこちらを見つめ、瞳の奥では恐怖し怯えている己の姿だけが映っていた。
力を振るう喜びも、反撃される恐怖も、支配する愉悦も、男からは微塵も感じない。
そこにあるのは虚無と呼ばれる闇だけが広がっていた。
この間、罠にハメたDクラス生徒、須藤とは比べるまでもないほどの圧力が周囲を支配している。子供と大人ほどの差、いや、まだ手出しをされていないにもかかわらず反抗する戦意すら湧き上がらない。
カラオケ店での敗北が重くのしかかっていた。
顔見知り以上の仲だとは考えていたが、目の前の
いつもと変わらない態度と表情で、
動くことすら叶わず、一秒が永遠のように感じる。逃げることも抵抗することも出来ない。
全てを諦め
「綺麗に折ってあげるから、大丈夫。一月もすれば治るよ。じゃあ、歯を食いしばりたいなら、食いしばれ」
綺麗に折ってくれるのか。それはよかった。
「さん」
恐怖の、いや、天国へのカウントダウンが始まった。
この恐怖から開放されるのなら、それに
「にい」
逃れようのない痛みを堪えるため、奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばる。
「ぃ……」
「何をしている。お前には今回手出し無用だと伝えたはずだ」
腕の骨が砕ける寸前、支配されていた空間を裂き第三者の声が響く。
普段使われない特別棟の男子トイレに思わぬ乱入者が現れた。
瞼を開けると、
「善意による協力だ、龍園。おまえがやってることが半端だから、見るに見かねたのさ」
クラスの支配者である王と底しれぬ暴力が隠すつもりもない敵意を撒き散らしている。
言葉こそ穏やかだが、お互いの腹の中を探りあっているのは明白だ。
「
静寂が痛いほど室内に響く。
冷や汗が背筋を伝う。
「……りょうかーい。王様の提案に従うよ、幹部だしねぇ。カカっ」
一触即発の状態にあった二人だが、何か思うところがあったのか佐伯は右腕を下ろした。
男子トイレに満ちていた異常な気配が嘘のように消えていく。
「さっさと失せろ。椎名の尻でも追っかけておけ」
「言われなくてもそうする。石崎クンじゃあね」
「運がよかったな、石崎。五体は無事なままだ」
「……龍園さん、どうして止めたんですか?」
「なんだ、佐伯にボコってほしかったのか。そいつは悪いことをしたぜ」
「いえ、そういうわけじゃ……。あの人もなんらかの考えがあったと思いますし……」
「ねえよ」
わずか一言で龍園は切り捨てた。
────────
あれから、あの人は龍園さんの指示通り一切の関与をしなくなった。
暴力事件はCクラスの狙い通りに進んでいる。
証拠として怪我をした生徒が三人、そして須藤の日頃の態度から状況はこちらに分があった。
全てが筋書き通りだった。
この時までは──
「いつまで続けても話し合いは平行線を辿るでしょう。こちらは怪我をした生徒、そちらの証拠も決定的ではない。互いに嘘をついていると、水掛け論を延々と繰り返すだけの不毛な展開にしかなりません。
そこで須藤くんには二週間の停学。Cクラスの生徒たちに一週間の停学。その辺りが落としどころだと思いませんか」
目標の一つであった、須藤のバスケ部レギュラーを白紙撤回。
停学によりDクラスは再びクラスポイントが0に落ちる。
確たる証拠も掴めず、Dクラスは落とし所という名の敗北が待ち受けている。
あとはその提案を受け入れるだけ──
「理解いただけなかったのなら、改めてお答えします。私達は須藤くんの完全無罪を主張します。Cクラスの提案は到底受け入れられません」
Dクラスの女子生徒がCクラス担任、坂上の提案を力強く蹴り飛ばす。
目の前にあったゴールが遠ざかるのを感じた。
頭の中で男の幻聴が響く。
「だからあの時、折っておけばよかったのに」
────────
暴行事件は翌日の4時に再審議となった。
男の声が頭から離れない。幻聴は呪いとなり石崎を苦しめていた。
だが、この忌まわしい声もこれまでだ。結局、Dクラスは明確な証拠を用意できずに敗北で終わる。かぶりを振って雑念を頭から追い出す。
メールで指定された場所。特別棟の暑さにうんざりしながら、石崎たち三人は現場へとやってきた。
「……どういうことだ。なんでお前がここにいる」
「櫛田はここに来ないぞ。アレは嘘だ。彼女に頼んで無理メールさせた」
Cクラスの三人はDクラス女子、櫛田桔梗に呼び出しのメールを受けていた。
それが蓋を開ければ、冴えない男子生徒が呼び出したという。
石崎たちが怒るのも当然だ。
「ふざけやがって。何の真似だ、あぁ?」
「こうでもしないとお前らは無視するだろう? 話し合いがしたかったんだよ」
冷静な口調で一年Dクラスの男子生徒が話し始める。
「話し合い? この暑さでイカれたか? てめえと話すことなんざ、なに一つねえんだよ」
石崎はシャツを仰ぎながら、苛立たしげに睨みつける。
「事実はいつも一つだ。俺たちは須藤に呼び出され殴られた。それだけだっ」
Dクラスの野郎と話すことは何もないと態度で示し、元来た道へと引き返そうとした。
そのタイミングで、もう一人の部外者が退路を塞ぐ。
「観念した方がいいと思うよ、君たち」
役者が揃うのを待っていた一之瀬が軽い足取りでこの場に姿を現す。
一之瀬 帆波はBクラスの生徒であり、今回の騒動には全く関係がない。
「い、一之瀬!? どうしておまえが!?」
Cクラスの三人は隠しようもないほど狼狽した。
この事件に何の関連性もないBクラスの人間が、突然に現れれば無理からぬことだ。
「どうしてって? 私もこの一件に一枚噛んでいるから、と言っておくよ」
「有名人だな一之瀬」
「あははは。Cクラスとは色々あってね」
龍園の策略、Bクラス生徒への嫌がらせ及び挑発行為はBクラスの頭である一之瀬の悩みのタネであった。
思わぬ人物の登場により石崎を含めた三人は明らかに動揺している。
「Bクラスは何の関係もねえ、引っ込んでろ」
石崎が強い口調を改めずに口を開く。
「確かに関係はないよ。でもさ、嘘で大勢に迷惑をかけるのってどうなのかな?」
「俺たちは嘘をついてない……。かわいそうな被害者なんだよ、俺たちはっ。こんな風に言われるのも心外だぜ!」
「白々しいよ石崎くん! えーい、悪党は最後までしぶといっ。そろそろ年貢の納め時だよ!」
一之瀬は全てお見通しだと言わんばかりに声を張り上げる。
「今回の事件、君たちが嘘をついたことや最初に暴力を振るったこと。それらは全部バレバレなの。これ以上、問題を大きくすれば後悔するから訴えを取り下げるべし」
「あ? 訴えを取り下げろ? 笑わせんじゃねえよ、お前らの戯言にこれ以上は付き合いきれねえ。それにあれは須藤が喧嘩を仕掛けてきたんだ」
「ここは日本でも有数の学校で、政府公認だってことは知っているよね?」
「……だからどうした」
「だったらもう少し頭を使わないとダメじゃない。君たちの作戦なんて初めからお見通しだよ?」
石崎たちに最初の威勢はなくなっていき、反対に一之瀬は饒舌になっていく。
嘘をついているという自覚が、彼らの勢いを削いでいた。
「今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしくなかった?」
「あぁ?」
「君たちが学校側に訴えた時、どうして須藤くんがすぐに処罰されなかったのか。数日間の期間を与えて挽回するチャンスを与えたのか」
「須藤の野郎が学校に泣きついたからだ。あいつは卑怯にも真実を隠蔽しようとしやがったのさ」
「本当にそう思うの? 本当は別の狙いがあったんじゃないかな──────」
後は探偵役の一之瀬が後付された監視カメラを見せつけ、
Cクラスが訴えを取り下げ、この一件はそれで終わる。
はずだった。
────
空気だけが唇から漏れている。
────諦めの言葉は喉元を通り過ぎ口元まで到達していた。
なのに体はソレを拒否していた。
脳裏に思い浮かんだ最初の人物は、クラスの王である龍園翔。
そして次に描かれたのは、Cクラスに潜んでいた怪物。
幻聴が聞こえる。この場にいないはずの男の声が、聞こえる。
「だから、骨の一本を折っておくべきだったろう?」
耳元ではなく頭の中で、確かに声が聞こえた。
男の声は残響となり、脳内でやまびことなって反射している。
「ぃッ!」
初めて対峙した時の記憶。
思い出さぬようしっかりと蓋を閉じていたはずなのに、敗北が、諦めが、忌まわしき記憶を掘り起こす。
笑みを浮かべ、底しれぬ暴力を孕んでいるアレが、俺に膝をつくことを許さない。
先程まで感じていた茹だるほどの熱さは完全に消え失せ、震えるほどの悪寒が体を襲う。
生存本能が、体が覚えていた恐怖が、一息の呼吸をさせた。脳に酸素が送り込まれ、否応なく現状を把握させる。
あいつらが、話していることが正しいのかもしれない。
学校側は全て知っており、罰を受けるのはこちらかもしれない。
クラスの王である龍園の考えより上回っているのかもしれない。
その結果、苦しい立場や学校を追われるかもしれない。
暴行が学校に認知されており主犯の俺たちには、停学もしくは退学の罰則。
入学したばかりの学生生活で
それだけは避けたい?
本当に、本当にそうだろうか?
俺が、いま一番回避しないといけないことはそんなことか?
違うだろ。停学? 退学?
そんな些細なことではない。
最悪──とはその程度じゃない。
そんなもの──アレと比べるなら。
ここで諦め、それが
アレと対峙するのなら。
「ははっ、はっ、くくっっはは!」
口からは諦めの言葉ではなく、笑いが漏れていた。
なにを自分は悩んでいたのだ。
初めから選択肢など
「……なんで笑っているのかな。石崎くん」
犯行前、最後の下見に駆り出され、そして問題ない、と佐伯・了は断言した。
これほどの確証があるものか。あの
くくっ、馬鹿げている。
「自分のバカ、いいや、
「いきなり……なんの話しをしているの、石崎くん。大人しく諦めたほうがいいと思うけど」
「お、おい。石崎、ヤケになるなって……」
「落ち着けよ、石崎っ!」
急に笑い初め、勢いよく話し始めた俺を見て二人は自暴自棄になったと勘違いしている。
「バカ、俺は死ぬほど冷静だ。くくっ、どうやって手に入れたかは知らないが、お前らも偽のカメラまで用意してご苦労様だぜ。全部無駄になっちまったけどな」
「なんの確証があって偽のカメラだと言い切れるのかな。それに監視カメラがあるかないかなんて普通の人は気にしないからね。それを口にするってことは、後ろめたい犯人だと自白していると同じでしょ」
死に体だったはずのカラダが息を吹き返し勢いを取り戻していく。
「くかかっ、確証? あるに決まってるだろ! なんせ、俺たちは無実なんだからなっ!
普通の人? くく、生憎だがCクラスにそんなやつはいねえ。カメラを気にしないのはてめえらだけの普通だ。俺たちはカメラを気にするのが普通なんだよっ!」
仮にあのカメラがホンモノだったとしても、どちらにせよ俺に降りる選択肢はない。
アレからの提案を蹴った上に、この脅しに屈せば確実に粛清される。
後ろに戻れば明確な死が待ち受けているのだ。茨の道だろうが前に進むしかない。後方に控えているのは、茨どころではないのだから。
「……それはなんの証拠にもなってないよ」
「どうした一之瀬よお、さっきまでの威勢はどこにいったんだ? それに証拠か、了解したぜぇ? 今から生徒会に行き、お前もその目で映像を確認してくれよ」
「えっ……?」
一之瀬は
「問題ないだろ? 初めからカメラがあると、お前は言い張ってんだ。まさか、Cクラスをハメる為だけにカメラを仕掛けた、なんてことあるはずないしなっ。須藤に殴りかかられる可愛そうな俺たちを見に行こうぜっ!」
一番に危惧しなければならないのは他の二人だ。俺が降りずとも、小宮と近藤は折れる可能性がある。
その為にはこの場の空気を掌握しなければならない。
可能なことは声を荒げ、無理矢理に威圧することだけ。
だから──笑え。あの二人のように腹の底から笑え。やつらが見れば、無様だと笑うだろう。
でも、やらずに終わるのだけは、それだけは出来ない。
この
「っ!」
「どうしたんだ。一之瀬、お前に不都合な理由なんざ一つもねえだろ? それとも自分の不正がバレるのが怖いのか。くく、おい見てみろよ、二人とも! こいつらは偽のカメラで無実の俺たちをハメようとしやがった。汚え連中だぞっ!」
状況を窺っていた二人に大声で声をかける。
小宮、近藤の心が折れていないことを信じるしかない。
「なんて卑怯な連中だっ! ふざけた真似しやがってっ!」
「やり方が薄汚え! なんでDクラスなんかに手を貸したんだっ。理由はなんだ、須藤に惚れてんのかよ? 一之瀬ぇ! 趣味が惡りぃぞ!」
小宮と近藤は一之瀬が勢いをなくしたのを見て、ここぞとばかりに乗ってきた。二人ともどうやら腹を決めたらしい。
「私は……そんな理由じゃ……」
「それについては俺から────」
「てめえは黙ってろ! 今はBクラスとうちの問題だっ! 引っ込んでろや!」
今まで傍観していたDクラスの生徒に口を挟ませない。この熱さの中、平気な顔をしているこいつは不気味だ。
どことなく化物と雰囲気がダブり、気味が悪い。
ここで長引かせて余計な
「これ以上は無駄だっ! 話し合いがしてえなら一之瀬、この後の再審へ出てもらうぞ!
だが、その時は覚悟しろよ? お前がのこのこと議論に出てきた場合、Cクラスは一之瀬、お前を、いやBクラスを訴えてやるっ。内容はもちろん、Dクラスと共謀して無実の俺たちを陥れようとした罪でなっ!」
肉を切らせ、骨を断つ。身を切る覚悟、それを即断即決できるのは一握りのモノたちだけ。
仲間思いの一之瀬にそんな真似ができるはずがない。下手をすれば自分ひとりだけでなく、Bクラスの足を引っ張ることになるのだから。
どんな理由があってDクラスに手を貸したかは知らないが、お人好しでは
「……っ」
「くく、これで話しは終わりだな。小宮、近藤、行くぞ!」
「正義は勝つんだよっ、バーカっ!」
近藤が捨て台詞を吐いて振り返ることなく進む。
歩き出す俺たちを呼び止める声もなく、一之瀬が再審の場に現れることもなかった。
「お、おい石崎……。今更だけど、あそこまで言って大丈夫なのかよ……」
心配げな表情の小宮へ顔を向ける。その時、小宮の後ろ、コンクリートの塗装が一部剥げている箇所が視界に映った。
大きさは人間の拳程度で、よほど強力な一撃が打ち込まれたのだろう。
「くく、もう俺たちが出る幕じゃねえ。
後は────────化物どもの領分だ」
────
「ご報告します────
今回の一件、Dクラスの
俺たち、Cクラスは無罪放免、何のペナルティもありません。
────報告は以上です」
──