吾輩は呂布である 作:リバーシブル
静かにしろい この高評価と感想が……
オレを甦らせる。何度でもよ…
よう実第一のEポイント編突入!
「白星」
見渡す限りの地平線まで広がる、絵の具を溶かしたような群青の海。
どこまでも高く澄み渡る夏空からは、容赦のない強烈な太陽光が突き刺すように降り注ぎ、白い砂浜をジリジリと焦がし続けている。
絶え間なく打ち寄せる波の音と、ジャングルの奥から響く蝉の鳴き声だけが、異様なほどの静寂に包まれた海岸を支配していた。
高度育成高等学校の一年生全員が集められたこの場所は、ちょうど一週間前、彼らが豪華客船から降り立ち、初めてこの無人島に足を踏み入れたスタート地点である。しかし、そこに整列する百数十人人の生徒たちの姿は、一週間前の彼らとはまるで別人のように変貌し果てていた。
リゾート地へ向かうような遠足気分で浮かれていた少年少女の面影は、もはや誰一人として残っていない。どの顔も一様に土気色に汚れ、目の下には濃い疲労の隈が刻まれている。中には頬が痩せこけ、誰かの肩を借りねば立つことすらままならないものの姿させ見受けられる。
中でも、ひと際異彩を放つ集団があった。
海岸の片隅に陣取る、Cクラスの生徒たちである。
彼らの姿は、他のクラスと比較しても明らかに異質であり、群を抜いて凄惨なありさまだった。
男子生徒たちの手は、慣れない鉈や斧で一日中薪を割り続けたせいで分厚い血豆が潰れ、幾重にも切り傷や擦り傷が重なり、泥にまみれた絆創膏で無残に覆われている。まだ半年も使用していない指定のジャージは、膝や裾がボロボロに擦り切れ、土埃と泥と樹液で汚れ様々な模様を描いていた。爪の間には黒い土が深く入り込んだままだ。
女子生徒たちもまた、例外ではない。日頃からシャンプーやトリートメントで入念に手入れをしていたであろう艶やかな髪は、潮風と強烈な紫外線、そして何より連日連夜燃やし続けた焚き火の煙と煤に燻され、ほうきのようにバサバサに傷みきっている。白い肌には容赦なく虫刺されの赤い斑点が浮かび、日焼け止めは塗るたびに流れ落ちる汗でその効果を昔に失っていく。
それは、とてもではないが日本有数のエリート校の生徒と呼べるような姿ではない。極限状態のサバイバルを強制された過酷な労働者の群れと表現するのが相応しかった。
だが、彼らの瞳の奥には、疲労している身体とは裏腹に、異様なほどの熱と執念がギラギラと宿っていた。
彼らは全員、ひりつくような緊張感の中で口を真一文字に結び、前方の一点だけを見据えている。
視線の先、波打ち際に設置された仮設の演壇。
そこに立つのは、Aクラスの担任であり、屈強な体躯を持つ教師、真島である。彼の手には、この一週間の地獄のようなサバイバルのすべてを清算する、最終的な特別試験の結果が記されたバインダーが握られていた。
マイクのスイッチが入る、わずかなノイズ音。
ただそれだけの音で、海岸に並ぶ数百人の生徒の肩がビクッと大きく跳ねた。波の音すらも遠ざかるような、息詰まる静寂が砂浜を完全に支配する。
真島は厳格な視線で並び立つ生徒たちをゆっくりと一瞥すると、一切の感情を交えない、事務的で、しかし腹の底に重く響くような野太い声でマイク越しに口を開いた。
「これより、一年生無人島特別試験の結果を発表する」
ゴクリ、と。
Cクラスの陣形の中から、誰かが乾いた喉を鳴らして生唾を飲み込む音が、やけに鮮明に響いた。
擦りむけた手のひらを固く握りしめ、祈るように目をきつく閉じる女子生徒。震える足を踏ん張り、隣の友人の肩をすがるように強く掴む男子生徒。誰もが、自分たちがこの七日間で流した汗と涙と、そして血の滲むような労働が、無意味な徒労に終わらないことを必死に祈っていた。
心臓が肋骨を突き破りそうなほどの早鐘を打つ中、真島の分厚い唇がゆっくりと開かれる。
「──第一位は、Cクラスだ」
放たれたその言葉は、一瞬、誰の耳にも届いていないかのように錯覚させた。
一秒。二秒。
波が引いていくザザーッという音だけが、白昼夢のように通り過ぎていく。
そして三秒後。
言葉の意味を脳が完全に理解した瞬間、Cクラスの陣形から、爆発的な、文字通り鼓膜を劈くような絶叫が天高く吹き上がった。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「やった! やったぞおおおおっ!!」
「嘘でしょ……!? 本当に!? 本当に私たちが一位なの!?」
「よっしゃあああああああああっ!!」
それは、単なる歓喜の声を通り越した、魂の底からの咆哮であった。
極限まで張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れ、泥だらけの顔のまま、互いの顔を見合って肩を抱き合い、雄叫びをあげている。女子たちはボロボロと大粒の涙を流して子供のように泣きじゃくる女子生徒たち。
周囲の目など気にする余裕など誰にもなかった。
彼らの歓喜がこれほどまでに爆発的で、狂気じみているのには、明確な理由があった。
突如として始まったこの無人島試験。ルールは単純にして残酷だ。七日間のサバイバル生活において、各クラスに与えられた試験専用の300ポイント。このポイントを用いて水や食料、簡易トイレやテントなどの物資を購入し、生活を成り立たせる。そして、試験終了日の最終日に残されたポイントは、そのまま夏休み明けの
仮に、極限の節約を重ねて三百ポイントをそっくりそのまま残すことができれば、300CPもの追加となる。
現在のCクラスは、不良品と見なされ一学期でポイントをほぼゼロにまで溶かした最底辺のDクラスを除けば、下位に属している。優秀なAクラスやBクラスの背中は遠く、自分たちはこのまま這い上がれないのではないかという漠然とした絶望と不安が、常にクラスの空気を重く支配していた。
だが、ここで一位をもぎ取ったとなれば話は全く変わってくる。
もしBクラスがこの試験で無駄にポイントを消費し、ろくな加点を得られなかったとしたら?
──抜ける。Bクラスを追い抜き、手の届かないと思われていたAクラスの背中すらも、はっきりと射程圏内に捉えることができるのだ。
ただし、世の中は難しくできてはいないが甘くもなかった。Cクラスは相応の代償を払ったのだ。
この七日間、Cクラスは文字通りの地獄のサバイバルを味わうこととなった。彼らは断言できることが一つあった。
どのクラスよりも美しく団結したか? 絆を深めて力を合わせたか?
違う。圧倒的に、異常なほどに「労働」したという自負だ。流した血と汗の量が、他のクラスとは根本的に違うのだと。
体力を温存しようと日陰で休む他クラスを尻目に、朝から晩まで容赦のない山の中を駆けずり回り、虫に刺されながら薪を集め、火を起こし、決して安全とは言えない自然の水を、生きるために狂ったように大鍋で沸かし続けた。文句を言う気力すら奪われるほどの労働。泥にまみれ、それでも勝利のために歯を食いしばり続けた。
この夏場の無人島では夜になっても蒸し暑い。だがそんなことさえ気にも止めずに眠りこけるほどに労働した。
その血の滲むような日々の結果が、今、最高の形となって結実したのだ。
切り傷も、擦り傷も、煤けた髪も、すべてはこの瞬間のための栄光の勲章だった。苦痛と疲労のすべてを洗い流すほどの圧倒的な歓喜の波が、四十人の生徒たちを完全に飲み込んでいた。
その狂騒の光景を少し離れた場所から見つめていたCクラス担任の坂上数馬もまた、必死に教師としての威厳を保とうと葛藤していた。
彼はインテリヤクザを思わせる鋭い目つきを細め、眼鏡の奥で湧き上がる感情を押し殺そうとしている。しかし、その薄い唇の端は、どうしても隠しきれない歓喜と優越感によって、小刻みに引きつるように吊り上がっていた。彼にとっても、受け持った生徒たちが最初の大型特別試験で見事にトップの成績を叩き出したことは、己の教師としての評価とボーナスに直結する最高の成果に他ならないからだ。
入学当初は喧嘩が絶えないクラスで、他と比べて学力平均は抜群に低く、とてもではないが上位陣と競えるクラスになるはずがないと、受け持った当初は頭を抱えたものだ。
それがどうだ。Bクラスの星之宮が苦虫を噛み潰したような顔をしているのを見るだけで、極上の酒が飲めそうだった。
だが、狂喜乱舞し、涙と泥にまみれて抱き合う生徒たちの熱狂の渦の中で、まるであらかじめそうなることを知っていたかのように、異質な反応を見せている者たちがいた。
クラスを仕切る『王』である龍園翔と、その幹部連中である。
いや、正確に言えば、幹部たちも完全に冷静だったわけではない。
「よっしゃぁぁっ! 見たかオラァッ!」
石崎は声を枯らして天に両拳を突き上げ、男泣きに泣いていた。近くの男連中と力強く抱き合い、この七日間の異常なプレッシャーと疲労を忘れたように苦労をねぎらっている。
「……チッ、うるさいわね。鼓膜が破れる」
普段は斜に構えている伊吹でさえ、ふいとそっぽを向き、悪態をつきながらも、その口元には明らかな安堵と微かな喜びの笑みが漏れていた。
アルベルトも無言のまま、しかし力強く二度、三度と深く頷き、巨体を揺らしている。
彼らにはすべての情報が与えられていたわけではない。ただ龍園の不気味な指示と、背後に立つ怪物の得体の知れない殺気に常に怯えながら、必死に立ち回った結果としての勝利である。彼らがこれほどまでに安堵するのは当然だった。
そして──。
狂乱の中心から少し離れた場所で、ひとりの少女が、泥水の中に咲き誇る一輪の白百合のように、可憐に微笑んでいた。
椎名ひよりである。
彼女の新品同然だったはずのジャージもまた、他の生徒と同じように煤と土で汚れ、銀色の美しい髪には少しだけ潮風の痛みが混じっていた。しかし、その汚れすらも彼女の生来の可憐さを損なうことはなく、むしろこの過酷な一週間を気丈に耐え抜いた気高さの象徴のようにさえ見えた。
「やりましたね、皆さん! 本当に、頑張りました!」
ひよりは満面の笑みを浮かべ、歓喜に沸くクラスメイトの女子たちと手を取り合う。中にはぴょんぴょんと跳ねる女子もいた。彼女たちの手を取って喜びを分かち合っている。その鈴を転がすような笑い声は、殺伐としたサバイバルの記憶を優しく浄化していくようだった。
騒ぎの中心で微笑むひよりの姿を、鋭い双眸が静かに捉えていた。
クラスメイトたちが劇的な喜びを爆発させている中で、まるでそこだけが真空地帯であるかのように、完全な静けさを保っている二人の男がいた。
龍園翔と、佐伯了である。
彼らの顔には、クラスメイトたちが浮かべているような歓喜の色は一切ない。
龍園はポケットに手を突っ込んだまま、狂喜する周囲を一瞥することもせず、ただ冷めた目で遠くの水平線を眺めている。
佐伯に至っては、泥だらけのジャージを着ていながらもその立ち姿には疲労の影すら見えず、周囲の熱狂を完全に環境音として切り離しているようだった。
注意深く見ればそのジャージが一番傷ついていることに見るものが見れば気づけたかもしれない。
彼の視線はただ一点、微笑むひよりの姿に注がれた際には、その口元に微かな、しかし確かな柔らかな光が灯った。
クラスの王と、その臣下。
二人は、この歓喜の絶頂にあって、顔色一つ変えずにただ目前の現実を受け入れていた。
彼らは喜びを表層に出さない。
なぜなら、この「第一位」という結果は、クラス全員の美しい団結や、血の滲むような努力、あるいは龍園の緻密な頭脳戦のみによってもたらされたものではないと、この二人だけは正確に理解していたからだ。
これは純粋に、1個人、佐伯了の、力技の産物でしかない。
今回は、ただ偶然に、佐伯の持っていた能力がこの無人島という大自然の舞台に完璧に噛み合っただけのこと。
それが勝利の真相であることを誰よりも理解しているからこそ、龍園はつまらなそうに目を伏せ、佐伯は退屈そうに首の骨を鳴らしているのだ。
歓声は未だ止む気配がない。
彼らはこの勝利の美酒に深く酔いしれている。しかし、これはまだ果てしなく長い戦いの、ほんの始まりに過ぎない。
熱狂と喧騒に包まれる海岸の片隅で、冷酷な王は退屈そうに空を見上げ、無敵の怪物は愛しい少女の笑顔を見つめながら、平坦な声で言葉を交わした。
「勝ったな」
王が、今日の天気を尋ねるような口調で口にする。
「勝ったね」
絶対的な王を前にしているとは思えない、欠伸すら混じりそうな口調で、怪物が答えた。
え!?普通長期間更新なかった作品が更新された時は書き溜めしてあるもんじゃないの!?
そんなのものはにぃ!慌てて書いたから分量が少にぃ!感想と高評価送ってくれた方ありがとう!