吾輩は呂布である   作:リバーシブル

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カラダ持ってくれよ!!
更新拳3倍だ!!!!


「龍星」

 

 

 お立ち台の上に立つ真嶋から、特別試験の全貌が淡々と語り下ろされていく。

 一通りの説明が終わる頃には、砂浜に整列する一年生たちの顔から、バカンスに対する未練や淡い期待は完全に消え失せていた。

 周囲の人間たちの反応は、お世辞にもハッピーそうとは言えない。当然だろう。豪華客船での大自然観光ツアーだと思っていたものが、いきなりお遊戯キャンプ会へと変貌したのだから。

 

「最初に、各クラスにはこの試験専用のポイントとして『300ポイント』が支給される。飲料水や食料などの物資は、すべてこのポイントを消費して購入することになる」

 

 マイクを通した真嶋の声が、容赦なく現実を突きつけてくる。

 

「また、著しく体調を崩すなどして試験の続行が不可能と判断された者はリタイア扱いとし、ペナルティとしてクラスから『マイナス30ポイント』を没収する」

 

 マイナス30。決して軽くはない数字だ。生徒たちの間にざわめきが広がる中、真嶋は視線をチラリと隣のクラスへ向けた。

 

「ちなみにだが、Aクラスは船内で既に体調不良者を一名出している。よってAクラスは、現時点で『270ポイント』からのスタートとなる」

 

 その宣告に、Aクラスの生徒たちの間に動揺は起こらなかった。まだ試験が始まってもおらず、すでに一人分のマイナスを背負わされたというのに落ち着いた雰囲気を醸し出している。優秀とされるAクラスにとって、出鼻をくじかれた形だというのにだ。

 だがAクラスとは違い、他クラスには多少の驚きはあったようだ。

 

「試験期間は、今日から数えて七日目。八月九日の正午をもって終了とする。それまでの一週間、諸君らにはこの無人島で集団生活を送ってもらう」

 

 こんな試験ありえないだの、非現実的だの、という不満をぶつける生徒。

 口々に上がる非難と抗議の声。だが、教師たちは微動だにしない。真嶋はもちろん、我がCクラスの担任である坂上も、冷ややかな目で騒ぐ生徒たちを見下ろすだけで、その不平不満をまるで見えない虫でも払うかのように冷徹にいなしていく。

 声をあげた生徒諸君のその意見に頷くべきなのか、よくあることだと笑うべきなのか。悩ましいところだ。そんなことを考えていたら、別に試験を遊んで過ごしてもいいよーという教員たちからのありがたいお言葉をかけてもらえる。300Ptを使って遊んで過ごすのも自由というわけだ。

 ……論外な意見に感謝の苛立ちが起こる。

 

 教師と生徒が不毛なやり取りをしている間にも、作業着を着た大人たちが次々と物資を運び出し、各クラスの列の前に無造作に積み上げていく。

 

 どうやら、あれが最初に全クラスへ支給される最低限のアイテムらしい。

 先程説明のあった通り、8人が寝泊まりできるサイズの大型テントが2つ。火を起こすためのマッチが一箱。ポイントを使って購入できる物品リストが記載されている分厚いマニュアル本が一冊。それに、ワンタッチで設営できるらしい簡易トイレのセット。

 

 個人用の支給品としては、人数分の新品の歯ブラシが1本ずつ。そして、真っ黒でゴツいデザインの腕時計が配られ始めていた。これにはGPS機能や体温・脈拍を測るセンサーが内蔵されており、試験中は絶対に外してはいけないらしい。さらに時計は完全防水に加えて非常時のリタイアボタン付きらしい。寛大な配慮に謹んでお礼申し上げるべきだろうか。

 

「あ、日焼け止めもありますよ」

 

 隣でひよりが、配られた物資の入ったダンボール箱を覗き込んで言った。

 見れば、女子用として日焼け止めのボトルが無造作に放り込まれている。どうやらこれに関しては支給制限がなく、いくらでも使っていいらしい。

 俺は心の中で小さくガッツポーズをした。この殺人的な日差しからひよりの白い肌を守るための必須アイテムだ。これだけは後で多めに確保しておかなければならない。

 

 一通りの支給が行き渡り、生徒たちの抗議の声も徒労感から徐々に小さくなり始めた頃。

 真嶋が、今日一番の、そして最大の爆弾を投下した。

 

「最後に。この試験において最も重要なルールを伝える」

 

 真嶋の声に、全員の視線が再びお立ち台へと集まる。

 

「試験終了日である七日目の正午。その時点で各クラスに残っていた試験専用ポイントは──そっくりそのまま、夏休み明けのCP(クラスポイント)へと加算される」

 

 一瞬の静寂。

 直後、先ほどの不満の声とは比べ物にならないほど、一際大きなざわめきが砂浜を揺らした。

 

 支給された300ポイント。仮に一週間、水も食料も一切買わずに我慢し通せば、まるまる300のクラスポイントが手に入るということだ。クラスポイントの変動は、毎月のプライベートポイントの支給額に直結し、クラスのランクの昇降格を決める絶対的な数字である。

 単なるサバイバル生活だと思っていたものが、突如としてクラスの命運を懸けたポイント争奪戦へと変貌した瞬間だった。

 

 ──────ー

 

 先程の説明まで全クラスまとめて行われたが、最後の追加ルールは各々の担任が受け持ちのクラスへと説明を初めた。

 坂上から各クラスはリーダーを一人選出することと、キーカード、そしてポイントを使い切ってのリタイア時のポイント推移。

 そして最後に要点をまとめたルール説明が行われた。

 

 

【基本ルールと支給品】

 

 各クラスは1週間、無人島で集団生活を行う。

 

 各クラスには試験専用のポイントが「300ポイント」支給される。

 

 試験終了時に残ったポイントは、すべて夏休み明けのクラスポイントに加算される。

 

 生徒はGPSや体温・脈拍センサー、緊急ボタンを備えた腕時計を試験終了まで常に身につけておかなければならない。

 

 0ポイント時にリタイア者が出てもマイナスにはならない。

 

 点呼は各クラスのベースキャンプで行われる。ベースキャンプを一度決めた後は正当な理由なく、移動の変更は不可能。

 

【物資の購入】

 

 飲料水や食料、追加の設備などは、支給された300ポイントを消費して購入する。

 

 

【スポットの占有とリーダー】

 

 島内には複数の「スポット」が存在し、専用のキーカードを使って占有することで、そのクラスのみが自由に使用できるようになる。

 

 占有の効力は8時間で、一度占有するごとに1ポイントのボーナスを獲得できる。

 

 キーカードを使用できるのは各クラスの「リーダー」のみで、正当な理由なくリーダーを変更することはできない。

 

【最終日のリーダー当て】

 

 7日目の最終点呼時、他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。

 

 見事的中させた場合、当てたクラス1つにつき「50ポイント」を獲得できる。

 

 的中されたクラスはペナルティとして「マイナス50ポイント」となり、さらにボーナスポイントも没収(0ポイント)される。

 

 リーダー予想を外した場合は、ペナルティとして自クラスが「マイナス50ポイント」となる。

 

【ペナルティ(減点・失格)】

 

 著しく体調を崩したり大怪我をして続行不可能(リタイア)と判断された生徒が出た場合、「マイナス30ポイント」

 

 環境を汚染する行為が発覚した場合、「マイナス20ポイント」

 

 毎日午前8時と午後8時の点呼に不在だった場合、1人につき「マイナス5ポイント」

 

 他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、「マイナス50ポイント」

 

 他クラスへの暴力行為、略奪、器物破損などを行った場合、その生徒の所属クラスは「即失格」となり、対象生徒個人のプライベートポイントも全没収される。

 

 許可なく腕時計を外した場合もペナルティが課せられる。

 

 ────────────────ー

 

「……説明は以上だ」

 

 担任の坂上が無機質な声でそう告げると、これ以上生徒たちの不満に付き合う気はないとばかりに背を向け、少し離れた場所に設営されつつある職員用の大型テントへと歩き去っていった。

 波の音と、容赦なく照りつける太陽の熱だけが砂浜に取り残される。

 担任からの説明が終わっても、Cクラスの生徒たちは誰一人としてその場から動こうとしなかった。いや、動けなかったと言うべきか。

 

 戸惑い、不安、そして「クラスポイントへの直結」という重すぎるルールの圧迫感。それらが鎖となって彼らの足を砂浜に縫い付けているようだった。

 だが、その硬直は一つの意志によって破られる。

 

 クラス全員の視線が、自然と一人の男へと吸い寄せられていた。我らがCクラスの絶対的な独裁者、龍園翔である。

 龍園は口の端に不敵な笑みを貼り付けたまま、ゆっくりと歩き出した。

 彼が足を踏み出すと、前に並んでいた生徒たちは弾かれたように左右へと散り、砂浜にモーゼの十戒のごとき道がスッと開けていく。誰も彼に声をかけることはおろか、進路を塞ぐことすら恐れているのだ。

 

 龍園は開けた道を悠然と進み、無造作に積み上げられた支給品の山の下へと辿り着いた。なぜかその後ろには、金魚のフンのように石崎くんがオロオロと付き従っている。

 

 無言のまま、龍園は支給品の山へ手を伸ばした。

 テントでも、簡易トイレでもない。彼が手に取ったのは、試験のルールや購入できる物品のリストが記載されているという、あの分厚いマニュアル本だった。

 パラパラと中身を確認して、クラスに的確な指示を出す……のかと思いきや。

 

 彼は唐突に、プロ野球のピッチャー顔負けのダイナミックなフォームで大きく振りかぶった。

 

『……え?』

 

 クラス全員の心が一つになった瞬間だった。

 突然のご乱心に、呆然と立ち尽くすクラスメイトたち。あの常に冷酷で計算高い龍園さんが、いきなり本を全力でブン投げようとしている。この殺人的な暑さで、ついに独裁者の頭がおかしくなってしまったのだと、誰もが確信した。

 

「フッ!」

 

 鋭い呼気と共に龍園の腕がしなり、マニュアル本が勢いよく投擲される。

 

 凄まじい風切り音と共に放たれた分厚い本は、明後日の方向、果てしなく広がる大空へと飛んでいく。やがて天空の彼方でキラン☆と小気味良い音を立てて、昼間だというのに輝く星となった。

 そう、これこそが後の世で『ドラゴン座』と呼ばれる星座が誕生した瞬間であり、アテナを守るため、過酷な運命に立ち向かう青銅聖闘士(ブロンズセイント)・ドラゴン龍園の長く苦しい戦いの幕開けであった──。

 

 

 ……などという現実逃避めいたギャグ漫画のような展開が起こるはずもなく。

 空気を裂いて飛来した分厚い本は、列の前方に立っていた俺の手のひらの中に、パァン! と小気味良い破裂音を立てて完璧に収まっていた。

 

 

 一瞬、砂浜の時間が止まったかのような錯覚に陥った。

 クラスの王が突然起こした常軌を逸した行動への困惑。そして、その矛先がなぜ『佐伯了』に向かったのかという疑問。

 

 無理もない。俺は入学以来、クラスの揉め事にも、どころか会話さえまともに関わろうとせず、ひよりの隣で空気のように過ごしてきた人間だ。大半のクラスメイトの目には、無害で無口で陰気な男、もしくはそもそも存在を認識さえされていないだろう。

 

 そんな接点など皆無に等しいはずの人物に対し、龍園が言葉一つ交わさずに癇癪を起こしたように本を投げつけ、俺もまた無言のまま、さも当然の儀式であるかのようにそれを受け取っているのだ。

 

 幹部連中を除いて周囲の連中からすれば、意味不明を通り越して不気味ですらあるはずだ。「えっ、何?」「あれ、誰だっけ……?」「なんで佐伯……?」という声にならない戸惑いの波が、ひしひしと肌を打ってくる。

 

 だが、俺はそんな周囲の空気など完全に無視した。

 知ったことではない。それに、俺自身もこのマニュアル本の中身──特に、物品がどの程度のポイントを吸い取るのかという価格設定には大いに興味があったからだ。否、この価格設定が、この無人島試験の攻略の全てだと言ってもよかった。

 

 受け取ったマニュアル本をバサリと開き、ページに素早く目を走らせていく。

 文章をベラベラと高速で読み込んでいるわけではない。俺が追っているのは、ひたすら「数字」だ。

 水、食料、追加のテント、釣り竿、ナイフ。名前すら知らないような現代特有のレジャー用品も数多く載っているようだが、見知った実用品もかなりの数がラインナップされている。

 俺は無言のままページをめくり続け、ポイントを脳内に叩き込んでいった。

 

 ──────────────ー

 

 ジリジリと肌を焼くような太陽の光が降り注ぐ中、分厚いマニュアル本のページをめくる乾いた音だけが、不気味なほど静まり返ったCクラスの集団の中で響いていた。

 

 クラスの絶対的支配者である龍園翔が、なんの脈絡もなく一人の目立たない男子生徒──佐伯了に向けてマニュアル本を投げつけたという異常事態。周囲の一般生徒たちは、息を潜めてその光景を見守るしかない。「なぜ佐伯に?」「龍園さんは何を考えているんだ?」という無数の疑問符が宙を舞っているが、誰一人として口に出す勇気は持ち合わせていない。

 

 そんな張り詰めた空気の中、当の佐伯は涼しい顔でパラパラとページをめくり続けていた。

 しかし、クラスの中でほんの一握り──幹部たちだけは、この無言のやり取りが持つ意味を正確に理解していた。

 

「あっつ……」

 腕を組み、不機嫌そうに舌打ちをしたのは伊吹澪だった。彼女の視線の先には、まるで周囲の喧騒など存在しないかのように数字の羅列を追う佐伯の姿がある。佐伯になぜ本を投げつけたのかも理解している彼女は他の生徒とは違い、暑さを感じる余裕があった。

 

 その隣で、巨漢のアルベルトはサングラスの奥の目を細め、ただ無言で静かに頷いている。彼もまた、佐伯という男が持つ底知れぬ力を察知している一人だ。

 

 そして、少し離れた場所で状況を見守っていた石崎大地は、冷や汗を拭いながら引きつった笑いを浮かべていた。

「マジかよ……いきなり佐伯さんに振るのか。まあ、この状況じゃ頼りになるのはあの人しかいねえけどよ……」

 石崎の呟きは波の音にかき消されたが、その顔には明らかな安堵の色が浮かんでいた。

 

 さらに、そんな物騒な空気を纏う幹部たちとは対照的に、ふんわりと柔らかい笑みを浮かべて佐伯を見つめている少女がいた。椎名ひよりである。

 

「ふふっ。了くん、真剣なお顔も素敵ですね」

 

 彼女だけは、この殺伐とした無人島という舞台にあっても、まるで休日の図書館で読書をする幼馴染を見守るかのような、穏やかで絶対的な信頼に満ちた眼差しを佐伯に向けていた。彼女は佐伯がどれほど自分を大切に思い、そしてどれほど常識外れの力を持っているかを知り尽くしているのだ。

 

 やがて

 パタン、と。

 小気味良い音を立てて、佐伯がマニュアル本を閉じた。長い時間のようにも感じたが、実際はわずかな時間だ。

 

 その音を合図にするかのように、これまで静止していた龍園がゆっくりと動き出した。彼は傍らに控えていた石崎に顎で「そこに残れ」と合図を送ると、無言のままクラスメイトたちの輪から離れ、一人で波打ち際へと向かって歩き始めた。

 

 寄せては返す波が白い飛沫を上げ、足元の砂を濡らしていく場所。そこは、クラスメイトたちの耳から完全に隔離された、天然の密談スペースだった。

 

 佐伯は、龍園が背中で語る意図を正確に察知していた。

 彼は閉じたマニュアル本を小脇に抱えると、慌てるでもなく、急ぐでもない、普段通りの悠然とした足取りで龍園の後を追った。

 

「お、おい……佐伯?」

 恐る恐る声をかけようとした男子生徒、小宮を、伊吹が鋭い視線で射抜いて黙らせる。

 

「放っておきなさい。龍園の指示よ」

 その冷ややかな一言で、Cクラスの生徒たちは再び沈黙の彫像へと戻った。ひよりだけが、遠ざかる佐伯の背中を見送って小さく手を振っていた。

 

 波打ち際。

 ざざーん、と定期的に響く波の音が、周囲のあらゆる雑音をかき消してくれる。

 海を見つめたまま立ち止まっていた龍園の隣に、佐伯が並び立った。彼らの背丈はそれほど変わらない。佐伯は特別背が高いわけでも、威圧感のある巨躯を誇っているわけでもない。むしろ、平均的な高校生の枠に収まる体格だ。だが、龍園には分かっていた。この男の内に秘められた、爆発的で圧倒的な『暴力』の底知れなさを。

 

「……読み終えたようだな」

 龍園は視線を海に向けたまま、背後のクラスメイトたちには絶対に聞こえないよう、声を極限まで落として口を開いた。

 

「ああ。大体の物価とルールは頭に入れた。ふざけた価格設定だが、まあ、学校側が俺たちからポイントを巻き上げようとしている意図は透けて見えるな」

 

 佐伯もまた、海風に紛れるような低い声で淡々と答える。その声には焦りも不安も微塵も感じられない。まるで休日のピクニックの予定でも話しているかのような平坦さだった。

 

 龍園はふと視線を動かし、遠く離れた砂浜の各所を展開する他クラスの動向を観察した。

 

 Aクラスはすでに動き出していた。葛城康平を中心とした集団が、統率の取れた無駄のない動きで必要な物資をまとめ、迷うことなく鬱蒼としたジャングルの奥へと足を踏み入れようとしている。あそこには優秀な頭脳が揃っている。おそらく、すでにマニュアルの分析を終え、最適な野営地の選定とポイント消費の計算を完了させているのだろう。

 

 少し離れた場所では、Bクラスが一之瀬帆波を中心に巨大な円陣を組んでいた。彼女の明るく通る声が、不安に駆られる生徒たちを励まし、鼓舞しているのが遠目にも分かる。彼らは持ち前の圧倒的な団結力と協調性で、このサバイバルという非日常すらもクラスの絆を深めるイベントとして乗り越えていく気なのだろう。

 

 そして、もっとも悲惨なのはDクラスだった。平田洋介が必死に声をかけて場をまとめようとしているものの、ルールへの不満を漏らす者、勝手な行動を取ろうとする者、ただ泣き言を言う者が入り乱れ、完全に右往左往している。統率などという言葉からは最も遠い、烏合の衆の典型のような有様だった。

 

 とはいえ、龍園もDクラスのことを笑える立場にはない。Cクラスは不平不満の右往左往こそしていないだけに過ぎないことをクラスの頭として理解している。

 それらの状況を冷徹な瞳で分析し終えると、龍園は再び視線を佐伯へと戻した。

 

「俺にはすでに策はある。が──てめえの自信のほどは?」

 

 探るような、それでいてどこか挑発するような龍園の問いかけ。

 それは、クラスの命運を握る独裁者としての、極めて現実的で冷酷な計算に基づくものだった。

 

 龍園の脳内では、すでに幾通りものシミュレーションが高速で展開されていた。

 素人の高校生が、ただ真面目にキャンプもどきのサバイバル生活を送ったところで、一週間後に残せるポイントはせいぜい初期支給ポイント300の半分程度、良くて170ポイントといったところだろう。水、食料、衛生環境。人間が最低限の文化的な生活を維持するためには、嫌でもポイントを消費せざるを得ないようにシステムが組まれている。それに加えて一人でも脱落者を出してしまえばそれだけで−30ポイント。

 

 しかも、ここはCクラスだ。Bクラスのような強固な団結力もなければ、Aクラスのような緻密な計算ができる優秀な頭脳の持ち主がゴロゴロいるわけでもない。

 

 Aクラスの連中の中には、アウトドアの知識に長けたサバイバルオタクや、ボーイスカウト上がりのような専門知識を持つ者がいる可能性が十分に考えられる。彼らを中心にして効率的にポイントを節約する戦術を取られれば、Cクラスに勝ち目はない。我がクラスにそんな都合の良い生徒など、ただ一人の例外を除いて存在しないのだから。

 

 それに加えて、龍園自身にも致命的な弱点があった。

 彼は完全な都会育ちである。これまでの人生で、キャンプやアウトドアめいた経験といえば、小中学校の行事で一、二回、教師の引率のもとでキャンプを行い、カレーを作ったことがある程度だ。その際も、テントはすでに張られており、安全な食材と水が完璧に用意されていた。お膳立てされた大自然でしかなかった。

 

 本当の意味でのサバイバル、すなわち、火を起こす方法、食べられる野草の見分け方、安全な水の確保、そして急な天候変化への対応など、実践的な知識は何一つ持ち合わせていない。

 トップとして君臨する以上、的確な指示を出し、クラスを導かなければならない。だが、知識も経験もない自分が、知ったかぶりで頓珍漢な指示を出せば、最悪の場合リタイア者を続出させ、クラスは自滅する。

 

 つまり、正攻法──「真面目にサバイバルをしてポイントを節約する」という土俵で戦えば、Cクラスに勝ち目など万に一つもないのだ。龍園は、その冷酷な事実を最初から正確に理解していた。

 

 だからこそ、彼はこの男の意見を問うた。

 学力試験や一般的な学校生活のルールにおいては、佐伯了という男はさっぱり役に立たない。むしろ、いつ暴発するか分からない危険な爆弾でしかない。

 しかし、「身体を使う」という、この極めて原始的なルールの下においては、佐伯は随一にして最強の駒となる。

 

 龍園は、佐伯がどのような修羅場を潜り抜けてきたのか、そのすべてを知っているわけではない。だが、あの人間離れした身体能力、躊躇のない暴力、そして何より、どんな極限状態に置かれても決して揺らぐことのない異常なほどの精神力。それらが、この無人島という舞台でどれほどのアドバンテージをもたらすか、容易に想像がついた。

 

 この男の意見を聞き、その能力をどうクラス全体に還元させるか。方針を最終決定するのは、それからでも遅くはない。

 龍園は口元に微かな笑みを浮かべた。隣の男の顔にはクラスの誰にも浮かんでいなかった余裕が透けていた。

 

 複雑な盤外戦術の抜け穴を必死に探ったりするような、不確実な博打を打つ必要すらないかもしれない。ただ純粋に、圧倒的な『個人能力』という物理的な力で、他クラスを蹂躙し、トップをもぎ取ることができる。

 こんなにも分かりやすく、己のクラスに都合の良い試験を用意してくれた学校側に感謝したい気分だった。

 

「楽にトップを取れる試験で助かったよ」





…カ…カラダじゅうがいてえ…!!
やっぱ 3倍の更新拳ってのはムリがあるみてぇだ…

いつもの3倍感想を貰わねえとカラダが持たねえぞ…!!

ーーーーーーーーー

それはおいておき…今更無人島試験のルール説明いる?
もうみんな知ってるっしょ…?ていうか、まーだ何も進んでなくね?
他の人の二次はもっとトントン進んでくよ?たぶん。
なぜに君のはこんなに歩みが遅いんだい?
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