吾輩は呂布である   作:リバーシブル

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「解答」

 意味深な小テストの翌日、月も変わり5月1日を迎えた。

 早速、自分のポイントを確認してみる。俺の手持ちのポイントは約5万ポイントほど増えていた。

 

 ひよりの予想通り、10万ポイントは振り込まれていない。

 これが俺だけなのか1年全体なのか、それともクラス単位なのかは判断できないが大方予想通りの結果だ。

 

 そもそも5万も支給されたら普通の学生なら、余裕で一月程度過ごせるだろう。

 しかし、このポイントの使い途が単純なお小遣いだけなのか。

 ポイントの説明にあった買えないものはない。それがどういう意味を持つのか気になる所だ。

 

 俺はいつもよりも早い時間に寮を出て、自分のクラスへと向かう。

 なぜだか、ひよりもそうするような気がした。

 ほとんど生徒がいない時間に教室へとたどり着いた。クラス内には1人の生徒がいる。

 ひよりは出会った時と同じ様に本を読んでおり、俺が入ってくると顔を上げた。

 

「佐伯くん、おはようございます。今日は随分と早くお着きですね。なにかありましたか?」

 

「おはよう。椎名さん、わかってるのに聞いちゃう? 答え合わせがしたくてさ、ポイントはいくら振り込まれてた?」

 

 ひよりも俺も普段より幾分も早い時間の登校だ。それが何を意味するかなど聡明な彼女が理解していないはずがない。

 

「ちょっぴり焦らしたくなったのです。勿体ぶることでもないですし、私の今月の支給額は4万9千ポイントでした。佐伯くんはどうですか?」

 

「ビックリな事に同じだね。これが奇遇じゃないってことなら、支給額はクラス単位で統一されてるのかな?」

 

「そうみたいですね。今朝、ほかのクラスの人はポイントが支給されていないと騒いでいましたから」

 

「振り込まれていない? ってことは0か。うーん、クラスによってはハズレを引いたりするのかな。4クラスの内、大当たり、当たり、外れ、大外れみたいな?」

 

 だとするとこの4万9千は当たりなのか。0に比べれば当たりだ。けれど他の大当たりは桁が違うかも知れない。

 

 俺のただのおみくじなんじゃないかという、憶測じみた考えは即座に否定される。

 

「そのような運が絡んだものではないと思います。なんらかの基準を基に支給されるポイントの加点・減点を行ったのではないでしょうか。0のクラスは減点が上回り、ポイントがなくなってしまったと考えられませんか?」

 

「現状否定できるだけの材料はないね。でも根拠はなにかあるの?」

 

「不自然な点は佐伯くんも感じていたじゃありませんか。義務教育ではないとはいえ、先生方から授業中に一切注意がない点や、そこかしこにある監視カメラは学校として異様です。ですがこのカメラを通して学校側が採点を行っていたなら納得できます」

 

 ひよりは淀みなく根拠を告げてくる。今回のポイント騒動が運によってではなくクラス成績の結果だと言いたいらしい。

 そして俺に反論できる手札はなく、彼女の意見は実に理に適っていた。

 

「全く反論が浮かばないな、そっか、個人単位じゃなくクラス単位での成績だからポイントが同じなわけね。これは荒れるクラスが出てきそう」

 

「同感です。個人の減点がクラス全体のマイナスです。もちろん個人の加点もクラスのプラスになると言えますが、人は得てして悪い部分に目がいきます。減点された人が公表されるなら罰する動きになっても不思議ではありません」

 

「カメラが有るとはいっても死角がないわけじゃないからね。裏じゃどんな事がおきることやら。楽しい学校生活になりそうだ」

 

「佐伯くんは怖くはないのですか? 先日話した通り、男子生徒の何名かは暴力を振るわれた跡がありました。このクラスは既に直接的な行動に出ていると考えて間違いないでしょう。自分がその対象になるとは思わないのですか?」

 

「んー、標的になることで問題が起きるならね。どっちかっていうと俺のことより椎名さんが心配。なにかあったらすぐに言ってね。きっと力になるから」

 

「弟子に心配されるほどヤワではありません……。でも、ありがとうございます。私が困ったことになったら力を貸してほしいです」

 

 彼女が料理の師としての面目のためか強がりを言う。

 その後、改めて助力のお願いをしてきてまことに愛らしい。

 

「師を助けるのは弟子の役目でしょ。あ、ちょっとトイレいってくるね」

 

 –––––––––––––––––––––––––––––

 

 ひよりとの会話を一時中断して、廊下に出た。

 徐々に登校してきている生徒とすれ違う。やはり話題に上がっているのはポイントについての話ばかりだ。

 俺は他クラスに知り合いなどいないので会話を盗み聞きして情報を集めるとする。

 

 早速となりのクラスに足を向ける。

 

「まじ、なんでポイント振り込まれてないんだよ。ありえなくねー?」

 

「お前もかよ、俺も今朝ジュース買えなくて焦ったし。学校からは詫びポイントでも貰わないとやってけないわ」

 

 一番のハズレである0を頂戴したのはDクラスのようだ。

 クラスの外の廊下まで聞こえる声量で会話が丸聞こえしている。盗み聞くまでもなかった。賑やかといえば聞こえは良いが、騒々しいだけだ。

 

 まぁ、学生生活を楽しんでいるようでなによりだ。

 

 そのDクラスとは対象にAクラスは特に目立った混乱が見受けられない。優秀なブレーンがクラスを律しているのか、有無を言わさず恐怖で支配しているのか定かではないが不気味な沈黙があった。

 

 察するにポイントに増減があることを見抜いたヤツがいる。恐らくポイントの支給額に問題がなかったので静観しているのだろう。

 

 

 Bクラスにも立ち寄るが、なにやら不審な目で見られ長居はできないようだ。特に接点がないはずのBクラスからなぜこんな目で見られているのか。疑問は浮かぶが、大した問題ではない。

 気配を探ると、Aクラスほどではないが落ち着いた雰囲気を感じる。ここも当たりのクラスだったか。

 

 

 最後に我らがCクラスに戻る。

 クラス内にはひより以外の生徒が登校してきており姿が確認できる。だが先ほどのA・Bクラスに比べて落ち着きがなく支給ポイントが減額している事に騒いでいる。

 残念ながらハズレの分類のクラスのようだ。隣のDクラスは大ハズレを引いているが。

 

 

 しかしこのクラスが他の生徒から見てハズレだろうと構わない。

 ひよりが居るクラスならそれが俺にとって一番の当たりだ。しかし、他の雑兵が彼女に迷惑をかけ、害となるなら態度を改めさせるか無理ならば消えてもらうとしよう。

 

 俺は自分の席に戻る。

 

「男子トイレは大人気だったようですね。ポイントでも配られていましたか?」

 

 ひよりから声がかけられる。トイレの時間にしては長かったか。

 余計な言い訳をせずに正直に現状を報告する。

 

「目敏いね。他のクラスを偵察してきた。結論から言うと、0を引いたのはDクラス。残りの二つは少なくとも内のクラスより落ち着いてた。支給額にそこまで問題はなかったようだね」

 

「報告、ご苦労さまです。ですが、どうしてそういう楽しそうなことを1人でするんですか。私も探偵ごっこをしたかったです」

 

 ひよりがむくれる。他クラスのポイントより諜報活動の方が彼女は興味を持ったらしい。

 実に彼女らしく、つい笑ってしまう。

 

「ごめんごめん、今度はちゃんとホームズを誘うから。代わりにお詫びといってはなんだけど、今度評判の和菓子店に連れてくから許して。水まんじゅうが美味しいらしいよ」

 

「あ、それ私も耳にしました。茶道部でも話題になってて、絶品だそうです。しかし予約制で来月まで埋まってると聞いていますが?」

 

「え? そうなの!? ……というのは嘘です。実は先月から予約してましたー。ってわけで今週の土曜開けといて」

 

「ワトソン君は手際が良いですね。助手として見事な働きです。でも私で良いのですか、本来の誘うお相手の方がいたのでは?」

 

「誠に残念ながら、椎名さんを除くと友達どころか、知り合いもいないのです。のでお願いですから一緒に行ってくれませんか?」

 

「ふふっ、佐伯くんは妙な所でサプライズを仕掛けてきますね。ええ、土曜日楽しみにしていますよ」

 

 

 彼女に土曜日デートの約束を取り付けて終えると、予鈴が鳴る。

 担任教師が荷物を抱えて入ってくる。ようやく答えを貰えるらしい。

 

「おはよう。もう全員揃っているな? 早速だが皆の疑問について答えよう、ポイントの件についてだ。言葉での説明より実際に見たほうが早い」

 

 黒板に厚手の紙を磁石で貼り付け、全員がその紙に注目する。

 内容を理解するのに大した時間は必要なかった。ひよりが予想した通りの中身であって、彼女の考えを聞いていた俺は特に思うところがなかった。

 

 

 Aクラス 940cp

 Bクラス 650cp

 Cクラス 490cp

 Dクラス   0cp

 

 

「初めにcp(クラスポイント)というものを説明しよう。入学初日に言ったが、この学校は実力で生徒を測る。このポイントは各クラスの実力だと思ってくれ」

 

 そんな事を言ってたか? 入学初日の俺は彼女と出会った直後で、担任の話など記憶にない。

 まぁ、クラス単位での換算というのは想定してたし、このポイントを見るに加点式ではなく減点式なんだろ。

 

「まず、初めに言っておくと全クラスに1000 cp が与えられていた。日頃の生活態度を採点し、学校側が問題行動を確認したら cp から減点していた。各月の1日に支給されるポイントは1 cp につき100 pt (プライベートポイント)が支給される。このクラスの cp は490だから49000 pt が与えられたというわけだ」

 

 クラスポイントとやらを百倍する意味がわからない。計算をしやすくするためなのか?

 

 それにしてもDクラスはなかなか愉快なクラスだ。既に0ポイントとは。

 狙ってこの結果を出したなら肉を切らせて骨を断つ為に活発的な動きに出るだろう。失うものはないということはありとあらゆる無茶な事ができる。

 

「Aクラスだけポイントが殆ど減ってないじゃないですか、学校が贔屓とかしてるんじゃないの?」

 

 女子の一部がAクラスの持ち点に難癖を付け始める。Cクラスのポイントの減点について質問しない所を見るに問題があることは自覚しているようだ。

 

「安心していい、学校側は不正を一切していない。気づいているものがいるかもしれないが、この学校のクラス分けは適当に割り当てられているわけではない。優秀な生徒順にクラス分けをしている。君たちが平均より下の評価をされたというだけだ」

 

「その優秀な生徒とやらの基準は?」

 

 男にしては髪が長く、バンドマンみたいな生徒が短い質問を飛ばす。

 

 

「人事評価の内容については教えられない。だが明確な基準が存在しているとだけは伝えておく。さて諸君の1ヶ月の評価がこれだ。cp だけを見ても上から3番目、下から数えた方が早い。これだけを見ても学校側の評価が間違ってないことの証明になると思わないかね?」

 

 

 担任は暗にお前らが優秀ならクラスポイントの結果が、奇麗なクラス順にならないと言いたいらしい。

 尤もな意見だ。少なくとも依怙贔屓など言い出している時点で問題外だろう。

 

 

「厳しいことを言ったが、そう落ち込むこともない。下を見ても仕方がないがDクラスは度重なる問題行動の結果、全ての cp を吐き出した。これは歴代初の偉業だ。そしてクラス担任としては先月の間でポイントについて疑問を持ち、質問に来たことを嬉しく思うぞ、龍園(りゅうえん)

 

 

 他の生徒の視線の先には先ほどのロン毛の兄ちゃんがいた。豪快な見た目とは裏腹に細かいことに気付き質問をしたらしい。

 

「はん、このくらい俺の他にも気づいていたやつはいたさ。そんなことより、さっきの口ぶりからすると cp が引かれる問題行動とやらもマトモに答えるつもりはないんだろ?」

 

「察している通りだ。答えられる範囲で言うと、当たり前の行動をしておけば引かれることはない。そう考えたから君はクラスメイトに態度を改めさせたのだろう? 4月当初の生活態度を続けていたら cp は今の半分ほどになっていたぞ」

 

 

 クラスがどよめいた、どうやらボス猿としてはなかなかに優秀らしい。

 暴力を使いクラスをまとめたか。

 俺に被害が来なかったのは、彼女の前とは言え優等生な態度を取っていたからからだろう。

 

 クラス注目の男は気にもとめずに口を開く。

 

「仮にだがよ、俺たちが今回 cpを丸々1000残していたらどうなったんだ? 優秀なクラスと称した連中より、落ちこぼれクラスが上だった場合、学校側としての判断が間違っていたと謝罪でもするのか」

 

 

「面白い仮定だ、当然ながら謝罪などしない。が、その場合はこのクラスがAクラスに上がることになる。ここからが重要な点だが、Aクラスになる恩恵は、我が校で希望の進学、就職先を100%叶えられるのは卒業時にAクラスに在学している生徒のみだ」

 

 

 一段とクラスが騒がしくなる。この学校一番の旨味である話に後付で条件を追加されたのだ、当然と言える。落ち着いているのは俺のように初めから興味もないやつだけ。

 

 隣のひよりの様子を伺ってみると驚いてはいるようだが、そこまでショックを受けているようには見えない。

 

「君たちの頑張りによってはAクラスも夢ではない。クラスの中にはこの1ヶ月間減点なしで過ごしている者もいて悲観するには早いと言っておく。以上が学校の仕組みについてだ。最後にこれを知らせておく」

 

 

 黒板に、追加するように貼り出された一枚の紙。そこに載っていたのは先日の小テストの結果だ。

 名前と点数が記入され、全員の結果が一目瞭然になっている。

 点数の高い順に上から並んでおり、俺の点数は60点で真ん中より下の方にあった。ちなみにひよりはクラス最高得点で一番上に名前がある。

 

 

「今回のクラス平均は71.5点。今後行われる中間テスト、期末テストで1教科でも赤点を取れば退学となる。学校の定められたルールだ、勉学にも励んでくれ」

 

 

 平均以下の俺としては実に肩身が狭い。

 隣のひよりが心配そうに俺を見ている。穴があったら入りたい……。

 

「当然ながら退学は脅しではない。信じられないなら先輩方に聞いてみると良い、事実かどうかすぐに分かる。これで説明は終わりだが、なにか質問はあるかね? ……よろしい、では諸君の健闘を祈る」

 

 

 担任は説明べきことは告げたと言わんばかりに、教室から出ていく。

 残されたのは困惑しているクラスメイトたち。

 

 

 すぐに鐘がなり落ち着かないまま授業が始まる。

 今までと違い、誰も私語も居眠りもしない生徒諸君。

 






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