インフィニット・ストラトス─黒き死神は常闇を舞う─ 作:鴉@地獄よりの使者
一夏と鈴の試合後始まり2分程経過した。
下馬評通りに行けば鈴の勝利は揺るがないだろう。
だが現実は違っていた。
青龍刀を振り回しながら突っ込んでくる鈴。
それに対して的確に牽制射撃で応戦し、距離を詰められたなら即座に持ち方を変え銃身の下の刃で受け流して軽い斬撃で装甲を削りながら鈴の得意な距離に入らないようにする一夏。
試合は五分五分より若干一夏寄りと言った所となり会場は騒然となっていた。
鈴「ちょこまかと!正々堂々と打ち合いなさいよ!」
一夏「そんなデカい得物相手に嫌だっつの!ただお前の速さに目が慣れてきた頃だしそろそろやるか!」
一夏は一層鈴から距離をとると腰のホルスターにハンドガンを収め、両のウィングに仕込まれた柄を握る。
引き抜かれたそれには決定的なものが不足していた。
刀身である。
鈴「あんた舐めてんの?」
一夏「お楽しみはこれからだぜ。」
そう言うと2本の柄を組み合わせて大きな柄を作る。
すると柄の先から黄色い光が出現しやがて片刃の大きな刃を作る。
鈴「ビームサーベル?!なんつう出力っ………てかそもそもサーベルってデカさじゃないじゃない!」
一夏「和真いわくバスターソードらしいぞ。まぁそれはさておき第2ラウンドといこうぜ!」
一夏は白式のスラスターを全開にして鈴へと突っ込む。
鈴は慌てること無く受け流すがさすがに全力で打ち込まれた衝撃があった様で体制を崩し高度を下げた。
それを見逃さず一夏はバスターソードを構えて突貫。
鈴に向けて振り下ろされようとしたその時丸みを帯びたシルエットが幾つもアリーナのバリアを突き破ってくる。
鈴「なっ?!」
一夏「なんだあの丸っこいの!?」
波乱の幕は切って落とされた。
一方ドームが破られる少し前。
和真たちは一夏の成長ぶりに舌を巻いていた。
箒「信じ難いな……、少し前まで銃なんて扱ったことのない一夏があそこまで……。」
ジン「俺たち総出で育ててんだ。そうなって貰わなきゃ困る。」
リディ「動きながらの射撃に関してはまだまだだ。まぁ一応の牽制にはなっているから今回に関しては及第点と言ったところだな。」
和真「それに剣術とあの銃の扱いに関しては俺が叩き込んでいる。そんじょそこらのやつには負けんさ。ただまだまだ危なっかしいがな。」
デュオ「攻撃の受け流し方もまだまだだ。あんな流し方じゃいつかでかいの貰っちまうぞ。まぁ今回に関しては何とかなってるようだがな。」
各々が一夏の総評をしている中、和真達の待機状態のジェスタに通信が入る。
《IS学園に接近する機影多数有り。照合の結果、亡国の運用するマンロディと断定。推定目標は織斑一夏への威力偵察、もしくは誘拐と見られる。注意されたし。》
4人がメッセージを読み終え顔を見合せた直後バリアは破られ、マンロディがアリーナ内になだれ込んでくる。
おおよそ数は10。
当然この様な自体になればパニックが起き我先にと観客席の生徒たちは出口へと向かう。
しかしなぜか防火用のシャッターが降りており外に出ることが出来ず更に混乱が大きくなる。
和真「えげつねぇことするぜ奴さんは。」
デュオ「この感じだとシステムもロックされてて手動でも開かねぇだろうな。」
案の定教員が手動でシャッターを開けようとするが開かない。
ジン「で、こっからどうする大将、正直やることは決まってると思うが。」
リディ「俺とジンで避難経路と誘導、カズとデュオで中の奴らの掃討ってところだな。さっさと始めようぜ。そうしないとさらに混乱が大きくなるし怪我人どころか殺到してる人で将棋倒しで死人も出かねない。」
和真「とりあえずリディの策で行こう、避難誘導が済み次第アリーナに合流だ。」
和真は管制室の千冬へと通信を送る。
千冬「志村か!」
和真「織斑先生、俺たちで避難誘導と中の救援に向かいます。」
千冬「そうしてくれると助かる。あまり褒められたことではないがな。こちらから何とかシステムのハッキングを止めようと試みているがまるで歯が立たん。オマケに鎮圧に動いた教員部隊もアリーナ上空で中のヤツの同型に足止めされていて動けんときた。専用機持ちを中心に最善で行動してくれ!」
和真「了解しました。」
通信を切ると各自にアイコンタクトを送り自身はリミッターをカットしたビームサーベルでシールドを切り裂きデュオと共にアリーナの中へと入っていく。
中では必死に逃げ回る一夏と鈴の姿があった。
鈴「いきなり割って入ってきたと思ったら攻撃って何考えてんのよあのずんぐりむっくり!一夏、残りのSEは?あたしであと半分ってとこよ。」
一夏「んな事言っててもどうにもならねぇだろうが!あと4割ってとこだ。このままじゃジリ貧もいいとこだぜ。残弾もだいぶ少なくなってきた。」
愚痴りながら両手のハンドガンのリロードを行って少し気が戦闘から逸れた一夏に死角から迫る2機のマンロディ。
鈴「一夏、下!」
一夏「マズっ!」
身構えた一夏の間に割って入りマンロディを止める黒い影が。
和真「遅くなった。救援に来たぞ。」
デュオ「主役は遅れてやってくるってね!」
一夏「和真!」
もうひとつの黒い影(デュオ)は手に持ったビームサイスで和真が止めているマンロディを腰の辺りから横に一閃、重力に従って落下していく。
一夏「人が乗ってんのになんて事してんだ!?」
和真「良く見ろ、あれは無人機だ。」
一夏と鈴が落ちた機体に目をやると液体が漏れ出ているがそれは血ではなくオイルのようだったことに加え断面から見えるのは肉ではなくコードや基盤といったどれも人間に備わっているはずのないものたちだった。
鈴「てことはこいつらぶっ壊しても無問題ってわけね!」
和真「そういうことだ、とりあえず確実に数を減らす。俺とデュオがが囮になって気を引くから2人で遊撃。外の救援に行ったリディ達の合流後一気に叩き潰すぞ。ただしその前に一夏達はどちらかがSE2割を切った時点で俺たちが入ってきた穴から退避、こじ開けた防火扉からアリーナ地下のシェルターへ避難すること。」
一夏「何言ってんだ!俺達も最後まで……」
鈴「わかったわ。」
一夏「鈴!お前まで!」
鈴「一夏、これはもう試合でもなんでもないのよ!中途半端に私達がいてSE切れにでもなってみなさい!丸裸の私たちを守りながら志村達は戦うことになる!邪魔になるってことよ!」
一夏「でもよ!」
和真「俺たちが信用出来ないか?」
一夏「………、分かった。」
そこからの動きは早かった。
軽く小突かれたマンロディ達は俺とデュオに釣られアリーナの外壁沿いに誘導され、一夏と鈴が確実に1機ずつ落としリディ達が合流する頃には丁度最後の1機が撃墜されるところであった。それと同時に一夏の白式のSEが2割を切った為鈴に連れられシェルターへと避難して行った。
状況の報告をするため管制室へと通信を千冬へと繋げる。
和真「織斑先生、状況完了しました。警戒の為先生方の到着までアリーナに留まります。」
千冬「すまん、そうしてくれ。そしてよくやってくれた。教員に引き継いだら学園長室まで……」
そこから先はアリーナで起きた衝撃音により掻き消えることになる。
衝撃で舞い上がった砂埃が晴れるとマンロディの親玉のような機体がハンマー片手に鎮座していた。
千冬「志村!何があった!」
和真「新手です。早めに先生達を寄越してください。」
そう言うと一方的に通信を切り即座にデュオ達のプライベートチャンネルを立ち上げる。
ジン「なんだあのカエルと亀が合体したような奴。」
和真「あれはASW-G-11《ガンダムグシオン》だ。俺らの所で作って強奪された内の1機だ。」
リディ「こんな形で我が子同然の機体と再会することになるとは、なんて皮肉だよ。」
デュオ「ボヤいてても仕方ねぇよ。来るぜ。」
そんなことを言っているとグシオンのカメラが光りハンマーを振り回しながら和真達に向けて突進してくる。
ジン「巨体の割には速いな!」
デュオ「フレーム設計の時からスラスターマシマシにしてたがパクられてからさらに増設されてるなありゃ。」
和真「各機散開して各関節部を集中して攻撃!俺が注意を引く!」
3人「「「了解!」」」
先程同様和真が囮となりまるで闘牛士の如くグシオンの突撃を躱す。
そこに出来た隙を見逃さずデュオたちはビームライフルなどの射撃武器で関節部やスラスターを1つづつ破壊し確実に追い詰めていく。
しかしここに来て誤算が生じる。
和真達が突入する際こじ開けたシールドの穴が偶然視界に入る。
そこには避難し遅れた生徒が居ないか確認しに来た教員の姿があった。
リディ「何考えてんだあいつ!?死ぬ気か!?」
そしてリディが叫んだことによりグシオンもその存在に気づいた。気づいてしまった。
すぐさま和真に背を向けシールドの穴に向けて体の正面を向けた。
このISには胸部に大口径の無反動砲が四門取り付けられており強奪され改造された今もこの砲は健在だった。
和真「させるかァァァァ!!!!」
すぐさま和真のジェスタはスラスターを吹かしてはグシオンと穴の間に割って入る。次の瞬間グシオンの胸部が火を吹き砲撃が和真を襲う。
一瞬にして辺りは爆煙に包まれる。その煙が晴れると装甲のあちこちがひび割れ、ショートし軽くスパークが走っている。酷いところは装甲が剥がれ落ちて肌が剥き出しになり少なくない出血が見て取れる。頭部装甲も半分ほど吹き飛び見えている顔は赤く染まっていた。
しかし和真はビームサーベルを抜くとスラスターを吹かしてグシオンの胸部に向けて突撃、サーベルはグシオンのボディを貫通。そのまま壁へと叩きつける。
そこで力尽きたのか和真は膝から崩れ落ち、同時にグシオンも和真に覆い被さるように倒れる。
3人「「「カズ(大将)!!!」」」
すぐさまデュオ達がグシオンの残骸を退けて救出。駆けつけた教員により搬送され学園内の施設で緊急手術となったのは言うまでもないだろう。
大まかな結果だけ言うと頭部に軽い裂傷(5針)、ヒビを含めて肋骨6本骨折。右足大腿骨剥離骨折。その他大小合わせれば25の切創(うち6箇所は10針以上縫合)こんな大怪我にも関わらず奇跡的に内臓にはほぼダメージがなかったのは不幸中の幸いだろう。
それから意識が戻ったのは翌日の夕方だった。
目を覚ますと鼻腔いっぱいに広がる消毒液等の独特の匂いに真っ白な天井。
ここが病院かそれに準ずるものであることは寝起きの頭でも簡単に想像できた。
??「気がついたか?」
ベッドの脇から声を掛けられそちらに目を向けると箒が座っていた。
和真「箒……、見舞いに来てくれたのか。」
箒「あぁ。今日は剣道部の方もオフだったからな。体の具合はどうだ?」
和真「あぁ、固定されているところ以外は特に問題ない。あれを食らってこの程度で済んでる所を見るとISの絶対防御が無けりゃ死んでるなこれ。」
箒「ならよかった。ほんとに心配したんだからな。とりあえず先生に知らせてくる。」
そう言って箒は保健室を出ていく。
それと入れ違いにデュオ達3人が入ってくる。
デュオ「おっ、起きてんじゃん。体の方はどうよ?」
和真「固められてるところ以外は特に問題ない。で、マンロディにはやっぱりあれはあったのか?」
リディ「ご親切にいつも通りの場所にあったぜ。今回は俺らと同年代くらいだったぞ。」
ジン「話だけ聞いてて今回初めて見たが胸糞悪いことこの上ないなありゃ。」
和真「わかってると思うがこの事は他言無用だぞ。余計な混乱を招きかねん。」
そんな会話をしている一方、IS学園地下の極秘施設では回収したマンロディ及びグシオンの解析が行われており今まさに装甲内部から15~18歳と推定される脳髄が発見される。
千冬「これは………」
摩耶「少し気分が……」
教員「積まれていたISコアについてなんですが精巧に作られた模造品でした。簡易的な検査なら難なくパス出来るほどの精度です。」
千冬「一体どこの組織だ……。仮にこの様な物が出来上がっていたなら大々的に発表されていても可笑しくはない。」
その後も解析は続くが脳髄とISコア以外には特にこれといった進展も無く今回の事件については箝口令が敷かれることとなる。
そしてこの事件を皮切りに和真達、ひいてはIS学園に度重なる事件が舞い込んでくるのはまた少し先のお話。