ロクアカ・クロニクル《リメイク版》   作:嫉妬憤怒強欲

2 / 8
「…思いっきりダメ人間じゃないっすかーヤダー」

 現在十二時過ぎ。昼休みの時間。

 

「さてさて、なにを食いますかねぇ……」

 

 午前の授業が終わり、昼食を食べるために学院校舎本館の一階にある食堂へと足を運ぶネイサンはそう口にする。

 

「それにしても、まさか初日からあんなことやらかすとはいろんな意味でヤバいなぁ…」

 

 非常勤講師としてやってきたグレン=レーダスは最初の授業に大遅刻した挙句、授業内容は初っ端から自習という怠慢。次いで錬金術実験のため着替え中の女子生徒達を覗き、集団リンチを受けてボロ雑巾と化す。側から見る分には愉快極まりないやらかし具合である。

 何がどうしてこんなダメ人間が非常勤講師をやっているのか、この数時間で生徒達の大半がそんな疑問を抱いたであろう。

 

「まぁ、いいか。俺の知ったことじゃないし」

 

 食堂へと到着し、地鶏の香草焼きと軽めのサラダを注文して、空いているテーブルを探していると、復活していたグレンに隣から話しかけられる。

 

「なあお前、それで足りんの?」

「ん?いや、見た目より結構あるとおもうんだけど? むしろそっちのほうが多くね?」

 

 グレンが持っている木製お盆の上を見てると、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。キルア豆のトマトソース炒めなどの料理が大量に乗せられており、しかも全部大盛りであった。

 

「俺はいわゆる、やせの大食いと呼ばれる人種でな。おかげで無職のスネかじりだった頃、セリカによく嫌み言われたよ」

「スネ齧ってたって……思いっきりダメ人間じゃないっすかーヤダー」

「誰がダメ人間だ!?全く…俺程の完璧で天才的な人間は世界中探し回ってもいないと思うぜ!」

(………こいつウザ)

 

 グレン(ダメ人間)の言葉にネイサンはウザさを感じる。

 

「それより、お前二組の生徒だったよな? 名前はええと………」

「ネイサン。ネイサン=ミラーだ。改めてよろしく、グレンの先公」

「よろしくお願いしますグレン大先生、だろ?ネイサン君」

「は?ボロ雑巾先生?」

「耳どうなってんだよ!?」

「実はさっき銀髪の生徒に頭叩かれてから耳の調子が……」

「噓つけ! さっきまで普通に会話してただろうが!」

「まあそれは置いといて、それで、俺に何か用があるから話しかけたんじゃないっすか?」

 

 話の流れをバッサリと無視して、ネイサンは理由を聞き出そうとする。

 

「……お前、俺とどっかで会ったことねえか?」

 

 

 

………。

 

――沈黙がしばらく続いた。

 

 

「……は? いきなり何言っちゃってんの? ハッ! まさか先公はそっち系の――」

「違ぇよ!!俺はノーマルだ!」

「ちょっ、来んな来んな来んな」

 

 おしりを手で押さえながらわざとらしく後ずさるネイサンにグレンは即座に否定する。

 

「じゃあなんでそんなこと聞くの?」

「いや、前の職場にいた時に見かけた気がしたんだよ」

「………前の職場、ね」

 

 既に前の職場を辞めてもう関係のない人間であるグレンに何故自分が此処にいるのか話すべきか。

 しばらくネイサンは沈黙して考え込む。

 

「う~ん、俺はアンタとは会ったことないな」  

「……そうか、俺の勘違いか……にしても」

 

 グレンはネイサンの頭をまじまじと見詰め……

 

「お前、結構髪ツンツンしてるな」

「………これでもまだマシな方だよ」

 

 ネイサンの頭髪は相当固い上にかなり跳ねやすい髪質だ。それ故に、朝起きた時はハリネズミの様になってとにかくヤバい。寝癖を直すにしてもとても時間がかかる。

 そんなコンプレックスを抱えていたネイサンには今のグレンの言葉は心にグサッときた。

 

「…………」

「?どうしたんだネイサン?」

「何でもないっすよ、ボロ雑巾先生………いや、ホモ先公」

「まだ引きずっていたのかよ!?」

 

 その後、料理ができ上がったから取りに行くという理由でグレンと別れ、食堂の端の席を陣取って食べた。

 

 

♦♢♦♢

 

 

 グレン=レーダスが非常勤講師として二組の担当を受け持って早数日。現状は初日のダメさ加減を裏切らない、むしろ悪化している。

 

 最初こそ教本を開き、判読不可能とはいえ黒板に術式や法陣を書いていた。しかし日が経つにつれ板書はなくなり、教科書の当該ページが黒板に貼り付けられ、そして今は釘と金槌で教科書そのものを黒板に打ち付けようとする始末。

 

 質問する生徒への対応も雑なことこの上なく、そのあんまりにも酷い態度にとうとうシスティーナが切れた。

 

「いい加減にしてください!」

 

 親の権威を持ち出して半ば脅迫に近い形で迫る。

 が、

 

「お父様に期待してますと、よろしくお伝え下さい!」

「な――」

 

 今のグレンにとってはむしろ好都合で、是非クビにしてくれと懇願。魔術に対する畏敬もへったくれもなかった。

 

「いやー、よかったよかった! これで一ヶ月待たずに辞められる! 白髪のお嬢さん、俺のために本当にありがとう!」

「貴方って言う人は――ッ!」

 

 魔術を心から信奉するシスティーナはこれに激昂。勢いのままに左手の手袋を投げつけていた。

 

 しん、と静まり返る教室の中、システィーナはグレンを指差し、力強く言い放った。

 その様子を注視していたクラス中から、徐々にどよめきがうねり始める。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

「だめ! システィ、早く先生に謝って、手袋を拾って!」

 

 烈火のような視線でシスティーナはグレンを真っ直ぐに見つめる。そんなシスティーナをルミアは止めにかかる。が、システィーナは全く手袋を拾おうとはしない。

 

 古来より左手を覆う手袋を相手向かって投げつける行為は、魔術による決闘を申し込む意思表示となる。そしてこの投げつけられた手袋を相手が拾うことで決闘は成立する。

 

 魔術師というのは強大な力を持つ者達の総称であり、彼らがルール無用で争い始めれば国の一つや二つ滅びかねない。

 そこで彼らは互いの軋轢を解決するため、一つの規律を定めた。それが決闘である。心臓により近い左手の手袋を相手に投げつけ、それを相手が拾う。決闘申し込みから受諾の流れだ。

 ただしそれも帝国が法整備を進めたことにより形骸化、黴の生えた魔術儀礼の一つに過ぎない。今どき真っ向から決闘を挑む魔術師など、古き伝統を守る生粋の魔術師くらいである。

 

 ちなみにフィーベル家は魔術の名門として有名であり、古き伝統を重んじる家系であったりする。

 

「おまえ……マジか?」

 

 今までとは打って変わってトーンの低くなった声でグレンがシスティーナに尋ねる。

 

「私は本気です。その野放図な態度を改めて、真面目に授業を行ってください!」

「…辞表を書けじゃないのか?」

「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、そんな要求に意味はありません」

「あっそ、そりゃ残念。だが、お前が俺に要求する以上、俺だってお前になんでも要求していいってこと、失念してねーか?」

「承知の上です」

 

 クラス中がハラハラしながら逼迫した二人の動向を見守っている。

 

「はぁ......いいぜ?」

 

 グレンは底意地悪そうに口の端を吊り上げた。床に落ちている手袋を拾い上げ、それを頭上へと放り投げる。

 

「その決闘、受けてやるよ」

 

 そして、眼前に落ちてくる手袋を横に薙いだ手で格好良くつかみ取ろうとして――失敗。

 グレンは気まずそうに手袋を拾い直した。

 

「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我させんのは気が引けるんでね。この決闘は【ショック・ボルト】の呪文のみで決着をつけるものとする。それ以外の手段は全面禁止だ。いいな?」

「決闘のルールを決めるのは受理側に優先権があります。是非もありません」

(なるほど、【ショック・ボルト】以外禁止か。だけどアイツ確か...)

 

 ネイサンはこの決闘の勝敗をすぐさま予想する。この決闘絶対にシスティーナが勝つ。それも何回やってもグレンが勝つことはない。 

 

 グレンとシスティーナが教室を出て行ったところで、ネイサンは他の生徒たちと共に二人の背中を追っていく。

 

 

「なぁ、ネイサン。この勝負どっちが勝つと思う?」

「システィーナ」

「「それはなんでだ(かな)?」」

 

 ネイサンはクラスメイトである大柄な少年カッシュに質問されたが即座にシスティーナと断言すると、ネイサンとカッシュの近くにいたルミアも話に混ざってきた。

 

 ネイサンはグレンのことを資料で知っている。だが、そのことは他の生徒達に伝えるべきことではなかったため、それっぽい説明をする。

 

「ん~そりゃ普通にシスティーナの実力を考えたら講師相手でも充分やり合えるよ。それに呪文は1つだけだし。呪文縛ったのは多分あの先公がただ面倒くさがってすぐに決着着くようにしたんだろうよ」

「システィーナの実力を考えれば…か」

「だとしても…システィ大丈夫かな…」

「まぁ、怪我しそうになったら止めればいいハナシだし、どうなるか最後まで見届けようぜ………」

 

 

 生徒と非常勤講師による決闘の場所は学院中庭。針葉樹がぐるりと取り囲み、敷き詰められた芝生が広がる空間にて、グレンとシスティーナは十歩ほどの間合いを空けて対峙していた。

 

 決闘方法は受諾側に決める権利があり、グレンが提示した決闘の形式は先に【ショック・ボルト】を当てた方が勝ちというシンプルなものだ。

 

 

 クラスの生徒達と騒ぎを聞きつけて集まった野次馬が見守る中、緊張と不安、そして使命感を抱いたシスティーナは分が悪いと分かっていながら真っ直ぐ立ち向かう。

 

「ほら、何時でもいいぜ」

「くっ…」

 

 グレンは指を鳴らして余裕の表情だ、システィーナは緊張しているのだろう、額に汗が流れている。そして、やがて腹を決めグレンを指差し呪文を唱えた。

 

 

「行くわよ!《雷精の紫電よ》ッ!」

 

 指先から放たれた雷は真っ直ぐにグレンに向かっていき、それを避けることなく余裕な顔で受けた。

 

「ぐぎやぁぁぁぁ!!」

「え?」

 

 グレンは雷が直撃して身体をビクンと震わせる。

 

 何とか耐えるとかも無く普通に倒れる。

 何かルールを間違えた?と思っていたらグレンが起き上がる。

 

「馬鹿め!これは3回先に勝った方が勝ちだ!《雷精よ・紫電の衝撃を以》」

「《雷精の紫電よ》ッ!」

 

 グレンの鈍間な呪文が完成するよる先に、システィーナの方が完成しグレンに激突する。

 

 

(……考えてた通りだったな。やっぱ負けるか。まぁアレは元からこのような真っ当な戦闘には向かないタイプだから仕方が無いかな)

 

 グレンはその後も「あそこに女王陛下が!」「あっ何だあれ?もしかして天馬か?」など言葉巧みに騙したが、やはり魔術の起動は遅く 【ショック・ボルト】が当たりまくり、結局土下座をして負けを認めた。

 

 土下座をしたグレンとは言うと「魔術師じゃねーやつに魔術師のルール持ってこられては困るな」と捨て台詞を吐いて逃げていった。

 

「ネイサンの言った通りだったな。システィーナの余裕勝ちだったな」

「流石に弱すぎたね、あんな教師いてもいなくても変わらないよ」

「初等呪文ですら一節詠唱できないなんて…」

 

 カッシュやギイブル、ウェンディをはじめとした生徒たちはグレンをこれでもかと言うほど酷評する。

 

 

 

 そのあまりの情けなさから生徒からの評価は地に落ちたが、次の日もケロッとグレンは授業に現れ3日が経過する。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。