小麦こなと申します。
今作で6作目であります、小説「今を繋ぐ赤いお守り」をご覧いただきありがとうございます。
今作も読者のみなさんをドキドキさせられるような展開になると思います。
感想欄も開放しておりますので、ドンドン書き込んでいただけたらと思います。
今作からは毎週日曜日22:00の週1投稿とさせて頂いております。ご了承ください。
では第一話をご覧ください。
モヤモヤと微かに揺らいでいる視界を手でしっかりと擦る。
朝が弱い僕にとってはいつもと変わらない一日の始まりに過ぎないこんな状況に陥った今日のこの日は、実は大きなターニングポイントとなるなんて誰が思うだろう。
まだ寒い朝は布団から抜け出すのにもかなりの行動力が必要で、起きたばかりの体力では無理そうだから携帯のアラームだけ消して目だけは起きておこう。
……っていつも思うのに、身体は正直で自然と瞼がトロンと下に落ちていく。
中途半端に脳が動いている時が一番気持ちが良い。
「
そんな時に、携帯のアラームより大音量で消すことが難しい目覚まし時計がやってきて朝からため息が零れ落ちた。
こうなってしまったら起きるしかない。いざとなったら学校を遅れて行っても良いかなんて軽く考えていた構想が卵の殻のようにガラガラと音を立てて崩れていった。
寝ぼけ眼のまま、手すりをしっかり持って階段を下りて母親が買ってくる山吹色のパン屋の袋から適当に手に取ってモグモグと食べ始める。
今日はテレビがついていないけど、特別気にならずに朝ごはんを食べ続ける。
どうせ今の時間帯にテレビをつけても、見て笑顔になれるような番組なんてないし、どうせ誰かの犠牲を葬式面で伝えるニュースだけだろう。
僕はそんな報道番組は嫌いだ。世の中の動きに無関心だという事もあるけれど。
「悠仁、今日も帰りが遅くなるから適当にごはん済ませといて」
「はいはい」
2階から聞こえる甲高い母親の声に小さく返事をする。
父親のいないこの家では、母さんが家計を支えている事もあり、朝から夜まで働きっぱなしだ。
父親がいないという言い方に少し語弊があるかもしれない。
この家にはいる。仏壇に姿を変えてしまっているけれど。
自分の母親がどんな仕事をしているのかも知っているし、それが同級生の友人に胸を張って言えるような職業では無い事も分かっている。
だけどやっぱり嫌いにはなれない。基本ウザイ事の方が多いけれど。
パンを食べ終え、手をしっかり合わせてご馳走様でした、と言ってから制服に着替えるのがここ何年も続けてきた僕の行動。特に何も考えずに身体が勝手にそうしろ、と指示しているかのように勝手に動く。
洗面所の鏡に向かって制服に付けるネクタイを付ける。特にお洒落とかに目覚めてない僕はシンプルにネクタイをつけ、寝癖を直すためだけに髪の毛を濡らして乾かすだけ。
「ずっと日曜日だったら良いのになぁ」
鏡に映った、目が半開きな自分に話しかけるかのように独り言を零す。
どうせ零した独り言も、役目を終えた歯磨き粉と同じように水に流れていくのだと思うと歯ブラシを握る手の力が自然と弱くなったような気がした。
身支度が出来た僕は、寝室に戻って充電器に刺してあった携帯を抜いてポケットの中に滑り込ませて学校に持って行っているリュックを背負う。
教科書やノート、筆記用具すべて学校に置いているからリュックに入っているのは財布だけだからいつも背中は軽い。
「行ってきまーす」
玄関に置いてある家と自転車の、2種類の鍵を手に取って家を出る。
そして中学校の時からの相棒であるボロいけど愛着のある自転車にまたがる。どうせ早く学校に着いてもやることが無いし、風が冷たくて一気にやる気がうせてしまうからゆっくりと自転車を漕いでいく。
自転車で片道30分程度と言う、地味に遠い道のりが最初は苦痛だったけど2年も経ってしまえば何とも思わなくなる人間はつくづく鈍感で単純な生き物だと思う。
自転車を漕ぎ始めて15分くらい、家から高校まで半分くらいの道のりである花咲川地区付近を通っていると、突然死角から女子生徒が飛び出してきた。
「ちょ、マジかよ!?」
女子生徒はびっくりしてその場で立ち止まってしまっていたから、咄嗟にブレーキレバーを強く握った。
しかしこのままでは間に合わないと判断して足を地面につけて摩擦も利用した。
そのおかげで女子生徒には当たらなくて済んだが、僕はバランスを崩してしまいそのまま倒れてしまった。
ガシャン、と言う大きな音と、数秒遅れて痛みが染み渡ってくる感覚は校庭で走ってこけた時に似てるなってぼんやりと思った。
「だ、大丈夫ですか!?」
「全然大丈夫だよ、あはは……」
内心は大丈夫な訳ないだろ、と言うか急に飛び出してくるんじゃないよって大声で叫びたかったけど女の子にはよく見られたいと年相応の想いが勝って気丈に振舞う。
きっと僕が第三者としてこの現場を見ていたら鼻で笑ってると思う。ダサいなって。
女の子は心配そうに僕を見つめていた。
髪型は今まで見たことが無いタイプで猫耳のようなものが付いていて、顔を見ただけで活発な性格だという事が分かった。
そしてこの女の子が身に着けている制服はどこか見覚えのある制服だった。
「でも、すごい音したし……は!でもこのままじゃ遅刻しちゃう!?どうしよ~っ」
僕の予想通り勝手に話し出して自分で会話をトントン拍子に進めていく様を見ていると、ある感情が湧いてきた。
ヤバい奴に出くわしたかもしれない?
他人の心配より自分の遅刻の事を気にする非常識な奴?
大多数の人間だったらそれらの感情を少しは抱くんじゃないかなって思う。人によれば急に怒り始めるかもしれないよね。
でも僕に湧いてきた感情はそんなありふれたものではなかった。
ただ、羨ましいなって、思ったんだ。
「自転車、乗る?」
僕は何も無かったかのように自転車を起こして、女の子に問いかけた。
女の子は目をまん丸と大きくさせて、考えてもいなかった考えが他人からレクチャーされた時のような声でえっ、と言った。
「ほんとにケガとか平気だから」
「でも……」
「それに遅刻したらマズイんでしょ?だったら自転車で学校の近くまで送ってあげるから」
右膝辺りなんか染みるような痛みがあるし、平気か平気じゃないかと問われれば平気じゃないって答える。
普通だったら無視して自分も学校に向かうさ。僕だっていつもギリギリの時間に到着するから少しのタイムロスが遅刻につながるのだから。
でも今だけはこの女の子の顔が、悲しさに覆われるのを見たくなかった。
恋をしたとかじゃなくて、羨ましく思えたから。
「ほら、早く乗って。早くしないと遅刻しちゃうよ?」
男と二人乗りするのは勇気がいることだと思うし、周りの目とか同じ学校の同級生に見つかったら噂になってしまうとかマイナスな事をまず頭に思い浮かべそうだから、敢えて急かした。
選択肢を絞ってあげることで、選ぶ側の人間が選択しやすくなる。
急にお昼ご飯何食べたい?って聞かれたら困るけど和食と洋食どっちが良い?って聞かれた方が答えやすいのと同じだよね、きっと。
「乗りますっ!」
女の子の方から元気な声で、しかも僕が望んでいた通りの返答だったので久しぶりに顔をクシャリとさせてしまった。
やっぱりこの女の子、羨ましい。
「それじゃ、しっかり捕まってて!」
女の子が自転車のキャリアにちょこんと座った事を確認して、僕は足に力いっぱい加えてフラフラとだけど前に進み始める。
少しずつスピードが出てきた。
自転車の二人乗りなんて今の時代は禁止されているようなものだし、大げさな事を言ってしまえば他人の命が僕の両腕にかかっている。
事故なんて起こしてしまえば僕の責任では償いきれない。
なのに、なぜだろう。
何回も何十回も何百回も、自転車通学を続けてきたのに。
こんなにも風は爽やかだってことに、今日初めて気が付いた。
@komugikonana
次話は3月29日(日)の22:00に公開します。
Twitterもやっております。良かったら覗いてあげてください。作者ページからもサクッと飛べますよ!
~次回予告~
最初は久しぶりの二人乗りにバランスを取るだけで大変だったけど、少ししてからだんだんと感覚を取り戻してきた。
自転車はペダルを漕ぐたびにギシギシと音を鳴らしているけど、そんな音とは正反対にたくましく僕らを運んでくれる。
心地の良い春風の中、僕は後ろに乗せている女の子が言っていた方向目掛けて突っ走る。
「その……ありがとうございますっ!」
「ん?あぁ、良いよ。僕としては君にケガが無かっただけで充分良かったし」
後ろの女の子はえへへ、と照れくさそうに笑っていた。
では、次話までまったり待ってあげてください。