今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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第13話

僕はサラッとひどい言葉を紡いだ。

お前には才能が無いから仕方がないんだよ、って受け取ってもらっても構わないし僕はそのつもりで言った。

本当に何様だよ、って言われちゃうかもね。

 

戸山さんはヒッと息を殺した後、じわじわと僕が言った言葉を解釈しながら飲み込んでいく。

彼女の頭を覗き見ることが出来れば「才能がない」と言う単語がグルグルと、しかも幾つもの数が彷徨っている事だろう。

 

「そ、そうですよね……。すみませんでした。当たり前の事を聞いてしまって」

 

彼女は僕に謝ってから、僕が左手で持っていた歌詞カードを引き取ろうとした。

声のトーンはさっきよりも下がっていて、もう一人になって考えたいと思っているような顔つきをしていた。

 

 

 

 

だけど僕は、左手の力を緩めることをしなかった。

 

「え?……悠仁、先輩?」

 

僕は鼻息を一回、ふーんと鳴らしてから彼女の瞳の中を覗き見るように見つめた。

戸山さんの瞳は、嵐の日の海の様にゆらゆらと揺れていた。

 

貴方は私の敵なの?味方なの?

そう、問いかけてきているように感じた。

 

「歌詞に込められた想いを読みとる才能が無い人なんだねって事」

「でも、同じような言葉を使っちゃうのは私がいけないんです」

「そんなことない。同じ言葉でも全く違う意味を生み出すことが出来るんだ。それが言語の面白いところでしょ?」

 

英語なんかもたくさんあって、例えば『book』と言う単語には本と言う意味もあれば旅行と解釈しなければいけない時もある。

日本語で例えるなら『やばい』とかかな。

 

描かれた状況や心情を解釈して、その言葉が載せている想いを受け取る楽しさが音楽の数ある醍醐味の中の一つだって思ってる。

僕は楽器とか詳しくないから、このバンドのイコライジングが痺れると言われても分からない。だけど歌詞の自己解釈と歌っている人の感情の出し方にはいつも注目してる。

 

「そりゃあ、戸山さんの歌詞が気に食わない人もいるだろうね。一人ひとり好きな食べ物が違うように」

 

人生において、他人に好かれるよりも嫌われる機会の方が多いらしい。

何処かの文書とかで聞いた話とかじゃないけど、人生の先輩がそう言っていた。

 

だからこそ、好きになったもの同士は、長い付き合いになるんだって思う。

 

「でも僕は、戸山さんの書く歌詞が、好きだよ」

 

寂しくて泣いている小さな女の子の頭の上に手を置いてなでるような優しさで、僕は戸山さんに勇気を送った。

戸山さんの目は揺れていて、瞳には涙が今にも溢れそうになっていた。だけど溜まった涙が綺麗に輝いていていつまでも見つめていられるように思えた。

 

彼女はニッコリと笑って僕の方を向いてくれた。

その時、一粒だけ瞳から雫が零れ落ちていった。

 

 

「さて、固い話はお終いにしてどこか行こっか」

「はいっ!悠仁先輩」

 

僕はゆっくりと立ち上がって背伸びをしながら戸山さんに声を掛ける。

戸山さんはいつものような笑顔に、いや、いつもより晴れやかに見える。彼女の顔色を見れば悩みは完全には消えていないけど一つの答えを見つけることが出来たのだろう。

今まで頭を抱えなければいけなかった悩みが突然姿を消すことなんてありえない。

 

でもきっと、出した答えと時間がゆっくりと消していってくれるはずだ。

 

「その……悠仁、先輩」

「うん?」

「今日だけは……手、繋いでも良いですか」

「良い歌詞が書けるなら、構わないよ」

そんなんじゃ、ないんですけど……

 

何かごにょごにょとした彼女の声は行きかう楽しそうな人たちの声で消えてしまった。

戸山さんと出会って初めて、彼女の言葉を聞き逃したかもしれない。えっ、って聞き直してもなんだか感じが悪く思われそうな気がしたから敢えて聞こえたようなそぶりをした。

 

戸山さんの小さな手は、キュッと僕の手をつながった。

ただ、いざこんなたくさんの人が言う場所で手を繋ぐと恥ずかしさがこみあげてくる。しかも僕たちは制服を着ているから余計に視線を集めているような気がする。

 

学校の帰りとかにたまに見るラブラブカップルは度胸がすごいという事を初めて知った。

 

「そこのアツいお二人のカップルさん!今ならくじが引けますよ!」

 

そしてショッピングモールでは何かと買い物客に絡んでくる店員がいたことを思いだした。

明らかに僕たちの方を向いて言ってきたし、僕たちも僕たちで反応してしまい、アツいカップルと言う単語に揃って頬を赤らめてしまう。

 

たしかに店員の言う通り、くじが引けるかもしれないけれどそれは貧乏くじだったなんてしょうもないオチだけは回避したかった。

だけど戸山さんは何やら惹かれるものがあったらしい。

 

「悠仁先輩、一度だけ、良いですか?」

「え、ああ、大丈夫だよ」

 

どうも1500円以上の買い上げで一回くじが引けるらしく、僕は手っ取り早く1500円分のプリペイドカードを購入した。

戸山さんがお金を出すと言ってきたが、僕の意志で買ったから気にしないでと伝えた。

音楽をダウンロードしたり、面白いスタンプを見つけたら後々購入できるプリペイドカードはいわば将来への投資みたいなものだ。

 

それで、戸山さんの笑顔が見れるなら。

きっと僕の心は満ち足りる。そしてもっと彼女がまぶしく見えるかもしれない。

 

僕は少し離れたところで戸山さんがガラガラと回すのを見守っていた。

あ、白い球が出た。きっとハズレだろう。だけど戸山さんはまるで色付きの球が出たかのような感情を内面に隠し切れずにいた。

 

「戸山さん、それが欲しかったの?」

「はいっ!惹かれたんです。可愛くないですか!?」

 

彼女が嬉々とした表情とじゃーん、と言う言葉と共にキーホルダーを見せてきた。

 

物の価値は人それぞれ感じ方が違うんだね。

僕がハズレを引いて、キーホルダーを渡されたら割に合わないと感じてムスッとした顔をするだろう。ハズレ景品のテンプレであるポケットティッシュでも同じだ。

 

でも戸山さんにはそのキーホルダーが間違いなく1500円以上の価値があると思っているのだろう。

実際お金を出したのは僕だから実質タダみたいなものではあるけれど、そんな条件を抜いても彼女の表情がそう物語っているように思えた。

 

「戸山さんは星が好きなの?」

 

戸山さんが手に持っている、赤色の星型キーホルダーを見ながら問いかけた。

 

「星も好きですし、赤色も好きなんですっ!」

「へぇ、意外。星は分かるけど戸山さんって青色系の方が好きかなって思ってたよ」

「えへへ、青色も好きですっ!でも」

「でも?」

 

彼女は遠くを、いや、過去の時間軸を一直線に見ているような表情を浮かべながらキーホルダーを見つめながら淡々と話し始める。

 

「こんな感じのキーホルダーを昔、持っていたんです」

「確かにいつでもどこにでもありそうなシンプルなつくりをしてるもんね」

「それを私が小さい時、男の子に渡したんです。それが懐かしいなって思っちゃいました」

 

男の子に渡した。

そのたった数十語の、重みも感じない軽い言葉のはずなのにものすごくずっしりとした重量がのしかかってきたように感じた。

 

あ、そうなんだ。

そう簡単には言えない何かを感じた。

 

「どうして、そのキーホルダーを男の子に、渡したの?」

「えーっと……忘れちゃいましたっ!確かお守りって言って渡したような気がするんですけど」

「そっか」

 

赤い星型のキーホルダーをお守りとして渡した。

子供らしいと言えば子供らしいけど、今ぐらいの年齢になるとどこかロマンチックに感じる部分があったりする。

例えばそのお守りを渡した男の子とばったり遭遇する、とか。

 

「戸山さんのお母さんなら、何か知ってるんじゃない?」

「ああ!悠仁先輩すごいですっ!帰ってから聞いてみますね!」

 

僕と繋いだ手をブンブンと振り回す戸山さんに、僕は良い様にやられるだけだった。

でも不思議と嫌な思いはしなかった。

 

僕は戸山さんに憧れている。だからこの心臓の高鳴る高揚感にも説明がつく。

きっとそうだよね、って僕は自分の心に問いかけた。

 

 

心は、何も言わなかった。

 

 




@komugikonana

次話は6月21日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~次回予告~

きっと月も太陽の張り切りように嫌気がさしていたのだろう。そう思わせるには充分なくらいほんのりと存在感を示していた。
みんなが昼間から暑い暑いと文句を言っていたから、自分は快適な気候をサポートするよと言わんばかりの世渡り上手さにため息が出そうになる。

僕の右手がキュッと握られたような気がした。
横を見ても何も表情の変わらない戸山さんが機嫌良く、時折鼻歌も混じらせながら歩いている。


悠仁先輩、晩御飯、一緒に食べませんか?


ショッピングモールを満喫し、良い感じの雰囲気になった時に伝えられた彼女の言葉。
女の子からの誘いを断るはずがない僕はもちろん了承した。


では、次話までまったりまってあげてください。
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