今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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第18話

学校の屋上で戸山さんと、後から思えば顔をほんのりと赤く染めるくらいには十分な恥ずかしさが襲ってきた宣言をした。

 

あの後も戸山さんと他愛もない話を屋上でした。

幸いにも僕たちが屋上にいた時間に他の生徒がやってくることは無かった。

 

二人で何を話していたのかと言う内容を聞かれると答えるのが難しい程、本当に他愛もない話をしていた。

そんな時間に終わりを告げたのは僕の方だった。

 

「そろそろ、出番だから行くね?」

 

腕時計は2時と45分を指していたこの時間。

15時から始まるKAACは、他校では学年対抗リレーと同じ立ち位置に立っている。すなわち最後の協議で学校中が陰湿なくらい盛り上がる。

 

「悠仁先輩っ!」

 

後ろから声を掛けられて、振り向いた。

ギュッと、僕の手が戸山さんの両手によって温かく包まれた。

僕は少し驚いた顔とえっ、と言う声を出した。

 

「私、応援してますからっ!」

 

ギュー、と言う彼女の声と比例して握られていく手の力が強くなる。

僕は手の痛みよりも、心の方がキュッとなっていって痛かったのは流石に彼女には言えなかった。

 

青春アニメとか恋愛小説の主人公だったら、誰かに描かれた脚本通りここでヒロインを胸の中に優しく包み込みながら頑張ってくるから見てて、と言うんじゃないかって思った。

 

残念ながら僕はそんな主人公みたいな人格者じゃない事は分かっているし、何より今の関係性が綺麗なガラスを高いところから落とした時みたいにバラバラに砕け散ってほしくなかった。

 

「ありがとう、戸山さん」

 

言葉で、彼女にそう伝えた。

戸山さんも綺麗でキラキラとした笑顔を向けながらうん、と首を縦にして頷いてくれた。

 

 

 

 

 

いつもと違って少し胸を張って、待機場所にやってきた。

今は2年生の部が行われているが、あまり盛り上がっていない。一番盛り上がるのは難問ぞろいの3年生の部、つまり僕たち。

 

「あれ、まっさんもういる」

「競技の時間くらいは守るよ」

「いや、まっさんなら遅れてやってくるはず!今日は隕石でも降ってくんのか?」

「お前の頭に落ちてきたら全人類ハッピーだろうね」

「まぁでも、今のまっさんは最高に期待できるな!クラスのみんなにも伝えとくよ」

 

こういうやる気が高まっている時は大抵空回りするからそれだけはやめろ、と坂本には釘を刺した。

いつも通りやっていたら妥協ラインくらいまでは行けるはず。

 

それに僕は今までにないくらい自分に興味が湧いていた。

今の僕がどれくらいS特進クラス(バケモノ)に通用するのか、と言う知的好奇心と言う名の興味。

勝てはしないだろうけど、少しはオーディエンスを沸かせたいなって密かに思っている。

 

「なぁ、まっさん」

「うん、何?」

 

 

「今日はまっさん、として出るのか?それとも……」

「どっちでも一緒だよ」

「へぇ、少し面白くなりそうだな」

 

坂本はそう言い残してどこかに行ってしまった。

この言葉の意味が分かるのは僕と坂本、そしてこの学校の生徒の一部くらいだろう。

それにしても坂本も言い方を考えて欲しい。普通に考えたら二重人格か重度のイタイ人間に思われてしまうじゃないか、と苦笑いを浮かべる。

 

 

生徒指導の先生が僕たちの入場を促してきた。

この人にはいつもお世話になっているから変な気持ちになる。

 

先生は僕の頭にぶ厚い手をかぶせてきた。

僕はパワハラだ、とちょっとふざけた口調で言った。だけど先生はそんな僕の口調を綺麗にかきけしてしまったかのような真面目な物に変えてきた。

 

「悠仁のその顔付き、久しぶりだな」

 

その言い方じゃ、僕がいつもふざけた顔をしているみたいだ。

坂本と言い、先生と言い僕をどんな姿で映し出されているんだろうか。

 

 

放送委員の呼びかけにより、僕たちはゆっくりと安っぽく整えられた舞台の上に上がっていく。

一番最初に舞台に上がるのは僕たち総合進学クラス。

落ちこぼれであるこのクラスが出てきたところで誰も大して期待していないのだろうはずなのだが、今回は盛り上がりとは違う一種のざわつきのようなものがあった。

 

競技的ルールはクラス3人が選抜で出場し、先方中堅大将の順に問題を解いていく。

先方の生徒が一回でも不正解を導いてしまったら中堅に交代していく。つまり大将が最後まで残っていれば良いという事だ。

 

次に出てくるのは特進クラス。そしてその次に出てくるだけで存在感を放ってくるS特進クラス。

僕の偏見で悪いけど、特進クラスはもやしが多い。一番学力があるS特進クラスにももやしはもちろんいるが、案外スポーツマンみたいなガタイの人やコミュニケーション能力の長ける人が多い気がする。

 

 

 

放送委員のノリノリな口調で第一問が発表される。

内容は「ウナギの血液には毒素が含まれておりますが、その毒の名前を答えろ」という問題で、早速学力関係なしの雑学だったことに周りの生徒から色々な声がグラウンドに入り混じる。

 

僕は大将の席で、ここにこのまま座って待機してる方が罰ゲームみたいなんだけどと思いながら頬杖をついていた。

最初は中堅の奴が大将だと言い張っていた。別に僕も異論はなかったけどクラス全体が僕を推してしまった。ただそれだけ。

 

いきなり最初の問題を僕のクラスの先方は間違ってしまった。他のクラスは全員正解してるのに。

普通はウナギが毒を持っている事なんて知らないだろうし、イクチオヘモトキシンと言う毒の名前も出てこないだろう。

だけどさ、普通疑問に思わないのかな。どうしてウナギって蒲焼くらいしか食べないのかなってね。

 

続く第2、3問が終了した時点で早速僕の出番まで来てしまった。

周りはまだ先方、時折中堅が回答席に座っている状態。ただこの競技の出場者は僕を哀れな目では見ていない事は分かったから少しこそばゆい。

 

「第4問!数学の問題です。こちらのモニターをご覧ください」

 

頬杖したままぼんやりとモニターを眺める。こんなところにまでモニター持ってきて体育委員はご苦労様だね。

 

『10個の異なる2桁の整数からなる集合がある。共通部分を持たない2つの部分集合をうまく選べばそれらの要素の和が等しくなるように出来ることを証明しなさい』

 

あー、ディリクレの原理を使わなきゃいけなさそうだ。

競技観戦者は解ける訳ないだろ!と言う悲鳴が聞こえるし、周りの回答者も頭を悩ましている。

 

そしてすぐに観戦者はざわつき始める。さっきまでわめいていたクセにって思いながらペンを走らせる。

きっと僕が頬杖を突きながらものすごいスピードでペンを走らせているからだろう。

高校1年生の時にこれとよく似た問題に頭を悩ました覚えはあるし、今も解法が頭の中で次々に作り上げられるくらいには覚えているものだ。

 

どうやら今回の問題の正解者は僕だけだったらしい。

 

 

その後の問題も僕は解いていった。

次第に僕たちのクラスだけだった町田コールが全校生徒まで真似はじめ、グラウンドの隅々の生徒にまで広がっていった。。

 

ただ僕は自分の苗字でコールが出ているのに、まるで他人事のように気にしないでいた。

なんだろう、あまりしっくりこないのかな。

それともまた周りが自分の事の様に騒いでいるだけなのかな。

 

横を見れば回答席に座っているのは僕と、S特進クラスの大将である女の子だけ。

その女の子、桃子は僕と張り合う事が楽しくて仕方がないような表情をしながら僕の方をチラッと見てくる。

本当に、この子は2年前と変わらない。

 

 

「第13問!モニターに映し出されているのは藤原道綱母が記したと言われる蜻蛉日記のとある一文です。これを現代語訳してください。……そろそろこちらの用意している問題がなくなりますからそろそろどっちか間違えてー!」

 

放送部員の切実な心情が吐露されて、ようやく僕が一体何問もの問題を解いてきたのかが分かった。

きっと隣に座っている桃子は嬉々としているのだろうなって思いながら頬杖をつく。

蜻蛉日記は面倒くさい事に主語が記されていない文章が多い。だから古典文学の中では読解が難しい部類だ。

 

だけど僕にはとある理由から、モニターに映し出された箇所の現代語訳は瞬時に頭の中の引き出しから出てきた。

 

 

だけど僕は敢えて、そう、敢えて。

現代語訳を間違える選択を取ったんだ。

 

 

 




@komugikonana

次話は7月26日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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~高評価をつけて頂いた方々をご紹介~
評価10と言う最高評価をつけて頂きました エラーが発生しましたさん!
同じく評価10と言う最高評価をつけて頂きました じゃがびーさん!

この場をお借りしてお礼も仕上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~

僕たちのクラスは解散時間までお祭り状態に近かった。
教室に戻るとクラスメイトが僕をもみくちゃにしてしまって、髪の毛がボサボサのままホームルームを終えた。

このままの髪型で戸山さんに会ったら、きっと彼女は口元を抑えながら笑ってくるだろう。
それも面白いかもしれないけど、ちょっとダサい格好で会うのも気が引けるという左右どっちにも触れる壊れた磁針のような気持ちがあっちこっちする。

冷静に考えれば後者の方が圧倒的に印象が良いよな、と言う判断から僕はトイレに向かう事にした。
多少水で濡らしたら髪の毛も言う事を少しは聴いてくれるだろう。
そう思って教室から出ると、戸山さんとは違う女の子が、僕を待っていた。


「悠仁とは終わりにしような」



では、次話までまったり待ってあげてください。
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