今日この日の放課後に見たくなかった場面に出くわしてしまった僕は、あの後訳の分からない胸のモヤモヤと頭痛、そして吐き気に襲われた。
胸がモヤモヤと気持ち悪くなる原因はやんわりと想像は出来る。だけど頭痛と吐き気は良く分からない。
でも前も何が原因だったか分からないけど吐き気に襲われたという漠然とした記憶で覚えてる。
誰もいない家に帰って、いつもは手を合わせる父さんの前を素通りして自分の部屋へと向かい、来ていた制服を乱雑にベッドの上へと投げ捨てた。
「どうして僕が……イライラしてんだよ」
そしてふと冷静に物事を見てみると、イライラを服やドアを開ける際などにぶつけている自分に更に嫌気がさした。
僕の傍にいる黒い「何か」は少し大きくなっているように感じたけれど、そんな
なぜか知らないけど後頭部辺りがやけに痒くなってきて、無意識のうちにガリガリと右手で掻き乱している。
「このイライラは僕のせいか?」
こんなにも苦しいのは僕のメンタル的な面が原因なのか?
たしかに僕はそんなに肝が据わっているような性格の人間じゃないし、勉強以外の事で一発勝負な場面なんかは手が小刻みに震えてしまうほどだ。
だから心を微かに動かしている女の子が他の男と良い雰囲気になっている場面だけを見て動揺している自分がすべて悪いという事なのか。
「……そうじゃあ、無いな」
薄暗い部屋にも関わらず証明もつけないでベッドに座りながら僕は低い声を僕しかいない空間に響き渡らせた。
僕の傍にいる黒い「何か」はニヤッとしながら存在をブクブクと大きくさせる。
携帯の電源を入れる。
薄暗い部屋に現れる一筋の光は、無表情な顔をした僕の顔だけを機械的に照らしていた。
僕は戸山さんにメッセージを送るために親指をきびきびと動かしながら文章を入力していく。
今の様子を第三者が見ればきっと、いつものような嬉々とした表情を浮かべながらやり取りをしていた過去を疑ってしまうだろうね。
「これで二日後の月曜日、話をすることが出来るだろうね」
携帯の電源を落とすと、太陽が完璧に沈んでしまったのだろう、部屋を照らす明かりがすべてなくなって真っ暗になった。
でも不思議と僕の目には、想像しているよりも暗く感じなかった。
二日後の月曜日。体育祭が土曜日にあった為に今日は僕たちの学校は休みだ。
日曜日はどのように過ごしたかと言うと一日中自分の部屋に中に閉じこもっていたと言っても過言ではない。
それくらい今の僕には普段なら楽しいと思えるはずの事をしても馬鹿らしく思ってしまう。
そういえば土曜日から時々戸山さんから携帯にメッセージが送られてきていた。
だけど返信はかなり素っ気なくなった。僕自身返信するのも億劫になっているのだから返信しているという事実は褒めて欲しい。
誰の目から見ても適当に返信しているのに戸山さんはしっかりと返してきているのだけは良く分からない。
僕のいない場所で、僕の話題に盛り上がっていたくせに、って思ってしまう。本当は思ってはいけない事だし、人間誰しもそういう部分が見え隠れする生き物なのだから。
だから僕はこれから戸山さんに……。
これからの行動は僕にとって、そして彼女にとっても良い行動なんだ。何も心を痛める必要はない。むしろ僕の心のほうがズタズタなのだから。
静かな布団の上で、僕は心の中で自問自答を行っていたら気が付けば戸山さんに吹っ掛けた約束の時間近くまで時刻が迫っていた。
僕の足元が、いや膝丈まで水に浸かっているのかと思ってしまうような重たい脚を懸命に動かして
こういう話をしたい時はだいたい公園で、と言うのが相場の様に思える。だけぼ僕が戸山さんを呼ぶ場所に指定したのは違う場所。
それはなぜか既視感に溢れているし、同じような場面は決まって公園で行われているように直感で感じたからに過ぎないのだけれど。
「あ、悠仁先輩っ!」
何の変哲もない、耳を澄ませば電車の音が時折聞こえてくるような、そんなどこにでもあるような住宅地の端っこ。
僕の目に映るのは僕の肩くらいまで積み上げられている無機質なブロック塀と電柱、そして僕が目を逸らしてしまいたくなるような笑顔の戸山さんだった。
「体育大会の先輩、とーってもかっこよかったですよ!」
僕の目の前まで来て胸の上あたりで両手をかわいく握りながら語り掛けてくる戸山さん。
自分の心の中では、言葉では表すのも汚らわしいような、悪い気持ちがビュッと飛んで出てきた。
そんな気持ちは流石に出してはいけない。
だって、僕が戸山さんと過ごした時間が楽しかったの事に、偽りなんて無いんだから。
「あのさ……戸山さん」
「えっと、どうしたんですか急に」
「僕さ、見ちゃったんだ。そして聞いちゃった。君と坂本の会話」
ぽつんと、だけどいつまでも残るような言葉を淡々と言った。
戸山さんの瞳が大きくなって、揺れているのを見た。そんな彼女の姿を見て何も思わないはずが無かった。
「僕と終わりにするんでしょ?どうせ遊ばれるんだったら僕の前で遊んで欲しかったよ」
「そ、それは……」
「戸山さんは元気で明るくて、そして僕は君に憧れてた。こんな人だったんだって思った今は印象が変わっちゃったけどね」
「私は……っ!」
戸山さんは下を向いたまま、今にも消えてしまいそうな声がさらに震えていた。
でも彼女はすぐに平静を取り戻した。
僕はそんな彼女の姿を見て、思ったんだ。
とても複雑な顔をしているのに晴れ晴れしく見せようとする彼女の表情をみてさ。
「言い訳になっちゃうよね……悠仁先輩、さようなら」
僕は、いや、僕たちはどこで間違ってしまったのだろう。
僕が間違えた?
そんなはずはない。だけど、戸山さんを見れば何か引っかかってしまう。
僕は何の罪もない綺麗に積み上げられたブロック塀を思い切り蹴った後、何もかもどうでも良くなってしまった。
真っ暗闇。
その中に僕がぽつんと一人で立っている。
何処かで僕を嘲笑う声が聞こえる。気持ち悪く感じた僕は一寸先も見えない暗闇を四方八方見渡す。
どこだ?どこで笑ってる?隠れてないで出て来いよ。
耳を澄ませば、その声は僕の足元から聞こえてきている事が分かった。
下を向くと小さな石ころのくせに、面白いおもちゃを見つけた不良のような顔をしながら僕をからかっていた。
僕は口を歪ませながら小さな石ころをグリグリと何度も、踏んづけた。
「ぎゃははは!やっぱりお前はいっつもそうだ!自分より弱いものに怒りをぶつける!」
さっきまで石ころだったものが黒い霧を放つ。
その霧から人型のようなものがむくむくと出てきて、僕は必死に違う場所に走って逃げた。
息が切れる、しんどい、気持ち悪い。
「そしてすぐ逃げるんだ!」
瞬間移動してきたかと思わせるように、黒い人が僕の前にぴったりと表れる。
振り返って反対方向に逃げようとした。
でも後ろにも同じ人型が立っていた。おまけに右も左も。
人型はブツブツと何かを、しかもかなり早口で呟き始める。
それだけでは物足りないのか、僕の片足にしがみついてきたり肩に体重をかけてきながら耳元で囁く奴も出てくる。
共通していたのは、みんな口をこれでもかと大きく歪ませていた事。
やめろ、やめろ。
「辞めろって言ってんだろっ!」
はぁはぁ、と言う息遣いの荒さと一緒に僕は
そして汗だくのまま、虚無の目をしたまま、僕は思った。
夢はつい最近の出来事からなっていた事。
既に起きてしまった出来事、それは夢でも何でもない現実。
つまり今まではプロローグにすぎないのだ、という事を。
@komugikonana
次話は8月9日(日)の22:00に公開します。
お盆休みですね。今年は例年よりもゆっくりと過ごせるのかな?皆さんも体調には気を付けてください。
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~次回予告~
僕は汗を流すためにシャワーをサッと浴びることにした。
夢から覚めて、モノクロに映っていた視界はすべて淡い色がついている。いや、人間が目を通して物体を見るしカラーで見えるのは当たり前だ。
だけど掠れた色でしか見えないように感じるのは、気のせいではないようだ。
戸山さんに一方的に言って別れを切り出したあの日からおよそ2週間が経過した。
「……ほんと、僕は何がしたいんだろ」
「僕はただ……」
僕はただ、戸山さんには笑顔でいて欲しかった。
――本編が、始まる。
では、次話までまったり待ってあげてください。