今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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平日の来訪者と僕が知らなかった事③

俺こと、坂本光輝(こうき)はいつものように帰る準備をしていた。

 

中学生の時は部活もバリバリやってたし、成績面でも学校の中では常に上位5位以内には入っていた。

俺の両親が何を思って付けたのかは分からないけど、自分の名前に恥じない程度には輝いていたし、光ってた。

そんな栄光もこの高校に来てからはまるで幻だったかのように俺の元から消えていった。

 

だけど俺はそんなに悲観はしていない。

周りの人間にチヤホヤされたいわけでもないし、期待とかもそんなにされないから気楽に生きていけてる。友達もそれなりにはいるし、一般的に言ったら恵まれてる環境の中に身を置いているのかもしれない。

そう思えば、前向きに生きていける。周りのみんなは「自分が特別でありたい」と思ってる人が多いけど、普通で良いんだ。

 

……正直に言えば、「特別」な人間を近くで見ていたら羨ましく思うのが正直なところだ。

こんな俺だって少しは名誉が欲しくなる時だってある。

 

「その特別な人間が一番近くにいるからなぁ」

 

頭をポリポリと掻きながら独り言を零した。

そんな時に一本の着信が入った。面倒だから誰からの着信なのかは見なかった。

 

「もしもし、光輝?今週の土曜日暇?」

「おう、暇だ」

「サッカーやろうぜ。グラウンドはこっちで予約しとくからさ」

「後は誰来んの?」

「まぁテキトーに呼んでる。でも光輝がいねぇと始まらねぇじゃん?」

 

電話の主は中学時代の部活の同期だった奴。

かつては俺とそいつの二枚看板とか言われてたけど、俺は進学校で平凡と、そして同期は強豪サッカー部の主力として学校を過ごしてる。

 

もちろん行くと答えて通話は終わった。

こんな俺でも受験に対する漠然とした不安が少しずつ積もっていってるなんて思ってるけど口に出さないのはある意味高校生同士の暗黙のルールっぽく感じる。

 

だからこそ開口一番に暇だって答えるのも暗黙のルールっぽい。

 

 

カバンを気だるげに肩からぶら下げながら校門を出ると、俺らの学校とは違う制服の女子生徒が誰かを待っているかの様に佇んでいた。

あの制服は確か、花女だったはずだ。

 

「こんにちは、誰か待ってる感じ?」

 

深く考えずに、俺は花女の生徒に声を掛けた。

その女の子は話しかけられると思ってなかったのだろう、少し驚いた表情を浮かべたがその後は俺の顔をじーっと見ながら一人で呟いたと思えば、息をスーッと吸った。

 

「えっと……悠仁先輩を待ってるんですけど。あ、でも悠仁先輩の苗字って何だろう?」

「先輩って事は君より年上だよね?君は何年生?」

「戸山香澄ですっ!高校2年生です!」

 

まさか名前まで言ってくれるとは思ってなかった。だけど大体この子が探してる人間も想像がついた。

確かに最近女の子と連絡を取り合ってたっぽいし、まっさんも隅には置けないなぁと口元を緩ませてしまった。

 

「多分香澄ちゃんが探してるのはこいつ、だろ?」

 

俺は携帯のフォルダを適当に選びながら、まっさんが写ってる画像を彼女に見せた。

香澄ちゃんはこの人です、悠仁先輩ですって指を指しながら嬉しそうに言っていた。

 

「こいつ、俺の友達だから」

「本当ですかっ!?」

「でも残念なお知らせ。悠仁は今日学校休みだ。担任曰く体調不良らしいけど」

 

香澄ちゃんはうそお、と大きな目を更に大きくさせた。

俺からしたらまっさんがサボる事なんか日常茶飯事だし、そんなに驚くような事ではない。もちろんそれは俺らの中での認識であって、それが香澄ちゃんにも当てはまるとは限らない。

 

香澄ちゃんはあたふたとしながら携帯電話を取りだして、電話を始めた。

恐らくまっさんに電話をするのだろう。

 

 

 

あ、悠仁先輩!?だ、大丈夫ですか!?

今日、悠仁先輩学校休んだんですよねっ!?熱ですかっ!?

そうなんですねっ!安心しました~

 

 

 

それにしても、まっさんさ。

良い女の子と出会えてんじゃん。それにこの子は明るそうだし、もしかしたら。

 

そう、もしかしたら。

そう思ったらすぐに、俺の口は動いていた。

 

 

「ねぇ香澄ちゃん。ちょっと時間があったらそこのカフェ行かない?悠仁との関係とか聞きたいし。全額奢るからさ」

 

 

 

 

 

俺は香澄ちゃんの頼んだ飲み物と自分用のコーヒーを両手に持ちながら彼女が座っているテーブルに向かう。

香澄ちゃんにナンパされたかと思いましたって悪気の無い眩しい表情で言われた時は笑うしかできなかった。見た目も相俟ってよく言われるよって言いながら。

 

香澄ちゃんは頼んだスムージーを一口飲んで、美味しいと言っていた。

俺はコーヒーをゆっくりと喉に流した後、咳ばらいをした。

 

「それでさ、香澄ちゃんはどうやって悠仁と出会ったの?」

「悠仁先輩とは偶然登校中に会ったんですっ!……改めて言うと、恥ずかしいですね」

「別に恥ずかしがる事無いって。笑ったりしないから」

 

人と少しでも違った行動をすれば恥ずかしいとか、そう思ってしまうのは仕方がないのかもしれない。

だけど自分の過去や行動、出会いには胸を張ってほしい。まっさんにも言えることだけど。

 

「ちなみに香澄ちゃんはまっさんの事、好きなんだろ?」

 

一瞬だけ俺たちの間を流れていた空気がピタッと止まる。

数秒後には何事も無かったかのように動き始め、同じタイミングで香澄ちゃんの頬はほんのりと赤く染まっていった。

まるで時がイタズラをしたかのようなタイミングだったから俺は思わずコーヒーを喉に流し込んだ。

 

「多分……好き、なんだと思います」

「多分、なんだ?」

「はい。今まで人を好きになった事なんて無かったから分からないんですけど。悠仁先輩の近くに居たり、考えたりするとドキドキするんです」

「そっか。好きって気持ちは自分で決めるもんだから、ゆっくり決めればいいさ」

 

と言いながらも完璧に脈ありだろう、って思う俺もいた。

香澄ちゃんのこの反応はある意味想定内ではあった。なぜならまっさんが学校を休んでいると言った瞬間には、彼女はまっさんに電話を掛けたのだから。

 

俺も香澄ちゃんやまっさんを応援したい気持ちはある。

だけどな、と思いとどまらなくてはならない理由だって俺には確かに存在した。

 

「さ、坂本先輩っ!」

「うん?どうした?」

 

何かを決心したかのような瞳が俺の目を見つめて離さなかった。

周りの人間は他愛の無い話や、今日起こった出来事の愚痴を話したりしてる。その空気感の違いが体中の神経が察知した。

 

「坂本先輩は悠仁先輩と仲が良い、ですよねっ!?」

「まぁ、知り合いだからね」

 

悠仁と初めて知り合ったのは去年の4月だから、決して長い付き合いという訳ではない。

だけれど、悠仁の事はよく知っている。

 

今この一瞬、周りの声も静かになった。

飲み込む唾の、ゴクンと言う音がしっかりと聞こえる。

 

「悪い事かもしれないです。だけど……悠仁先輩の事、知りたいんですっ!」

「どうして?」

 

敢えて意地悪に、問いを返してみた。

普通だったら何も考えずに言う。いいよ、何でも教えてあげるってさ。

香澄ちゃんの反応を見ながら楽しみたいとか、そんな悪趣味みたいな動機なんかじゃない。

 

香澄ちゃんの言葉を借りるなら、悪い事かもしれない。

 

「悠仁先輩、時々辛さそうな時があるんです」

「そう?」

「はい。だけど私には優しくて、時には助けてくれたりしました」

 

少し顔を俯かせた。

そして香澄ちゃんには見えないように、口角を上げた。

 

「もし悠仁先輩が何かに悩んでいるのなら、今度は私が助けてあげたいっ!」

 

残り少ないコーヒーをすべて口の中に入れた。

喉に流した後、ふぅと息を吐くとコーヒーのわずかに残った苦みが香りとなっていく。

 

これだからコーヒーは好きで、辞められない。

人間も一緒だと思う。苦い経験や辛い経験も、後になれば笑い話になったりする。

 

「……香澄ちゃん」

 

優しい笑顔を彼女に向けた。

まっさんとは違って、どちらかと言うと勉強嫌いなやんちゃ男子のような顔をしている俺が真顔になったら重たくなる。

 

実際、重たいんだけどさ。

 

「今日はほんの一部だけど、教えるよ」

 

まっさんについて、ね。

 

 




@komugikonana

次話は8月30日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやってます。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価を付けて頂いた方をご紹介~
評価10と言う最高評価を付けて頂きました TD@死王の蔵人さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援よろしくお願いします。

~次回予告~

カフェで香澄ちゃんにまっさんの事を話した日の夜。
まっさんの事を話したと言ってもほんの一部で、まっさんがどんな人間だったか、そしてまっさんがどうして今の様になったのかを話しただけ。

香澄ちゃんから送られてきた返信をそのまま口ずさんだ。
ありがとうはどちらかと言えばこっちのセリフのような気がするけど、素直に気持ちを受け取っておくのも良いだろう。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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