今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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第3話

「まっさんさぁ、最近よく物思いにふけってるよなー」

「別に、そんなことないよ」

「ついにまっさんにも春が来たのか!?ちくしょう!」

「何勝手に自己解決して納得いってんだ」

「今年一年は受験のため恋はしないって俺たちの約束はどこ行ったんだ!」

「めんどくさ」

 

僕は頬杖をつきながら、親友である坂本の話を聞き流していた。

それに坂本と今年一年は恋をしないとかそんなバカみたいな約束はした覚えがないし、今の僕には恋なんて興味が無い。

 

だけどあの日から、時折、僕の脳裏にあの女の子が浮かび上がってくる。

髪型が一風変わった、猫耳を付けているようで、笑顔がとっても眩しかった戸山さんの事を。

 

登校も下校も、何気なく心に緊張感が走るようになった。

もしかしたらまた会えるのかなってね。

 

それともやっぱり、絶対と言う言葉は嘘つきなのか。

 

「まっさんは受験、どうすんの?」

「決めてない」

 

嘘なんだけどね。

 

「そうだよなー。うちのクラスの秘密兵器、まっさんが決めて無いなら別にいいか」

「いつ僕が秘密兵器になったんだ」

 

秘密兵器だぜ?secretなweaponだぜ?とか何故か英語力が無いくせに横文字を使いだす坂本に僕は呆れて果ててしまった。

今は放課後だし、坂本とこれ以上いても疲れるし帰ろうかな。

 

机の中に入っている教科書をすべて取り出し、自分のロッカーに押し込んで帰る準備を始める。

このまま早く帰っても母親はいないし、ご飯も作ってない。

僕にも日々、色々と悩んでいる事もあるのに世間はいつも追い打ちをかける。

 

まっさんが帰るなら俺も帰るわ、と坂本も荷物をまとめて教室を出て行った。

またな、と言う軽い別れの挨拶をすませて駐輪場に向かう。

 

自転車にまたがって校門を出る時、僕はあることに気が付いた。

 

「今日課題があったっけ……明日朝一で提出の」

 

まぁいいや。自転車に乗ってしまった僕を止めるのは無理だ。

今回もサボってしまおう。もし教師にグチグチ言われたらいつもの平謝りで済まそう。

 

高校に入って3年目だけど、色々な事が変わった2年前ほど鮮烈な記憶が無いからこのままのうのうと過ごして卒業するんだろうなって思うとなんだか僕らしく感じる。

自転車が甲高い音を漕ぐたびに叫ぶ。

 

ゆっくりと自転車に乗りながら帰り道を走っていると、前方に見覚えのある制服を着た女生徒が一人で歩いていた。

その女生徒は背中に何か大きいものを背負っていた。

 

スポーツかな?

でも僕の記憶の中では、こんな大きな物を使うスポーツは思い浮かばない。

 

自転車で軽く追い抜いた時にチラッと顔を見てみようかな。

 

だんだん近づいていくシルエット。そこでバッと追い抜かした。

 

「……え?」

 

僕は思わずそんな声を上げてしまった。

何か大きな物を背負っている女の子が、あの日の朝に偶然であった女の子と同じ顔だったから。

 

「あっ!悠仁君っ!」

 

やっぱり間違いない。

僕の名前を呼んで、とっても元気な顔を見せてくれた。

 

「えっと、戸山さんだっけ」

「あったりー!えへへ、また会ったね!」

 

本当にまた会えたことで、世間は意外と狭いんだって思った。

だけど同時に同じ時間に家から学校に行く際、大体会う人がいるよなって感じて、やっぱり世間は狭いものだって認識になった。

 

「ちょっとお話しない?せっかくまた会ったんだし!」

「まぁ別に、良いよ。どこ行く?」

「ファミレスっ!ファミレスに行こ!」

「決まりだね」

 

僕は自転車から降りて、押しながら戸山さんの横に並ぶ。

戸山さんのカバンを僕の自転車の前カゴに入れてあげると、彼女は少し身軽になったのか少し歩くスピードを速めた。

 

「悠仁君は今日はちゃんと遅刻せず学校行けた?」

「一昨日は2分遅刻したけど、今日はちゃんと行けたよ」

「おお!偉い!」

 

まさか褒められるとは思わなくて苦笑いをした。

戸山さんは面白い女の子だ。普通ならかっこ悪いとかだらしないとか思うはずなんだけど。

 

しばらく歩いているとファミレスが見えてきたから、僕は先に自転車を駐輪場に置きに行く。

あまりこういう場所に自転車を置きたくないけど、僕のはボロいから心配するだけ無駄だと心で唱えた。

 

店に入って店員さんが何名様ですか、と言うお決まりのセリフを僕は手をピースにして店員さんに伝えた。

その時、人差し指と中指が上下にチラチラっと動いたのは僕の心を表しているからだと思った。

 

とりあえずドリンクバーとポテトを注文した。

女の子と二人で来るのが初めてだったから油ものとか敬遠されるのだろうか、と最初は不安だったが戸山さんもポテトが食べたいと言っていたから安心した。

 

「戸山さん、その、気になってたんだけど戸山さんが背中に背負っているのは何なの?」

「ギターだよ!私、バンドやってるんだよ!ね?すごいでしょ!」

「確かにすごいしかっこいいね」

「ねね、バンドで何担当してるか当ててみてっ!」

 

戸山さんがキラキラと瞳を輝かせながら前のめりになりながら聞いてきて、ちょっとだけ僕はのけぞってしまった。

僕はちょっとだけ困ってしまう。

 

さっき僕がギターの事を聞いたのだから彼女がバンドで少なくともギターを担当している事は分かる。

それなのに僕に何を担当しているかと聞いてきたという事は他にも何かしている?

だったら、普通に考えたらボーカルだよね。

 

歌も歌えるという事も知ってほしいからわざわざこんな問いかけをしてきた?

それともただのアホな子なのか?

 

高度な駆け引きを仕掛けられている気がした。

 

「ギター、かな?」

「あったりー!どうして分かったの!?」

「いや、ギター背負ってるし……どうしてって言われてもなぁ」

「あ、そういえばそうだね……えへへ」

「戸山さんは面白い人だね」

 

そんなやり取りをしていると早々とポテトが僕たちの机にやってきた。

まだドリンクも持ってきていないから入れに行こうかと思ったが、戸山さんが持ってくるから座っててと言ってから席を離れていった。

 

二人同時に席を外すのは不用心だから駄目だけど、まだ親しくもない人にドリンクを持ってきてもらうのはちょっとだけ良心がチクチクと痛んだ。

 

「お待たせ!話の続きだけど、ギター以外にも……」

「ボーカル、とか?」

「すごいっ!どうして分かったの!?もしかして悠仁君って賢い?」

「遅刻ばっかりの人間が賢い訳ないって」

「能ある鷹はなんちゃら、って事?」

「そんなんじゃないって」

 

僕だったら例え爪を隠していても鷹の姿を見れば一目散に逃げるだろうから。たとえ近くに長年の付き合いになる親友がいても。

 

アツアツのポテトを手でつかんで別皿の右半分に盛られてあるケチャップを付けて口に運ぶ。

どうせ出されているポテトが冷凍で業務用だったとしても、アツアツだったら美味しい。

 

その時に戸山さんの携帯が音を上げた。

僕が聞いたことのない着信メロディが電話が来たことを伝えているのだけど、当の持ち主である戸山さんは分かりやすくあちゃーっとした顔をしていた。

 

携帯の画面には「市ヶ谷有咲」と表示されていたけど、こういう情報は極力見ない方が良かったなと思い、目をサラッと他の方向に流した。

 

「戸山さん、電話でないの?」

「今は良いかな?あ、はは……」

「何かの集まりをサボったとか?」

「ぎくっ!」

 

どうやら正解だったらしく、いつもは目を星の様にキラキラとさせているのに今は図星を貫き通すらしい。

普通だったら、こんな時なんて言ってあげたら良いのかなってふと思った。

 

約束を破るのはいけない事だよ、って言うのかな?

そんなに僕と一緒にいたいの、っていたずらっぽく言うのかな?

 

色々と厄介で面倒くさい僕なら。

 

「良いんじゃないかな、別に」

「……どういう事?」

「自分がしたくない事とかやりたくない事はやらなくても良いって事」

 

例え仲のいい友達でも自分のやりたくない事をやろうぜって言われても絶対にやらない。

だって自分の、僕の人生なんだから。

 

「悠仁君は、こんな私でも怒らないの?理由とか聞かないの?」

「僕に戸山さんを怒る権利もないし、理由なんて『嫌だから』と言うたった5文字で良いじゃん。何もかもが嫌になってからじゃおそ……」

「おそ?」

「お粗末だってこと。せっかくなんだ、もっと楽しい話をしようぜ」

 

大体誰に聞いても高校の時が一番楽しかった、と口をそろえる。

現在進行中で高校生の俺たちにだって色々あるんだ。

 

表の顔は笑ってバカして、青春を謳歌している。

でもその一方でいつも何かしら、漠然とした悩みを持っていて、だけど誰にも見せないように心の奥底に沈めてる。

 

高校生って面倒くさいよなって思いながらちょっとだけ冷めたポテトを口に運んだ。

 

戸山さんの携帯から出せれていた着信が、止まった。

 

 




@komugikonana

次話は4月12日(日)の22:00に公開します。
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~次回予告~

すっかり日が暮れてしまった夜は、太陽が出ている時間帯とは違って思わず身を震えさせてしまうような冷たさを感じる。
昼夜の温度差が激しく、生活環境が大きく変化するこの時期は案外体調を崩してしまう人が多いらしい事をテレビでよく耳にするようになった。

戸山さんとファミレスで、あの後は他愛の無い話をした後に解散となった。
普段することが無くて時間をもてあそばせている僕からすれば今日は充実した、そして世の中の高校生らしい日常を送った日だと感じている。

僕自身友達が少ないわけではないが、それはあくまでも学校内での関係であって、放課後などプライベートはあまり深入りされたくないという考えがあるから、こんな日は随分久しぶりに感じた。

昔は良く友人と放課後は遊びに行ったものだった。
昔と言っても2年前までだけどね。

僕が気づいてしまった高校1年生のあの日以降は、ずっと今のような過ごし方をしている。

「ただいま」


では、次話までまったり待ってあげてください。
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