今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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好きって気持ちを抱いて②

夏休みになると、日が傾きだして街灯に明るさが灯る時間になっても僕たちと同じような年齢の人たちが平日になっても街を練り歩く。

友達複数人同士楽しそうに笑いながら歩く人たちも、一人で何か買いに出掛けて目当ての物を手に入れることが出来た人も、二人の思い出を作りたい欲求に従順なカップル。

 

別にどの人たちが勝ち組で、あの人たちは負け組だとかはちっとも思わない。

自分にとって有意義な行動はどれも正解で、そんな行動をとる人たちが多く集まるのだからこそ街は活気にあふれて、人々に魅力を焚きつけるのだろう。

 

僕もそんな街に惹き寄せられて、ここなら戸山さんと素敵な時を刻むことが出来るって思った。

現に僕は既に戸山さんの胸の感触を……。

 

「悠仁先輩?」

「え、えっと、なんでそんな冷たい目をしてるのかな?」

「またヘンな事考えてましたよねっ!」

「あはは……そんな事ないって」

 

戸山さんの目にはおもちゃを隠した犯人(お母さん)に在処を尋ねる子供のような疑心が溢れていた。

どう隠しても確信的に思ってるその目を僕は誤魔化すことでしか回避できないと悟った。

 

戸山さんも僕の気持ちが分かったのか、小さな声でやっぱり男の子なんですね、と言った。

戸山さんのような女子高に通っている女の子がイメージする「男の子」ってなんだか野蛮で好意的な印象を持っていない気がする。

 

「あ、ここだよ、戸山さん」

「うわあ!美味しそうですねっ!」

 

街中となれば居酒屋が多くて未成年の僕たちには結構困ったりするんだけど、路地の隅っことかに隠れたお店が良くある。

人目のつかないところにお店があるにも関わらず、オープンし続けているお店はほぼ間違いない。

 

ピアーチェと言う店名で、ランチ時には毎回異なったメニューを出していて散歩で通りかかればかかるほどどんな店なんだろうって好奇心が日々日々強くなっていた。

外見はお洒落だし、イタリア料理ってなんだか大人っぽいから今回はいい機会かもしれない。

 

店に入ると大学生くらいの綺麗な店員さんが店を回していた。二人であることを伝えるとカウンター席に案内されて、僕たちは普段入店する店では味わえない高貴でモダンな空間に恐る恐るちょこんと座った。

 

「お行儀良くしなくちゃ、ですね!」

「確かにね。でもせっかくだし僕たちらしい雰囲気で過ごそう」

「私たちらしい雰囲気……うーん、私たちってどんな雰囲気なんだろ?」

 

戸山さんが軽い気持ちが考えながらメニューを見ている。

確かに僕たちっていつもどんな雰囲気だったっけ。そもそも僕たちってどんな関係なんだっけ。

 

付き合っていないから恋人同士ではないけど、この前看病してくれた時は間違いなく戸山さんは僕の事を好きって言った。

いや、もしかしたらあの時は僕が微熱のせいで自分の良い様に解釈したのかもしれない。

 

僕も戸山さんの事が好きだから両想いってなるんだけど、実際はどうなんだ?

 

「悠仁先輩……その気持ち、分かりますっ!」

「分かっちゃうの!?」

 

戸山さんは胸の前で両手を持ってきながらまっすぐな瞳で僕を覗く。

もしかして無意識の内に口に出してしまっていたのかもしれない。小さい店内だからもしかしたら僕の独り言が他の人にも聞かれていて初々しいなぁ、とか思われてるかも?

そしたら大学生っぽい店員さんに耳打ちで頑張ってね、とか言われちゃうやつかもしれない。

 

戸山さんも気になっているんだ。

ここははっきり、方針を決めた方が良いと思うんだ。

 

この場所で告白は雰囲気もへったくれも無いから、別の場所で、そして……。

 

「私はもう決めましたよっ!」

 

えっへん、と吹き出しが出そうなくらい腰に手を当てて胸を張る戸山さん。

僕よりよっぽど決断が速くて、これじゃあどっちが男か分からない。男は一家の大黒柱って言われているんだから僕も決断しなくちゃいけない。

 

もし決断の末、二人の間で溝が生じたら、二人で相談してそんな溝なんか埋めてしまえば良い。

そう思えば僕も少しは優柔不断な性格が治るかも。

僕も決めたよ、戸山さん。

 

「言って、良いですか?」

 

少し顔を下に向けてボソッと言う戸山さん。

僕の心臓がドキンと飛び上がり、その瞬間からドクン、と心臓の音が耳にまで広がってまるで心臓が顔近くにあるんじゃないかって思えてしまうほど。

 

一回ゴクンと息を呑みこんでから、戸山さんの顔を見つめる。

 

「私はこのチーズたっぷり濃厚ボロネーゼにしますっ!」

「僕も……す」

「す?」

「えっ!?っとスープパスタ……」

「スープパスタも美味しそうですよねっ!でもカルパッチョも美味しそうですよねっ!一緒に頼んじゃおっかな」

 

僕は空気が抜けた風船のようにダラダラっと力が抜けていく。

戸山さんは何を頼むか悩んでいたんだ……そりゃあそうだよな。

 

むしろ戸山さんの方が正しいし、がっくりする理由なんてほんの少しも無いけど流石に心の隙間がスースーとする。

これからは一人の時にしかこういう事を考えないでおこうとこっそり涙をふいた。

 

戸山さんに確認を取った後、僕は控えめに手をあげながら店員さんを呼んで注文をする。

結局カルパッチョは注文しなくて、それぞれパスタをお願いした。

もちろん僕はスープパスタ。

 

「その……悠仁先輩」

「なにかな」

「ありがとうございます」

 

少し恥ずかしそうにチラッと目を合わせながらお礼を言ってくる戸山さん。

何に対しての「ありがとう」なのか分からなくて、時間稼ぎに冷たい水を喉に流した。もちろんこんな時はどういたしまして、と答えることも出来ると思う。

 

「えっと……何か戸山さんにしてあげたっけ?」

 

だけど僕はちょっとおちゃらけた笑顔を作って質問してみた。

僕が戸山さんにしてあげたことに対してお礼を言われることは自惚れではないけど、少しは心当たりがある。

 

そうだけどなんでも背景を理解したうえで行動しなければ、どんな事をしたって薄っぺらくなることは容易に考えられたから。

勉強だってそうだけど、ちゃんと数式や背景を理解して覚えれば応用が利くけど丸暗記では太刀打ちできない。

 

学校で習う勉強が社会人になって役に立つかは疑問だけど、勉強の本質は間違いなく今後生きていくうえで役に立つ。

 

「今日会ってくれて、です。受験勉強で忙しいかもしれないのに」

「僕だって24時間ずっと勉強してるわけじゃないから」

「私はずっと悠仁先輩と会いたかったんですっ!」

 

ほんのりと顔が赤いけどまっすぐ僕にそう言った。

僕だって戸山さんに会いたくて今日こうしてご飯を食べている訳で。僕だって電話だけじゃどうしても満足できなかった訳で。

 

「あ、その……会えなくて寂しかったとか、そういう意味ですからっ!」

「えー、そうなの?」

「そ、そうです……!」

「僕は寂しくて、戸山さんに会いたくてご飯に誘ったんだけどなー」

 

ちょっとだけ、そうほんのちょっとだけ、戸山さんを揶揄ってみた。

揶揄ってはいるけれど本心はしっかりと伝えてる。

僕は臆病だからまだ自分の気持ちを素直に彼女に伝えることが出来ないから。

 

僕が柔らかい表情で戸山さんの顔を覗き込んでいると、彼女は顔を僕とは反対方向にプイって向いてしまう。

戸山さんはグイグイとくるタイプなんだけど今回はちょっとやり過ぎちゃったかな。

 

 

「冗談かもしれないけど、そういう事言っちゃうのずるいです」

 

戸山さんは壁に向かってボソッと言う。

僕からしたらその可愛らしい姿の方がずるいって思った。

 

丁度その時にアツアツの料理が僕たちの目の前に置かれた。

 

 




@komugikonana

次話は11月8日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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~新しく評価つけて頂いた方々をご紹介~
評価9と言う高評価を付けて頂きました 春はるさん!
同じく評価9と言う高評価を付けて頂きました 十六夜透夜さん!

評価8→評価9へ変更してくださいました テレフォン31さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~

「それでさー、まっさん」
「なに?」
「香澄ちゃんとどこまでやった?」

勢いよくかぶりついていたハンバーガーの手を止めながら、じーっと坂本を見つめる。
さっきまで口いっぱいに食材の風味が広がっていたのに、今となっては薄っぺらいパテの味すらしなくなった。

「あほかお前は」



では、次話までまったり待ってあげてください。


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