今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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好きって気持ちを抱いて③

8月もお盆が過ぎ去り、夏休みも折り返し地点までやってきた。

毎日授業がある何の変哲もない月の流れは果てしなく長く感じるのに夏休み真っただ中である8月は快速急行にでも乗っているかのように早く過ぎ去っていく。

 

特に毎日同じような行動で一日を過ごす受験生は顕著にそう感じる人間が多いと思う。

 

「なんで夏休みなのに学校に来なきゃいけないんだよ」

「それは知らない。少し前の自分に問いかけなよ」

「正直ほぼ受けなきゃいけないみたいな風潮があるじゃん?」

 

僕と坂本をはじめ、クラスの半数以上は夏休みだというのに学校に来ている。

理由は模試を受けるため。坂本が言う通り模試は受けるか受けないは個人の自由なんだけど受けておいて損はない。

 

僕たちのクラスは周りの学校と同じように休みを過ごしているけど一番賢いS特進クラスだとほぼ毎日補習授業が行われている。

学校側でもまるでクラスごとに期待値が違うのはどうかと思うけど、実績を作りたい学校側の気持ちもある程度は分かっているつもりだ。

 

「その点お前は良いよな。模試でも点数取れるんだから」

「模試の方がライバルは多いし、やる気にはなるね」

「お前の思考は理解できん。ちくしょう!女もいるし余裕たっぷりなのが気に食わねぇ」

 

坂本だって彼女いるくせに、って心の中で毒づく。

僕と坂本以外はみんな参考書を見つめながら最後の抵抗をしている。ちなみに僕は模試やテストの直前に知識を放り込むのは好きじゃない。知らない知識を放り込む代償に今までやってきた事が抜けてしまったり、変な知識が頭をよぎって不安に襲われたりするから。

 

だからみんな頑張っているなって思いながら教室を見渡していると、ふいにあくびが出た。

模試前にあくびが出せるのはリラックスしているからなのか、それとも……。

 

「最近お前、よくあくびしてるよな」

「そう?気にしてなかったけど」

「時折眠そうにしてるし、夜遅くまで勉強してんの?」

「うーん、まあ、そんなとこ」

「天才が努力なんかするなよ?俺達凡人が踏み台にされるんだからさ」

「坂本も僕の踏み台にしてあげようか」

「2回ぐらい死ね」

 

模試試験官と思われるアルバイトらしき大学生が入ってきて、僕たちの現時点での実力を計らされる時が来るらしい。

 

試験監督が高校生でも出来たらなぁ、なんてぼんやりと考えながらスケジュールが書かれた黒板を見つめていた。

だってお金も稼げて、どうせ不正なんて起きないのだから見てるふりして前で自習出来たりするんだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

「今回もマジでヤバいわ。なんで記述模試ってこんなにムズいのか分かんねぇ!」

「記述模試って私立大学とか国公立の受験問題にフォーカスを当ててるらしいけどね」

「8月の時点で入試問題もどきを受けさせるんじゃねーよ」

 

模試が終われば恒例となりつつあるファストフード店での自分の回答との照らし合わせの時間。

今回は記述式だから正確な点数は結果が開示されるまで分からないけど、おおよその点数は分かる。

 

坂本と一緒に自己採点をやってたけど坂本からはまじか、とかそんなの知らねー、などの言葉がほとんどだった。

彼も彼なりに頑張ってはいるのだろうが、現時点では厳しそうだ。

 

「俺が頭を抱えている時間にまっさんは優雅にハンバーガー食いやがって」

「頭使ったらお腹空くからね」

 

実際お腹が空いていたし、店もわざわざ僕たちにスペースを与えてくれているんだから僕たちは見返りにお金を使ってサービスを受けるのは当然だと思う。

 

出来立てアツアツのポテトに同じく出来立てのハンバーガー、それに友達とする他愛の無い話。

どれも久しぶり過ぎて、顔も自然に綻んでいく。

僕は模試の結果云々よりも、テスト終わりのこうした時間が一番好きだったりする。

 

「まっさんはこの後、家で勉強すんの?」

「しないよ。模試の後は羽を伸ばすって決めてるから」

「お前がそういうなら俺も今日はやらん」

「それで良いと思うよ」

 

僕たちがこんなことをしている間に勉強時間は刻一刻と少なくなっていく。

それは同時に僕たちの高校生活が終わりを迎えるという事。

 

受験勉強と同じくらい、高校生活を共にしてきた友達と過ごす時間も大切なんだ、僕にとっては。

 

「それでさー、まっさん」

「なに?」

「香澄ちゃんとどこまでやった?」

 

勢いよくかぶりついていたハンバーガーの手を止めながら、じーっと坂本を見つめる。

さっきまで口いっぱいに食材の風味が広がっていたのに、今となっては薄っぺらいパテの味すらしなくなった。

 

「固まってるって事は……」

 

ゴクリと息を呑む坂本。

お前、学校だったら周りの目を気にせずにきわどい言葉を言いふらしてるくせに、店内だと自重しやがる。

確かに店内には違う高校の制服を着た女子たちが多いけど、そこまで態度が変わるのか。

 

僕はやっとの思いでかぶっていたハンバーガーから一口サイズ分だけ食いちぎって咀嚼し始める。

 

「何もやってない」

「なんだ、てっきり最後までやっちゃって常日頃からチュパチュパとキスしてんのかと思ってたわ」

「あほかお前は」

 

目を一段と細くして坂本を残念な人間を憐れむように見つめた。

ハンバーガーでも立派な食べ物で、ちょっと食べただけでお腹が膨れてくる。それに模試に使った集中力も伴って、またあくびが出る。

今日は家に帰ったら十分くらい寝ようかな。

 

「なんかイマイチ盛り上がらないから香澄ちゃん呼ぶか」

「……なんでそんな流れになるんだ」

「良いじゃん。それにまっさん、ちょっと顔にやけてるぞ」

 

ウソッと思わず口にした僕は顔を引き締めるけど、鏡を見ていないからどうなのだろう。

坂本は素早く携帯で文字を入力している。パソコンのタイピングはめちゃくちゃ遅いくせに携帯となると話が別らしい。

 

文字を打ち終わってテーブルの上に置いた数秒後、携帯を音を鳴らして再び坂本の手のうちに戻る。

そしてすぐに坂本が俺の方をチラッと見てニヤリと顔を綻ばせる。

 

僕は一瞬でどんなやり取りがあったのかが分かってしまった。

今すぐ帰りたい、ってファストフード店で思ったのは今日が初めてだし今後は経験しないかもしれない。

 

「良かったじゃん。香澄ちゃんすぐに来るって」

「そんなすぐに来なくても良いのに」

「お前に会いたいんじゃね?」

 

坂本の解釈の通りだったら、と思うと何故か心が弾む。

どういった理由で戸山さんは早く来ると言ったのかは分からないけど。分からないからこそ僕たちは色んな方向へと想像をして期待を抱くのだ。

 

数が少なくなって段々と冷めてきたポテトを少しずつ食べていると、タンタンタンと足早に誰かが階段を上ってくる音が聞こえた。

流石に戸山さんだったら早すぎる。そんなにお腹が空いているのかと他人事に氷が解けて味が薄くなったコーラを飲んだ。

 

「悠仁先輩っ!」

 

僕は思わずむせてしまった。

流石に速すぎるし、戸山さんも走ってきたのだろう額に何滴か汗が光っていた。流石の坂本も予期していなかったのか目を点にしている。

 

「戸山さん、速いね……」

「これはどういう事ですかっ!?」

 

え、なにが?

戸山さんが手に持っていた携帯の画面を僕に見せてくる。

 

目を細くしてジーッと見つめる。

そこには期末テスト返却日に良い点数を取った僕の周りに集まる女生徒と……その真ん中でにやけている自分が。

 

「じゃあ俺はお先にに失礼するわ」

「おい坂本!お前ぶっ殺すぞ!」

 

写真のチョイスに悪意がありすぎる。

坂本は颯爽と荷物をまとめて立ち去る。そして坂本がいた席に戸山さんがゆっくりと座る。

 

「悠仁先輩……説明してくれますよね?」

「するする!するからそんな目で見ないで!」

 

 




@komugikonana

次話は11月15日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっております。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~次回予告~

「まさか飛んでくるなんて思わなかったよ」

丁度バンド練習が終わって、みんなとお話をしながら歩いて帰っていると携帯に着信が入った。
そして携帯を開いたら坂本先輩から1件のメッセージと1つの画像が表示されていて。

あはは、と電話越しにもかかわらず大声で笑う坂本先輩に私は頬をぷくっと膨らませる。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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