「坂本先輩っ!ひどいですよ!」
「まさか飛んでくるなんて思わなかったよ」
あはは、と電話越しにもかかわらず大声で笑う坂本先輩に私は頬をぷくっと膨らませる。
丁度バンド練習が終わって、みんなとお話をしながら歩いて帰っていると携帯に着信が入った。
そして携帯を開いたら坂本先輩から1件のメッセージと1つの画像が表示されていて。
今日も町田君はモテモテですと言うメッセージの下に、女の子に囲まれて顔を緩ませている彼が写っていた。
そして続くようにメッセージで今ここのファストフード店に居るよ、と届いた時には私は行動に移していた。
そしてファストフード店に着いたら早速悠仁先輩に尋問してしまった。
理由を聞けば、周りにいる女の子たちは普段から仲は良くて久しぶりに結果を出した悠仁先輩が珍しくて好奇心で集まって来ていたらしい。
そして顔を緩ませていたのは結果的に出席日数も足りてホッとした時みたい。
もちろん悠仁先輩が嘘をついている可能性もあったけど、私はその可能性は無いと思っている。
だってあんなにまっすぐとした目で説明していたから。
「悠仁先輩に悪い事しちゃったじゃないですかっ!」
「あっはっはっは」
さっきから坂本先輩は笑ってばかりだ。坂本先輩からしたら自分が仕掛けたタネが想像以上の動きをして面白くて仕方がないのでだろう。
悠仁先輩は私に事情を説明した後、ごめんと謝っていた。
その時に私はハッとした。
悠仁先輩は何に対して「ごめん」と謝ったのかは分からないけれど、もしその「ごめん」が他の女の子と楽しく過ごしてしまったから、だとしたらどうだろう。
私と悠仁先輩は恋人同士ではないし、この恋も私の一方通行かもしれない。
勝手に私が勘違いして、悠仁先輩が誰か他の女の子に取られちゃったりしたら……と思ってしまって思わず彼を責めてしまった。
簡単に言えば束縛に近いんじゃないかなって。彼は誰と仲良くしたって良いのに。
「悠仁先輩に嫌われちゃったらどうしてくれるんですか!」
「その時は他の男と付き合っちゃおう」
「そういう事じゃないんですっ!」
またしても電話の向こうで笑う坂本先輩。
この人はもしかしたらただ面白かったらそれで良いじゃん、と思っているのかもしれないけど。
私の中でモヤッと出てきた不安感を消したくて、クッションをギュッと胸に抱えた。
もしこのクッションが彼の気持ちだったなら、私は離したくない。
「ちなみにまっさんと会った感想はそれだけ?」
「それだけですっ!」
また誰もいないのにぷくっと頬を膨らませて、吐き捨てるかのように言葉をどこに住んでいるか分からない坂本先輩に投げつけた。
本当は彼に電話を先にして、今日の事を私からも謝りたかった。でも不安感が私に素直な行動をさせてはくれなかった。
「まっさんの変化に気が付かなかった?」
「どういう事ですか?」
またどうせ面白い事を起こそうとしてとぼけているのだろう坂本先輩に呆れ半分で、先輩には悪いけどテキトーに返事をした。
「最近、結構眠たそうにしてるんだよな」
「そうです?」
うーん、と少し今日の事を振り返ってみる。
確かにちょっと目が疲れているように見えたけど、そこまで気にして見ていなかったから印象には無かった。
悠仁先輩も受験生だから夜遅くまで勉強していてもおかしくない。
大学受験の事はまだ私は深く考えてはいないけど、人生の中でもトップクラスに今後を左右しそうな選択だって思っているから、悠仁先輩も頑張っているのかな。
そうなれば、やっぱり私が彼に会いたいという気持ちも少し抑えた方が良いのかな。
すごく、すごく寂しいけど。
「今日まっさんにそれとなく聞いたけど、最近寝不足な事を否定しなかった……香澄ちゃんはどう思う?」
「うーん……?」
私はあまり考えることが得意じゃないから、いっぱい悩んでも分からない。
その時の気持ちで動いちゃう事の方が多いから、いっつも有咲を振り回しちゃうんだけど。
しびれを切らしたのか、それとも自分だけが知っているであろう情報を言いたくて仕方が無かったのかは分からないけど坂本先輩が先に口を開く。
「まっさん、バイトしてるらしいんだわ」
「そうなんですか?知らなかったです」
高校生がバイトをしている事自体は校則で禁止されていない限りはそんなに不思議な事ではない。
受験を控えた高校三年生がバイトもしている、と言うパターンもあるだろう。
それと同時に疑問もぷかぷかっとどこからか浮き出てくる。
今の時期に寝不足になるくらいシフトを入れてバイトをするのかな。私には難しい事は分からないけど、高校生って働ける時間の制限とか一定の水準があってそれ以上お金を稼いじゃったら何か面倒くさい事をさせられるって聞いたことがある。
「悠仁先輩、まさかっ!」
私が彼の看病をしていた時に、ちょっとだけ彼が弱みを私に出してくれた時に言っていた言葉を思い出したんです。
母さんにこれ以上負担を掛けたくないから進学しない予定だったけど、進学したいな……。
「香澄ちゃんも分かったかもしれないけど、親に負担を掛けたくないから学費を稼いでるんだよ。ほんと不器用だよな、まっさんって」
悠仁先輩は頭が良くて、周りに気も遣えて、こんな私を命を張ってまで助けてくれて。
胸がキュッとなると同時に、何か手伝えることは無いのかなって逡巡する私がここにはいた。
バンド練習があるからあんまりバイトも入れないだろうし、励ましの言葉を送っても結局は何の意味にもならない。
今回も私は何も出来ないのかな……。
「香澄ちゃん、俺に一つ、提案があってだな」
わざとらしくゴホンと咳払いする坂本先輩に藁にもすがるような気持ちが半分、どうせまたからかわれるのだろうと呆れた気持ちの半分を持ち合わせて彼の言葉に耳を傾けた。
「ねぇねぇ、みんなっ!」
坂本先輩との電話の事で頭いっぱいで、結局彼には謝れなかった私は、過ぎてしまった事をくよくよと考えることなく、今日もいつも通り学校に通っていた。だって今日の夜に改めて謝れば良いもんね。
学校に通っていた、と過去形なのはやっと退屈で長い授業を終えたからです。
バンド練習の予定は無いのに自然と集まる私たち5人。
「香澄のこういう時は何かやっちゃう時かな?」
「何か嫌な予感がするんだよなー」
さーやは何だか楽しい事が起こりそうな予感がしてるのか、笑顔が溢れていた。
有咲は素直じゃないからすぐこんな風に言っちゃうから、いつものように抱き着く。
りみりんはそわそわとはしているけど、まっすぐ私の方を向いてくれている。
おたえはちょっと違う事を考えてそう。
もちろんその後の仕草は私も、みんなも分かっていて私たちのやり取りに笑みを零す。
私は昨日考えていた事をしっかりと準備する。
もしかしたらみんなも難色を示すかもしれないけど、想いだけでも聞いて欲しい。
頭の片隅には、ふわっと彼の顔を出てくる。
ちょっと困っているような、申し訳ないような表情をしているんだけど、顔のどこかには嬉しい表情を隠しているような彼。
なんだか初めて会った時の彼もこんな顔をしていたような気がする、って思っちゃったらなんだか笑えてきちゃった。
「みんな、キラキラドキドキな事したくないっ!?」
@komugikonana
次話は11月22日(日)の22:00に公開します。
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~次回予告~
夏休みが終わりを迎えて、初めての週末がやってきた。
従来より楽しい思い出が少なく、勉強ばっかりで休みとは言えないなんて言葉が教室中であちこちに聞こえた。だけど僕は彼らとはうって変わった印象を抱かせた。
きっと僕は今年の夏休みを一生忘れることは無いだろうし、高校生活最後にふさわしい夏休みを過ごしたと思う。
こう思わせてくれたのは彼女のおかげだ。
「区切りも良いし、そろそろ支度をしようかな」
僕はノートを閉じて、使っていた参考書に付箋を貼る。そして今日学んだ知識を頭の中にある引き出しに丁寧に整理した。
今日もまた、楽しい思い出を創ろうかな。
では、次話までまったり待ってあげてください。