今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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見つけたもの②

「町田さんじゃないですか」

 

ぶつかってしまった女の子に、半ば呆れられたような言い方に聞こえたけどこの子らしいなって少しだけ納得した僕がいた。

高校2年生だって事ぐらいは知っていたけど、まさか花咲川女子学園の生徒らしい事に案外世間は狭くて窮屈で面白いって思った。

 

知り合いだからと言って、ぶつかってしまった事の罪悪感は消えないから、頭をカリカリと右手で掻きながらぺこりと会釈をする。

態度の次は何か言葉を掛けてあげよう。なに、特別な言葉なんていらない。ありふれた、その辺りに転がっている石ころのような言葉で良い。

 

「久しぶり、美咲ちゃん。えっと、ケガとかはない?」

「あー、なんか急に痛くなってきちゃった、いたたた」

「はいはい、演技が上手いね」

 

僕がぶつかってしまった女の子の名前は奥沢美咲。

同じ小学校で顔見知り……だとかじゃなくて、僕が高校1年生の時にちょっとしたきっかけで出会って、みたいな感じ。

 

かわいいと美人の両側面の良い部分を取ったような美咲ちゃんなんだけど、見た目の割に意外と面倒くさがり屋だったりする。

強いていうならば大体の事を程々でこなす、ある意味マイペースな女の子。

 

「それにしてもやっぱり町田さんも男なんですね」

「どういう事?」

「いやー、女子高の文化祭にいるって事はそういう事ですよね?」

「違うけど、一概には違うとは言えない……。だけど違うからな!」

「認めて楽になれば良いと思うんですけど……」

 

美咲ちゃんだって年頃の女の子だし、僕がただ戸山さんに会いたくて、本人に確認までとって来ているなんて言えない。

間違いなく一途すぎませんか、と白い目で見られるだろうしそもそも戸山さんの事を知っているかどうかも分からない。

 

今でも優しい薄ら笑顔を浮かべている、ちょっと呆れ気味な美咲ちゃん。

そういえば美咲ちゃんも何をしているのだろうか。

 

そんな呆れかえった美咲ちゃんには申し訳ないけど香澄ちゃんのクラスまで案内してもらおうかな。

 

「美咲ちゃんどうせ暇でしょ?道案内お願いしても良いよね?」

「はぁ……まぁ、道案内くらいなら良いですけど」

 

声もかわいいんだけど、どこか気が抜けた、気だるげな感情も混ざっているような気がしてもったいないなって僕は個人的にだけど思う。

 

それも美咲ちゃんの良いところでもあるんだけどさ。

僕が美咲ちゃんに言う権利はないけど、絶対男からモテそうなんだよね。

 

でも美咲ちゃんだったらモテすぎても面倒だからいいや、とか程々が良いんだよね、とか言いそう。

そんな想像が僕の頭の中で美咲ちゃんの声付きで再生されて少しクスッとした。

美咲ちゃんは少しだけ頬を緩めた僕を見つめていたのだろう、不思議そうな顔をしてちょっと首を傾げていた。

 

「2年A組の前まで連れて行って欲しいんだけど」

「……」

「うん、どうしたの?」

「いやー、まさか町田さんが私のクラスメイトをナンパするんだって思ったら」

「えっ、美咲ちゃんも2年A組なのか」

「はい。私()2年A組ですよ」

 

わざとらしく「も」を強調する美咲ちゃん。

僕はそこまでして自分の失態に気がついて少し後ろめたくなって右手で襟髪をガシガシと触ってしまう。

 

そして美咲ちゃんは相変わらず男の人って、みたいな目で僕を優しく見てくる。

たしかにナンパすることに否定するのを忘れていたけど、決してナンパなんてしない。

いや、戸山さんとは親密だけど恋人じゃないから……一応これもナンパなのか?

 

いや、問題はもっと身近で、周りの人からしたら僕は、美咲ちゃんに声を掛けているからこれもナンパにみられてしまうのでは。

 

僕の頭から湯気がやかんの様にプシューッと出た気がした。

思考もすでに沸点に突入しており、これから落ち着きを取り戻すのには時間がかかりそうだ。

 

「町田さん、提案があるんですけど」

「うん、良いよ」

「決断はやっ!いや、まだ私何も言ってませんよね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これで良いですか」

「ありがと」

 

たまたま空いていた校庭の真ん中あたりに位置するベンチで僕たちは腰を下ろす。

僕と美咲ちゃんの距離感はそれなりに近いもので、例えでいうなれば何も意識せずに友達を談笑する時のような距離感。

 

美咲ちゃんから手渡されたのはオレンジ風味の炭酸ジュース。いつもはいらないけど、たまに欲したくなるようなこのジュースのキャップを緩めるとシュッ、と言う心地の良い音を立てた。

 

「確か町田さんって私より1年、年上でしたよね」

「そうだね」

「受験勉強は一休み、みたいな感じですか?」

「その言葉は今日一日忘れてるから思い出さすなよ」

「それ、明日になったら余計憂鬱になるんだよなー……」

「未来のためにって思ったら多少は楽になるけどね」

「確か町田さんって江明大付属でしたよね?何もしなくても未来は明るいって約束されてそうですけど」

 

スポーツドリンクのようなものを飲みながら柔らかい表情をしている美咲ちゃんは、知り合いだけどしっかりと一つ上である僕を立ててくれているような気がした。

 

美咲ちゃんの言う「提案」とは、この事らしい。

つまり彼女のシフトの時間になるまでの時間つぶしに付き合ってほしい、という事。貴重な自由時間を無駄なく使いたいらしい。

 

美咲ちゃん本人はそう言っているけれど、本当は自分たちのクラスに客がたくさん来ていたら怠さが倍増してしまうからなんじゃないかなって思ってる。

 

「美咲ちゃんは……最近どう?」

 

美咲ちゃんは飲んでいたスポーツドリンクのキャップを締めながらうーん、と低い声を出した。

下向きで、地面を見ているような視線の先。彼女には一体何が見えているんだろうか。

 

僕にはただただ、蟻がせっせと歩いている、ただ殺風景な地面しか見えないけど。

 

「そうですね。毎日何が起こるか分からないですから大変ですよ。でも」

「でも?」

「それが楽しい、って感じてる私がいるんです」

 

今度は顔を上げて笑いかけてきた美咲ちゃんに、僕はフフッと息を吐いた。

美咲ちゃんとはそこまで長い付き合いじゃないし、こうして話したことも数えるくらいしかないけど、美咲ちゃんは変わったんだなって思ったから。

 

もしかしたら美咲ちゃんも、僕が彼女に抱いた感想をそっくりそのまま持っているのかもしれない。

 

 

「美咲ちゃん、前より笑うようになったね」

 

ちょっとキザな言葉を言ってしまって、発言後にちょっと恥ずかしくなる現象に陥ってしまった僕は頭を抱えたい衝動を抑えつつ、顔色を伺う事に重きを置いて美咲ちゃんの方をみる。

 

美咲ちゃんはただまっすぐ、前を見つめていた。

何か不思議な事を目の当たりにしたような彼女の表情。僕は美咲ちゃんが見ている方向に視線を送った。

 

見えるのはたくさんの生徒、部外者が歩いているだけ。

少し時間も経過して、行き来する人間が多くなったことぐらいしか印象を受けなかった。

 

「……どうかした?」

「あ、いえ。ただクラスメイトと目が合ったんですけど……わざとらしく歩く方向を変えたんですよ。あの子らしくないなって」

「ふーん?」

「あと1時間くらい、付き合ってくれますか?」

「まぁ美咲ちゃんが良ければ。もしかしたらこうやって話すのも最後かもしれないしね」

 

そうかもしれないですね、と美咲ちゃんは微笑みながらまたまっすぐ視線を向ける。

 

まだまだ夏色の風が僕の髪の毛をふさふさと触っていく。

本当は戸山さんのところにすぐ行きたい気持ちもあるんだけど、今の季節と同じくらいの名残惜しさが僕の腰を重たくしたままで、しばらく美咲ちゃんと話しをすることにした。

 

 




@komugikonana

次話は12月6日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
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~新しくお気に入りにしてくださった方々をご紹介~
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評価9と言う高評価を付けて頂きました 玉子焼きさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~

美咲ちゃんと、どれくらいの時間を過ごしたのだろう。
僕はぼんやりと頭の中でそんな事を考えながら彼女の横を歩いていた。

だけど、はっきりと覚えていないんだ。
「どんな」話題で盛り上がったのか、「どうして」楽しく感じたのか。

残っている感情はただ、楽しかったという漠然とした事実だけ。
戸山さんと話した後は、ものすごく詳細に覚えているのに。



では、次話までまったり待ってあげてください。
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