今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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見つけたもの③

美咲ちゃんと、どれくらいの時間を過ごしたのだろう。

僕はぼんやりと頭の中でそんな事を考えながら彼女の横を歩いていた。

 

美咲ちゃんは約束通り僕を2年A組まで案内してくれるらしく、来客が多くて進むのが大変ながらも迷うことなく歩き続ける。

 

1時間くらいかな、多分。

時間が進むスピードはものすごく早く感じたし、それは僕にとって充実した時間だったことを証明していると思っている。

 

だけど、はっきりと覚えていないんだ。

「どんな」話題で盛り上がったのか、「どうして」楽しく感じたのか。

 

残っている感情はただ、楽しかったという漠然とした事実だけ。

クラスメイトの女の子も大体こんな感じで、話し終わった後は漠然とした感想を抱くだけだ。楽しい、と言う感情は決して嘘ではないのだけれど。

 

戸山さんと話した後は、ものすごく詳細に覚えているのに。

昨日起きた「可笑しな出来事」で盛り上がった事、僕の話を聞いた後や、ふとしたリアクションで見せてくれる「笑顔」が僕には心地よかった事。

今はもういないけど、幼馴染のあいつと過ごしてる時もこんな感じだった。

 

 

心の中では分かっているんだ。どうして感じ方に違いが出るのかの答えが。

でも正解を導きたくないから、僕はずっと心の中に隠し続けるだろう。

 

僕がひどい性格の持ち主だという事実と一緒に。

 

 

「町田さん、着きましたよ」

「ありがと、美咲ちゃん」

 

2年A組の前まで到着した僕たち。

なにやらカフェらしく、コーヒーみたいなにおいと共に美味しそうなパンのにおいも鼻をツンツンと押してくる。

 

街中にあっても思わず入ってしまいそうな雰囲気が教室から溢れ出ていて、正直予想以上だった。

ここまでクオリティの高さの文化祭なんて、同じ私立高校なのに全然ちがう。

 

美咲ちゃんは用意があるらしく、僕に一言言ってからササッとどこかに行ってしまった。

お店でもそうだけど、お洒落な雰囲気だと初めて入店するのに一握りの勇気が必要だ。しかもその中には戸山さんがいると思えば余計に心臓が忙しなくなる。

こんな時に坂本(バカ)がいたら何も気にせずに教室に入れたのだろうな。

 

「いや、僕は何のためにここに来たんだ……」

 

一度、深く呼吸を吐いてから教室の戸に手を掛けた。

ここに来たのは戸山さんに会うため、じゃないか。

 

 

 

 

「よおまっさん、こっちこっち」

 

受付をしてくれる女の子のかわいい声のいらっしゃいませより、聴きなれた汚い声の主(坂本)がこっちを向きながら手をブラブラと振っていた。

なんでお前がいるんだよと言う気持ちが50%と今はいて欲しくねぇよと言う気持ちが49%、そして安心感の1%が僕の心臓を落ち着かせた。

 

とりあえず呼ばれているので坂本の座っているテーブルに腰を下ろす。

坂本はすでに飲み物とパンを食べている様子だった。

 

「まっさん遅ぇぞ!コーヒーが冷めちまったじゃんか」

「知らねぇよ。でかなんで今の時期にホットなんだよ……すみません、僕もアイスコーヒーをください」

 

僕は意味の分からない難癖をつけてきた坂本を軽く無視して飲み物をお願いした。その時に坂本の口がニヤッとした気がしたけど、それも自分の鼻息で吹き飛ばすことにした。

 

坂本に悟られないようにチラチラと教室の周りを見渡す。

僕がそんな事をしている理由は言わなくても分かるかもしれないけど、心情的にはどうしても探したくなってしまう。まるで一人娘の初めての運動会に参加した不器用な父親みたいだな、と自分でも思ってしまう。

 

「コーヒーお待たせしましたっ!」

「ありが……とう」

 

僕たちの机の上にコーヒーを置いてくれたのは戸山さんだった。

クラスで皆お揃いの、ブラウンを基調にしたエプロンを身に着けていた戸山さんが間違いなく似合っているのだけど。

 

少しだけ、僕は戸山さんの表情がいつもと違うように感じた。

多分見た感じでは変化が無いからきっと気のせいだと言われるだろうけど。

 

ボーッと戸山さんを見つめていたからだろうか、戸山さんはほんのりと頬を赤く染めていった。

その後、彼女は僕のところまで持ってきてくれたコーヒーを手に持って2口ぐらい飲んだ。

 

流石の僕もびっくりしてしまって思わずえっ、と声を漏らした。

坂本は自分の分のコーヒーを飲み干してから、僕の方を冷たい目で見てくる。

 

「ゆ……ゆっくりしていってくださいっ!」

 

ちょっとずつ自分のした行動に恥ずかしさが出てしまったのかもしれない戸山さんは早口で言った言葉と、飲みかけで半分くらいになったコーヒーを置いてどこかに行ってしまった。

 

 

少しだけ静寂が教室中を支配したように感じた。

もちろんそれはほんの一瞬だけだったけど、たしかに存在した。

 

僕は右手で頭をガシガシと掻いた後、戸山さんが飲みかけてそのまま置いて行ったコーヒーのコップを手に持って口に運んだ。

まあ、量は半分になってしまったけど戸山さんと会えたし、その分の料金だと思えば安いか。

 

「……間接キス、したな?」

 

坂本がボソッと言った言葉に僕は思わずブッ、としてしまった。

全然気にしていなかったのにいざそんな事を言われたら誰でも意識はするものだ。そのまま鋭い目で坂本を睨み返す。

 

せっかく口の中にほんわかな苦みと、少しの砂糖の甘みが良い感じになっていたところを台無しにしやがって。

 

「香澄ちゃんの行動力は見習わなくちゃな」

「間違いなく坂本には言われたくないと思ってるよ」

「お前……鈍感にも程があるだろ」

 

坂本は額に手を当ててわざとらしく深いため息を僕にぶつけてくる。

流石に人に言われなくたって分かるよって半ば呆れ気味に答える。

 

間接キスとか言われると余計恥ずかしくなってしまうけど、普通、嫌いな人の飲み物を半分だけ飲むことなんてないだろ?そういう事はまぁ、その……戸山さんは僕の事を「嫌い」ではないって事。

 

戸山さんのとる行動としては大胆過ぎるのが少し気になるんだけど、と思ってはいるけどわざわざ坂本にまでは言わなくても良い。

 

「そうか……じゃあフォローはしとけよ」

 

僕と坂本の会話にちょっとしたズレが生じている?

率直に、そう思った。

 

「うし、じゃあそろそろ別の場所に行くか。ずっといても迷惑だし、甘々恋愛ドラマは好きじゃねぇし」

「前半の理由は納得だけど、後半は黙ってくれ」

 

残りのコーヒーを僕は口に流しこんだ時、一口目と二口目とでは味の感じ方に変化が生じていることに気が付いた。

今飲んでも、どうしてかあまり味がしない。苦いとか酸味がとか、そのレベルじゃない。

 

「まっさん」

「何?」

「例えばある映画のワンシーンを見たとしよう」

「いきなりどうした?」

「俺らの歳くらいの男女が、微妙な距離を空けて座ってるシーンがあったらお前はどう思う?」

「微妙な距離なんだ。じゃあ友達か知り合いなんじゃないの?」

「分かるわー!カップルとか両想いだったらもっとくっつけって思うもんな!」

 

ぎゃははは、と笑う坂本を見て僕は呆れてため息が出る。

何を言い出すかと思ったら訳の分からない事を言う。訳が分からないから面白い奴って思うのだけど。

 

「でも、俺らとは違う答えを出す人間もいるだろうな。例えば……」

 

恋に多感に女子とか?

 

 




@komugikonana

次話は12月13日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページまでサクッと飛べますよ!

~次回予告~

「まっさん、今、香澄ちゃんの事考えてただろ」
「えっ?」
「図星ヘタクソかよ」

ケタケタと笑う坂本。
やっぱり僕も人間なんだって思う。なぜなら見慣れた光景よりも、普段見られない景色の方に目が行ってしまうから。

坂本のバカ笑いなんかいつでも見られる。
普段見られない景色、景色と言っては語弊があるかもしれないけど。

頭の中に浮かぶ戸山さんが、少し寂しそうなんだ。
なんで、どうして、って思えば思うほど頭の中にいる彼女の表情は無理して明るく振舞う。

「僕は……」



では、次話までまったり待ってあげてください。
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