今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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思い出の赤いお守り①

最近、ボーッとすることが多くなったような気がする。

最近と言ってもかれこれ2ヵ月前くらいからずっとこんな感じだったりする。

 

学校にいる時も、家で勉強している時も、息抜きでフラッと散歩に出かける時も、バイトをしている時も。

バイトの帰り道である今でも、ふと気が付けば5秒前は何を考えていたんだろうって思う。

 

季節が変わり、街行く人たちの服装が段々と秋っぽくなり、気づけばもうちょっとで今年が終わってしまう11月。

バイトの最中にまかないとして食べたドリアの味をちょっとだけ口の中に残こしながら、寄り道もせず家までの道のりを歩いていく。

 

「流石に夜になると肌寒いな」

 

天気予報では、一週間後に迫る12月の開幕に合わせて日本列島に寒波が流れ込んできて冬型の気圧配置になるそうだ。

そうでなくても気持ち的に12月になったらもっと寒くなるはず。家に帰ったらマフラーと適当なコートを用意し始めようかな。

 

だけど家に帰ったら安心感からか、今までの疲れがドッと襲ってきてそのまま寝落ちしてしまう事もある。特に最近は多い気がする。

受験ももうすぐだし、体調だけは気を付けなければ。

 

赤信号から青信号に代わって、車が曲がってこないか確認してから横断歩道をゆっくりと渡る。

 

「あれ?」

 

ふと前を見れば、ギターケースを背負った女の子が歩いていた。

ギターケースでしっかり見えないけど、ぴょこっと猫耳のような形が見えるから、もしかして。

 

僕は少し小走りで近づいて行った。

こんな夜遅くまでバンドの練習でもしていたのかな。そういえば12月27日にライブをするって言っていたし練習もしているかもしれない。そんな僕もライブに誘われているから楽しみなのは変わらない。

 

「とーやーまーさんっ!」

 

後ろから、そして彼女の背中に手をポンッと置いて声を掛けた。

そうすると彼女はひゃあああ、と声をあげてビクッとした。もちろんびっくりさせることが目的だったから僕はしてやったりな顔をする。

 

「悠仁先輩っ!心臓に悪い事しないでくださいよ!」

「あははは。許してよ」

 

頬をぷくっとさせた戸山さんがかわいい。もうちょっと街灯が明るかったらしっかりと見れるのにもったいない。

それにしても良いリアクションをしてくれたから僕の気持ちはドンドン上向いている。

 

「戸山さんは今までバンドの練習?」

「そうですっ!こんなに遅くなるとは思いませんでしたけど」

「一人でこんな時間に女の子が歩くのはちょっと心配かも。家まで送るよ」

 

戸山さんは申し訳ないと言っていたけど、さっきも言った通り心配だから送るよって言った。

何か起こる確率の方が圧倒的に低いけど、毎日報道で、日本のどこかで物騒な事が起きてる。何か起きてからだと遅いだろうし。

 

「悠仁先輩はこんな時間まで勉強ですか?」

「えーっと……そんな感じ。家で勉強出来なかったから塾の自習スペースを使ってた」

「本当ですか~?」

「ほんとだって」

 

ジト目でジーッと僕の顔を覗き込んでくる戸山さんに僕は思わず目を背ける。

バイト帰りなわけで、はっきり言ってしまえばウソを言ったわけなんだけど、そんな顔で見られたら本当の事でも目を背けてしまう。

 

女の子って本当にいろんな表情が出来る。

それに、おまけとしてはなんだけど、どんな表情もかわいく思ってしまう。

 

僕の身体の一部分がポッと熱くなった気がした。

 

「やっぱり受験って、勉強の事とかで大変ですか?」

「うーん、勉強も大変なんだけど」

「他にもあるんですか?」

「僕の場合だけどね?漠然とした不安から来る気疲れが一番しんどいかな」

 

模試の結果が悪ければ、このままでは大学に入れないんじゃないか。

もし仮に模試の結果が良くても、結局は模試。本番が失敗してしまったらすべては水の泡になってしまうのではないか。

そして大学入試に失敗してしまったらどうなってしまうのだろうか。

 

別に死ぬわけではないけど、先が分からないから不安になる。

第一志望に合格する前提で未来を想像するから、それ以外の未来が不安になる。

 

勉強よりもよっぽど、苦痛だ。

赤本で、過去の倍率によっては不合格な点数だった時や合格まで1点足りない時なんて尚更。

 

もし今年がその不合格の倍率の時だったら。

今でも精一杯なのに、また来年も僕に高額なお金を投資する母さんははどうなるんだ。

 

「……悠仁先輩?」

 

いけない、深く考えすぎてしまった。

本当に偶然だけど、こうして戸山さんと帰路についているのだから疲れとか不安は隠さなくちゃいけないよね。

 

「悠仁先輩の行きたい大学って、お金かかりますか?」

「えーっと、国立だから割と格安だけど、それでも大金なんだ」

「どれくらい、かかるんですか?」

「入学料と1年分の授業料で……だいたい80万円くらいかな。どうして?」

 

いきなり大学の費用の話、簡単に言えばお金の話になって、少し意外に感じる。

戸山さんと今まで過ごしてきて、こういう話題になるのは初めてだったから。

 

不思議に思ったから戸山さんに直接聞いてみても、私も来年は受験生だから知っておきたいとちょっとバタバタと手を動かしながら答えていた。

先生たちは良く80万円なら安いと言うけれど、僕たち学生には途方もないくらいの大金。

 

大人と子供の感覚って、こんなにも違いがあるのかな。

アルバイトだけど、僕もお金を稼げる立場なのに、考え方の尺度が全く異なる。

 

「もうすぐ戸山さんの家に着くんじゃない?」

「はいっ!やっぱり誰かとお話しながら帰ると早く感じますね!」

 

本当、早く感じる。

もし過去の僕が頑張って背伸びをして、戸山さんに告白していて成功していたら。戸山さんの家で彼女の家族と談笑しながらお茶出来たのかな。

 

たくさんのたらればを並べてしまうくらいの条件なんだけど、そうなる未来もあったのかな。

今となっては分からないし、考えるだけバカバカしいのだけど。

 

「……悠仁先輩っ!」

 

戸山さんの家の門までたどり着いて、ばいばいと右手を4回くらい振った時に、ふいに彼女は僕に言葉を投げてきた。

暗くてあまり戸山さんの表情は見えないのだけど、声は何か決心したような強さがあった。

 

「何かな?」

 

優しさを声に乗せて、キャッチした戸山さんの言葉をゆっくりと彼女の元に返す。

 

「……名前」

「うん?」

「私の事、名前で呼んでくれませんかっ!」

 

想像もしていなかった返答に、僕の心臓はドキンと高鳴った。

そしてその後はドクドク、と忙しない音が鳴りやまない。

 

名前で呼んで欲しいという事は、戸山さんの事を……。

どういう理由があってなのかは分からないけど、些細ながら僕には心当たりがあるんじゃないかって、自分の心が何度も叫んでいた。

 

ちょっとだけ迷った。

今までと違う呼び方をするだけでも、今までの戸山さんとの思い出も変わってしまうんじゃないかって。

 

杞憂だってことくらい、分かっているんだけど。

 

 

僕は大きく息を呑みこんだ。

今まで戸山さんとたくさんの思い出を作ってきた。それも今、自分が持っているアルバムでは入りきらないのだろう。

じゃあ、次は、新しいアルバムに思い出を詰めていこう。

 

変わるという事は、次のページに行った証拠。なんてね。

 

 

「ライブ、楽しみにしているよ

 

 

 

 

香澄ちゃん」

 

 




@komugikonana

次話は12月27日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~次回予告~

家にたどり着いて、着替えもせずそのままベッドの上にあおむけになって倒れこむ。
そのまま手で顔を覆って、視界を敢えて暗くさせた。

そうすることで何だか先ほどの光景が、言葉が聞こえてくるように感じるんです。

「……香澄ちゃん」

私は記憶の中から音声を再現させたことで聞こえた彼の言葉に、右へ左へ何回か悶えた。

名前で呼んで欲しいってお願いしたのは自分からなのにいざ現実になると嬉しいだの、でもちょっと照れくさいだの、恋人みたいだの、と気持ちが無限の様に湧いて出てくる。

「悠仁先輩に、名前で呼んでもらっちゃった!」



では、次話までまったり待ってあげてください。
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