今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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思い出の赤いお守り④

「あっちゃん!こうえんにいこっ!」

 

ゆー君と初めて会って、一体幾つもの日を跨いだのかは分からない。なぜなら当時の私にカレンダーを眺める、と言う習慣が全くと言っていい程無かったからだ。

 

かなり大げさに言っているけど、対して遠い時間軸ではない。私たちの服装がそこまで変化していないから。

 

その間にあの公園で何回かゆー君と出会って、会うたびに一緒に遊んでいた。

最初は砂遊びがほとんどだったけど、お花摘みや鬼ごっこなど様々な遊びをした。

やっぱり男の子であるゆー君は走ると私達より速い。だけど摘んだ花のほのかな香りには無頓着だった。

 

当時は今の様に携帯電話が普及していない時代。まだまだ大きい携帯電話で、持っている人が少なかったからいつ公園に行けばゆー君がいるのか分からない。

だからこそ毎日ドキドキしながら公園に向かっていた。例えるならばたまにお母さんと行くデパートでカプセルトイのレバーを回すときのような気分だった。

 

「おねえちゃん、まってよー!」

 

妹のあっちゃんが走る私を追いかけてくる。

そのあっちゃんは20センチくらいのボールを胸に抱えている。このボールはおばあちゃんから貰ったもので、ゆー君と一緒に遊びたかったから公園に行くときはいつも持って行っていた。

 

いつもならお母さんが持ってくれるんだけど、今日は用事があるらしくいない。

お母さんから今から私たちだけで公園に行くことは反対していた。もう少し経てば用事も終わるからと。

だけど小さくて我慢が嫌いだった私はわがままを言ってしまった。

 

お母さんは許してくれたけど、知らない人に声を掛けられたら近くの大人に大きな声で助けを呼ぶ事を強く約束された。

 

「あ、ゆーくんっ!」

 

どうやら今日は運が良いらしい。

公園に着くとゆー君と彼のお母さんがいた。

 

ゆー君は私の声に反応して大きく手を振ってきたから、私も負けじと小さい身体を精一杯使って手をブンブンと振った。

嬉しさと、安堵の気持ちが砂浜に寄せてくる波のように絶えずやってくるから、自然と表情がぷにぷにとした柔らかい物となる。

 

「ゆーくん!ボールであそぼっ!」

「うん!」

 

私の問いかけに肯定してくれる。そして同時に私の心の中は誇らしい気持ちに満ち足りて行った。

なんだかおばあちゃんを讃えてくれているように感じたから。

 

お城の塀のように高くそびえたつ木のふもと、爽やかな風が私たちと同じくソワソワとし始める。

 

ゆーくんのお母さんが見守ってくれる中、私たちは優しくボールを空に向かって投げる。

あっちゃんとは何回かボール遊びをしたことがあるけど、初めて遊ぶ時のような感じだった。それはきっと男の子と、いや、ゆー君と遊ぶからなのかな。

 

ふわふわとした軌道でも、少しの風でボールがブレてしまって意外とキャッチするのが難しかった。

けれどコロッと落としてしまうたびに笑い声が私達だけの空間に溢れる。

それは相手を嘲笑う笑い声では無くて、つい吹き出してしまってお腹を抱えてしまう時の笑い声。

 

「ちょっとジュース買って来るから、この調子で遊んでてね」

 

ゆー君のお母さんがそう言ったから私たちは元気よく返事をした。

確かその時は3人ともはーい、と言う元気とも腑抜けとも捉えられる返事をしたような気がする。

 

きっと楽しかったから、他の事はどうでも良いって思っていたのかもしれない。

普段からぎこちない足取りなのに、この時はもっと浮足だった。

 

 

「ゆーくん、あっちゃん!だれがそらたかくこのボールをなげられるか、きょうそうしようっ!」

 

もっと楽しい遊びがしたくて、私は他の二人に提案をした。

たまに他の公園で10歳くらいの人たちが野球ボールを空高くまで投げてキャッチする姿にあこがれと私もやってみたいという衝動がその発言をした真意だった。

 

もちろんまだ視線も低い私たちだからそんなに高くボールが上がらない事も分かっている。

私もやってみたい。そんな子供なら誰しもが感じたことのある、良く分からない気持ちが背中を押した。

 

そしてそれは私だけでは無くて、ゆー君もあっちゃんも同じ思いだった。

だって二人とも気持ちのいいくらいの同意の声と、顔を縦に揺らす仕草に現れていた。

 

「よーし、わたしからっ!それーっ!」

 

身体中のありとあらゆるバネを使ってうんしょ、とボールを空に放り投げる。

キラキラの太陽とボールがキラキラと輝いていてとても綺麗だった。

 

あっちゃんは私よりも小さな身体なのに私と同じくらい、もしかしたらもっと上に行ったんじゃないかと思うくらいで、思わず感嘆の声をあげる。

そして同時に尻もちをつくあっちゃんと、その後を追うようにポテンと落ちるボールがとてもおかしくって大笑いする。

 

「もっと、とんでけーっ!」

 

口には出さなかったけど、あっちゃんに負けた気がしてちょっと悔しかったから尻もちをついても良いくらい思い切りボールを上に投げた。

 

わわわ、と身体がバランスをとれなくなってずてんと尻もちをついた。

ちょっと痛いけど、どれくらい高く舞い上がったのか早く見たくてすぐに空に目を向けた。

 

 

けれど、空一面に目をやっても私の投げたボールの姿は無かった。

もう落ちてしまったのかな、と思って地面をキョロキョロと探してみても答えは同じだった。

 

ゆーくんとあっちゃんが同じ方向を見ていたから私もみんなの視線の方に目を向ける。

 

その先には公園で一番高い木がお城の塀みたいにそびえたっているだけ。

よく目を凝らしてみると、どうして二人が木を覗き込んでいるのかが良く分かった。

 

「ボールが木の枝にひっかかっちゃった……」

「おねえちゃん、どうしよう……」

 

誰よりも空高くボールを上に投げたい。

その気持ちが裏目に出た結果、こうなっちゃったんだって幼いながらも覚えている。

 

木登りなんてしたことなんて無いし、もしそんな経験があったとしても、私たちの身長の何倍、もしかしたら何十倍も高さもあるボールが引っかかった枝までたどり着けない。

 

頭の中で、おばあちゃんがあのボールを私にくれた時の笑顔が浮かんだ。

同時に心がチクッと痛くなって、段々と視界がぼやけてきた。

 

手で擦っても溢れ出てしまう涙。

我慢しようと思えば思うほど溢れ出てきてしまって、思わず声を出してしまった。

 

その時、私の頭の上に優しくて小さい、だけど心強そうな手が置かれた。

必死に目を拭って視界を明るくさせると、目の前にはゆー君がいた。

 

私は間違いなく、この時に不思議な気持ちを抱いた。

それが今になってはどんな感情を抱いたのかってすぐにでも分かるけど、当時は何か分からなかった。

 

当時はただ、ドキッとして、無意識にゆー君を見つめてしまっていた。

 

「かすみちゃん、なかないで」

「……うん」

「だいじょうぶだよ、かすみちゃん」

 

 

 

ぼくが、ボールをとりにいくから。

 




@komugikonana

次話は1月24日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~次回予告~

ぼくが、ボールをとりにいくから。

私の頭の上に優しく手を置いて、お手伝いをしてお母さんに褒めてもらった時のような声でゆー君は確かにそう言った。

色んな感情が湧いた。
伝えたいことは口に出さなければ伝わらないから、私は息を整えて、声が裏返りそうになっても君に言わなくちゃいけない事を言おうとした。

だけど私は口には出せなかった。

「かすみちゃん、あすかちゃん。まっててね」



では、次話までまったり待ってあげてください。
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