今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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今を繋ぐ赤いお守り②

香澄ちゃんと共に過ごす時間って、前にも言った覚えがあると思うのだけど、早く感じる。

特に今日は時間の流れがいつもより早く感じる。

 

いつもはどちらかが話を初めて、香澄ちゃんが色々な方向へと広げてくれる。

だけど今日は僕が積極的に会話の中核を慣れない手つきではあったけど、作っていった。

もしかしたら香澄ちゃんは緊張しているかもしれない。そんな老婆心からだ。

 

今のところ、香澄ちゃんは僕の話に笑ってくれたりしていていつもと変わらない。

むしろいつもよりテンションが高いかもしれない。

 

「ライブで、観客の前で歌う事って、楽しい?」

「はいっ! いっつも楽しんでます! 今日は特に楽しみです」

「どうして?」

「野外ライブは初めてですからっ!」

 

香澄ちゃんのバンドは想像以上に知名度がある。現役女子高生のバンドと言う話題性もあるけれど、実力も折り紙付きだと聞いたことがある。

あまり音楽に詳しくない僕からすれば、曲を聞いてもみんな上手だなとか、そんな簡単な感想しか抱けないのだけれど。

 

そんな香澄ちゃんたちでも野外ライブは初めてらしい。

それまではずっとライブハウスでやっていたのだろうか。

 

「悠仁先輩、ここですっ! ここでライブをするんですよ」

 

自分の頭の中に湧いていた情報が一気に吹っ飛んでいくような香澄ちゃんの明るい声に、僕は顔を上げた。

 

ここでライブが出来るなんて香澄ちゃんたちはプロみたいだな、と言う第一印象が強く頭の中で共鳴した。

照明もしっかりあるし、もしかしたら足場にスモークを出せるかもしれない。

横幅も広くて、体育の時間で測定させられる距離くらいあるんじゃないかと思わせるくらいに感じた。

 

まだライブが始まっていないのに、観客はまだ誰一人いないのに、僕はその場の雰囲気に身震いをした。

 

「今からでもライブがしたいっ! もう待ちきれないよ!」

 

それなのに香澄ちゃんは早くライブがしたくて仕方がないらしい。

その時に僕は香澄ちゃんに抱いた気持ちは好きなんだ、と言う事だけだった。

 

音楽が好きなんだ。

一緒に演奏できるメンバーが好きなんだ。

バンドで音を奏でるのが好きなんだ。

 

僕は、その中の「好き」に入ることが出来るのだろうか。

 

何を考えているんだ、と僕は首を勢いよくブンブンと横に振る。

僕の考えはただの煩悩だし、僕を好きになってくれる代わりに音楽を嫌いになるような事が起こるのならば、僕の事を好きにならないで欲しい。

 

「悠仁先輩、どうしたんですか? そんなに首を横に振って」

「い、いや!? 何もないよ」

 

本当ですかー、と僕の表情を覗き込んでくる香澄ちゃん。

僕は思わず顔を背けてしまう。

 

それは香澄ちゃんがかわいくて、恥ずかしくなってしまったから。

それは香澄ちゃんに気を遣わせたことによる背徳感かた。

 

人の行動は決して一つの理由だけでは説明できないところが、何だかもどかしい。

 

「そうだっ! 私たちのグッズを見に行ってみませんか?」

「そんなのがあるんだ」

 

単独ライブが出来るだけでもすごい事なのに、まさかグッズまで販売されているなんて。

香澄ちゃんが言うには、今回のライブに協力してくれているスタッフさんたちが外部に作ってもらって、それを販売しているらしい。

 

そのスタッフさんはいつもお世話になっているライブハウスの人たちらしい。

香澄ちゃんはCiRCLEの人たちと言っていた。

 

販売所まで一緒に行くと、そこには僕より年上の綺麗なお姉さんがいた。

胸の前にあるネームプレートには「月島」と書いてあった。

 

「いらっしゃい、香澄ちゃん! ……あれ?」

 

香澄ちゃんとは顔見知りらしい月島さんは大人らしい綺麗な笑みを浮かべていたけど、僕の顔を見てから少し疑問に思っていそうな顔をしていた。

 

僕は慌ててこんにちは、と挨拶をした。

なんだか香澄ちゃんのお母さんに挨拶する時みたいに、妙にかしこまってしまう。

そんな姿をみて月島さんはクスッと笑った。

 

「香澄ちゃんのお友達、かな?」

「は、はい!」

 

お友達と聞かれたらそうなんだけど、あまりしっくりこない。

友達以上恋人未満、みたいな甘々の恋愛小説にありそうな関係だけど残念ながら現実世界ではそんな関係性は説明できない。

だってみんな早くくっつけよ、なんて言ってくるから。

 

香澄ちゃんはむぅ、と言って顔をプイッと明後日の方向へ向ける。

色々な感情に板挟みになってしまった僕は右手で頭を掻くことで誤魔化すことにした。

 

商品としては香澄ちゃんたちのバンド名のロゴの入ったタオルやTシャツ、そしてキーホルダータイプのぬいぐるみが売られていた。中々ポップに作られていて可愛らしく、みんな楽器を抱えている。

 

「あれ? まりなさん」

「うん?」

「一つ限定で作ったまりなさんのぬいぐるみはどこですか?」

「あれは売れちゃったの」

「はやーいっ!」

 

二人の会話を聞くには月島さんのぬいぐるみが一つだけ売っていて、早々に売り切れてしまったらしい。

お菓子などの食べ物は最後の一つだと遠慮するのに、グッズなどの物に関しては最後の一つに弱い。

 

それを加味しても、まさかスタッフさんのぬいぐるみが売れるとは。

確かに月島さんはかなり綺麗でモテそうではある。彼氏もいるかもしれない。

 

もし彼氏がいたとして、見ず知らずの人に彼女のぬいぐるみを購入されたら、ちょっとモヤモヤとしそうだ。

……間違いなくモヤモヤする。するに違いない。

 

僕は思考の海から急いで上がって、香澄ちゃんのぬいぐるみをまじまじと見つめる。

誰か分からない男に香澄ちゃんのぬいぐるみが買われるのは嫌だ……。

 

「この香澄ちゃんのぬいぐるみ、買います」

 

全部買う事は出来ないけれど、一つでも誰かの手に渡るのを阻止したい。

そんな独占欲が僕を動かした。

 

月島さんは大して驚きもせず会計をしてくれる。香澄ちゃんは少し頬を赤らめているけれど、どこか嬉しい気持ちを隠せずにいた。

 

「ありがとう! ライブもそのぬいぐるみを身に着けて参加してくれたら嬉しいな」

 

月島さんが言うには、香澄ちゃんたちもこのぬいぐるみを身に着けて演奏するらしい。

香澄ちゃんはギターのストラップにつけるらしい。僕はそんなに詳しくないから良く分からないけど、ギターを掛けて演奏する時に使う紐みたいなものなのかな、と推測する。

 

僕は身に着けているかばんにつけることにした。

アニメキャラをモチーフにしたものやご当地で売っているゆるキャラなどのキーホルダーはつけたことがあるけど、知り合いそっくりのキーホルダーはつけたことが無いから何だかソワソワする。

 

少々大きくて、目立つけど。

そのぬいぐるみキーホルダーの香澄ちゃんは、僕に寄り添ってくれた。

 

「そろそろみんなと合流してきますっ!」

 

香澄ちゃんは僕たちにそう言った。

だけど彼女は月島さんより、僕の方を見てそう言った。

 

月島さんは頑張ってね、と微笑みながら答えていた。

きっと言葉通りの解釈をしたのだろう。それは決して間違っていない。

 

じゃあ、僕も香澄ちゃんに伝える?

頑張ってね、応援しているよ。

 

そうだね、それも悪くない。

それならばこうしよう。

 

「香澄ちゃん」

「はい?」

「香澄ちゃんをずっと見てるから、だから、最高の曲を聞かせてよ!」

 

僕は右手を香澄ちゃんの方に向けた。

彼女はとびっきりの笑顔を溢れさせながら、僕と同じように手を出す。

 

その後どうすれば良いのかは誰だって知ってる。

パチン、と高い音を立てて僕と香澄ちゃんはハイタッチを交わした。

 

その時の音で、僕は確信した。

きっと今日は素敵なライブになるという事を、ね。

 

 




@komugikonana

次話は2月28日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価を付けて頂いた方をご紹介~
評価9と言う高評価を付けて頂きました はらこうさん!
評価9→10に評価を変更されました 邪竜さん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援よろしくお願いします。


~豆知識~
・一個限定のまりなさんぬいぐるみキーホルダーの行方
→観客はだれもいないと悠仁君が言っていましたね。という事は観客は買っていない。
じゃあ購入できるのは香澄ちゃん以外のバンドメンバーと、CiRCLEのスタッフだけです。

~次回予告~

天気はそんな日を祝福するかのように綺麗な青空が広がっていた。
空を見上げながら僕は一回、息を吐く。

吐く息はもちろん白くて、今朝と同じように澄み切った空に舞い上がる。



もうすぐ、彼女たちのライブが始まる。



「楽しみで待ちきれねぇな!」
「まず……聞いても良いか?なんでお前(坂本)がいるの?」




では、次話までまったり待ってあげてください。
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