「まっさん、俺はもう終わりだ……俺の未来はまっくらで何も見えない……俺はこのまま孤独に死んでいくのか……」
「人生、お疲れ様」
ある日、僕は親友の坂本とお昼を食べていた。
坂本のセリフから相当思いつめているように思ってしまう人もいるかもしれないけど、今の坂本の顔はニタニタしている。
簡単に言えば坂本は楽観的な性格で物事を軽くしかとらえない、日本の高校生代表といっても良い奴だ。
「ひどくね?校内でも下から数えた方が早い成績だぜ?」
「お前って進学するつもりなんでしょ?どうすんの」
「なんとかなるっしょ」
「でた、日本の楽観主義高校生代表の十八番」
僕は半ば呆れながら学校の購買で購入した焼きそばパンを頬張る。
購買のパンは美味しい、という訳ではないけど安いしおばちゃんと仲良くしておいたらたまにおまけで何かくれたりする。
現に俺はおばちゃんにコーヒー牛乳をタダで貰った。賞味期限が2日前に切れたやつだけど。
「俺からしたらまっさんの方がヤバい様に思えるけど」
「え、なんで」
「今回の模試もサボって受けてないだろ?それに進学する気が無いって来た。俺らの高校で進学しない奴なんて史上初なんじゃね!?」
僕らの高校は世間的には進学校だ。クラスによって実力に大きな乖離はあるけれどみんなバカじゃない。
その変なプライドのせいで俺達底辺クラスは流動的に進学を決める。
きっかけなんて単純で周りが進学するから俺も、みたいな感じだ。
僕らのクラスに一体何人、大学に行って勉強したいって思う奴がいるんだろうか。
多分、いないような気がする。
「じゃあ僕がこの学校の歴史を作るか……とごめん、電話だ。出ても良い?」
「誰からだ!?女か!女なのか!?」
「どっちでもいいだろ」
坂本に限らずだけど、ちょっとでも電話やメールとか来たら女の子かどうか確認してくるのは正直面倒くさい。でも高校生って良くも悪くもそんな生き物だからこのやりとりは100年後も続いているような気がする。
廊下まで出て携帯を確認すると、そこには「戸山香澄」と名前が出ていた。
ちなみに僕たちの高校は校内で携帯を使っても構わないけど、戸山さんの高校だと大丈夫なのだろうかとふと疑問に思ったが、その疑問は次の呼吸をした時にはどうでも良くなっていた。
「もしもし、僕だけど」
「悠仁君!助けてっ!」
「え、何?どうしたの……まずは深呼吸して」
急に聞こえてきた声が助けてだと少し不安に駆られると同時にどうして僕に求めるんだって思ってしまう。もし何かが合って手遅れになったら僕はこの先ずっと安らかな眠りにつけないと思う。
そうやってすぐ自分の保身の事ばかり考えるのは僕の生き様を表していている。
戸山さんをとにかく落ち着かせるために、僕は平静を保った声で返事をした。
僕まで慌ててしまったら廊下を歩いている生徒に奇抜な目で見られるし、坂本にも面倒な事を押し付けられそうだ。
携帯越しからすーはー、と呼吸をする声が聞こえた後に戸山さんの張りの無い声が僕の耳の中に入っていった。
「あのね……?」
「う、うん」
その後僕は掠れた声だけど電話の相手に違和感を抱かれないように良いよ、と答えて電話を終えた。
その後は窓の外側を見て少しだけ小さなため息をついた。
窓の外は見慣れた景色でたくさんの住宅や施設を見下ろすこの情景。
この景色と同じように、僕は戸山さんの行動を憎めなかったから大きく背伸びをした。
「お、何?デートでもすんのか!?」
坂本が僕の後ろから大きな声で話しかけてきたから、僕は人生で一番強い力で叩いた。
廊下にいる生徒とクラスメイトからは温かい目でジッと見られていた。
授業が終わった後、僕はいつもとは非にならない位しっかりとした足取りで駐輪場に向かっていた。
いつもは空っぽの僕のリュックの中には珍しく筆記用具が入れられているので歩くたびにガシャガシャと音を立てていて、僕の心の中を投影しているように思えた。
自転車に乗りながら僕は戸山さんの高校の近くにあるカフェを目指す。
戸山さんが助けて欲しかったのは勉強の事らしく、例の有咲さんから怒られてしまった挙句明日の小テストで結果が悪かったらどうなるか分かってるな、とか言われてしまったらしい。
他人の性格はそれぞれで構わないし、有咲さんは聞く限り真面目なんだろうって思う。
それと世話を焼きたがるから案外寂しがり屋かもしれないって見たことも無い戸山さんの友達を分析した。
どうせ同じ時間に会う約束なのだし、行く途中でバッタリ会えばそれはそれで会話も出来ると考えた僕は敢えて花咲川女子学園の前を通るルートを選択した。
どこの学校も終わる時間は大抵は同じだからぞろぞろと出てくる花女生の中に混ざる。
「あ、悠仁君っ!」
思惑通りのくせに、戸山さんの声が聞こえた時にドキンと心臓が飛び跳ねるの女の子の扱いに慣れていない男子高校生特有の現象だと信じたい。
声が聞こえた後ろの方を振り返ってみると、戸山さんが手を振りながら小走りでこっちまでやって来てくれた。
「あ、戸山さん。奇遇だね……せっかくだから一緒にカフェまで行く?」
「うん!一緒に行こっ!」
ぴょん、と跳ねるように俺の横にぴったりとくっついた戸山さんはキラキラとした笑顔を僕に向けていた。僕は自転車を降りて押す。
戸山さんは誰とでも距離が近くて、きっと誰とでも仲良くなれるタイプの人間だ。自分が通っている女子高の前にもかかわらず僕と話すぐらいの性格で、良い意味でも悪い意味でも僕の事を「友達」として割り切っている。
僕は戸山さんと違ってそこまで割り切れていないから、近すぎる距離にドギマギとする。
戸山さんは友達……としては付き合いが浅いし、他人という訳でもない。
ただ戸山さんの生き方や人間に憧れているだけだから。
その割には無意識に会いたくなってるよね、と言う心の声が響いた時にはもう僕は戸山さんの事をどう見ているのか分からなくなってしまって足を止めてしまった。
「どうしたの?悠仁君?」
不思議そうな顔をした戸山さんが僕の2歩ぐらい前の距離で立ち止まって振り向いた。
頭の中に渦巻いたモヤを顔をブルンブルンと振って晴れさせた。
「ごめん、何でもないよ」
「あれ?うーん、なんだろ」
不思議そうな顔をしていた戸山さんの顔が、今度は懐かしい思い出話をするような顔に変わった。
僕みたいにあまり表情を変えることが無い人間にとって、戸山さんのような人間はやっぱり羨ましい。
「何がどうしたの?」
「あのねっ!言葉では表しにくいけど心がキラッとする!」
「心がキラッとする?恋でもしてるの?」
瞬間、僕は手で顔を覆いたくなった。
女子高生だったら恋の一つや二つくらいは経験するかもしれないし、経験していても普通だよね。だけど今この状況で聞く奴がいるかよ、って全力で心の中で叫んだ。
戸山さんは顔をほんのりと赤くして、両手を胸の前に出してあたふたとさせていた。
そりゃあそうなってしまうし、捉え方によっては僕がただの自意識過剰人間に見えるじゃないか。
「ごめん戸山さん、今のナシで」
「あ、ははは……」
「よし、今日は一杯勉強して有咲さんをびっくりさせようか!」
近すぎず遠すぎずのもどかしい雰囲気を取り払うために僕は咳払いをした後に今日の目的をから元気に宣言した。
戸山さんも僕の心を汲んだのか分からないけどおー、と手を空にかざしてくれた。
特に僕が明日のテストの点数が上がれば、と言う話ではなく戸山さん次第になってしまう。
自分の事じゃないからそこまで本気にならなくても良い、普段なら間違いなくそう思っている。
だけど不思議とね?
「あ……あーーっ!」
「今度はどうしたの?」
「そういえば学校の校門まで有咲と歩いてたんだけど、悠仁君を見つけたら走ってきちゃって……有咲置いてきちゃった」
「……とりあえず明日、謝っとこうな」
@komugikonana
次話は4月26日(日)の22:00に公開します。
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~次回予告~
「おまたせ、戸山さん」
テーブル席で携帯を触りながら待っていた戸山さんの前に、注文した飲み物をそっと置いた。
彼女はわーいありがとう、とまるでずっと欲しかったプレゼントを貰って喜ぶ無邪気な女の子の様な声を出していて僕は静かにほっこりとした。
僕は軽くコーヒーを口に含み、微かに広がる苦みを楽しみながらリュックの中から筆記用具を取り出す。
僕の場合は早く家に帰ったところでする事が無い虚無の時間を過ごす事になってしまうから、極端な話、いくら遅くなっても構わないと思っている。
だけど建前上は筆記用具をチラつかせてハリボテのやる気を見せる。
「では悠仁君っ!教えてください!」
では、次話までまったり待ってあげてください。