今を繋ぐ赤いお守り   作:小麦 こな

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第8話

ゴールデンウィークが明けて初の平日である今日の教室の空気はいつも以上にどんよりとしていた。

長期間休んだことによって多少の生活リズムが狂ったという事もあるだろうけど、後数週間後に迫っている定期テストも彼らの気持ちを重たいものにしている理由の一つだと思う。

 

クラスのみんながそんな感じでも、僕はいつもと変わらない。

定期テストがいくら足音を大きくて近づいてきたとしても僕からしたらそんなのは知った事ではない。

 

僕のこれからの人生の様にテキトーに過ごしていく。

 

「まっさん、今回もマジでノー勉で挑むん?」

「うん。面倒くさいし」

「まっさんがノー勉なのに俺より点数が良いのは許せねぇ……」

「それは坂本がバカすぎるだけでしょ」

「そうかもしれんけど、お前のポテンシャルの高さもあると思うぜ?……あー、どうしてこうも公平じゃないんだ世の中は!」

 

急に頭を抱えだした坂本に、僕は頑張ってくれと言う意味を込めた眼差しを送った。

そして喉にぬるいお茶を流し込む。

 

「はー、まじで俺とまっさんのポテンシャルを変えてくれ」

「あげられるならあげるけど、坂本のポテンシャルは遠慮しとく」

「まじでもったいねぇって!宝の持ち腐れみたいなもんだろ」

 

別にそんな大層なものではない。ただ最初はほんのちょっとだけ頑張った、ただそれだけの事。

僕はそんな過去の栄光にすがるような恥ずかしい事はしたくないし、今となってはその辺にいる高校生たちの方が数十倍も頑張っている。

 

それに坂本に言われなくたって、たまに自分でも考える。

こんな僕は、これから先の人生を生きていけるのかどうかって。

 

結局、そんな悩みはほんの数秒で何事もなかったかのように泡となって消える。

仕方がない、それが僕のやった事なんだって言い訳をして。

 

「なぁ、まっさん」

「ん、何?」

 

さっきまでとは違った、たまに見せる真面目なトーンで坂本は僕に問いかけてきた。

僕が散々バカだって言ってはいるけど、中学校の時は優秀だったらしいからたまにその時の片りんを見せつけてくる時がある。

 

そしてその時の坂本に限って……。

 

「今のままで、良いのか?」

 

僕にとって耳の痛い事を言ってくる。

もう慣れてしまった、平気な顔を取り繕って坂本にこう言った。

 

「良いよ、別に」

 

そう言い切った後に、校舎内にチャイムが響き渡った。

このチャイム最終下校時間に差し迫った事を知らせるもので、校舎内にいる学生は帰り支度をせっせと始める。

 

勉強をしている者はカバンの中に詰め込んで。

部活をしている者は道具の片付け。

 

僕も机の中に入っていた教科書類をすべてロッカーに入れて、財布をリュックの中に放り込んでんから立ち上がる。

リュックを背負って、僕は坂本に言う。

 

「未来の事より、今を見ることの方が大事だって気づいたから」

 

坂本はふーん、と言うような顔をしてからいつもの表情に戻った。

 

 

 

 

ギシギシと音を立てる自転車をゆっくりと漕ぎながら校舎を後にする。

校舎からはゾロゾロと生徒が出てきており、今授業が終わったのかと錯覚してしまいそうな風景だった。

 

みんな、テストに備えて勉強をしているのだろう。

僕らの高校は定期テストの好成績者に関しては表示がされる。表示された人間は次は抜かれないように更に闘志を燃やし、表示されなかった人間は反骨心で次の機会に結果を出そうとするらしい。

 

それらを生徒指導の先生から聞いたけど、僕には関係ない事だ。

今の僕には、と付け加えておいた方が正しいかもしれないけれど。

 

赤から青に変わるのが長い信号に引っかかってしまった。

ぼんやりと交差点を走り抜ける車を見ていても面白い事は無いし、車から出される独特のエンジン臭があまり好きではないので携帯を見てみた。

 

すると一件、新着メッセージが来ていた。

 

「うん?誰からだろう」

 

いつもだったら家に帰ってから見るのだけど、今だけは暇だったのでついメッセージを見た。

送り主は戸山さんからで、パン屋であった時以来のコンタクトだった。

 

 

少しお話しませんか

 

 

送られてきた時刻は今から30分前と時間が経過してしまっているが、良いよと言う趣旨の返信を送った。

メッセージの内容からはいつもの戸山さんらしい元気いっぱいの、文字が飛び跳ねているかのような感じではなく落ち着いたような雰囲気だったから、返信したんだ。

 

信号が青になる前に僕が送ったメッセージに既読が付いて、返信が来た。

どうやら地図が添付されていて、ある場所に丸印が記入されており、ここにきてと書いてあった。

 

「これ、どう考えても家……だよね」

 

僕の顔は信号機のシグナルのように赤くなった。

いきなり家に来て欲しいって戸山さんは積極的すぎるし、そもそもそんな関係じゃないし……だめだ、僕は何を考えているんだ。

 

信号が青になったのを確認して、僕はいつもの帰り道と違う方向へと舵を切った。

戸山さんの指定してきた場所はここから自転車で5分も掛からないところだと思うけど、そういえばこんな場所に今まで行った事は無かったなぁと心の中の自分と対話した。

 

考え事をしていたら勝手に足が動くもので、気づけば戸山さんが指定してきた場所付近に到着した。

 

もう一度携帯を立ち上げて戸山さんのメッセージで来た画像を見る。

間違いなくここだ、と顔を上げてもやはり近くにはお店とかは無く、住宅が連なっているだけだった。

 

無駄に高鳴る鼓動を必死に抑えながら丸の付けられた部分、目的地に到着した。

 

「……ここ、質屋か?」

 

もしかして戸山さんのご両親が経営されているのだろうか、もしそうならば僕は戸山さんのご両親と相まみえることになるんじゃないかと更に心臓の鼓動が激しくビートを打つ。

友人の悠仁と申します、とでもいうのか?絶対に1回は噛む自身がある。そもそもどうして名前で言っちゃうんだ……苗字で良いじゃないか。

 

「ま、まぁなんとかなるよね?」

 

とりあえずこの建物は戸山さんの実家兼質屋みたいなものだろうから、インターホンをそっと押した。

自転車を漕いでいた時はあんなにも時間は早く流れたくせに、今は1秒が10秒くらいに感じる。

 

ゴクリ、と唾を飲み込む音が鮮明に身体中へと響き渡るのを感じる。

普通に考えて戸山さんがここに読んだのだから、インターホンが鳴ったら一番最初に出てきてくれるはずだし、そんなことは立場が逆になって見たら簡単に分かる事だよね。

 

ドアが開いた音がした。

僕はとりあえず用意していた言葉を話してなんとかしようと思った。

ちょっとおそくなってごめんね、とちょっと申し訳なさそうな顔を作ろう。

 

「……どちら様でしょうか?」

 

僕の思考回路は重くてフリーズしてしまったパソコンの様に永遠と丸いものがグルグルと回っている状態になってしまった。

てっきり戸山さんが出てきてくれると思ったのに、今目の前にいる人は僕が見たことのない女の人だった。

 

その女の人はすごく疑心の目で僕をジトッと見ていて、思わず一歩後ろに退いてしまう。

こんな状況で僕の頭の中は「は?」と言う文字が無限に増殖していく。

 

すみません家を間違えました、と言う言葉を口から出そうとした時、その怪訝な顔をしている女の子の方から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あっ、悠仁先輩!来てくれたんですねっ!」

 

女の子の後ろからぴょこん、と顔を出したのは戸山さんだった。

目的地は間違っていなかったという事実にホッとした。だけど同時に良く分からないモヤモヤとしたものが沸き上がってきた。

 

 

「香澄がこの人を呼んだのか!?」

「うんっ!力になってくれそうだからお願いした!」

「マジで言ってんのか!?こういうのはまず私に言うべきだろ!」

「悠仁先輩は私の知り合いでとーっても良い人だよ?」

「私からしたらただの他人じゃねーか!」

 

戸山さんと女の人は何やら言い合っているのを僕はボーっと見ていた。

こんな時にどうするべきかなんて分からないし、僕が仲介に入ったら女の人にきっとボロクソに言われてしまうのが目に見えた。

かといってこのままずっと見守っていると、何もしない人なんだなって思われる。

 

どっちにしろ、僕は。

 

「あの……お騒がせして悪いけど、帰っていいかな?」

 

苦笑いでちょこんとした言葉を零すことしかできなかった。

加えて僕のクセらしい、髪の毛を右手の人差し指でくるくると巻く仕草を無意識にした。

 

 

 

その時、戸山さんは一瞬だけ、目を大きく開いた気がした。

 

 

 




@komugikonana

次話は5月17日(日)の22:00に公開します。
新しくお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます。
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~高評価をつけて頂いた方々をご紹介~
評価10と言う最高評価をつけて頂きました グリーンスムージーさん!
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この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~

「あの……お騒がせして悪いけど、帰っていいかな?」


だから僕はこの言葉を躊躇なく出したんだ。
この場にいても知らない女の子の印象は悪くなる方向にしか行かないだろうし、僕だって楽しくない。
それだったら何か有意義な事に時間を使いたい。
そう思ってしまうのが僕と言う人間なんだ。
ただ現実は僕が思っていた方向に傾くことは無かった。
もしかしたら僕の考えを改めるチャンスを神様が与えてくれているのか、と一瞬だけ思ったけどそんなバカみたいな考えはすぐにくしゃくしゃにしてゴミ箱の中に捨てた。

もし神様がいるのならば、目の前でこう言いつけてやる。

どうして僕にもっと早くあの事を教えてくれなかったんだ、って。


それでは、次話までまったり待ってあげてください。
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