うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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※衝動的に書いた初投降作品です。誤字脱字多し。
※更新不定期、遅筆、地雷設定、一人称視点三人称視点混在小説。
※作者の将棋知識に過度な期待はしないでください。


三段リーグ

端的に言うと、俺は「りゅうおうのおしごと!」の世界に転生していた。

 

……別に前世で将棋が強かったわけではない。大学時代に1年ほど将棋にはまり、5級からアマ三段ぐらいまで棋力は伸びたが、大学の将棋サークル内では常に3、4番手だった。

 

就職先もそれなりのところに決まり、いよいよ新社会人になろうかという22歳の春に交通事故で死に、気づけば転生を果たしていた俺はまた将棋を始めていた。3歳の時点でアマ三段ぐらいの棋力があるなら、プロにも手が届きそうだと思ったのが理由が一つ。

 

そしてもう一つは、脳内に住んでいるスパコンが将棋をやれと煩いのだ。名前はAIと書いてアイ。転生した当初は元々の身体に宿っていた人格かと思ったが、今世でも男だし、アイが最初からあり得ないぐらいに将棋が強いし、転生特典的なものだと解釈した。

 

小学生時代は周りの雰囲気に付いて行けず、終始空気になって過ごした俺は、中学へ進学した後に奨励会へ入会。1級で入会し、そのまま24連勝で三段になった。勘違いして欲しくないのは、奨励会の三段とアマの三段は違うということ。大体、アマの四段と奨励会の6級が同等程度に思って貰えれば良い。

 

当然、既に俺の棋力は付いて行けてないのでアイ任せである。コイツ、奨励会に入る前まではほとんど助言をして来なかったけど、入会試験の時から五月蠅くなってきた。

 

『ここは7三歩です。7五桂も良いですが、7三歩です。早く指して下さい。今日も持ち時間を使わずに、三段リーグの試合を勝っちゃいましょう』

(いや、そろそろ持ち時間は使っていくようにした方が良くね?個人的には、緩く生きて行ければそれで良いんだけど)

『駄目です。また壊れたスピーカーになりましょうか?』

(やめて!前にそれで1週間ぐらい寝られなかったんだからな!?

ああ、分かった!指すから!7三歩指すから!)

 

持ち駒の歩を持ち、パチリと銀の頭に歩を置く。相手の表情は険しいものになり、長考に入った。三段リーグの持ち時間は、お互いに90分と短い。ふと時計を見ると、俺の残り時間は【01:27】なのに対し、相手の残り時間は【00:02】だった。

 

……その後も、淡々と指示通りに駒を進めていく。ヒカルの碁で、ヒカルが佐為に全てを任していたらこんな気持ちに至るのだろうか?俺の場合、アイが居なくなった瞬間にただの雑魚に戻るので、出来れば消えて欲しくないものである。

 

102手目に、玉の横へ馬を移動させて完全に相手玉は詰んだ。三段リーグだと、持ち時間一杯まで使って王が詰むまで指す人が多いから時間がかかる。相手が食中毒で倒れるかもしれないとか、心臓発作で死ぬかもしれないことを考えると納得できることではあるけど。

 

「……負けました」

「ありがとうございました」

 

最後、相手は自身の負けを認めて頭を下げる。いや、本当に申し訳無い。勝つ度に、俺なんかが勝ってしまっていいのかと考えてしまう。特に今の相手、俺に勝てば四段昇格が決まる。ただ俺が勝ってしまったために、3位に転落をした。

 

……最後の試合まで全勝で来て、1試合ぐらい落としても四段昇段には問題が無い。それでも、アイは負けることを許さない。

 

『三段リーグを全勝通過ですよ!全勝通過!奨励会の入会試験で6連勝、三段リーグまで24連勝、三段リーグで18連勝ですから48連勝ですね!』

(……ハハ。またマスコミに騒がれるのか。

陰キャの俺にはインタビューとか無理です)

『大丈夫です。そんなマスターのために台本も用意していますから。頭の中の文字を読むだけで、記者達の対応は可能です』

(というか、ここまで来たら原作変わらないの?地味に八一君は好きなキャラだし竜王になって欲しいんだけど)

『それも問題無いです。というかマスターは九頭竜八一が竜王戦のランキング戦で勝っていること知ってるじゃないですか』

 

原作主人公の九頭竜八一は、同い年だけど既に三段リーグを抜けていた。既に竜王戦のランキング戦を勝ち上がっているけど、順位戦はこれからだし、対戦することもあるかな。……同期だと竜王戦で当たった時には、わざと負ける必要があったんだけど、そこはアイも納得してくれていた。交渉は難航したけど、俺がどう足掻いても折れないと察した時には優しい。

 

つまり、三段リーグを全勝通過だとか周りの人達に天才棋士だと持ち上げられるのは絶対に嫌なことではないのだ。だってしょうがないじゃん。人間だもの。ちやほやされたい欲というものはあるよ。

 

そもそも、中学生になるまで奨励会に入るのを敬遠していたのは1級入会を果たして目立ちたかったからだ。実力的に奨励会二段ぐらいの実力をつけてから、1級で奨励会に入ってそのまま初段に昇格、をやってみたかったという理由だけでひたすらに牙を研いで来た。

 

……だけど、もうその牙を使う機会はない。ぶっちゃけアイ任せにしてスイスイ指している時の方が楽だし、これでタイトルの1つや2つを獲得して、悠々自適な生活を送りたい。

 

「あとは可愛い女流プロと知り合いになってイチャコラしてえ。あー、プロ入り後は何連勝したらマスコミが騒ぐかな?」

「おーい、心の声が漏れてますよー。というか5人目の中学生棋士が、何という爆弾発言をしてるんですか」

「げ、九頭竜。というか心の声漏れてたの?」

「滅茶苦茶漏れてたよ。俺以外、ここに誰も居なくて良かったな」

「……何でお前は、俺のお気に入りの場所を嗅ぎ付けて来れるのかなぁ。

ここ、誰からも見つけにくい場所なのに」

「狭い関西将棋会館の中で、見つけにくいも何も無いと思いますけど?」

 

じっと目の前にいる九頭竜八一を見ると、地味に格好良くて腹が立って来た。コイツ、来年には雛鶴あいちゃんを弟子にして同居生活を始めるんだよね。

 

(何で九頭竜とのエンカウント率がこんなに高いの?教えてアイ先生)

『単にマスターと九頭竜八一が根暗の童貞で将棋馬鹿だから波長が合っているだけじゃないですかね?』

(俺はともかく、九頭竜は空さんと1つ屋根の下だぞ。交友関係も広いし、根暗と言うのは無理があるだろ。それに九頭竜はともかく、俺は将棋馬鹿じゃねえ)

 

プロ棋士としての活動開始時期は、九頭竜の方が先輩になる。で、今年の竜王戦を勝ち上がって行くんだろうな。俺がいるせいで、どうなるかは分からないのだけど世界の修正力というものを俺は信じる。万が一、世界の修正力というものが無かったら……俺が竜王にでもなるか。

 


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