うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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二択

バレンタインデーの翌日。朝起きると天衣が横で眠っていた。なんかぴったり張り付いて来ている。……昨日の夜、布団に入って来た時は別に密着してなかったよな?寝惚けて抱き着いて来たのか。

 

『……起きるのがいつもより早かったですね』

(睡眠薬って、常用してると効き目が薄くなるとかある?脳に作用する薬なら、普通は耐性とか出来ないだろ?)

『粉薬ですし、単に袋の中に残っただけじゃないですかね?それと、天衣に密着されて胸があるとか考えているのはキモイです』

(仕方ないだろ。くっついているんだし、まだ朝早い時間だから起こすのは躊躇うわ。天衣は今日、学校だぞ)

 

天衣が起きるまで、ゴロゴロしながら何とか天衣を起こさずにホールドを解こうとするが無理だった。……個人的には天衣が起きた時、赤面してくれたら嬉しかったけど、目をゴシゴシしてそのまま洗面所の方へ行ってしまった。地味に天衣の起床シーンは、今日初めて見たんじゃないか?

 

天衣が小学校へ行ったのを見送った後、晶さんに案内されてまだ入ったことのない部屋に入る。何かまたシリアスなことを聞かされるかと思ったら、目の前には天衣が居た。

 

……いや、人形だな。それも、今の天衣より少し大きいか。見た感じ、中学生の天衣と言う感じで、俺より僅かに背が高い。そして着ているのは、空さんが中学時代に着ていたようなセーラー服。何か妙に似合っている。

 

「どうだ大木先生!天衣お嬢様そっくりの人形だぞ!」

「……いや、本物がいるのに何で作ったんですか」

「まあまあ、大木先生はその人形の前に立って下さい」

「前?横じゃなくて?」

 

いつもの3倍増しでテンションの高い晶さんに気圧され、天衣人形の前に立つ。原作で九頭竜が天衣そっくりの人形を見た時、驚くほど精巧だと言ってたけど、本当に生きているかのような……。

 

そんなことを思った瞬間、天衣人形はにこりと笑い、ガシリと抱き着いてくる。地味に痛い。そして怖い。

 

「動いたァア!?」

「ははははは!凄いだろう!夜叉神家の総力を挙げて作った天衣お嬢様の人形を、動くようにしたのだ!」

「……これ、量産するんです?」

「量産は無理だ。天衣お嬢様は兄妹を欲しがっていたからな。天衣シスターズという名のプロジェクトで姉と妹を作っていただけだ」

 

晶さんに経緯を聞くと、まず天衣そっくりの人形を作って天衣に似合うドレスの製作に利用しようとしたらしい。だけど、お金が無駄にあったからかこの人形を動かす方向になって、実際に動くようになった頃には天衣と背格好が違っていたとか。

 

だから少し大きくなった天衣をイメージして、もう一体の人形を作製したんだな。大きい天衣人形の後ろに、隠れるようにして小さな天衣人形がいた。出合った頃の天衣は、まだこのぐらい小さかったか。それが今や、身長150センチ近いし、もう少ししたら俺を追い抜かす。

 

両方とも肌の質感とかもちもちしているし、ヤバい額のお金が投じられてそうだ。あと、2人の天衣人形がお辞儀をしたり腕を動かしたりと、派手ではないけど動いているのを見て、日本の技術の凄さと夜叉神家の狂気を感じた。いや、天衣そっくりの姉妹を人形で作るって狂気しか感じられないんだけど。でもよく考えたら晶さんとか天衣の狂信者筆頭だったわ。2人の天衣人形を見て、非常に満足しておられるし。

 

『……不気味の谷を完全に超えてますね。どこからどう見ても、天衣ですよ』

(少し大きくなった天衣、だな。来年か、再来年には見られそうだ)

 

そう言えば原作でも晶さんは天衣のアプリゲームを開発していた。名前は天衣ドルマスター(仮)だっけ?行動力のあるヤベー奴にお金を渡すとヤベーものが出来上がるという分かりやすい構図。うん、天衣のロボットを作ったのはヤベーわ。

 

なお弘天さんは天衣人形の出来に満足気な模様。絶対に天衣に見つかったら処分される……いや、分からないな。天衣の姉妹として作っているのなら、天衣もその気持ちを汲み取ってスクラップにはしないかもしれない。

 

というか、普通に抱き着いて来る人形って需要あるんじゃない?大きいお友達を中心に、量産したら売れると思う。流石に天衣そっくりの顔で売られるのは俺も嫌だが、顔だけ別のにすれば問題は無いような気がする。

 

「ちなみに、この人形は喋れないの?」

「まだ滑らかに発音出来ない上、口の動きの再現が難しいから断念した形だな。短いワードなら、録音した声で喋るぞ」

「おはよう、師匠」

「しゃべったああ!?」

 

明らかに技術が次世代へ逝ってる夜叉神家。いや、このタイプの人形なら生産している工場があることは知っているし、腕もどちらかと言うと機械的な動きだ。口は笑顔にしかならない上に声に合わせて動かないし、音声は録音のみだけど、それらを合わせて天衣人形として実現させるのがすげえよ。

 

『視線を顔から下へ移動させるな変態』

(男の性です。諦めろ。

つーか、この2体の人形を見せて晶さんはどうしたかったんだ)

「大木先生は、どちらかを貰えると言われたらどちらが欲しい?」

「いや、天衣が家に来た時にこれがあったらドン引き以外無いでしょ。これを隠せるようなスペースがうちには無いし、正直要らないです」

 

……2体いるから、1体は俺にあげようという話に持って行った晶さん。流石に持ち帰れないし、もし持ち抱えて帰ったら児童誘拐以外に何に見えるって言うんだよ。

 

ついでに言うと、天衣が家に来たら確実に見つかる。最近はゲーミング部屋への入室も制限してないし、天衣と一緒に時々ゲームをするようになったのに、急な入室拒否は怪し過ぎるわ。

 

『単に、今の天衣より幼い天衣と大人になった天衣、どちらが良いのかという質問じゃないんですか?』

(ロリか大人か、という話か?断然大人の方を選ぶし、胸はもっと盛って良いぞ)

「まあ、どちらか選べと言われたら、選ぶのは大きい方です」

「ふむ、そうか。やはり大きい方が良いか」

「……いや、本当に要りませんからね?あと、天衣に見せて怒られておいて下さい」

 

最後に大きい人形の頬をぺチぺチしてみると、シリコンのような感触で少し波打っている。そして笑顔になる天衣人形。……まあ、仮に売り出すとしたら需要はありそうだなこれ。


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