うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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団体戦

今年から、将棋界は新たな試みを行なうようになった。その一つが団体戦の実施であり、スポンサーが選んだ12人の棋士がドラフト形式で棋士を選んで行き、3人一組のチームを作る。12組のチームは2つのリーグに分かれて、総当たりのリーグ戦を行い、上位2チームずつが決勝トーナメントへ進出するというもの。

 

「で、師匠がその1人に選ばれたというわけね。当然だけど、九頭竜先生や大師匠も選ばれているのね」

「そこら辺は、人気や実績を元に選んだそうだから当然だな。で、ウェーバー方式のドラフトだから俺が指名するのは1番最後だ」

「……レーティングでトップの師匠が1位指名する頃には、上位23人の棋士が消えるということ?それなら、B級2組以下から選ばないといけないということね」

「その上で、2位が天衣の指名で埋まっているから選ぶ棋士は慎重にしたいけど……飯盛五段は残るかなぁ」

 

選ばれたプロ棋士はタイトルホルダーから俺と九頭竜と名人、A級棋士から生石さんと於鬼頭さんと月光会長と歩夢と山刀伐さんと篠窪さんと白石さん。B級1組から小仏さんという面子。

 

小仏さんは俺と同時にB級1組へ上がった関東の若手で、俺や九頭竜から見たら10歳年上だ。これでもまだ棋士として若い方なんだけど、近年の若者の人間離れが著しいせいで目立って無い。

 

残りの一枠は、他のA級棋士よりか話題性重視で釈迦堂さんかな。特別枠ということで、まだ誰が来るかは分からないけど、たぶん知名度のある人が来るだろう。

 

今年、C級2組からC級1組へ昇級した4人の中には飯盛さんや二ツ塚さんの姿があった。恐らくB級2組とC級の中から1位を選ぶことになるけど、九頭竜共々頭を悩ませている。あ、九頭竜は無事に全勝でB級2組へ昇級しました。清滝先生も昇級したので、師弟揃っての昇級だな。

 

……レーティングで並んだ時、九頭竜はもう名人を抜かしているから最後から2番目の指名になる。何で重複抽選にしなかったし。そっちの方が絶対に盛り上がるのに。

 

まあ1強状態になりつつある将棋界で、団体戦が流行するのは良い事だ。……B級1組やB級2組の強い人は全員取られるだろうし、マジで飯盛さん指名が実現しそう。あの人、結構強いし来年にはB級2組まで上がるでしょ。それ以降は知らんけど。

 

『天衣と空さんの指名はマスターと九頭竜に任されましたが、これはかなり幸運でしたね。下手なB級2組の棋士を指名するよりも、よっぽど安全な指名になります』

(だよな。あとチーム九頭竜は、B級1組の棋士がほぼ全滅しそうなことを考えると清滝先生と空さんになりそう)

『昨年四段になったとはいえ、新人王にもなった鏡洲さんは指名されると思いますよ』

(というか、現役プロ棋士から36人も選ぶなら鏡洲さんや坂梨さんも入らないと結構キツイ)

 

前期の三段リーグで昇段を果たし、プロデビューした鏡洲さんとかも、指名の候補には上がって来る。どのチームも順位戦で負け越している人より、調子の良い人や若くて勢いのある人を選びたいだろう。考えれば考えるほど、チーム構成は悩ましいな。

 

「……私は2位指名まで残っているの?」

「その点は大丈夫。九頭竜の2位指名空さんと、俺の2位指名天衣はスポンサーから指示があったから」

「ドラフトなのに、出来レースなのね」

「まあチーム毎に特色を出したいというのは分かるし、人気のある師弟や兄妹弟子のペアを固めるのはしょうがないわ」

 

ドラフトは5月に行なわれて、6月の名人戦が終わった時期にリーグ戦がスタートする模様。竜王戦の前には決勝戦かな。随分と強行スケジュールだけど、優勝チームに1億という賞金を用意されたなら将棋界も大慌てで対応するわ。なお準優勝のチームには2000万円で、3位には1000万円という金額。

 

勝者と敗者の格差が激しいのは将棋界の特徴だけど、ちょっと差が大きい。竜王戦でも、勝者は4320万円で敗者は1620万だからな。

 

「とりあえず天衣は、女王戦が終わったらこのリーグ戦に集中してくれ。たぶん先鋒は天衣にするし」

「……システム上、先鋒はチームリーダーが務めるものじゃないの?」

「だから天衣が先鋒なんだが?良かったな。将棋界の十指に入るような奴らと5回は対局出来るぞ」

 

リーグ戦は3人が順番に戦うけど、2勝した時点で勝ちなので1人目と2人目が連勝したら3人目の対局が無い。そして勝ったら1ポイント、負けたら-1ポイントなので、2連勝することが重要となる。だからどのチームも、先鋒は強い人が務めるだろう。

 

6組のチームでのリーグ戦は、総当たり戦になるから最大で10ポイントか。全部2勝1敗で勝ったチームは5ポイントで、そのチームには1勝2敗で負けたけど残りは全部2連勝だったというチームは7ポイント。こうなると順位が入れ替わるし、色々と難しいな。上位2チームに入れるかは、団体戦なので分からない。

 

「師匠が中堅を務めるの?」

「そういうこと。まあ必ず指すなら先鋒も中堅もそれほど変わらん。大将は、1位指名の人に任せることになりそうだ」

「……それ、大丈夫なの?」

「どのチームも、チームリーダーが大将を務めることは無いだろうから大丈夫じゃない?」

 

『天衣が勝てれば2連勝出来るという状態なのが、1番良いでしょうね』

(ほどよくプレッシャーがかかる状態だし、その中でA級棋士とこの段階で指せるのは良いわ。相手棋士も、お遊び企画では無く本気で勝ちに来るしな)

『山分けしても3333万円なら、竜王戦以外のタイトル戦より賞金額は大きいですからね。太っ腹です』

(賞金が大きくなればなるほど目の色を変えるのが棋士という生き物だしな。しかも今回、団体戦だから組み合わせ次第では俺や九頭竜がチームとして負ける可能性もある。そりゃ必死になるよ)

 

毎年開催するかはまだ未定だけど、早くも掲示板とかは大盛り上がりだし、ドラフトの指名予想や誰のチームが優勝するかという予想は尽きない。将棋ブームが巻き起こっている中で、全局配信するそうだし成功しそうだな。タイトル戦に出られないような棋士も、世間に認知して貰える可能性があるというのは大きいか。

 

『現役プロ棋士166人の内、36人の枠には入りたい人は多いでしょうね。来年以降も盛り上がりそうです』

(話題性重視で女流棋士チームが入って来るなら釈迦堂さん、祭神、あいというチームになるのか?組み合わせ次第では1勝ぐらいしそうなチームだな)

『C級2組の棋士には現奨励会三段より弱い人がいますし……あいも結構通用するかもしれません』

 

しかしまあ、団体戦の前は賢王戦と電脳戦があるし、名人戦が終わった時期には棋帝戦があるんだよな。五冠だからどの時期でもタイトル戦とは被るんだけど、順位戦が始まる時期に開催するからスケジュールが詰まる詰まる。……でも、イベントの予定で詰まるぐらいなら対局の予定が詰まる方が俺としては良いか。結構気楽に指せるだろうし。


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