うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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前座

賢王戦は第3局と第4局でアイが九頭竜をフルボッコにし、結局4連勝で賢王を防衛。やっぱり持ち時間の変更は慎重にした方が良かったという声が散見されたし、実際持ち時間的にも九頭竜は不利を受けていた。

 

まあ、持ち時間が3時間はタイトル戦だと短いしな。今後は1時間、3時間、5時間の対局をどこに配置するか、タイトル保持者と挑戦者が交互に決めて行くことになった。そっちの方が、良い感じはするな。

 

天衣と祭神の1時間決着は、調べてみると何番目の短さなのか、よく分からなかった。古い記録だと、体調不良ですぐに投了とか色々とあるようだ。まあ公式戦でも初手3四歩で負ける人がいるし、珍記録はいっぱいあるわな。

 

女王戦の第2局はあっさり天衣が作戦勝ちをし、既に祭神相手にリーチをかけている。祭神自身は女流帝位戦で女流三冠になったあいに第2局で負けて1勝1敗になったり、帝位リーグで4敗目を喫するなど、調子が芳しくない。まあ大体は、天衣のせいなんだが。

 

『女流名跡、女流玉将、山城桜花の三冠って、あいも相当無理していますね』

(今年から天衣と空が女流棋戦に参戦するから、あいは防衛が辛いだろうな。女流帝位を奪取しての女流四冠は、祭神が不調のままだと普通にありえるけど、それ以降は苦しくなりそう)

 

あいはあいで女流のタイトルを独占する勢いだけど、今年の女王戦で勝ち進めなかった以上、女流タイトルの独占は厳しい。女流は女流で、空銀子1強体制から移行して群雄割拠の時代になっている。空銀子、夜叉神天衣、雛鶴あい、祭神雷の4人に引っ張り上げられる形で、女流全体のレベルが上がっているような感じすらするな。

 

そのあいの師匠である九頭竜は、電脳戦の前座として、ソフトの大会で準優勝したソフトと対戦するけど現在劣勢。評価値は、先手九頭竜が-200だな。中盤の山場まで来て、大差がないというのは頑張っている方か。

 

一応このソフトは改良前、非公式とはいえ生石さんが玉将だった頃に負けている。その頃から改良を重ねられた結果、今年のソフトの大会で準優勝はしたけど、九頭竜なら付け入る隙はあるんじゃないか?

 

『九頭竜は上手いですね。千日手に誘導してます。作戦通りですか』

(先手で千日手狙い?ああ、なるほど。ソフトは千日手が出来ないんだったな。千日手を回避するのが絶対命令になっちゃっているから、多少無理筋でも千日手になりそうなら回避するんだ)

『この状況から、千日手を回避したら九頭竜の付け入る隙が出来るのはマスターも分かります?』

(すまん、全然わからん。……ああ、銀を捨てて角道を通すのか。ギリ分かった)

 

そしてその付け入る隙を、ソフト自らが曝け出す。ソフトの大会で、高レベルなソフト対ソフトの対局が増えた結果、千日手が急増。千日手だらけでは将棋にならないということで、千日手にはならないようソフトは千日手を回避するというルールが出来た。

 

それを九頭竜が利用したのは分かるけど、この千日手の手順というか、ループはいつから用意していたんだよ。案の定、ループから脱して不利な形勢を受け入れたソフトは、九頭竜の攻めに耐え切れずに陣地が崩壊。ソフトらしい終盤戦で九頭竜の玉を寄せ始めるも、紙一重で躱した九頭竜の勝利。

 

……これは、初手から終局までをあらかじめ用意していた勝ち方か?ある意味、ソフトの指し手というのは読みやすい。昨今では高性能なソフトを研究用に幾つも用意している人が珍しくないし、九頭竜もその1人だ。事前準備は万全だったのだろう。

 

電脳戦の前座として、ソフト側が大木は例外と言いたいがために用意されたプロ棋士の屠殺場は、ソフト側にとって残念なことにソフトの公開処刑場となった。なおこの後でソフトの虐殺が行なわれる模様。今年のソフトは余裕ですとか言うアイさんの進化は止まらない。

 

「……分からないわね。ソフトは後手でも、千日手を回避するように動くものなの?」

「先手と後手で思考ルーチンを変えることぐらいはしていると思うが、共通して千日手は駄目という認識のはずだ。後手番で千日手狙いのソフトが急増した結果、千日手が量産されたからな」

「師匠も、ソフトに千日手狙いをされたら千日手になる?」

『千日手狙いの時点で怖くないので勝てますよ』

「……千日手狙いの時点で怖くないから、勝てるっぽい」

 

今日は俺がイベント参加日で天衣も対局があった日だけど、関西将棋会館からの帰りに天衣が俺の家に寄って電脳戦の前座の検討をし始めた。……珍しい形の将棋というか、浮き飛車対浮き飛車の戦いで千日手狙いは構想自体が気持ち悪い。

 

本当にソフトはプロ棋士より強いのか、ソフトの強さを見せつけるために始まった将棋電脳戦は、前座の段階でソフトがまだ人類を超えていないということを世間に知らしめる結果になった。実際は俺と九頭竜がおかしいだけだが、将棋にそこまで関心がない世間の人にはそんなこと分からないからな。

 

しかも2人とも、まだ18歳。未だに世間には名人の七冠独占がイメージとして強く残っている人がいるし、ソフトなんて全然だという評価になるのか。……将棋のソフトを開発してくれている人達への、ダメージは深刻そうだな。

 

『何か狙いがあるソフトの指し手というのは、特徴ある指し方になります。アルファゼロの持将棋狙いの時もそうですが、1番大きいのが勝ちを目指さなくなることですね』

(いや、相手玉を詰ますのは最優先じゃないのか?実際千日手狙いのソフトでも、勝ちが近いなら勝ちに来るだろ?)

『勝ちが近い、千日手を狙った方が良い、持将棋の方が良い……そういう判断を今のソフトがするのは難しいですよ。アルファゼロが出て来ないなら、再来年辺りまで無理でしょう』

(アルファゼロは、来年は出て来るだろ。電脳戦で勝たないまま、信用回復は無理だしな)

 

将棋ソフトの進化は目覚ましい。1年毎に確実に強くなるし弱点はどんどん消えて行く。それに今年も勝てると言うアイは、化け物としか思えない。そろそろ自称スパコンの底が見えるかと思っていたけど、見えそうで見えないのが個人的には怖い。

 

……九頭竜も今回の件でヤベー奴だと世間に認知されただろうし、今後も更に成長しそうだな。来年か再来年には、3年前のアイと互角に戦えそう。

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