うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
天衣と祭神の女王戦第3局が始まり、解説は空さんとあいが行なう。女流四天王揃い踏み!とかネット中継のタイトルには書かれているけど、誰だよこの構図を考え付いた奴。案の定解説の空気が凍っているというか、空さんもあいも目付きがヤバい。目の前にいる女を、殺してやろうかとマジで考えている時の目付きだ。
「おばさんが二冠だった頃より女流棋界のレベルが上がっていることぐらいはわかりますよね?」
「黙れ小童」
「解説の時に小童とか言っちゃ駄目ですよ。伯母さん」
「……もうすぐ私と八一は同棲する予定だから、出て行ってくれる?雛鶴さん?」
天衣と同じく小学6年生になったあいは、こちらも若干背が伸びて長い髪がより長くなった。……もしかしなくても、あいにも身長は負けるだろうな。そして空さんとあいの煽り合いが止まらない。さっさと解説しろや。
『天衣も空さんも、解説をする側になりましたから女流棋士と組むことは多くなるでしょうね』
(画面が女性2人になるわけだから、男がいるよりも圧倒的に華やかだな。……この2人以外の組み合わせなら、大体何とかなるんじゃないか?)
『よりによって、1番組み合わせたら駄目な組み合わせをしましたから空気が冷え切ってます』
(どちらも、九頭竜Loveなのは隠さなくなったな。この喧嘩で、1番ダメージを負うのは九頭竜か)
女同士の争いをしながら、天衣対祭神の対局も少しずつ解説していく2人。……祭神があれほどギラついた眼をして、将棋を指しているのはいつ以来だよ。A級棋士相手の時に本気を見せろよ。天衣の連勝記録が途切れるだろ。
しかし祭神の本気度とは裏腹に、将棋は天衣優勢でどんどん形勢が天衣側に傾いていく。それを解説する空さんとあいは、祭神の将棋に疑問を持っているな。この勝負は、天衣の勝ちか。プロ棋士デビュー以降の連勝は続いて、今日で12に伸ばした。
『というかマスターはそろそろ世間を弄ぶの止めません?29連勝、30連勝、31連勝と1勝ずつ増やすのは私が考えていたよりも反感が大きいのですが』
(キリの良いところで負けて良い対局が来るから仕方ない。あと小刻みに増やした方が、次に記録を塗り替える時楽だろ。全部の対局を勝つと対局数がヤバいことになるし、獲得しに行くタイトル戦以外は適度に手を抜くぞ)
現在の記録は32連勝だけど、天衣が一気に抜く可能性はわりとある。ただ、女流棋戦での対局を含んでの連勝記録になるから参考記録になる可能性も高い。……プロ棋士側の対局だけで32連勝は、難しいってレベルじゃないんだよな。確実にA級棋士との対決が間に挟まるし、まだデビューしたての天衣でも、連勝して行けば九頭竜と当たる可能性すらある。
女流棋士4人の力関係を並べると天衣、空、祭神、あいの順だと思うけど自信は無いな。特に祭神は今回のように、事前研究をしてくると素の実力以上の力が発揮できない。どんな局面だろうが対応してくる力と常識外れな手を連発して筋にしていくところが強みなのに、天衣に言われて馬鹿正直に努力するのは長所を捨てている。天衣はこうなることを読んで、第1局で仕掛けたのか。
『ぶっ飛んだ手を強引に成立させるから強いのであって、それが無ければ普通の女流タイトル保持者と変わりません』
(そこに、周囲の人間は才能を感じたわけだしな。……万が一、祭神を俺が育てることになっていたら、ひたすら長手数の詰将棋をさせていたな)
『祭神の性格的に、それが1番でしょうね。本人は嫌がりそうですが』
祭神は、今日の試合までひたすらスポーツでもやって頭を空っぽにしておいた方がマシだったかもしれない。最後は天衣が上達した終盤力を披露して、祭神の玉を詰め切る。詰め切る必要がない時は基本的に俗手で寄せていたから、三段リーグを通じて大きく成長した部分だな。
これで天衣は女王を防衛し、女流棋界はタイトル保持者が4人いるという状況は変わらない。だけど女流帝位戦の方で祭神があいに負ければ3人になるし、これからは天衣が女流タイトルを獲得していくからいずれは天衣1人になるだろうな。
……下手にイベントを入れられるより、女流棋戦の対局を入れる方が天衣にとっては楽そう。まだ義務教育期間中だし、俺よりかは楽なスケジュールに調整はされる予定。天衣自身も、女流棋戦の対局は負担になってないようだしな。気を抜いて負けるということもあり得そうだけど、普通の女流棋士とは実力差が付き過ぎているのも現状。
あ、団体戦の件で女流棋士を指名して良いか聞いたら「釈迦堂さんと祭神さんと雛鶴さんは勘弁して下さい」との返答が来た。もはや答え合わせじゃねーか。あと、女流棋士から釈迦堂さんと祭神とあいを除いたらプロ棋士と将棋が出来そうなのは月夜見坂さんと供御飯さんぐらいしかいない。そしてこの2人も将棋が出来るだけであって、プロ棋士に勝つことはまず不可能だ。
『女流棋士チームは、チームとしては全敗するでしょうが局所局所で勝つことはあるでしょうね』
(祭神とあいが強いからな。祭神は今後どうなるか不明だけど、あいの方は化け物染みた終盤力のせいでプロ棋士相手でも食える)
『中盤の捻じり合いでは、祭神とあいなら祭神の方が上でしたが……今ではどちらが上なのか分からないです』
(天衣は、考えていたよりも馬鹿デカい爪痕を祭神に残したな。……祭神の今後は、少し面白そうだ)
原作ではかなりのエゴイストキャラとして描かれていた祭神だけど、たぶんエゴイストとしては俺の方が数段上の自覚と自信があるわ。
「弱い奴らと指していると、生きながら腐っていくのが分かる」
そう言う祭神の主張は、ぶっちゃけ間違っていない。双子で棋力も同じ中級者2人を、片方は下級者の集いに、もう片方は有段者の集いに参加させて1年も経過すれば、2人の棋力に雲泥の差が生まれるだろうと俺は考えている。たとえどちらも同じ対局数、勉強時間だとしてもれっきとした差は生まれるだろう。
……似たような経験が、俺にはあるからだ。
これで女王戦は終わって、これからは将棋電脳戦と団体戦のドラフトか。ドラフトの方は、宣伝が上手く行ったみたいで随分と世間からの注目を集めている。まあ歴史の長い将棋界で、初の試みではあるし、九頭竜がソフトに勝ったのも大きい。
ドラフト会議の後、どちらのリーグに入るかの抽選も行なうようなので掲示板とかはかなり盛り上がりそうだ。組み合わせ次第では、天衣と1位指名の人が負けてチームとして全敗することもあり得るんだよな。まあ今の天衣を見ていると、A級棋士が相手でも倒しそうな雰囲気はあるけど……それでも、各チームリーダー相手はまだ勝てない。