うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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ドラフト会議

ドラフトは、英語で徴兵の意味もある言葉だ。5月の中旬。電脳戦の第1局で圧勝した俺は、チームリーダーとしてドラフト会議に挑む。今年は、チームリーダーの実績で仮順位を付けているので俺の1巡目の指名は1番最後になる。なお2巡目は天衣で固定されているから1番先に指名出来る権利が潰れているに等しい。

 

……天衣は実力を考えたら1位指名する人が出て来るかもしれないし、2位指名が固定なのは気持ちが楽だ。誰かに取られる心配も無いしな。しかしまあ、プロ棋士のトップにいる12人が集うと威圧感が凄い。たぶん今頃画面の向こう側の視聴者達は、お祭り騒ぎなんだろうなぁ。

 

「チーム月光。清滝九段」

 

今のチーム名は仮のチーム名で、チームメンバーが決まったらまず最初にチーム名を決めることになる。このままチーム○○で提出しそうな人は何人かいるけど、うちはよく考えてから提出しようか。

 

九頭竜は1位で清滝先生を指名する予定だったようだけど、月光会長に取られる。清滝先生は5年前まではA級で戦っていた棋士だし、ようやく復調して来たB級2組のベテランだから取りに行く人はいるよね。幾ら過去でも、A級棋士の総当たり戦で1位になったことが2回もあるというのは無視できない実績だし。

 

「チーム生石。久瑠野七段」

 

何より月光会長と清滝先生は兄弟弟子の関係だ。指名して来る可能性は十分あったのに、考慮してなかった九頭竜が悪い。そして師匠を取られて困惑中の九頭竜は、悩みに悩んだ末に一度対局したことのある人物を1位指名した。

 

「チーム九頭竜。二ツ塚五段」

 

……まさかの、二ツ塚未来五段を指名。他にもC級1組から若くて勢いのある人を指名しているチームがあるので、実績よりも今の実力を考慮しての指名が多いということかな。まあとにかく、俺の指名予定が指名されなくて良かった。

 

「チーム大木。飯盛五段」

 

1位指名だけ見ると、ネームバリューのある人からわりと無名の人まで、実力者が選ばれた感じ。そして2位指名になると、各チームリーダーも頭を悩ませ始めるけど、俺と九頭竜は既に決まっているから気が楽だ。

 

「チーム大木。夜叉神四段」

「チーム九頭竜。空四段」

「チーム生石。辛香四段」

「チーム月光。鏡洲四段」

 

2位指名では、今年の棋士総会で呼ばれるであろう新四段が全員指名される。鏡洲さんが指名されるのは分かるけど、辛香さんも指名されるか。一度夢破れたアマチュアがプロになったと、メディアで名の知れている人物だし、生石さんにも指名依頼が入っていたのかもしれない。そして地味に月光会長のチームの総合力がヤバい。

 

『名人は波関五段と鳩待六段ですか。関東と関西の奨励会幹事を指名したのは、何か思惑がありそうですね』

(どちらも奨励会員同士の将棋をよく見ているからか、歳のわりには若手のような冒険心ある手を指すよな)

 

名人のチームも強そうだけど、1位指名を下位の方で出来た人は強い人を指名しているから総合力が高い。生石さんが1位で指名した久瑠野さんは関西研修会幹事で、13人しかいないB級1組所属の中でも上位の存在。チームリーダーになってないのが不思議なぐらいだ。

 

11組のチームが結成された後、特別枠として釈迦堂さんが登場。空さんが出て来るまで、1人で女流棋界を支えてきた重鎮だし特別扱いは妥当。当然、指名は祭神とあいの2人。本気で優勝を目指すと宣言したけど、当の本人がC級2組で下位の棋士にも負けそうな点はネックだな。

 

『画面に映る女性が天衣と空さんだけでは少ないですからね。女性ファンが増えたとは言っても、視聴者のメインは男性ですし女性が重用されるのは仕方ないです』

(5人でも少ない気はするけど……その内3人が九頭竜Loveを隠してないとか九頭竜の命は大丈夫ですかね?)

『祭神も公衆の面前で九頭竜に告白していますし、そろそろ背中を刺されてもおかしくはないですね』

(そして当の本人はハーレムルートを真剣に考え始めているという。マジで一回刺されろ)

 

九頭竜は全員の気持ちに応えたいとかクズの極みみたいな話を俺にしていたけど、原作でも竜王の就位式で空さん、あい、天衣の3人から花束を受け取るシーンで、全員から花束を受け取っていたな。あそこまで追いつめても、報道陣のカメラの前でその選択をした九頭竜が、1人に選ぶ踏ん切りはつかないだろう。

 

空さんとは正式に付き合っているはずなのに、あいにはデレデレな時点で空さんのストレスはマッハ。プロ棋士になって夏が近づくにつれ、空さんは負ける回数も多くなって来た。……負けが込み始めたと言っても、プロ棋士になってからまだ10勝6敗と勝ち越しているから強いことは強い。うち5勝は女流棋戦の方だけど。

 

空さんが九頭竜のステージまで辿り着くには、あと数枚は壁を超えないといけない。天衣との対比をさせられることも、空さんの辛いところだな。一方の天衣は15連勝中だし。

 

『あいが女性らしくなっていくにつれ、九頭竜との内弟子生活をどうするか問題は浮上します』

(だから空さんは同棲を提案しているけど、今からあいを追い出すのは九頭竜も辛いんだろ。あいの実家が実家だし、弟子入りの経緯もあるからな)

『九頭竜はあいに胃袋を掴まれていますし……結婚を考えた時にあいの優良物件さは捨て難いのかもしれません』

(空さんと九頭竜の稼ぎなら、家政婦の1人や2人は余裕だろ。……ああ、家政婦姿をしたあいが乗り込んでいく姿まで幻視出来たわ)

 

空さんとあいの女の戦いの方は、あいを追い出せない時点であいが有利なのかもしれない。今のところ、九頭竜と空さんは長い時間を共に過ごしたアドバンテージこそあるものの、あいとの同棲生活が長くなるにつれ、そのアドバンテージは無くなっていく。

 

九頭竜の女関係は、見ていて飽きないなと思いながら今度はリーグ表のくじを引く。こっちは完全にランダムだから、偏りが出来る可能性も十分にあるな。俺が1番最初にくじを引くから、現段階でどちらの方が良いとかは無いんだが。

 

『九頭竜がこっちのリーグに入って来ましたね』

(うわ、マジか。先鋒中堅大将の組み合わせ次第では九頭竜チームには負ける可能性もあるから勘弁願いたい)

『……名人や歩夢、於鬼頭さんが向こうのリーグに入って、月光会長や生石さんはこちらのリーグですか』

(……天衣と飯盛五段が、どれだけ頑張れるかだな)

 

チームリーダーがくじを引く度に、一喜一憂する会場の面子と視聴者達。いつの間に来場者数100万人を突破したんだ。賞金もそうだけど、注目度も本当に高いな。最近、若手棋士達が指名されたいと言っていた理由が分かった気がする。


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