うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
久留野七段対飯盛五段の将棋は、よくある若手対ベテランの対決となり、勢いよく攻める飯盛さんの攻めが良い様にあしらわれている。あかんやつやん。
……このカメラに囲まれた対局場で、常時全方向から撮られている中、普段通りの力を発揮出来ない人は多いだろう。天衣と生石さんの将棋も普段の実力を十全に出せたとは言い難いし、辛香さんも緊張気味だった。当然飯盛さんも、指し慣れてない感じが伝わって来る。
一方で、空気洗浄機とスポットクーラーを持ち込んだ久瑠野さんは自分の世界に入れていた。持ち込んでも良いと許可は取っていたそうだけど、自分の領域を作るのにあれほど便利なものは無い。
『これは無理ですね。そもそもB級1組が主戦場の時点で久瑠野さんは飯盛さんより格上です。……良いんですか?初戦で負けて』
(かと言って俺が先鋒になってもいたちごっこだろ。だから、このメンバーの順番を変えるのは一回だけ。負けてはいけない時に変える)
『個人としては圧倒していても、チームとしての総合力は中の上ですからね。天衣が大将にいても結果は変わらなかったでしょうし、マスターが先鋒じゃないと無理でした』
(まあでも、天衣は先鋒になったお陰で公式戦の生石さんと指すことが出来た。いくら練習試合で指しても、それは練習試合でしかないからな)
初戦は生石さんのチームを相手に、1勝2敗で敗戦。チームとしては-1ポイントという状態。後日、九頭竜のチームと月光会長の試合があったけど、これも九頭竜のチームが1勝2敗で負けている。釈迦堂さんのチームは山刀伐さんのチームにあいが1勝したため、どの対戦カードも大将戦まで試合をしたことになるな。
チーム修羅雪姫:先鋒九頭竜竜王○、中堅二ツ塚五段×、大将空四段×
チーム炎熱の駒:先鋒鏡洲四段×、中堅月光九段○、大将清滝九段○
チーム天空撃摧:先鋒釈迦堂女流六段×、中堅雛鶴女流四冠○、大将祭神女流四段×
チーム風林火山:先鋒山刀伐八段○、中堅阿曽原六段×、大将八丁五段○
団体戦は試合前にオーダー表をチームリーダーが提出するけど、互いに書いているところは見ることが出来ないので組み合わせを正確に読むのはアイでも不可能。まあ、オーダーを変えるとしたら2位に滑り込むためだけに変えるぐらいか。
『それまでは天衣の育成優先とか頭おかしいんじゃないですか?』
(今に始まったことじゃないだろ。飯盛さんもこのオーダーで納得済みだし、問題ねーよ)
団体戦の各チームの1戦目が終わったところで、棋士総会が開かれる。三番手直りがとうとう実現を果たし、俺にとってタイトル戦が地獄と化した。いや挑戦者の方も駒落ち将棋で負ける可能性が出て来たから地獄だろうけど、その地獄を作り出した張本人である名人は珍しくご機嫌だから文句を言い辛い。
あと来年から女流棋帝のタイトル戦が設立されるようで、時期は棋帝戦に合わせて6月から。それと同時に棋帝戦の優勝賞金が増額され、序列が最下位から7位に浮上した。プロ棋士が八冠なのに対し、女流はこれで七冠に。一時期は棋帝戦が無くなって七冠に戻る可能性が囁かれていたけど、そんなことは無かった。
「……本当に関西からの出席は少ないのね」
「まあ移動も面倒だしな。あ、今年の新四段は色んな意味で注目されてるぞ」
「色物ばかりよね。坂梨さんも、今年の詰将棋解答選手権大会で準優勝だったんでしょ?」
「ああ。団体戦では歩夢が指名していたし、1試合目は中堅戦で勝っていたな」
初めて棋士総会に出席し、プロ棋士としての挨拶を済ませた天衣は暇そうに月光会長の話を聞いている。……月光会長の話は対局中のカンニング行為に対する警告みたいなものだけど、来年は機械類の持ち込み禁止になりそう。
とりあえず昼休憩中に、将棋会館から出ることは出来なくなった。要するに今まで、自由に外へは出られたわけだな。ぶっちゃけ遅すぎる気はするけど、それでも反対の声は大きかった。こういう所を見ると将棋界の動きの遅さを感じられるし、よく団体戦の企画が通ったわ。
棋士総会の後は飯盛さんと天衣で練習対局をさせてみるけど、団体戦のルールである10分プラス1分の考慮時間10回という持ち時間で1勝1敗。天衣の方が地力はありそうな雰囲気があったが、飯盛さんも負けてはいないな。ただ安定性は天衣の方が上だし、天衣>飯盛さんという認識で良いか。
「初の三番手直りの相手は、篠窪八段ね」
「今月の棋帝戦から適用されるからな。篠窪さんにとっては2年ぶりになるタイトル戦で、香落ちで負ける可能性もある」
団体戦と並行して、棋帝のタイトル戦もあるけど今年の棋帝のタイトル挑戦者は挑戦者決定戦で歩夢を打ち破って勝ち上がって来た篠窪さんだ。2年前、俺が初めて棋帝のタイトルを取った時の棋帝のタイトルホルダーだった人だな。
この2年でイケメン度が更に上がっており、ファンからの愛称は王太子で、俺の大木ロボやソフトイーターなどの愛称と比較すると如何にルックスが大事かということがよく分かる。一方の九頭竜はネット上でとうとうクズとしか呼ばれなくなりました。実質二股状態でなおも周囲の女性陣から好意を持たれているのは凄いと思う。
(九頭竜は答えを出さないのかな?)
『もう両方の気持ちに応えるという答えは出しているじゃありませんか。全女性の敵みたいな存在です』
(それでも色んな女性に言い寄られているところを見ると、男って顔とスタイルと幼少期の過ごし方で決まるなって感じる)
『最近はマスターに寄って来る女も増えましたよ。夜叉神家の方々が遠ざけていますけど』
徐々にアイから九頭竜への評価が、下がっているような気がするのは気のせいじゃないはず。この前はお風呂に入っている最中にあいに突撃されて何だかんだで背中を流されたらしいし、そろそろ通報しても良い気がする。
『天衣とディープキスをして以降、天衣とのキスやボディタッチ回数が増えたマスターはロリ関係で九頭竜のことを言う資格がありません』
(ボディタッチというより、たまに頭撫でているだけじゃねーか。え、他にボディタッチあった?)
『この前は、布団越しじゃなくて直接背中に天衣が乗って来たじゃないですか。……それに反応しかけたガチロリコン』
(向こうからのボディタッチは別に良いだろ。と、そう考えたら九頭竜もだよな。あれ?世間体を気にするなら俺は空さんよりあいを応援するべきなのか?)
だけど冷静に考えると、師弟でそういう関係になるのは間違いなくマイナスイメージだ。どうにかしようと思ったら、九頭竜とあいを先にくっつけるしかない。……でも今の九頭竜と空さんを見ていると、そのうち一線は越えそうだし、あいは恋関係でも厳しい勝負になる。
……いつまで内弟子生活が続くか。あいが中学生に上がるタイミングが1つのターニングポイントになりそうだ。