うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
三番手直りが実現し、棋帝戦は第5局まで行なわれるようになる。対局者(俺)の負担を考慮し、前夜祭への参加はタイトル挑戦者の篠窪さんだけになった。検分とか挑戦者だけで良いだろ。別にどんな環境だろうが変わらないし。
そして棋帝戦の第1局は、俺が指して完勝した。持ち時間は多少使ったけど、合計で9分しか使ってないし、個人的には矢倉同士の戦いでごり押ししての勝利だったから満足。
『歩の先に金駒を打ち込んで、ゴリゴリ敵陣の駒を削る将棋は、見ていてこちらの精神が削れてくるので止めてくれませんかね?』
(何で?)
『相手にどんどん持ち駒が入っていくからですよ。もう少しで挽回不可の盤面に突入するところでした』
アイには勝ち方について文句を言われたが、勝てばよかろうだろう。まあ筋の悪い将棋を指した自覚はあるけど、あの局面だとその筋しか見えなかった。
Sリーグの方はもう片方のリーグの試合も行なわれ、名人と歩夢のチームが2連勝をしていた。総合力的に、この2チームが抜けそうではあるけど、まだ1試合しかしていないから分からない。そして団体戦は2週目に入って、今度は山刀伐さんがリーダーの風林火山と当たる。……チーム名は、普通の四字熟語とかの方が格好良かったなぁ。こういうの、他の方が良く見えるのは何なんだろう?
チーム風林火山:先鋒山刀伐八段、中堅阿曽原六段、大将八丁五段
チーム大神:先鋒夜叉神四段、中堅大木五冠、大将飯盛五段
特に順番とかは変わらず、天衣は山刀伐さんとの1戦。昨年のA級順位戦では3位と名人戦まで後一歩の所まで行った山刀伐さんは、努力の人だ。今年の順位戦は7位と降級ギリギリだった生石さんに比べると、調子が良い分山刀伐さんの方が強いかもしれない。
天衣対山刀伐さんの対局は個人的に見てみたかった対局だし、早目に実現してくれて良かった。振り駒の結果、天衣の先手番になったので、今日は天衣が勝てなくても飯盛さんが勝つな。久瑠野さんに負けた時、わりとマジで切腹しそうな感じだったし、あの覚悟があるなら今日は勝てる。
『天衣も山刀伐さんも、手順が馬鹿正直で素直ですよね』
(え?互いに右玉で馬鹿正直じゃないでしょ?)
『ソフトが考案した手順をそのまま使っているから、付け入る隙が出来るんですー』
(針の穴が大きく見えるほどの極小の穴を隙って言えるのはアイしかいないだろうな)
天衣と山刀伐さんの対局は角換わり腰掛銀の形になり、互いに居飛車で右玉を選択。ここからは互いにこの将棋をどこまで研究しているかが勝負を分けるけど……山刀伐さんの研究量は頭おかしいんだよなぁ。
早指しでは研究量の多さが有利不利を明確に分けることもある。山刀伐さんは天衣の3倍ぐらい生きているんだから当然研究量も多いし、想定範囲は広いだろう。天衣の正道から少し外れた攻めでも、知ってると言わんばかりの指し筋で対応してくる。
そのまま天衣の攻めが一段落するまで指して、形勢は山刀伐さんが良い。だけど研究家というのは、形勢が良くなった段階で検討を打ち切ることもある。他に検討しないといけない筋が多すぎるから、全てを研究するならある程度は省略しないといけない。ここからは、山刀伐さんと天衣の素の力が試される。
『都合の良い展開ばかりは考えないですからね。ある程度有利になったら、そこで検討を打ち切るのが常人です』
(普通はそのまま指し続けて勝てるはずだからな。特にA級棋士なんか、終盤力も桁違いだから早々間違えない。でも天衣は、そこに賭けた)
『一段落した段階で、天衣が不利ではありますけど評価値的には-700ですか?何とかなりそうな範囲ではありますが……』
(え、この先も研究しているのか?それなら天衣に勝ち筋は……あー)
少し長考して天衣が繰り出した鬼手は、すぐに山刀伐さんが斬り返す。これは最後まで検討されてますわ。そんな甘い話は無かったということで、今日も天衣は負けだな。先手番を持って負けたんだから、まだA級棋士には届かない証明にもなってしまう。粘りに粘るも、116手で天衣は投了。
先鋒として、再びの負けに少し落ち込んでいる気配もあるけどまだ精神的には大丈夫そうだな。続く試合はアイがエンジン全開で68手での勝利。本気のアイに一般棋士が勝てるわけないだろ。見るも無残な負け方というか、あっという間に囲いが押し潰された。
そして最後、飯盛さん対八丁さんの対局はお互いC級1組所属ということもあり、互角の戦いが予想されていたけど飯盛さんが優勢だ。初戦は慣れない環境で、久瑠野さんが強かっただけで、普段の力を発揮出来ればC級の棋士には負けないよな。
「飯盛さんは、時々師匠の指し筋と似ているわね」
「まあ、俺が指すならどう指すかを考えて指しているらしいからな。食べるものを同じにしているのは思考をトレースするためらしいし、マジで狂信者だよ」
「……最近は運動を始めて、ダイエットもしているらしいわよ」
「どうやって30キロも落とすんだよ。外見だけは真似されても困るし、太っているのは気にするなって言ったんだが」
俺に三段リーグで負けてから、俺の棋譜は全部集めて、俺ならどう指すかを考えて指しているという飯盛さん。確かに中盤の捻じり合いではアイの面影が幻視出来る……ような気がする。
『実力は、これからの伸び次第でしょうか。若手の中では有望株ではあるのですが……』
(関東の若手棋士の中では上位だけど、全体的に見たらそこまでだぞ。この対局は、勝ったけどな)
『ほぼ勝ちですね。今日はミスらしいミスがありませんでしたし、実力で押し切っています』
(ミスらしくないミスはあったと。まあでも、これでチームとしては1勝1敗か)
最後は少し長い詰将棋を詰め切って飯盛さんの勝利。2勝1敗で、チームとして初勝利を飾る。九頭竜のチームは生石さんのチームに2連勝で勝ち、月光会長のチームは釈迦堂さんのチームに2勝1敗で勝利か。清滝先生があいに負けたのは見物だった。これも恩返しと言うのかな?
チーム修羅雪姫:先鋒九頭竜竜王○、中堅二ツ塚五段○、大将空四段
チーム巨匠:先鋒生石九段×、中堅辛香四段×、大将久瑠野七段
チーム炎熱の駒:先鋒月光九段○、中堅清滝九段×、大将鏡洲四段○
チーム天空撃摧:先鋒釈迦堂女流六段×、中堅雛鶴女流四冠○、大将祭神女流四段×
こうなると、チーム大神はプラマイ0で3位。2位以内への滑り込みは、たぶん大丈夫だろう。今のところ月光会長のチームが1位で九頭竜のチームが2位だけど、その両方のチームとの直接対決がまだ残っているし、何とかなるな。