うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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月曜日

順位戦で久瑠野七段をフルボッコにしたり、棋帝戦で第2局も勝ったりとSリーグ以外の対局もこなしていると、月曜日を迎える。Sリーグが唯一お休みの曜日であり、同時に必ず対局が入る曜日になった。天衣は各棋戦の一次予選から参加しているけど、一次予選は関東と関西で分けて行なうため、基本的には関西将棋会館で対局がある。

 

今日は賢王戦の予選トーナメントの対局があり、天衣は勝利して俺の家に寄る。賢王戦は段位別に予選トーナメントが組まれるから、天衣は賢王戦の予選では四段としか当たらない。しかしながら女流棋士代表としてあいが参戦しており、このままだと決勝でぶつかる予定。

 

「あいは、三段編入を考えているそうよ」

「まあそれが前例もあるし1番手っ取り早いな。合格すれば今年の下半期の三段リーグから参戦か?また全勝者の1位が出そうだな」

「今期は椚が暴れているそうね。いよいよ上の存在が居なくなったから、全勝で勝ち上がるんじゃないかしら」

「まあ、本来なら昇段するはずの15勝3敗で2回も昇段を逃すとか普通なら心折れるぞ。次点も取れなかったのは、本当に運が悪かったというか、可哀想だった」

 

天衣からの情報で、今期の下半期の三段リーグはあいが大暴れする模様。何か色々とあいと情報交換をしているようで、九頭竜があいを追い出すために手を出そうとしたことまで判明している。なおあいには一瞬で演技を見抜かれてバッチ来いされたとのこと。既成事実狙っている娘に手を出そうとするとか九頭竜の抜けっぷりが酷い。

 

『九頭竜の演技は棒読みも酷いですから、あいもすぐに気付いたでしょうね』

(あと追い出すために手を出そうとするって、その後どうなるのか読めないのかよ)

『天衣に届いたラインで「そのまま手を出してくれたら良かったのに」という言葉がありましたが、11歳の少女とは思えないですよ』

(……あれ?九頭竜は空さんには手を出したの?空さんより先にあいに手を出そうとした事実があるって空さんヤバくね?)

 

団体戦でも大した見せ場もなく負け続けており、空さんのメンタルが心配になる。……空さんが、あいに九頭竜を取られるぐらいなら、みたいな思考にならないと良いな。

 

「ねえ、今年の夏はプール行かない?」

「お?良いけど天衣から誘うのは珍しいな?」

「去年の女王戦で第1局はスパワールドで前夜祭があったじゃない?その時に貰った宿泊チケットの期限が今年の夏までなの」

「去年の夏に、誘えば良かったのに。……ああ、去年の夏は夏祭りの準備で忙しかったか。解説やイベントがてんこ盛りで入ってたし、そんな余裕無かったな」

 

天衣からプールのお誘いがあったので、7月末の予定に入れておく。息抜きにはちょうど良いな。この2日間だけは予定が入らないよう調整して貰おう。というか予定入ってもすっぽかす。6月7月と予定詰まり過ぎなんだよ。

 

『デートに浮かれるのは勝手ですが、恐らく関係者と会ってデートどころじゃ無くなりますね』

(何でそんなこと言うの)

『このチケットはもう1人も持っていることをお忘れですか?』

(空さんが九頭竜を誘えるかは分からんけど、日程が重なることなんてあるか?)

『今のマスターの7月のスケジュール、九頭竜も大体同じですよ。帝位戦で戦うんですから』

(……なるほど。空さんの性格的に去年誘ったとは思えないし、重なる可能性はあるな。いやでも同じ日に行ったとして、広い館内でバッタリ会うことは無いだろ)

 

今日の将棋の好手と悪手を一通り天衣に教えながら、アイと脳内会議。……いやまあ、空さんと九頭竜のペアと会ったところで何も起きないだろ。あいやJS研の面子も来るなら話は別だけど、ペア宿泊券だし。というか空さんとの死闘だった去年の女王戦の関係者って、何でペア宿泊券だのペアでの招待状だの、ペア前提のものを贈ってくるんだろ。

 

天衣と対局の振り返りが終わったぐらいに晶さんが天衣を迎えに来て、天衣は帰宅。完全に中継スポット化しているけど、こうでもしないと天衣との時間を作れないという。さて、ゲームするか。

 

『マスターってわりとドン引き出来るぐらいには課金しますよね』

(とりあえず限定キャラは引く。恒常キャラも引く。でもマナが足りない)

『スタミナに課金石砕くのはどうかと思いますよ』

(別に良いだろ。タピオカ店のお陰で引くぐらいに現金入って来ているんだよ。夜叉神家は勝手に全国展開を始めるし、ブームが終わったとしても10年は戦えるだけの資金も出来ているからな)

『……最近は課金したいがためにお金稼いでません?』

(遊ぶ金の欲しさでプロ棋士なったんだし、そこは最初の頃と変わってねーぞ)

 

スマホで日課となった周回作業をしながら、パソコンのゲームを起動させようとするけどどれにしようか迷う。すると視界の端に、もうログインしなくなったオンライン将棋対戦が出来るサイトのショートカットが映る。

 

(今俺がサイトで新垢作製して指したら何局目で垢バンを食らうだろうな)

『今はソフト指しをAIが判断するようですし、数局でアカウントは抹消されるでしょうね』

(……はー。俺もソフトに挑むか)

『勝てなかったら私にゲームを選ばせて下さいね』

 

何だか懐かしい気持ちになったので、今年の将棋ソフトの大会で優勝したソフトを相手に将棋をしてみる。流石に後手番で勝てるとは思わないので、先手番だ。持ち時間は、30秒将棋で良いだろ。

 

『スマホの周回止まってますよ』

(いや、流石にこっちに集中するわ。序盤はこれ、良い感じだよな?)

『形勢判断バーは+1ですし、そこまで良くはないですよ』

 

序盤は良い感じに指し進めるも、中盤で狂ったように攻められてあっさりと負ける俺。こうやって戦うと、アイの凄さを再認識するな。あと純粋に、ソフトの進化を感じる。数年前はアイに角落ちで負けていたのに、今は平手で勝負になっている。

 

『褒めてくれても良いんですよ?』

(引っ込んでろ脳内居候。……九頭竜には、追い付けないか?)

『私とマスターは同一の存在ですから、追い付いているで良いんじゃないですかね?』

(いや、アイが指している時は勝利の喜びが9割減なんだよな。俺が指して勝ちたい)

『じゃあ5年前の時のように私を消せば良いじゃないですか。すぐ戻ってきますし』

(それも嫌というか、下手したら一生戻って来ないだろお前。それが怖いんだよ)

『自分自身の脳内会話なのに、消えるわけないじゃないですか。マスターが望めばいつでも湧いて出てきますよ』

 

俺が負けたので、アイの希望で久しぶりにSLG系のゲームをする。……アイのことについては、俺の精神衛生上考えない方が良いだろうな。


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