うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
あいとアイが対局をするのは、先月のゴキゲン研以来か。しかしまあ、本番の方が力を発揮できるタイプというのは凄いな。俺は本番や大会とかで、実力を出し切るのが苦手なタイプだったから実力以上を出し切れる九頭竜師弟は素直に凄いと思う。
対局はアイの先手で、お互いに居飛車だけどアイは急戦矢倉を選択。持久戦をするかしないかは相手の出方にもよるし、噛み合わないこともあるけど、急戦をするかしないかは権利です。
『……本当に序盤中盤とそこらのプロ棋士と比較しても遜色のない程度の将棋は指すようになりましたね』
(それでいて、終盤力は人類史上最強レベルか。そりゃ勝ち続けるわ)
『原作でも昨年の6月ぐらいまでの女流棋戦で負け無しでしたし……それ以降の描写は無かったので分かりませんが、勝ち続けていたでしょうね』
(将棋を始めて3ヵ月の段階で将棋図巧を完全制覇出来る奴は、探せば日本全国に数人はいるだろうけど、旅館の手伝いをしながら盤面を見ずに解くのは人間辞めてるし、今の天衣でも絶対真似出来ねえ)
あいとの対局は、アイが有利を保ったまま中盤の山場に入る。……低く構えられると、それだけで指し辛くは感じるな。アイは苦にしないようだけど、俺だと絶対に手間取る。あいは強くなったし、これからも天衣の脅威にはなるだろう。あいと同等以上の終盤力の才能を、天衣に与える方法は無いだろうしそもそも俺が知りたい。
『マスターは、少し勘違いをしていません?あいが天衣と同じく急成長をしているのは、才能だけじゃないですよ』
(ん?九頭竜の育成能力が段違いだったとは言わせねーぞ?原作よりも強くなる理由は揃っていたけど、才能も大きいはず)
『そもそも原作とこの世界の雛鶴あいの違いとして、将棋を指す理由とかも違っている感じがしましたが?』
(原作は、好きな人である九頭竜への憧れが大きなウエイトを占めていただろうな。一方で今目の前にいるあいは……天衣に勝つという気迫を持って指している。その違いは大きいだろうな)
『というか、九頭竜に弟子入りをして将棋道場でも同年代の子達に勝ったり負けたりと1番楽しい時期に、天衣という爆弾と将棋を指させたのはマスターじゃないですか』
初めてあいと天衣が将棋を指した時、天衣は反則負けをした後にあいに5連勝した。反則負けした将棋も実際には勝っていた内容の将棋だったから、同世代相手に実力の差を見せつけられて6連敗。将棋を指す理由が、根本的に変わっていてもおかしくはない。
目の前にいる、小学6年生の雛鶴あい。女流とはいえ既にタイトル戦は5回経験しているし、その内の4つは奪取した。昨年の秋に空さん相手に1勝していたけど、よく考えたら三段リーグを17勝1敗で勝ち抜けた空さん相手にタイトル戦で1勝したのはヤバいとしか言えない。そしてその頃と比較しても、明らかにあいは成長している。
九頭竜とマンツーマンだし、自分の前を進み続けるライバルもいるし、あいにとっては目の上のたんこぶ的な、絶対に負けられない恋敵もいる。人類最強の終盤力も合わせて、強くなる理由は幾つもあるな。そして実際、強くなったわけだ。プロ棋士相手の連勝は、理由あってのことだな。
アイの突き歩に、あいは下の唇を噛んで必死に考える。顔に出るところは可愛いんだけど、指し手は全然可愛くない。俺が指していたら負けていた可能性すらある。……俺は格上相手に勝つのが得意だけど、格下相手に負けるのも得意だからな。格上相手に3局に1局は勝てるなら、格下相手に3局に1局は負けるのもよくあることだけど。
(あー。ハーゲンダッツ食べたい)
『持ち時間短いんですから我慢して下さい。アイス食べてお腹冷やして時間切れ負けとか一生残る汚点ですよ』
(分かってるよ。でもタピオカ飲んでる時点で同じな気がするわ)
『タピオカは、まだブーム続いている感じですかね?売り上げ下がっていませんでしたし』
(何か、タピオカは定番品として今後も残りそうだな。最近は中高年のおっさんすら飲んでいるの見かけるし)
『……中高年のおっさんが常飲したら、糖尿病一直線でしょうね』
あいの終盤力は、人類最高峰だけどアイを上回ることはなかったようで巻き返しには至らなかった。中盤の山場で少し遅い手で攻め始めた結果、それが終盤まで響いた形だな。天衣が勝ち、俺が勝ったことでチームは2連勝。結局飯盛さんは、3局しか指さなかったな。まあ大将はどこのチームもそんな感じだけど。
最終結果は、俺のチームが1位で九頭竜と生石さんのチームが同率の2位。そのため九頭竜と生石さんの一騎打ちが始まる。結果は見えているようなものだけど、九頭竜が絶対勝つとはアイでも言い切れない。九頭竜がミスをする確率は、決して0じゃないからな。小数点以下の確率で九頭竜がミスをする確率は存在する。
「生石さんは気の毒だけど、山刀伐さんに負けたのが痛かったか」
「山刀伐さんと生石さんって、昔は生石さんの方が勝率高かったけど今は互角よね?」
「ああ。昔は生石さんの勝率の方が高かったのに今の通算成績は五分になっている、ということは、最近は生石さんの方が負けているということだな」
九頭竜と生石さんの決勝トーナメント進出を賭けた一戦は、九頭竜が勝利して最終順位が確定。結局リーグを勝ち抜けたのは、俺のチームと九頭竜のチームか。強いチームリーダーがいるチームは、残り2人で1勝すれば良いだけだからやっぱり勝ち抜けやすいのかな。
1位:大神 9勝4敗 +5
2位:修羅雪姫 7勝6敗 +1
3位:巨匠 8勝7敗 +1
4位:炎熱の駒 7勝7敗 ±0
5位:風林火山 6勝8敗 -2
6位:天空撃摧 4勝9敗 -5
最後の順位表だけ見ると、結構な独走状態である。俺が5連勝しているから、天衣が2勝3敗、飯盛さんが2勝1敗と2人で4勝4敗の指し分けでもチームとしては独走か。むしろ2人でよく指し分けまで持って行ってくれたわ。
『天衣が月光会長に負けていたとしても、勝ち抜けてはいましたね』
(清滝先生に飯盛さんが勝てるか否か、ってところか。もし月光会長のチームに負けていたら+2が-1になっていたから……それでも+2か。1位が月光会長のチームになって、その方が展開としては面白かったかもな)
もう片方のリーグは歩夢のチームが1位抜け、名人のチームが2位抜けだったので決勝トーナメントの初戦は名人のチームと対戦することになった。決勝トーナメントも先に2勝したチームの勝利なので、要するにチームとして勝ち越せば良いわけだ。