うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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女流玉座

天衣は団体戦やらプロ棋士としての対局で忙しい中、女流玉座戦を勝ち進んでいる。今日の女流玉座の二次予選の決勝にも当然勝利し、本戦トーナメントへの進出を決めた。なお本戦トーナメントの組み合わせの結果、初戦は桂香さんになり、準決勝であいと当たる模様。決勝は、面子見ていると祭神になりそうかな。

 

女流玉座戦は一次予選の前段階にあるアマチュア予選でアマチュアも参加出来るけど、晶さんは参加していないし、抽選落ち多数の大会なのでJS研の面子も抽選落ちしている。参加条件が女性で有段者のアマチュアとはいえ、西日本東日本でそれぞれ定員が64名は少ない気がするな。今年の倍率は3倍以上だったらしいし、将棋ブームの到来を実感する。

 

「2五飛とそのまま飛車をぶつけたのは悪手だったな。2一歩成と桂馬を取られてからでも2五飛とぶつけることは出来るし、5六歩で良かっただろ」

「……5六歩、2一歩成、5七歩成、同金、2五飛、同飛、7七角成、同桂、2五歩の順番?」

「何で今一瞬で分かったのに指せなかったんだ。

単に2五飛とぶつける場合より、明らかに敵陣が柔らかくなっているだろ。相手が2五飛に同飛としてくれて助かったな?」

『2五飛に3三角成から飛車角交換をされると天衣は少し苦しくなっていたでしょうね』

(……ちなみに合ってる?)

『合ってます。同じ手順を見つけても、指す順番で結果が大きく変わるのが将棋ですからね』

 

対局後の反省会をいつも通りにするけど、相手も二次予選の決勝まで勝ち上がって来たから弱いわけじゃ無い。だけど、女流棋士は女流棋士。最悪終盤で巻き返せたと思うが、それでも天衣に油断と隙があったのは確かだ。まあ、慢心する気持ちも分かるけどな。実力差があり過ぎる。

 

「で、1回戦は桂香さんか。桂香さんが予選を勝ち抜いて本戦まで出て来たの、もしかして一昨年の女王戦以来?」

「確かそのはずよ。清滝一門なのに、目立ってないわね」

「清滝一門は桂香さん以外、本当によく目立つからなぁ……。清滝先生はあいに負けて全国100万人の将棋ファンの前で大号泣してたし、めっちゃ目立ってた」

「放尿するよりマシじゃない。スタッフ全員、恩返し事件の再来が起きることに戦々恐々としていたんだから」

 

Sリーグで清滝先生とあいの対局は、清滝先生の作戦負けという清滝先生にとってかなり恥ずかしい負け方だったため、九頭竜に負けた時のように窓から放尿するか、下手すりゃ脱糞すると危惧されていたが、大号泣で済んでいる。九頭竜も空さんも世間の知名度は高いし、女流四冠になったあいは何回かテレビにも出ているけどキャラが濃い。

 

そんな中、清滝先生の娘である桂香さんはかなりの常識人でキャラが薄い。年齢制限ギリギリで女流棋士になったし、去年今年と勝ち越せてはいなかったはず。それでも2年間で参加棋戦数の3/4の勝ち星は稼いだため、女流2級にはなった。確か今年、28歳になるんだっけ。30代が見えて来て、未だに男の噂が全くないのは少し心配になる。

 

九頭竜の好みとしては、桂香さんがアジャストしていたはず。というか原作で九頭竜から桂香さんに告白っぽいことしてなかったっけ?桂香さんも将棋を除いたら九頭竜が1番好きなようだし、現実的な思考に切り替わった時に桂香さんが九頭竜へアタックする可能性は普通にあるな。

 

『九頭竜の周辺は、九頭竜が歳を重ねるごとにドロドロしていきますね』

(それが九頭竜の定めだから仕方ない。あとそろそろ誰かに手を出して一気に事態を加速させて欲しい)

『その結果、九頭竜が刺されるかもしれませんよ?』

(……あー、それは俺が八冠目のタイトルとして竜王を取るまで待ってくれ)

『えっ?名人を最後にするのでは?』

(うんにゃ、ぶっちゃけ迷い中。ただ九頭竜の方が良い勝負になりそうだし、どちらが先でもあんま変わらん)

 

桂香さんの将棋は、女流棋士の平均クラス。ただ何回か格上には勝ってるし、そのうち一回ぐらいはタイトル戦に出て来そう。しかしまあ、晶さんがもう少し強くなれば届いてしまいそうなレベルだから、よく二次予選を勝ち抜けたなと思う。組み合わせが良かったんだろうけど。

 

「岳滅鬼さんも勝ち抜いてるじゃん。元奨は強いな」

「あの人、本当に奨励会2級で停滞していたのってぐらいには強いわよね」

「……岳滅鬼さんは最後の例会日、最後の対局で1級昇級を逃して退会した。普段は指し分け程度で安定していたようだけど、奨励会に10年近く居て、通算勝率が5割を超えているのは腐っても才能があった証拠だな」

 

トーナメント表を見ると、当然のようにいる岳滅鬼さん。原作でも最後の例会日、三連勝しなければ退会しなければいけない、みたいな描写があったと思うけど、要するに三連勝していれば彼女は昇級していたのだ。

 

満21歳の誕生日を迎えるまでに初段になれなかった場合、奨励会は年齢制限を迎える。ただしこのルールは例外もあるし、岳滅鬼さんの場合は女性ということも考慮され、21歳の誕生日に1級に昇級したのなら、半年の猶予が与えられることになっていた。所謂ラストチャンスなわけだが、そのラストチャンスの日に彼女は2連勝した後、攻め気になってしまい大敗して昇級を逃した。

 

「徹底的な待ち将棋を続けたせいで才能が潰れたとか色々と言われていたけど、今の岳滅鬼さんを見ていると奨励会での10年は無駄じゃなかったようだな」

「でも、あいは負けないでしょうね。今まで岳滅鬼さん相手に、3戦全勝よ?」

「待ちスタイル対待ちスタイルのせいで千日手は発生したから、全勝とは言い辛いな。……月夜見坂さんは、予選で岳滅鬼さんに負けてるのか。そりゃそうだわな」

 

二次予選を勝ち抜いた16人による女流玉座の本戦トーナメントを勝ち抜けば、空さんとの5番勝負が待っている。タイトルに挑戦するのは、女流でも結構大変だ。あいが去年、どれだけ女流棋界を荒らしまくったかがよく分かるな。

 

九頭竜はあいに経験を積ませるために女流棋士に専念させたっぽいけど、釈迦堂さんも月夜見坂さんも供御飯さんも完全にあいの餌にされた形だ。祭神はまあ……天衣にしてやられてたししょうがない。祭神は女流帝位戦の第1局であいに完勝しているんだよな。その後、天衣との対局でメンタルブレイクして3連敗したけど。

 

その内、天衣対あいのタイトル戦も始まるだろう。……九頭竜の狙いは、これかもしれないから性質が悪い。天衣が女流のタイトルを取ろうとすれば、嫌でもあいと対局し続けないといけない。今のあいを見ていると、いつか運やまぐれで天衣に1勝する日は来るだろうな。


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