うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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帝位戦

九頭竜との帝位戦が始まり、2日制のタイトルなので都合14日間は九頭竜と顔を合わせることになる。この帝位をとれば、俺は大木六冠と呼ばれるようになるのか。九頭竜は今竜王と帝位の二冠だけど、九頭竜二冠と呼ばれることはない。竜王のタイトルの方が優先されるから、九頭竜竜王のままなんだよな。

 

(そして竜王相手に角を引いて勝つ可能性があるという。名人に香を引いて勝つ、よりか現実味がねえな)

『私も九頭竜相手に角落ちはキツイと言いますが、角を引かれて九頭竜が冷静でいられるかも疑問ですしね』

(……第7局が北海道とかマジ?当然のように第4局で旅館ひな鶴が使われているけど、石川までも遠いんだよなぁ)

『石川までは乗り継ぎなしで電車一本じゃないですか。北海道は飛行機を使わざるを得ないですけど』

 

第1局は愛知県の料亭で行なわれ、九頭竜が先手番になる。……九頭竜は俺が目標だろうから、名人を抜いても成長の足を緩めることはない。原作で才能を数値化した時、1番高かったという九頭竜が全身全霊で、俺を抜くための努力を続けている。まあ将棋指しは努力を止めた人間から転がり落ちる世界なんだけど。

 

戦型は相掛かりとなり、九頭竜は当然右玉。一方でアイも右玉だけど、飛車を引いて三間飛車の位置まで飛車を移動させる。天衣が得意な陽動振り飛車っぽくなったな。……天衣が得意な戦法って、後手番角頭歩を除くと陽動居飛車、陽動振り飛車、振り飛車穴熊と結構ゲテモノ揃いだな。まず後手番角頭歩戦法自体がゲテモノだけど。

 

飛車と玉がピッタリくっついている九頭竜に対し、こちらは結構飛車と玉の位置が離れている。今の価値観だとこれで差は生まれないけど、一昔前なら玉飛接近すべからず、という将棋の格言があるように、九頭竜の形は愚形という認識になるだろう。

 

そしてこの玉飛接近すべからずという格言が出来た理由は、当然ある。玉と飛車が同じ場所にあると、銀桂香などを使った王手飛車をかけやすいのだ。まあ奨励会員以上がそう簡単に王手飛車を食らうことはないけど、アマチュアなら多いんじゃないかな。

 

『王手飛車、狙いましょうか』

(幾つか筋は見つけられるけど、全部回避可能だろ。九頭竜も飛車は逃がすだろうし、無理だな)

『その無理をどうにかするのが楽しいんじゃないですか?』

(疑問形で聞いて来るな。お前は楽しくないのかよ)

『平手では、どうやっても勝てる気しかしないですからね。3五歩』

 

飛車を移動させた後は、一気に攻めを加速させるアイ。3九にいる飛車も活躍しているけど、6四にいる角の方が効いているな。並のプロ棋士はここら辺からガタガタになり始めるけど、流石に九頭竜は一筋縄では行かない。キッチリ粘って、反攻に転じる準備はしている。なおその準備が活かされることは無い模様。

 

『九頭竜が1日目の終了5分前に指すって、随分と信用されていますね?』

(これ、このまま5分間保持してやろうか。九頭竜は自分から封じ手をしたい派だから、それだけでかなり面食らうぞ)

『いえ、指しましょう。4六歩』

(……封じ手、1回ぐらいはしてみたいんだけど。まあいいか)

 

九頭竜は1日目の終了時刻5分前に着手する。これ、封じ手をしたい派だと考えられないことなんだよな。普通はタイトル戦にもなると1手5分なんて短いぐらいだし、確実に相手へ封じ手の権利が渡ってしまう。それでも九頭竜が指したのは、俺がノータイムで返してくるという信用からか。

 

確かにこの手の反応を見てから、封じ手はしたかったのかもしれない。自分でもこの2手が進む前と進む後では、読む量が違ってくると分かるぐらいだからな。ただ、明日の朝まで九頭竜が読んでも、この先打開することは難しいだろう。既に盤面は、アイ優勢だ。

 

1日目の終了時刻を迎えて、九頭竜は残り少ない持ち時間を費やして封じ手を考える。……地味に定刻まで指したのは初めてか?今までは、早目に打ち切られていたからな。まあ、九頭竜がそれだけ序盤中盤に時間を使っているということだし、だからこそ九頭竜は終盤で持ち時間が足りないという事態によく陥る。

 

『もしも持ち時間30時間の対局があれば、九頭竜に勝てる人は私を除いて誰もいないでしょうね』

(持ち時間30時間は、過去の公式戦で1番持ち時間の長い対局だっけ?実質持ち時間無制限みたいなものだよな)

『1週間かけて戦うとか、マスター発狂ものですね』

(俺じゃなくても発狂するだろ。……で、この後で九頭竜は明日の対局開始時刻まで15時間ぐらい読み放題なんだけど、大丈夫だよな?)

『心配ご無用です。明日マスターがノロウイルスとかで倒れない限り、勝ちは揺るぎません』

 

泊まることになる料亭では、夕食として数万はしそうな料理が並ぶ。費用は全額スポンサーが出してくれるので、お高い料理を食べることも増えたけど、夜叉神邸で食べる夕食以上に美味い飯が出て来るところってそう多くは無いんだよな。どんな料理人を雇っているのか少し気になる。

 

……電子機器類の持ち込みが禁止されるようになったら、この旅館の部屋に取り付けられているテレビとかも撤去されるのだろうか?テレビを付けると、ちょうど帝位戦のことが報道されていた。お互い18歳同士、次代を担うタイトルホルダー同士のタイトル戦ということで、わりと世間からの注目度は高い。

 

というか朝のニュースとかでも大きく取り上げられているようだし、それに伴っておやつタイムで必ず俺が食べるアイスとタピオカの写真が出るという。何で棋士の昼食やおやつってこんなに人気あるんだろう?

 

『将棋の内容を報道しても一般人には何も響かないでしょうに。1番共感できるのが昼食とおやつなんですよ』

(まあ、内容を報道しても意味は無いからな。どちらが勝勢かも、報道した後で逆転したら大変だし、アイスとタピオカ特集になるのか)

『これから暑い時期ですし、一般人には1番需要のある特集ですね』

 

今回のニュース番組で放送されていた帝位戦の内容、半分ぐらいが九頭竜の食べたういろうと俺の食べたクリスピーサンドで盛り上がっていた。食べた理由についても色々と考察されてたけど、九頭竜は単純に高いういろうを食べてみたかっただけだし、俺はアイスが好きだから食べてるだけだぞ。


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