うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

131 / 168
反則

天衣と名人の対局が終わり、とりあえず天衣は控室に戻って来る。対局は、二歩を除けば会心譜だったな。問題はその二歩が全てを吹き飛ばす元凶なんだけど。

 

「二歩にはいつ気付いた?」

「……名人が打ち込んだ歩を取った時ね。恥ずかしながら、指してから名人が次の手を指すまでは気付かなかったわ」

「……まあ、指してしまったものはしょうがない。プロでも二歩の反則負けは、年に数回起きることだからな」

『二歩以外の手は遅い攻めになりますし、あの時点で負け将棋でしたよ』

(名人が二歩をさっさと消したから、天衣が勝てたんだよな。負けになるだろうけど)

 

名人も天衣の二歩の痕跡を消すために、即座に同銀と取ったのは悪かった。結局この2手で形勢は逆転し、天衣は僅かに優勢になった。その僅かなリードを保って、見事に名人玉へ必死をかけ、名人を投了させた。

 

……投了優先だったら天衣の勝ちだったんだけど、その場合は流石に名人も二歩を指摘したかな。一番勝負は水物だ。数段の実力の差のある相手に、強いものが負ける場合もある。名人だって生涯通算勝率は7割ぐらいだし、要するに3割は負けているのだ。

 

お偉い人達が集まって協議した結果、天衣の反則負けが優先され名人の勝利になる。まあ新規定では反則が棋譜に残る以上、反則をした時点で負けからは逃れられない。後は俺が先に1勝をしているから、天衣に黒星を付けやすかったというのもあるだろうな。

 

負けを伝えられた後は、やっぱりというような顔をしている天衣だけど、思っていたよりもショックは受けて無い。まだ反則負けをした現実感がないのか、元々負けを覚悟して将棋を指していたのか。どちらにせよ、後で羞恥で悶えてそう。

 

1勝1敗で迎えた大将戦は、鳩待六段と飯盛五段の対局となる。鳩待六段は関東の奨励会幹事で、最近六段になっている。俺や九頭竜もお世話になった人だけど、原作では九頭竜が順位戦最終局で蔵王さんに負けて昇級を逃しかけた時、九頭竜より順位が下の全勝者、鳩待五段が二歩で負けたお陰で昇級を果たしている。

 

……それが俺という存在がいたために、九頭竜は蔵王さんに勝ち、鳩待さんは九頭竜への驚きが薄れたのか二歩をせず、両者共に全勝でC級2組から昇級を果たした。その後のC級1組では九頭竜と清滝先生のせいで昇級が出来なかったけど、好成績だったし、名人に指名されるだけのことはある。

 

『今年のC級1組では昇級候補の一角でしょうね。飯盛さん、二ツ塚さんもそうですが、C級2組を突破したばかりの棋士というのは勢いがあります』

(今年のC級1組は、35人か。その内の2人が上がるけど、飯盛さん、二ツ塚さんの2人に加えて鳩待さんの3人の可能性もあるかな)

『全勝者は、組み合わせ次第で3人出る可能性もありますからね。確か鳩待さんは二ツ塚さんと順位戦で当たる予定ですが』

(それは残念。C級1組から3人以上が上がることは基本無いから、珍しいものを見れると思ったんだが)

『昇級枠の見直しは、来年辺りにあるんじゃないですか?現行ではC級2組からC級1組への昇級だけ3人ですが、C級1組からB級2組、B級2組からB級1組への昇級枠も2人から3人になる可能性があると話していた気がします』

(やべえ、いつの話だそれ。たぶんスマホゲーに集中してたんだろうけど、大事な話は聞いておかないと)

 

鳩待さん相手に、振り飛車を使って上手く捌いていく飯盛さん。確かこの人、奨励会時代は居飛車一本だったんだよな。それが俺の真似をするようになって振り飛車を使い始めたけど、生石さんのような軽快さは全くない。

 

居飛車の感覚そのままで振り飛車を指しているから、奇妙な将棋になりやすいんだよな。俺は逆に振り飛車党から居飛車党に転向した人だから、どちらも指しこなせるけど、九頭竜のように今までずっと居飛車党だった人間が振り飛車を、いきなりプロ棋士レベルで指すのは難しい。

 

『お互い、こん棒を持ってただ適当に振り回しているだけな感じですね』

(ソフト発の手を指し慣れていない者同士が指すと大体こうなる。ソフト発の手を指しこなせる九頭竜が異常なんだよ)

『研究を重ねても指しこなせているのは、歩夢の他、数人ぐらいですしね』

 

飯盛さんは途中で、明らかにソフト発だろうという奇妙な指し回しを見せた。新手だけど大した手じゃないし、さほど得はしていないな。しかし鳩待さんも斬り返し方をミスって泥沼の様相を呈してきた。

 

『……入玉出来ますね』

(とりあえず飯盛さんの方は負けが無くなったか?後は鳩待さんの玉を詰められるかだけど……)

『飯盛さんなら6一金と打って相手玉の入玉拒否を前提とする手を指しそうですが、8二歩ですか』

 

対抗形なのに振り飛車で左玉にした飯盛さんは、入玉出来る形にはなったけど相手も入玉しそうで難しい形だ。泥沼化した将棋は、お互いに負けられない戦いだからか低いレベルで白熱している。いや、視聴者的には十分にレベルの高い将棋なんだけど、三段リーグで昇段がかかったかのような対局だ。

 

意地の張り合いは、最後に飯盛さんが上手く縛って勝利。チームとして2勝1敗となり、決勝で九頭竜のチームと戦うことになった。また九頭竜のチームと戦うことになるのか。今度は流石に優勝を狙って、九頭竜と指そうかな。

 

『優勝賞金1億は大きいですからね。ここまで来れるとは思ってませんでしたし、どうせなら取りたいでしょう?』

(色々と稼ぎ口は増えたけど、それでも1億を目前にして要らねえと言える人間じゃねえからな。九頭竜の性格的に、先鋒に来そうか?)

『完全に読み合いなので難しいですね。ですが最終的に先鋒に来るのは九頭竜だと思いますよ』

(となると、中堅戦で空さん対天衣の組み合わせになるのか?)

『その可能性は高いですね。二ツ塚さんが来る可能性もありますが、空さんより可能性は低そうです』

 

もう一度天衣に九頭竜と指させるのも良いけど、空さんや二ツ塚さんを相手に勝ち切って欲しいし、そもそも九頭竜が先鋒に来るのも確定じゃないから考えるのは組み合わせが決まってからで良いか。

 

それにしても、坂梨さん対空さんの対局はこれが初対局だったのかな。空さんが奨励会に入った頃にはもう三段に近かっただろうし、空さんが三段に上がるのが遅かったから結局対局は無かった。原作のような泥仕合ではなく、空さんがあっさりと坂梨さんに勝ったことで九頭竜チームの決勝進出が決まったけど、出来れば天衣は歩夢と戦って貰いたかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。