うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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Sリーグ決勝

将棋の団体戦、Sリーグは2ヵ月近い時間をかけて決勝戦まで進行した。決勝の舞台では九頭竜のチームと向かい合わせになるけど、二ツ塚さん含めて美男美女のチームだな。こっちは俺と飯盛さんで顔面偏差値が下がっているから、天衣という飛び抜けた美少女が居ても平均ぐらいだろう。

 

そして俺と九頭竜は、必死に順番を考えた。お互いに提出時間の締め切りギリギリに提出したということは、お互いにこの順番が勝敗を分けると察知しているということ。こういう場合はアイも頼りにならないので、完全に勘と九頭竜がどう読むかの勝負だな。

 

画面には、今日の対決カードが映し出される。先鋒は、互いにチームリーダーとなった。

 

先鋒大木五冠、中堅夜叉神四段、大将飯盛五段

先鋒九頭竜竜王、中堅空四段、大将二ツ塚五段

 

『読み勝ったというよりかは、九頭竜が中堅に行かなかったという感じですかね』

(まあ九頭竜が中堅に行ったとして、大将戦で勝てるかは微妙。それならチーム勝敗は軽視して、九頭竜と空さん共々ライバルに突撃、って感じか)

『優勝と準優勝で貰える賞金の額が雲泥の差なのに、チーム勝敗に拘らないところは十代らしくないですね』

(いや、むしろ拘らないところが十代らしいんじゃないか?……俺はどんなに稼いでも目の前の1億は拾いにいくな)

『マスターが受け取れるのは3333万円ですよ』

(十分に多いわ。チーム戦なのに個人で受け取れる額が竜王戦の優勝賞金に次いで多いって相当だぞ)

 

今回のSリーグは、将棋ブームが過熱している最中に終わらせることが出来た。ダラダラとやらなかったのは観衆にとっても良かっただろうし、出場した棋士や、出来なかった棋士達にも刺激になっただろう。次は5人のチーム戦で、先鋒次鋒中堅副将大将の5人でやるそうだけど、また来年の話かな。

 

(先鋒6点、次鋒8点、中堅10点、副将12点、大将15点でポイントの取り合いをするらしいけど、そんなに強いプロ棋士がいないよな)

『凡庸なプロ棋士も含めれば、2つのリーグは作れるんじゃないですかね?6チーム×5人×2リーグで60人ですし、まあ足りるかと』

(そうなると、今度こそ1年がかりのリーグ戦になりそうか。毎年開催するなら、そっちの方が良いけど)

 

先鋒戦での振り駒の結果、俺が先手になる。よって天衣は後手、飯盛さんは先手だな。まあ飯盛さんの出番があるかは非常に怪しいところだけど、空さんが先手番を持てば天衣に勝てる可能性は一応ある。

 

久しぶりに序盤は俺が指そうかと思ったけど、今の九頭竜相手だと何気ない一手が致命傷になる可能性があるのでやるなら帝位戦の第3局でしろと言われた。もう九頭竜は、その次元の相手なのか。そのわりにはアイさんは手の平の上で転がしているから、俺でも何とか出来そうな気がしたけど、たぶんミスしなかった時の俺でも勝てる確率は3割切ってる。

 

九頭竜との戦型はこちらが普通の居飛車なのに対し、九頭竜は3四歩から5四歩、5五歩とゴキゲン中飛車の構え。こちらが4六銀と銀を繰り出していくと、九頭竜も4四銀と向かい合う形になった。

 

互いに攻めの形を作った後は守りの駒組みをするフェイズに入るけど、九頭竜が軽率に6三銀と囲いの銀を上げて変形させようとしたタイミングでアイは桂馬を跳ねて攻めに出る。その後あっという間に馬をこしらえたアイは、香得をした後に5六香と飛車を攻める。歩が無い状態でこの香車は痛い。

 

結局九頭竜は飛車を逃がし、完全に攻め筋を失う。成り込んだ馬は角と交換することになったけど、既に陣形がガタガタの九頭竜の陣地は打ち込み放題なのに対し、こちらは隙がない。ここからなら、俺でも勝てそう。

 

早指しも得意な九頭竜だけど、今回は駄目な日のようで100手まで行かず、中盤が終わった辺りで投了をした。まあ九頭竜も人間だし、調子が出ない時だってある。逆に調子という概念が存在しないアイが恐ろしいわ。機嫌によって出力の変化は存在するけど、頼めばいつでも最大出力だからな。

 

先鋒戦はこちらの勝利となり、迎えた中堅戦では空さん対天衣になるけど、夏真っ盛りの空さんは集中力が3割減している気がする。……あー、冬場は集中力が3割増って言った方が良いのか?夏にトラウマ持ってるのは空さんにとって痛いよなぁ。

 

対局は天衣が後手だったけど、お互いに矢倉を囲う盤面から天衣が急戦を選択して仕掛けた。空さんはプロ棋士になってから、プロ棋士相手の星が指し分け程度だけど、天衣は団体戦以外でまだ1回しか負けていない。これは大きな差だし、実力の差だ。

 

『コメントでは≪九頭竜の嫁vs大木の嫁≫みたいなコメントが散見されますね』

(……え?もう天衣と俺の関係ってそういう雰囲気で見られてるの?)

『単純に、男女のペアだからそう呼ばれているだけでは?7歳差も歳の差がある時点で、普通はそういう考えに行き着かないでしょう』

(まあ、そういう風評が広まってもこちら側は問題無いけど……たまに映る控室のカメラでも空さんとイチャイチャしていた九頭竜は、あいに何かしらされそうだな)

 

空さんが中盤で対応を誤り、一気に天衣有利が加速するけど空さんも粘る。終盤力は、まだ微妙に空さんの方が上かもしれないという疑惑があるからな。んー、来年辺りは詰将棋選手権に出るか。ついでに俺も出て、アイに解いて貰おう。

 

『最短記録を出しても構わないのですか?』

(もちろん。あいは来年の詰将棋選手権に出るらしいから、良い勝負になるかもな)

『なりませんよ。あいは第2ラウンドの5問の詰将棋の全問正解に、30分かかってます。それだけの時間があれば37手詰めや39手詰めなんて、500問は余裕ですよ』

(500問を30分は手順を書く手が足りんわ。……一応制限時間は180分なんだよな。それをフルに使うのが当たり前なのに、タイムアタックになっているのはやべえわ)

 

天衣は参加したとしても上位入賞は難しそうだ。というかたぶん上位は俺、あい、月光会長になるのか。上位入賞は無理ゲーだな。全問正解が当たり前のことのように話しているけど、第2ラウンドの5問の内、最後の2問は37手詰や39手詰の難問が出る。特に最後の問題の正答率は、プロ棋士でも10%を割っていたはず。

 

俺でも180分で全問正解はまず無理だし、天衣は80点が目標かな。そんなことを考えていたら、天衣が無事に詰将棋をミスって必死をかけることになった。それでも勝ちだから別に良いんだけど、今の19手詰めは読み切って欲しかった。


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