うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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帝位戦第3局

団体戦はチーム大神の優勝で幕を閉じ、来年度は5人制の団体戦になることが発表された。いやまあ俺のチームとか九頭竜のチームとか、1人が絶対勝てるなら3人制のチーム戦は圧倒的に有利だから仕方ない。

 

一方で帝位戦第3局は神戸の有馬温泉で行なわれ、思いっきり地元である天衣が大盤解説の解説役を務めた。タイトル戦で聞き手役じゃなくて解説役なのは、初めてなんじゃないかな。相方はたまよんの予定だったけどあいに変更になった。最近は空さんに引き続き、あいと天衣が出て来たせいで人気No4まで落ちてしまったたまよん。最近は露出を控えめにして清楚アピールをしているけど、むしろファンが減ったという。

 

『今まではあのおっぱいで人気を保っていたということですね。何で男ってそんなに単純なんですか』

(下半身に脳は無いからなぁ。そう言えば天衣がブラデビューしてたけど遅い方?)

『知りませんよ。あと小学生のブラで興奮しないで下さい』

(してねえわ。……天衣は肉体的にも、今が1番成長する時期だよなぁ。あいもだけど、小学生は少し目を離すと一瞬で成長するわ)

 

天衣とあいのペアは、今回で2回目かな?1回目は電脳戦の時に解説していたけど、来場者数が桁違いだった。しかし2人とも小学生で、色々と予定が詰まっているから予定が合わずペアにし辛いという。

 

『不味くなったら止めますけど、そこから勝つ保証はしませんからね?』

(勝つ保証はしないと言っても、アイなら99%勝つだろ)

『1%の確率で負けるのに、勝つ保証を私はしません』

 

対局は九頭竜の先手番なので、俺だけの力で勝つのは相当難しいだろう。ミスしなかったら3割弱で勝てるだろうけど、問題は細かなミスも含めるとミスをしないということが将棋ではあり得ないしな。だけど、将棋において、絶対に負けるという実力差は相当な大差だ。今の俺と九頭竜で、そこまで尋常じゃない差が出来ているとは考え辛い。

 

7六歩、3四歩、2六歩と極普通の、初心者からタイトルホルダーまで、誰しもが同じ指し方をする最序盤。さて、やるか。

 

『……一応マスターも、後手番角頭歩戦法に関しては相当研究しましたからね』

(弟子の戦法を借りられるのは、師匠の特権だ。容赦なく使わせて貰うぞ)

 

角の頭の歩を持ち、一つ先に進める。天衣の得意な、後手番角頭歩戦法だ。これには九頭竜も少し動揺した表情を見せ……すぐに冷静になって次の手を考え始める。うん、まあ面白い反応とかはしないよなそりゃ。

 

(ちっ、6八玉か)

『そりゃ開戦はしませんよ。開戦したらどう足掻いても不利になることぐらい、九頭竜も分かってますよ』

(……8八角成、同銀、2二銀の進行で良いか。ここで開戦されても2四歩で受けられるし、開戦はされない)

 

こちらから角交換をして、互いに囲い始める。向飛車にしたけど、2筋逆襲は難しいな。一度2筋の歩を突いて、向こうに2六歩と打たせてから2四飛と飛車を浮かせる。向こうが3七桂と跳ねて来たので、ここからが勝負所だ。

 

こちらが3五歩と突くと、向こうも2五歩と飛車先の歩を突いて来る。ここで先程3五歩と突く事で空いた3四の地点に飛車を逃がすけど、九頭竜が持ち駒の角を2三の地点に打ち込めばこの飛車は死ぬ。もちろん、1四飛と回って飛車角交換にすることは出来るし、そうなったときは大したリードじゃなくなるけど、別にすぐに交換をしなくても2四歩から1六歩、1五歩と時間をかければ飛車は歩で殺せる。

 

と言っても、ここで2三角と打つのは悩みどころだ。アマチュアなら飛車が死んでしまうとジタバタするけど、高段者や奨励会員以上なら3六歩と突いて、3四馬に3七歩成と桂馬を取ってと金を作る筋が見える。こうなると必然的に銀まで取れるから、飛車1枚で銀と桂馬の二枚替えになる。まあ実際には九頭竜側に馬が出来て、逆に九頭竜側の陣形が崩れるから単純な二枚替えとは言えないが。

 

『向飛車側は居飛車側より玉が硬いですから、二枚替えはマスター有利の展開です。ですが九頭竜に受けの自信があれば、構わず2三角でしょうね』

(2三角、3六歩、3四角成、3七歩成、2六飛、4七と、同金までの手順で問題はない?)

『五分の展開ですので、問題はないかと。……ちまちま持ち時間使うぐらいなら、一気に使ったらどうです?』

(いや、早指しに慣れ過ぎてしまって使えねえわ。それにこの乱戦、全部読み切るのは相当時間かかるし俺には無理)

 

九頭竜は、2三角と指した。ここから俺の読み通りの展開にはなるけど、五分の展開だ。お互いによく見える展開で、実際はどちらも互角という状態だな。そろそろ中盤の山場に入るけど、ここから俺はミスが出やすくなるから注意しないと。

 

『……5五桂は良いですけど、4七角は褒められる手じゃありませんね。交代です』

(あ、不利になった感じ?)

『僅かにですが、不利ですね。ここからもう一手変な手を指されると挽回不可能ですので勝つにはここで交代しかないです』

(仕方ないか。今回は良い感じだったんだけどな)

『後手番角頭歩という研究し尽した手を使って互角だったという事実をマスターは受け止めて下さい』

 

そう思ってたら細かなミスが出たようで、ここでアイとバトンタッチ。難しい将棋だったし、タイトル戦は疲れるな。消費持ち時間は、36分。相対する九頭竜が5時間近く使っているから、持ち時間の消費だけならこちらにまだ分があるけど、要するにこれ持ち時間の使い方が下手ってことだからな。

 

1日目が終了して、九頭竜が封じ手を行なう。バトンタッチしてから数手進んで、現在は形勢不明の段階。……これ、下手したら俺のせいで負けるかな。今回は封じ手をする側を狙っても良かったかもしれないし、アイにもそういう提案をするべきだったか。

 

若干不安なまま2日目を迎えると、アイが怒涛の攻めでごり押しを始めた。あれ?アイに俺がインストールされてる?

 

『マスターが変な戦型のまま引き継ぐから有効手段がごり押ししか無かったんです。反省して下さい』

(いやこれ連続王手の千日手になるんじゃないのか?いや、微妙に持ち駒が入れ替わっているのか)

『ん、同銀ですか。これでほぼ勝ちですね』

(勝ち確信はえーよ。まだ終盤に入ったばかりじゃねえか)

 

そしてあっという間に勝勢まで持って行くアイさん。勝てそうだと思っていたのであろう九頭竜は顔面を伏して投了した。これで3連勝になり、次の対局は香落ちでの試合になる。……香落ち戦で九頭竜が勝って、そのまま4連勝したら問題にはなりそうだけど、まあまず考えられないことなんだろうな。実際、3連敗からの4連勝って長い将棋界の歴史の中で九頭竜が名人相手に起こした1回しか成立していないし、相当難しいことではある。


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