うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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竜王戦6組

晶さんが将棋を始めてから3年と8ヵ月の月日で女流棋士となったけど、実力的にはアマ四段もないので奨励会員の6級にも勝てない。天衣の指す将棋を理解したい一心で強くなっているけど、まだまだ一人で理解するには時間がかかりそうだな。

 

今年の竜王戦の挑戦者決定戦に勝ち進んだのは歩夢と、6組のランキング戦から十数連勝をして勝ち上がってきた椚だ。持ち時間が長くなればなるほど強さを発揮する、原作では小学生棋士だった椚は、一時期かなり落ち込んでいた。

 

……1期で抜けられると思っていた三段リーグで3期も足止めされたことは、かなりショックだったようだ。本来なら3期抜けとか早い方だけど、15勝3敗で二度抜けられなかったからなあ。

 

ちなみにこの竜王戦、1組から6組まで順位戦のようにランキング化されており、6組優勝者でタイトル挑戦者まで勝ち進んだのは九頭竜だけである。あと5組優勝者でタイトル挑戦者になった者はいない。5組と6組優勝者は、挑戦者決定戦まで勝ち進むのがかなり難しいからな。来年には俺が6組からタイトル挑戦まで勝ち進むけど、それが史上2人目になるか3人目になるかは椚の結果次第。

 

『結局2期の足止めを食らった後は、全勝での勝ち抜けなので2期続けて三段リーグは全勝者が出たということですね』

(明らかに異常だな。いやまあ椚が三段リーグで揉まれ続けたって事実は、椚にとってプラスに働いてそうだけど)

 

ついでにあいは椚が抜けた後の三段リーグを16勝2敗で1位通過。今年度の上半期の三段リーグは14勝4敗の人が1位通過だったので、そろそろ例年並みに落ち着いた模様。

 

「今日の解説は山刀伐さんと鹿路庭さんね」

「家が隣同士、息ぴったりだな」

「……アパートの部屋が隣なのよね?それでよく付き合ってないとか言えるわね」

「2人とも、結婚しないんですかというコメントに真顔でコイツはNGと言い切ったから本当にお互い恋愛対象じゃないんだろ」

 

解説の場で山刀伐さんのことをジンジン先生と呼ぶ鹿路庭さんは、今日は破廉恥な格好だな。方向性が完璧に迷子。この前鹿路庭さんは椚を研究会に誘っていたが、椚側から断られていてショックを受けていた。中2男子とか性欲に素直なお年頃のはずなんだけど、椚は九頭竜との会話で語尾にハートマークを付ける奴だしなぁ……。

 

(椚か歩夢か。どちらが勝っても九頭竜に7番勝負で勝ち越すのは無理だろうな)

『歩夢は名人位を逃した時点で真っ白に燃え尽きていましたからね。むしろその状態でよく竜王戦の挑戦者決定戦まで勝ち残れましたよ』

 

対局場のカメラから、解説のカメラに切り替わると鹿路庭さんのおっぱいがドアップで映る。おいカメラマン、グッジョブ。コメント欄もお祭り騒ぎとなり、鹿路庭さんは顔を赤くして南半球を腕で隠すような仕草をとった。あとで問題になりそう。

 

「……男って、ほんと馬鹿ね」

「おう、画面を頭で隠すなや。あとそろそろ膝が痛い」

「前は3時間以上膝の上に乗ってたんだけど?」

「前より天衣の体重がふごぉ」

「それ以上言ったら、口の中へ手を突っ込むわよ」

 

膝の上に乗ってタブレットで動画を見ている天衣だが、重くなったからか膝が痛くなったと言ったら手で口を塞がれた。何で美少女の手ってこんな良い匂いがするんだろ?

 

『うわあきも』

(男性が5文字で傷つく台詞トップ5に入るのを言うのやめて?)

『それ、1位は何です?』

(……ちいさいね、だな。色んな意味で)

 

「……一回、師匠を抱えてみて良い?」

「……え゛?」

「真面目な話、師匠の方が軽いのは確かじゃない。背も小さいし」

「まだ俺の方がギリギリ……あれ?負けてる……?」

 

その後、天衣と俺の位置が入れ替わる。あれ?天衣の腕の中にすっぽり納まるとかマジ?いや身長は低いし体重は軽いと自覚していたけど、中1女子にしては身体が大きい天衣より身体が小さいとは思わなかった。というかよく抱き抱えられるな。もうすぐ成人男性になるんだけど。

 

(ああ……最終的には天衣の弟に見られるんだろうな。髭でも伸ばすか)

『髭が生えないお子様体質なのにどうやって伸ばすんですか?』

(……泣いて良い?)

『天衣の胸が背中に当たっての嬉し泣きですか?どうぞご自由に』

 

俺の身長を抜いたことが判明し、ご機嫌な天衣と一緒に竜王戦の挑戦者決定戦の続きを見る。お互いに居飛車同士、矢倉同士の戦いだけど、矢倉なら歩夢の方が分はあるな。

 

『歩夢と九頭竜は、今までに何度も矢倉で指していますからね』

(逆に椚は自陣の矢倉を崩したがるというか、矢倉自体が古臭いと思ってそうだから研究が進んでいるのか不明だな)

『研究が進んでなくても、その場で椚なら読み切るでしょう』

(結局、中学1年生でプロ棋士になったのは当時2番目の若さだからな。原作小学生棋士が弱いわけないわ)

 

速い椚の攻めを、しっかり受け止めて返しで椚の陣地を削る歩夢の将棋は王道って感じがする。なおこの3番勝負で勝っても待ち受けるのは覇道を突き進む九頭竜の模様。でも来年には挑むチャンスも無くなるから、2人とも必死だ。あれ?来年竜王戦で勝ち上がる予定なの漏れてる?

 

対局は中盤で歩夢がリードを奪うも、終盤で椚に追い付かれて山刀伐さんと鹿路庭さんが形勢不明と言う。ソフトがこの段階でもプラスマイナス0なのは珍しいな。それだけお互いにまだまだ粘れる形ということだけど、2人とも1分将棋に入って時間に追われ始めた。

 

そして歩夢に、悪手が出る。

 

「……今の手、大悪手よね?」

「ああ。受ける必要がないところで受けたからな。既に受かっているところへ駒を足して、逆に逃げ道を塞いだ。椚が気付けば即死だな」

 

当然椚は気付いただろうけど、無理に攻めに行かずに自玉の詰みを確実に消した。うわ中2男子強い。ここで歩夢はミスに気付いたようで、投了の準備と形作りを始める。その数手後、歩夢は投了し、椚が挑戦者決定戦の第1局に勝利した。

 

(歩夢はA級順位戦で全勝した実績もあるし、間違いなく俺、九頭竜に続く3番手ではあるんだけど、運に恵まれないな)

『……これ、タイトル挑戦の最年少記録は椚に掻っ攫われそうですね』

(いや、来年の今の時期までに天衣がタイトル挑戦したら良い話だし、まだあと2局残っているだろ)

 

これで椚は九頭竜が持つ最年少タイトル挑戦記録である16歳3ヵ月を大幅に塗り替えるかとマスコミが大騒ぎしたけど、続く第2局と第3局では歩夢が勝利し、結局竜王戦の挑戦者は歩夢に決定した。これで歩夢は、2年ぶり2度目の竜王戦挑戦者だな。

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