うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
あいや辛香さんの事例を鑑みて、棋士編入試験制度が確立されるのは時間の問題だった。アマチュアがプロ棋士相手に10局以上指していて、勝ち越し以上の成績を残していれば、50万円でプロ棋士の受験資格を得るという制度。
前世ではこの試験、棋士番号が大きい順に相手をすることになっていたけど、直近でプロ棋士になった者達のレベルは高すぎるということから試験官は年間勝率が5割以上の棋士でランダム。四段から八段まで、各段位を1人ずつ計5人を当てることになる。3勝で合格、3敗で不合格だから受験者はプロ棋士相手に勝ち越さないといけない。
そして早速条件を満たしている祭神が権利を使い、プロ棋士編入試験で活きのいい四段、五段、六段を相手に3連勝をしてプロ棋士となった。あいに続いて、4人目の女性のプロ棋士が誕生したことになる。
『女性のプロ棋士が、もう世間では珍しいもの扱いじゃなくなりましたね。これからもどんどん女性のプロ棋士が出て来るだろうと、世間の人達は期待しています』
(単純に、今までの4人が異常だっただけなんだよなあ。馬莉愛はこの前に入品したし、5人目が誕生するのはそう遠い話ではないと思うけど)
『そう言えば入品してましたね。中学生の間に三段まで昇段すれば、5人目の女性のプロ棋士が誕生する可能性は高いです』
(いや中学生の間に四段昇段もあり得るだろ。伊達にコンピューターネイティブ世代を名乗ってないぞ)
プロ棋士編入試験の制度が確立することで、アマチュアがプロになれるルートが生まれたわけだ。だから、真剣師と呼ばれる連中がその制度を利用しようとするのも時間の問題だった。
「天衣は、元真剣師のプロ棋士の話は知ってるか?」
「東海の鬼の話?知ってるわよ。
そしてその人の弟子達が、元真剣師達をプロ棋士に推していることもね」
「ぶっちゃけ今の時代に数十数百万を賭けて戦う真剣師業なんて廃れたと思っていたけど、思っていた以上にそういう輩は多かったみたいだわ」
奨励会で夢破れた者が、場末の道場なんかでアマチュア相手に真剣をやって稼いでいるという話はとうの昔話だと思っていたけど、よく考えたら新世界にも真剣を受けてくれる道場があったし、そういうところをカモにして渡り歩き、稼いでいる連中がいてもおかしくはない。
で、この真剣を生業にしている奴らは大抵強い。最後の真剣師と呼ばれた人なんか、63歳でアマ名人になってるからな。それから50年近くの月日が経っているけど、生き残ってる人はいたんだなという感想。というか今年のアマ竜王が元真剣師ってマジかよ。もしかしたら俺と竜王戦の6組で当たるかもしれないのか。
『将棋ブームが加速する中、プロ棋士を増やしたい連盟側と、プロ棋士を諦めきれなかった男達の思惑が合致した感じですね』
(三段リーグを抜けられるのは年に4人だけだし、プロ棋士の数は急激には増やせない。だからプロ棋士編入試験を設けて、何人か強いプロ棋士を増やそうという魂胆もあるだろうな)
『問題は時限爆弾がいつ爆発するかですが』
(……いやー、供御飯さんが思っていたよりガチ貴族だったから隠蔽は何とかなるんじゃないか?後は俺とか天衣とか、事情を知っている人が全員、将棋界が壊れたら困る側の人間だからな)
天衣が前まで使っていたネット将棋のサイトにも強い人はゴロゴロいたし、プロになれなかったプロより強い人は確実に存在する。全国各地で将棋のイベントも開催されるようになって、人手が足りなくなった今、その人達を回収したいのは分かるけど……。
(真剣師かぁ……)
『奨励会は人生を賭けて戦う場ですが……文字通り10万100万の現金を賭けて命懸けで戦う連中の方が圧倒的に成長はします』
(将棋で強くなりたければ、真剣を指せと言うプロ棋士もいるぐらいだからな)
『マスターも天衣の最初の指導では、真剣を指させました。原作をなぞる目的も強かったと思いますが、あれは天衣の成長にも大きな影響を及ぼしています』
よく漫画とかであるヤクザの代打ちみたいなのがあるのか、ゴリマッチョの方に聞いてみたら、未だにそういうことをやっているところはあるそうだ。だけど最後に行なわれたのが彼が知っているところだと十数年前らしいし、現実的な話じゃないな。
でもまあ、10万100万単位の真剣なら未だにやっているところもあるだろうとは言ってた。流石はヤーさん。そういう事情には詳しいな。
……その真剣師達がプロ棋士になったとしても数人増えるだけだろうし、そこまで問題にはならなさそうか。ちなみにプロ棋士が真剣をやったら厳しい処分があるけど、出先で真剣を挑まれることはわりとあるある。アマ初段二段程度の社長さんが数万の真剣を挑んでくるとやりたくなるわ。まあ二枚落ちでフルボッコにするけど。
『今のマスターに二枚落ちで勝ち切るなら奨励会二段程度の棋力は必要でしょうね』
(アイもこの前、馬莉愛を二枚落ちの指導対局でフルボッコにしただろ。歩夢がドン引きしてたわ)
『……定期的に釈迦堂さんの店の服を天衣と一緒に買いに行くのは、その内世間に露呈しそうですね』
(いや、もう既にしてるんじゃね?単に夜叉神家が押さえ付けているだけだと思うぞ)
俺と天衣の関係は、健全な師弟関係以外まだまだ世間に露呈することはないだろう。一方で13歳未満の女性と関係を持った九頭竜が世間に露呈しないのは謎だけど、話し合いの場に居た人間以外で知っているの、俺と天衣を除けば月光会長と歩夢ぐらいなんだよな。そりゃ広まらんわ。
『この前の誕生日で天衣から貰った「何でも言うことを1つ聞く券」の使い道、決まりましたか?』
(今度の天衣の誕生日に同じものをあげて、向こうがそれを使って来たら内容によっては相殺するわ)
『……わりと最低な発想してますね?』
(天衣にあげるもの、もう思いつかないもん。昨年の腕時計でもう限界だわ)
『あれ、わりとマスターにしては奮発していましたよね。天衣にとっては安物でしょうけど』
(天衣に似会いそうな腕時計を探していたら、1日経っていたのは良い思い出。……軽いノーパソでも買ってやるか)
真剣師達が棋士編入試験を受けるとしたら、天衣が試験官に選ばれることもあるんだろうな。こればかりは勝率5割以上からランダムにすると月光会長が言っていたし、しょうがないことではあるけど……案外絵面が面白そうだから、天衣が試験官に選ばれたら応援しに行ってやるか。