うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
将棋ソフトを利用するなら、高いスペックのパソコンは必須だ。だからというわけじゃないが、天衣の誕生日プレゼントに送ったノートパソコンの性能はまあまあ高い。タブレットは最新のものを持っているけど、性能の高いノーパソというのは別に持っていて良いしな。どうせ持ち運ぶのは晶さんだし。
『しかしまあ、ノートパソコンの進化も凄いですね。数年前から格段に進化し続けています』
(ノーパソで8コア16スレッドだからな。メモリも16GB×2だし、それでいて20万で納まるならお買い得だわ)
『昨年後半のCPU価格競争は凄まじかったですね……』
(SSDの価格も下落し始めたしな……4TBのを積んだけど何に使うんだこんなの)
どうせならお揃いということで2台買ったけど懐は痛まない。そして天衣はこのノーパソをフル稼働させてソフトで自分の負けた対局を解析しているけど、最近の将棋ソフトは本当に強いわ。毎年大駒1枚分以上は強くなってるし、アルファゼロ以外のソフトに負けるのも秒読み段階に入った。
『で、何でグラボまで良いのを入れたんですか?』
(お揃いのを用意しようと思った時点で、俺がネトゲで使うのは前提みたいになったからなあ……)
『まあ2年前と比べれば同性能以上が格安で手に入るようになりましたし、買い替え時でしたかね?』
(そう思っておこう。ぶっちゃけこれ以上高性能にしても活かしきれん)
今日は天衣の家で、2人揃ってゴロゴロしながらノーパソを弄る。天衣は負けた対局の解析の他、ソフトとガチの殴り合いもしているけど、去年アルファゼロに負けた準優勝ソフトに勝てない模様。いや勝てたら歩夢より凄いことになるから当然だけど。
一方の俺は、いつも通りのネトゲだからどっちが師匠か分からないなこれ。……天衣がうつ伏せになりながらノーパソを弄るの、完全に俺の影響だよな。なんか悪い癖ばかり引き継がれている気がする。
喉が渇いたなと思ったら、今日は晶さんが対局だから居ないんだった。仕方ないので自分で飲み物を冷蔵庫へ取りに行くけど、左下の引き出しになっているところに何かがギッシリと詰まっているのを目にする。
(あれ?前までこんなの入ってたっけ?)
『入って……いましたね。少なくとも3年前、初めて冷蔵庫を開けた時から入ってます』
(気付かなかったわ。で、中身は牛乳か)
『マスターにとって、見覚えのある牛乳ですね』
その引き出しを開くと「特濃極まろ牛乳200ml」が隙間なく詰め込まれていた。俺にとっても懐かしいやつだなこれ。低身長を気にし始めた中学生頃によく飲んでた気がする。……俺に効果が無くて、天衣にはあるってどういうことだよ。
『マスターはこの牛乳の効果があったから158センチになれたのでは?』
(流石に効果があって160センチに届かない数値ってヤバいだろ。というか天衣はこのまま行くと170センチコースなのに、何でこんなの飲んでいるんだ)
『……その牛乳は身長を伸ばすと言われているものですが、もう一つの効果として胸が大きくなる効果があると言われてます』
(……あー、牛乳を調べている時に何かのサイトで見たかもな)
ちょうど晶さんが帰って来たので、この牛乳を何時から飲んでいるのか聞いてみたら小学4年生になった頃から1日朝夕の2本飲んでいると言われた。マジかよ。俺は1日1本だったから駄目だったのか。
『マスターと天衣が出会ったのは天衣が小学3年生の2月の時でしたか。思っていたより早い時期に向こうもマスターを意識しているようですよ』
(まあ、巨乳好きは少し調べたら出て来ることだしな。でもこっちは一目惚れだし、こっちの方が意識した時期は早かったな)
『……小学3年生に一目惚れとか、相当頭がおかしいことは理解しておいて下さいね』
アイにグサグサと刺されながら、今日の対局はどうだったのか晶さんに聞くと珍しく勝って来た模様。女流名跡戦の予選の1回戦だけど、相手はそこそこ強そうだったから勝てる可能性は低かったのに。これで晶さんはあと3回勝てばリーグ入り出来るけど……予選の決勝戦では月夜見坂さんと当たるんだよなあ。
「2回戦の相手は、シードにはなっているが大したことはなさそうだ」
「うん。それでもし準決勝に勝てても、決勝が月夜見坂さんか。厳しいなぁ」
弱くなったとはいえ、元タイトルホルダー。ぶっちゃけ勝てる可能性は皆無と言っても良い。昨年女流名跡のリーグからは叩き落されたけど、それでも地力はある人だ。そう思っていると、それを否定するような内容を晶さんが話した。
「いや大木先生、それがだな、月夜見坂さんは1回戦で負けたぞ」
「はあ!?いや1回戦で負けるような人じゃ……ああ、相手は焙烙さんか。爆発したらA級棋士相手でも吹き飛ばすからしゃーないわ」
どうやら1回戦で焙烙さんが大爆発したようで月夜見坂さんが負けていた。あの人、パルプンテを起こす達人だからな。格下相手に大敗することもあれば、プロ棋士相手にも勝つ。恐らく男女合わせても1番波のある人だろう。
……本当にワンチャン、女流名跡リーグ入りはあり得るな。そして晶さんは、こういう時には妙に運が良い。女流名跡リーグには空さんや祭神や釈迦堂さんや供御飯や岳滅鬼さんがいるから無理ゲーだけど、そういう人達と本気で指す機会も貴重だから助力はしていこう。
ちなみに天衣は女流名跡を取りに行ってない。リーグ戦になるから、予選から勝ち上がろうと思ったら予選の対局数+10人のリーグ戦だから9局を指さないといけないので早々に斬り捨てたタイトルだ。現在の女流名跡はあいだけど、空さんが挑戦者になったら無冠になりそう。
「師匠、勝てない」
「勝てたら今年中にタイトル挑戦は可能だろうから頑張れ」
「1回、師匠が勝ち方を見せてくれる?」
「しゃーないな。
『たぶん上手香落ちでも勝てますよ。香落ちの将棋もかなり指し込んだので』
香落ちで勝ってやるわ」
「……やっぱり人間じゃないわよ」
天衣がソフト相手に何十連敗かして、崩れ落ちていたのでアイが香落ちでの勝ち方を見せる。……これ、香落ちによる先手番の利を活かした勝ち方だけど、やっぱり香落ちってハンデとして欠陥だらけだな。後手番を持って指すよりかは自分も勝ちやすいと思うし、ハンデになってない。
先手番での勝ち方をいくつか見せたわけだけど、それでも天衣が指すと勝てない模様。俺と全く同じ手を指しても、向こうが変えて来るからどうしようもないな。このレベルのソフトを相手に勝てるようになる日は、まだ遠いかな。