うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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名人戦

3月も終わりを迎え、各順位戦が終了し、名人戦が始まる。天衣はB級2組へ昇級し、椚と空さんはC級1組へと昇級した。地味にあいが昇級を逃しているけど、大体空さんのせい。C級2組の順位戦は、1敗した時点で昇級する可能性がぐんと減るからな。

 

そして俺はA級順位戦を全勝し、名人相手に七番勝負を挑む。名人位にだけは意地でもしがみついた名人。無冠になったら引退すると宣言しているけど、まあこの名人戦を最後にするということだろう。

 

『来年のA級順位戦は、九頭竜と歩夢と山刀伐さんと生石さんと於鬼頭さんと久留野さんと篠窪さんと白石さんですかね。そこにB級1組から飯盛さんと小仏さんかと』

(飯盛さんが上がれるかは非常に微妙なところだけどな。そうか、名人が今からこのA級で勝ち残り続けるのも厳しそうだな)

『月光会長もギリギリでしたからね』

(A級で最終順位が8位って、崖に腕一本で掴まっている状態だからな。まあ年には勝てないわ)

 

昔の棋士は年齢が60歳を上回ってもA級で指し続けたりできたけど、最近の将棋界のA級なんて年寄りから落ちていく世界だ。若い方が体力も気力もあるし、ソフトに抵抗がないし、勢いもある。本当、よく去年の名人戦で名人は歩夢に勝ち越したよ。

 

迎えた名人戦の第1局は、東京にある森のような庭園に囲まれたホテルで行われる。最近になって思い知ったけど、東京ってイメージよりもずっと森や木々が多いな。わりと厳かな雰囲気もある客室での対局だけど、まあ平手だし衰えを隠せなくなっている名人相手に先手番だと相手じゃないわな。

 

『他のA級棋士とは実力の面でそこまで差があるとは思えませんし……ですが、九頭竜とはベクトルが違う強さがありますね』

(将棋の神様だと例えられながらも、盤面上で将棋の神様を探し続けた男だからな)

『……九頭竜と名人が3年前に戦った竜王戦、その第4局で最後の審判が発生しましたが、あれはたまたま両者のレベルが高い次元で一致しただけで、最高点ではありません。無数にある次点の一つです』

(……まあ、最高点は無いで良いんじゃない?無数にある次点の内、どれが最高点でも問題が発生する以上、将棋の結論は出ない気がする)

 

3年以上前の話になるけど、九頭竜は初めての竜王防衛戦で名人と戦った。その時の第4局で連続王手の千日手と打ち歩詰めが同時に発生し、両者反則負けか否かよく分からない状態になって引き分けになっている。

 

あれが最高点、というわけではない。もちろん、俺とアルファゼロが戦って持将棋にならず、1102手もかかった対局が最高点でもない。すべては無数にある次点だとアイは結論付けており、最高点には至らないだろうとも予想している。

 

今日の対局は、終始淡々と進んだ。まず2日制のタイトルだと俺の対局相手は、2日目まで将棋を持たせることを考えないといけない。俺が持ち時間を気にしないから、相手も持ち時間を気にしなくて良いと思うのだが、時間を余して負けたら何を言われるかわからないからな。

 

1日目が終わったら自室に戻るけど、まだテレビは撤去されてないし見ることも出来る。今回の名人戦の、注目度はかなり高いな。まあ名人も俺も新年からチェスで活躍して話題を作っていたし、俺が名人を取ると七冠になって名人の記録に並ぶ。名人の時代は七冠までしかなかったし、同じ意味の七冠ではないけど。

 

(そういえば原作でも九頭竜は名人との対局中にテレビを見てるんだよな)

『竜王戦の第4局の1日目夜ですね。そこであいと結納を済ませていることとかも報道されてました』

(あ、それは見覚えあるわ。掲示板で失冠したら死刑にしろとか、もげろとか書かれていたやつだな)

『全国放送で日本全国に小学4年生と同居して婚約までしちゃった痛い変態ペドラゴンキングが露呈しましたからね。まあ大した問題じゃなかったんですけど』

(将棋界にはやべー変態が多すぎるからな)

 

初日は穏やかな進行にアイがした。まあなんだ、20年以上将棋界の頂点に君臨し続け、将棋の普及に尽力した名人には一応アイなりに敬意があるっぽい。どうせ明日には蹂躙するんだろうけど。

 

『勝ちは揺るがないですね。何なら明日、名人の手がいつ震えるかのタイミングも分かりますよ』

(むしろアイは震えさせるんだろ?

相手に絶妙な好手と思わせるような手を用意して、その上で討ち取るとかプロレスにも大分慣れたな)

『……これをしないと、見ている側が楽しくないですからね』

(わりと蹂躙を望む声も多くなったけどな。でもまあ、スタイルは変える必要ないだろ。名人も一時期、これと似たような感じだったし)

 

2日目を迎えると、名人の好手が続く割には名人の陣地がボロボロになっていく。さっきの桂馬の跳ねとかは確かに好手だし、ここしかないタイミングではあるけど、囲いを薄くする手でもあるからそこから徐々に穴が広がっていく。

 

名人の持ち時間が切れるけど、こちらの持ち時間はまだ残り7時間51分と9分しか消化していない。……ハーゲンダッツでお腹を壊したわけじゃないけど、普通に大きい方のトイレへ行っている間に指されて9分も消費した。和服は一度脱ぐともう一回着るのが面倒。

 

『対局途中で着替えても良いとは思いますけどね。これからはスーツにします?』

(タイトル戦でスーツは嫌だし駄目だろ。あと着替え中に指されて結局持ち時間は消費しそう。まあ、最近は和服着るのも慣れてきたから何とかなるわ)

 

最終的に名人戦の第1局は、終始穏やかなペースで名人が惨殺された。いやこれリスペクトになってねえ。真綿で首を絞めるっていうよりは、鉄の棒を曲げて首を絞めに行っている感じがする。

 

最後も十数手の詰将棋を難しい形から即詰めしに行ったし、終始名人のペースだったのに勝つのはアイとかわけわからん。何ならソフトの指標はずっとプラスマイナスゼロだったのに、終盤に入って急激にアイの評価値が上がり続けたのも意味わからん。やっぱこのスパコンやべーわ。

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