うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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女流名跡リーグ

何だかんだ名人戦も終わり、電脳戦もパソコンスペックの上限のせいで十全に力を発揮できなかったソフトを相手に2連勝。順当に団体戦のドラフトを迎え、今年の団体戦では天衣を中心とした女流棋士チームが組まれた。面子は天衣、空さん、あい、祭神、釈迦堂さんの5人。釈迦堂さん、棋力は下り坂だけど何だかんだ言って実績がヤバイからな。女流で全冠独占をしたり、女流棋士会会長としての立場もある。

 

なお飯盛さんはB級1組の棋士になってしまったので、今年からチームリーダーに。おかげで俺のチームはほぼ最下位確定です。スポンサーから他のチーム事情で何人か指名しないでくださいと言われた棋士が居て、俺には指名してくださいと言われている棋士がいないという。まあ今年は最初から団体戦への労力をかける必要がないということで、適当に対局をこなすだけになりそうだな。

 

『マスターの1強状態を危惧して出来た団体戦なのに、今のところマスターのチームが2連続優勝ですから仕方ないですね』

(これで団体戦まで優勝が続いたら不味いしな。団体戦なら俺が勝ってもチームとしては負けるから、一番都合が良いんだろ)

『今までセットにされていた天衣も、本来なら他のチームが真っ先に確保しにいくような存在ですし……』

(飯盛さんに至っては今回チームリーダーだからな。今までこの2人がセットだったんだからそりゃ強いわ)

 

ちなみに九頭竜は元真剣師さんを2位で指名していた。竜王とアマ竜王で揃えたかったのだろうけど、スポンサーの意図が丸見えである。そしてその九頭竜のチームと、歩夢のチームが同リーグにいる時点で今年の勝ち抜けは厳しいな。

 

公式戦で天衣との初手合いも、別のリーグになったために実現せず。いや本当に当たらないな。一般棋戦だと俺が勝ちあがらないから、マジであの時の竜王戦予選がタイトル挑戦以外で戦える唯一のチャンスだったか。

 

ただ天衣もかなりの数の予選を勝ち抜けているので、おそらく今一番経験を積んでいる棋士と言っても過言ではない。途中で敗退しているの、大体が決勝トーナメントの上の方だからな。たまに決勝トーナメントの1回戦で負けたりしているけど、対局数自体はかなり多い。

 

そんな天衣が女流では手を抜いている3つのタイトルの内の一つ、女流名跡のリーグ戦で、晶さんが開幕3連敗を喫した。……結局、焙烙さんとの対局は晶さんが余裕を持って勝利していた。これは晶さんが強かった将棋じゃなくて、焙烙さんが完全に自爆した形での勝利だ。たぶんアマ初段が相手でもあの出来だったら焙烙さんが負けていたと思う。

 

『女流名跡のリーグ入りをしたことで初段に昇段しましたが、女流名跡のリーグでは場違いなほど弱いですね』

(空さん、祭神の2人は別格として、釈迦堂さんや岳滅鬼さんも奨励会初段クラスの実力はあるからな。アマ三段ぐらいで、奨励会の6級にも届かなさそうな晶さんが連敗するのは順当)

『釈迦堂さん、空さん、岳滅鬼さん相手に3連敗で、次戦が祭神と。まあ負けるでしょうね』

(この前、祭神は早指しのトーナメント戦で生石さんに勝っているからな。まあ生石さん、最近は不調気味だったんだけど、それでもあの生石さんと相振り飛車になって勝つのは凄いわ)

『祭神は女流帝位をあいから取り戻したので、これで女流棋界は天衣以外が3冠を空さん、あい、祭神の3人が分け合う形ですね』

 

今年女流名跡であるあいに挑むのは、現在3連勝中の空さんか祭神のどちらかだろう。うーん、一回やってみるか。

 

(祭神と晶さんの将棋、初手から終局まで予想してみる?)

『良いですね。面白そうなのでやってみましょうか』

(対局中、祭神がいつ俺の存在に気づくかが問題だけど……アイなら祭神がどこで気づくかもわかるだろ。で、その棋譜の検討を晶さんとするか)

『さすがに晶さんも、覚えておきたい棋譜を覚えられるようにはなりましたからね。天衣と一緒に、研究会という名のカンニングをさせましょう』

 

祭神との1戦を前に、晶さんに俺とアイが予想した祭神の指し手を並べて検討を行う。たまに3人での研究会はやるから晶さんはこちらの意図に気づいていないけど、天衣には気づかれている。というかどう見ても棋譜が俺と誰かの対局じゃないし、終局まで研究会をした時点で晶さんも気づくかな。

 

わりと長丁場の研究会となり、終わったら晶さんが休憩しに外へ出る。その時、天衣から話しかけられた。

 

「……もしかして今日検討した棋譜、明後日の晶と祭神の対局だった?」

「ビンゴ。いやまあ祭神のプライベートまで把握しているわけじゃないから祭神がこの通りに指してくる可能性は3割もないな。でも今のままだと勝率なんて0に等しいし、何よりやってみたくなった」

「はあ。これで晶が祭神に勝ったら大騒ぎよ?」

「その時は晶さんも、俺から今日の将棋の棋譜を教えてもらったという言葉は出てくるだろ。晶さん、自分が悪目立ちしたいというタイプの人間じゃないし」

 

はっきり言って、将棋を初手から予想するなんてことはまず不可能だ。だけどある程度の流れさえ合っていれば、類似した対局にはなる。晶さんの将棋はよく見ているからわかるし、祭神も最近は素直な手が多くなって読みやすくなった。だからこそ、この予想に踏み切ったわけだけどどうなるかな。

 

迎えた女流名跡リーグの第4回戦。祭神と晶さんの対局は、僅かにルートを外れたけど祭神の使う戦法も、囲いも一致した上、局所では完全一致となった。そしてこの対局、勝てると思っていた祭神が負けそうになって顔色が悪くなるのは当たり前だけど、晶さんの方が顔色は悪くなっていた。

 

「……実際に見ていた私でも信じられないわね。僅かに盤面は違うけど、盤面の半分以上は完全一致じゃない」

「今回はたまたまだな。祭神が俺の存在に早々に気づいたおかげで、当たった感じだ」

「祭神が師匠の読みを外そうとする手、の方が読みやすかったってこと?……化け物ね」

「さすがに全く知らない2人の対局を予想するのは俺でも無理だぞ?今回は祭神と晶さんの対局だったから、読みやすかっただけだ」

 

晶さんは勝ったのに顔色がずっと悪いままで、天衣はまたドン引きしたような目で俺を見ている。いやまあ今回は3割が当たっただけで、たぶん10局予想したら7局は外す自信があるし、何ならこの対局も手順がそのままドンピシャで当たったわけじゃない。まあでも、負け確実を勝ちにまで持って行けたのだから予想する価値はありそうだな。


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